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著作権判例セレクション
【職務上作成する著作物の著作者】「公表するもの」(15条1項)の意義
▶平成14年11月14日東京地方裁判所[平成13(ワ)15594]▶平成16年11月24日東京高等裁判所[平成14(ネ)6311]
(注) 原告イズは,「ファイアーエムブレム」シリーズの各ゲームソフト(「暗黒竜と光の剣」「外伝」「紋章の謎」「聖戦の系譜」「トラキア」。これらを併せて「原告ゲーム」と総称)をファミコン又はスーパーファミコン用に製作し,原告任天堂は,原告ゲームを製造,販売した。
6 請求原因(8)の事実(原告イズへの著作権の帰属)について
そこで,次に,原告らの著作権法に基づく請求について判断する。
著作権法15条1項は,法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする旨を規定する。
本件においては,原告ゲームが原告イズの発意に基づき作成されたこと,被告Aを含む原告イズの従業員が原告ゲームを職務上作成したことは,当事者間に争いがない。
被告らは,原告ゲームについては,「トラキア」については原告任天堂と原告イズの共同名義の下に,その余のゲームソフトについては原告任天堂の名義の下に公表されたことを挙げて,原告イズが原告ゲームの著作者であることを争う。
しかしながら,著作権法15条1項は「公表したもの」ではなく,「公表するもの」と規定しているものであるから,当該著作物の作成時において,法人等の名義で公表することを予定しているものであれば,職務著作として法人等がその著作者となるものと解するのが相当である。本件においては,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告ゲームの作成の際には,完成したゲームソフトを作成に関与した従業員の名義で公表することは,原告イズにおいてはもちろんのこと,作成に関与した従業員においても,全く予定しておらず,むしろ原告イズの名義で公表することが合意されていたと認められる。したがって,原告ゲームについては,「トラキア」以外のゲームソフトを含めて,すべて職務著作として原告イズを著作者と認めるのが相当である。
そして,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告イズは,平成13年4月17日,原告任天堂に対し,原告ゲームの各ゲームソフトの著作権(著作権法27条及び28条に定める権利を含む)につき,その2分の1の持分を譲渡したことが,認められる。
[控訴審]
1 著作権の帰属
著作権法15条1項は,法人その他使用者の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で,その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする旨を規定する。本件においては,トラキアが控訴人イズの発意に基づき作成されたこと,被控訴人Aを含む控訴人イズの従業員がトラキアを職務上作成したことは,当事者間に争いがない。
被控訴人らは,トラキアは,控訴人イズが自己の著作名義の下に公表したものではないと主張する。しかしながら,著作権法15条1項は「公表したもの」ではなく,「公表するもの」と規定しているのであるから,当該著作物の作成時において,法人等の名義で公表することを予定しているものであれば,職務著作としてその法人等が著作者となるものと解するのが相当である。
しかるところ,トラキアは,控訴人イズの発意に基づいてその従業員が職務上作成した著作物であり,その著作権の帰属に関して控訴人イズと従業員又は第三者との間に合意が存在したとは証拠上認められず,さらにトラキアの商品パッケージなどには控訴人イズの名前が,控訴人任天堂の名前とともに,「・」表示されていることが認められる。したがって,トラキアは控訴人イズの著作名義の下に公表することが予定されていたものというべきであり,その著作者は控訴人イズであると認めるのが相当である。