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著作権判例セレクション
【映画著作物】コマンド選択式マップ移動型アドベンチャーゲームの映画著作物性を否定した事例
▶平成20年12月25日東京地方裁判所[平成19(ワ)18724]▶平成21年9月30日知的財産高等裁判所[平成21(ネ)10014]
1 争点1(映画の著作物該当性及びその著作権の帰属)について
(1)
映画の著作物該当性
ア 原告は,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する旨主張する。
ところで,著作権法10条1項7号は,著作物の例示として「映画の著作物」を規定し,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」と規定しているが,他方で,著作権法上,同法2条3項以外に「映画の著作物」の定義や範囲について定めた規定は存在せず,また,「映画」自体について定義した規定も存在しない。これらによれば,著作権法にいう「映画の著作物」は,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」,「物に固定されていること」,「著作物であること」の要件をすべて満たすものであると解するのが相当である。
そして,「映画」とは,一般に,「長いフィルム上に連続して撮影した多数の静止画像を,映写機で急速に(1秒間15こま以上,普通は24こま)順次投影し,眼の残像現象を利用して動きのある画像として見せるもの。」(広辞苑第六版)を意味することなどに照らすならば,「映画の効果に類似する視覚的効果」とは,多数の静止画像を眼の残像現象を利用して動きのある連続影像として見せる視覚的効果をいい,また,「映画の効果に類似する視聴覚的効果」とは,連続影像と音声,背景音楽,効果音等の音との組合せによる視聴覚的効果を意味するものと解される。
以上の解釈を前提に,本件ゲームソフトが「映画の著作物」に該当するかどうかについて判断する。
イ(ア) 【証拠並びに】前記争いのない事実と弁論の全趣旨によれば,本件ゲームソフトは,「零式百貨店グループの本店」において15年間に18人が失踪する事件が発生し,事態を憂慮した零式百貨店の総帥である「零式真琴」が,内部調査をさせるためにある支店に勤務していた主人公「四宅邦治」を呼び寄せ,主人公が同本店を舞台として内部調査を行うという内容のアダルト向けの娯楽を目的とした,いわゆるコマンド選択式マップ移動型アドベンチャーゲームであることが認められる。
そして,原告提出の甲3(原告が本件ゲームソフト及び被告ゲームソフトの各影像の一部を対比して編集したものを,1本のVHSビデオテープに録画したもの)によれば,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像の組合せによって構成されており,静止画像の画面ごとに音楽や台詞が加えられ,台詞の終了ごとに所定の位置をクリックすること等をきっかけとして画面が変わること,主人公が登場人物と会話する場面の影像は,画面全体に「総帥室」,「エレツィオーネ厨房」など百貨店内の特定の場所を示す静止画像が表示されるとともに,画面上部中央に「零式真琴」などその登場人物の静止画像が表示され,画面下部に主人公とその登場人物の会話等が順次表示されることで構成されていること,プレイヤーが画面に表示された複数のコマンドの一つを選択するに従ってストーリーが展開し,コマンドの選び方によってストーリーが変化することが認められる。
他方で,甲3からは,本件ゲームソフトの影像中に,動きのある連続影像が存することを認めることはできない。もっとも,甲3には,【画面中央の登場人物がポーズを変えたり,】設定場面が変わる際に主人公等のキャラクターが静止画像で表示されているマップ上を移動する場面があるが,同場面は,本件ゲームソフトの影像のものではなく,被告ゲームソフトの影像の一部であると認められる。
他に本件ゲームソフトの影像中に動きのある連続影像が存することを認めるに足りる証拠はない。
(イ) 上記(ア)のとおり,本件ゲームソフトの影像は,多数の静止画像の組合せによって表現されているにとどまり,動きのある連続影像として表現されている部分は認められないから,映画の著作物の要件のうち,「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足しない。
したがって,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当するものとは認められない。
ウ これに対し原告は,①映画は,静止画像が連続して表示されることにより動的に受け取られるものであり,本件ゲームソフトも,多数の静止画像が連続して表示される点において,映画と本質的な違いはないこと,②本件ゲームソフトは,連続する影像を鑑賞しつつ,場面の転換を受けて対応を選択してプレイが成立するものであり,場面の転換が行われることによってストーリーが組み立てられるという本質的部分において映画と類似していること,③本件ゲームソフトは,絵画や小説などとは異なり,複数の異なる種類の著作物を統合して一つの世界を作り上げるという製作過程も,映画と同様であることを根拠として挙げて,本件ゲームソフトは,映画の著作物に該当する旨主張する。
【確かに,既に検討したとおり,映画は,多数の静止画像を順次投影するものであり,その限りでは本件ゲームソフトと共通するが,映画においては,一定以上の速度で静止画像が順次投影されることにより,動きのある画像として受け取られるところ,本件ゲームソフトにおいては,ある静止画像が,次の静止画像が現れるまで静止した状態で見え,動きのある画像として受け取られる部分はほぼ皆無であって,映画とは本質的な違いがあるというべきである
また 控訴人が指摘する上記② ③の点は】,いずれも本件ゲームソフトが「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されていること」の要件を充足することを基礎付けるものではなく,原告の上記主張は,独自の見解を前提とするものであって,採用することはできない。
(2)
小括
以上のとおり,本件ゲームソフトは映画の著作物に該当しないから,本件ゲームソフトは原告が著作権を有する映画の著作物であるとの原告の主張は,理由がない。
2 争点2(複合的著作物該当性及びその著作権の帰属)について
(1)
原告主張の複合的著作物の著作権の帰属
ア 原告は,本件ゲームソフトは,画像,音楽,プログラム,シナリオ等の著作物の単なる集合体ではなく,それらが有機的に結合し,不可分一体となって新たなゲームの世界を作り出した複合的著作物に該当する旨主張する。
原告の上記主張の趣旨は必ずしも明瞭ではないが,原告が当初から本件ゲームソフトが映画の著作物であると主張していたのに対し,被告が本件ゲームソフトの影像はほとんどが静止画像であって,映画の著作物に当たらないと争ったため,本件ゲームソフトが複合的著作物であるとの主張を選択的にするに至った本件審理の経過を踏まえると,原告主張の複合的著作物とは,本件ゲームソフトに係る画像(原画),音楽,プログラム,シナリオ等の各著作物に基づいて新たに創作された,本件ゲームソフトの影像をいうものと解される。
【そして,本件ゲームソフトの影像は,原画,シナリオ,音楽等を適切に組み合わせることにより,ゲームとして楽しむことができるように創作されたものであって,これは,原画やシナリオ,音楽とは別個の新たな著作物に該当するというべきであるが,これがどの類型の著作物に該当するかの検討に先立ち,まず,】本件ゲームソフトの影像の著作権が原告に帰属するかどうかについて判断する。
イ 原告は,①本件ゲームソフトは,原告が作成したプログラムが基本にあって,その範囲でゲームが組み立てられており,しかも,原告が,舞台設定やゲームの大枠を決め,原画,音楽をデジタルデータ化し,コンピュータ画面上で修正,編集,彩色作業を行うなどして,原画,音楽,シナリオの最終的な統合作業を行うことにより,本件ゲームソフトを完成させた,②本件ゲームソフトの製作費用について,原告がプログラミング及びシナリオの費用を負担し,日本プランテックが,原画,音楽の外注費用,パッケージ作成費用,販売諸経費を負担したが,原告は,日本プランテックとの間で,本件ゲームソフトについて原告が著作権を有することを合意した,上記①,②によれば,原告は,本件ゲームソフトの影像の全体的形成に創作的に寄与した著作者(著作権者)であるか,あるいは著作権者である旨主張する。
【ウ 証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(略)
【エ(ア)】上記認定事実によれば,原告は,本件ゲームソフトのプログラミングの過程で,シナリオに従って原画(画像),音楽,会話文等のデジタルデータを統合する作業を行ったことが認められるが,上記作業は,シナリオに従って行われたプログラムの創作行為そのものであり,本件ゲームソフトの影像の著作物の創作行為であると認めることはできない。
すなわち,異なるプログラムによっても,シナリオに従って画面上に同一の影像を表示することは技術的に可能であり,プログラムの創作行為そのものが,これとは別個の著作物であるゲームソフトの影像の創作行為であるということはできない。【確かに,控訴人は,Aらの指示に従い,すべてのデータをデジタル化し,その際,イラストをスキャナーで読み込んで着色し,かすれた線を補正するなどの調整作業や諸作業を行ったものであるが,Aらの指示に従って行われたこれらの機械的作業に,格別の創作性があるとは認められない。】また,原告代表者の陳述書【の記載を前提としても】,原告代表者が本件ゲームソフトの基本骨格のアイデアを提供し,プログラムの制御の面からのプレーのイメージを持っていたことをうかがうことができるにとどまり,画像,文字表示等で画面上に表現される本件ゲームソフトの影像の具体的な創作行為に原告又は原告代表者が関与したとまで認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,【控訴人による,『自らが原画,音楽,シナリオの最終的な統合作業を行うことにより本件ゲームソフトを完成させたから,控訴人が本件ゲームソフトの影像の著作者(著作権者)である』旨の主張】は,採用することができない。
(略)
(2)
小括
以上のとおり,本件ゲームソフトの影像に係る著作権が控訴人に帰属することはないので,その余について判断するまでもなく,本件ゲームソフトは控訴人が著作権を有する複合的著作物であるとの控訴人の主張は,理由がない。】
3 争点3(翻案の有無)について
(1)
翻案の有無
ア 原告は,被告ゲームソフトは,原告が著作権を有する映画の著作物又は複合的著作物としての本件ゲームソフトを翻案したものである旨主張する。
しかし,前記1及び2で検討したとおり,本件ゲームソフトは,原告が著作権を有する映画の著作物又は複合的著作物に該当しないから,これに該当することを前提とする原告の上記主張は,理由がない。
イ 次に,原告は,被告ゲームソフトは,原告が著作権を有する本件ゲームソフトのシナリオを翻案したものである旨主張する。
【しかし,前記2(1)ウのとおり,日本プランテックが本件ゲームソフトのシナリオに係る著作権をAから譲り受けた後に,被控訴人が日本プランテックから本件ゲームソフトに係る著作権を譲り受けたのであって,その際,被控訴人は,本件ゲームソフトのシナリオに係る著作権についても譲り受けたと認められるから,控訴人が本件ゲームソフトのシナリオに係る著作権を取得することはない。
また,仮に,控訴人が,「本件ゲームソフトのシナリオ」につき,純粋な「シナリオ」ではなくプログラミング後のものを指していると解しても,既に検討したとおり,控訴人が行ったプログラミング作業に創作性がない以上,控訴人が同プログラミング後のシナリオにつき著作権を取得することはなく,いずれにしても控訴人の主張は理由がない。
(2)
小括
以上のとおり,控訴人は,本件ゲームソフト又はそのシナリオの著作権を有しないものといわざるを得ない。】
4 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
[控訴審同旨]