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著作権判例セレクション

【侵害主体論】上映権侵害の主体性が争点となった事例(特定のゲーム機に必要不可欠なコントローラーの販売等が問題となった事例)

▶平成90717日大阪地方裁判所[平成5()12306]
() 本件における原告の主位的請求は次のとおり:
『(一) 映画の著作物の著作権に基づく請求
本件ゲーム機と「餓狼伝説」「餓狼伝説2」「餓狼伝説スペシャル」「サムライスピリッツ」「龍虎の拳」等本件ゲーム機によってのみ映し出すことのできる専用の各種ゲームソフトウエア(以下「本件ゲームソフトウエア」という)によって受像機に映し出される影像の動的変化(動画)又はこれと音声によって表現されるものは、著作権法1017号の映画の著作物に該当するところ、本件ゲーム機本体に接続されるコントローラーである被告製品(一)及び被告製品(二)(以下、合わせて単に「被告製品」という)を使用して影像の動的変化を映し出すことは、映画の著作物の上映(同法261項)に当たり、被告が被告製品を製造、販売することは自ら右映画の著作物を上映したものと評価されるから、原告の専有する上映権を侵害するものであると主張して、同法1121項、2項に基づき、被告製品の販売の差止め並びに被告製品及びその製造に供する金型、各部品の廃棄を求めるとともに、著作権侵害の不法行為に基づき損害賠償を請求する。』

一 争点1(被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を侵害するものであるか)について
1 まず、本件ゲームソフトウエアが映画の著作物に該当するか否かについて検討する。
()
したがって、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものは、そのそれぞれがいずれも映画の著作物として認められるための前記法律上の要件を満たしており、映画の著作物に該当するというべきである。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトウエアは、原告の発意に基づきその従業員が職務上作成したものであって、原告の著作名義の下に公表したものであることが認められるから(著作権法15条)、原告がその著作者であるというべきである。したがって、原告は、映画の著作物の著作者として、その著作物を公に上映する権利を専有することが明らかである(同法261項)。
2 原告は、被告は右のとおり映画の著作物たる、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に必要不可欠な機器たるコントローラーとして、原告製品の情報入力システムを盗用し同一の情報入力システムを持つ複製品たる被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物を上映せしめているのであるから、ユーザーではなく被告が上映の主体すなわち上映権の侵害行為者である旨主張するところ、右原告の主張は、被告において被告製品を製造、販売する行為がすなわち映画の著作物である本件ゲームソフトウエアを上映する行為に当たるとの趣旨であると解されるので、以下この点について検討する。
(一) 本件ゲームソフトウエアの上映に際しコントローラーの果たす役割についてみるに、前記の事実及び(証拠)によれば、本件ゲームソフトウエアの各プログラムをプログラムメモリー内に固定したゲームカセットを本件ゲーム機本体に差し込みそのスイッチボタンを押すと、当該テレビゲームのデモンストレーション画像が規則的に繰り返し映し出されるが、コントローラーを本件ゲーム機本体にある端末と電気的に接続し、そのスタートボタンを押すとゲームが開始し、レバー、ボタンを操作すると本件ゲーム機本体にゲーム操作情報が電気信号として入力され、右ゲーム操作情報及びこれに対応して本件ゲームソフトウエアから発せられるゲーム情報を本件ゲーム機本体内のCPUが読み取り、これを高速で合成処理して、受像機の画面上に影像の動的変化として出力する、というものである。
右のとおり、コントローラーは、そのスタートボタンを押すことによりゲームを開始させ、レバー、ボタンを操作することにより、本体のCPUを通じて本件ゲームソフトウエアからキャラクターに特定の動作をさせる等のゲーム情報を出させる機能を有するゲーム操作情報を本件ゲーム機本体に電気信号として入力するものであって、受像機の画面上に映し出される影像の動的変化ないしゲームの展開を決定づけるものであり、その意味では、本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不可欠の機器ということができる(但し、前記のとおりデモンストレーション画像の上映のためにはコントローラーは不要であるが、デモンストレーション画像の上映だけではテレビゲームとしての意味がない)。
(二) このように、コントローラーは、本件ゲーム機本体を使用して本件ゲームソフトウエアを上映するのに必要不可欠な機器といえるのであるが、問題は、このようなコントローラーである被告製品を製造、販売する被告の行為をもって、それ自体映画の著作物としての本件ゲームソフトウエアを上映する行為と同視できるか否かである。
(1) 被告製品を製造、販売する被告の行為は、行為自体を自然的に観察する限り、あくまでも被告製品を製造、販売する行為であって、その行為の性質上、直ちに本件ゲームソフトウエアの上映行為といえないことは明らかである。
そして、(証拠)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲーム機は家庭用テレビゲーム機であって、ユーザーが、本体とコントローラー(原告製品と同じもの)がセットとして販売されている本件ゲーム機を購入し、これとは別に本件ゲームソフトウエアのうちの一種類又は数種類を購入してこれらを自宅等に持ち帰り、自ら本件ゲーム機本体をテレビに接続した上その端末にコントローラーを接続し、本件ゲーム機本体に本件ゲームソフトウエア(ゲームカセット)を差し込み、本体のスイッチを押すなどの操作をして初めて、テレビの画面上に影像が映し出されるものであること、被告製品は、主に右コントローラーに加えて対戦モード用に(ときとして右コントローラーが壊れた場合の補充用に)用意されている原告製品の代替品として販売され、購入されるものであり、本件ゲームソフトウエアを上映するための手順、作業も右と同様であって、すべてユーザーによってなされるものであることが認められる。すなわち、上映行為それ自体はもちろん、本件ゲーム機本体をテレビに接続した上その端末に被告製品を接続し、本件ゲーム機本体に本件ゲームソフトウエア(ゲームカセット)を差し込むというような上映のための準備作業もすべてユーザーによって行われ、その過程に被告の行為が介在する余地のないことが認められる。したがって、本件ゲームソフトウエアの上映については、被告が直接これに関与することはなく、形式上も実質上もユーザーによって行われているものとみるほかはない。
(2) 原告は、被告は被告製品を不特定多数のユーザーに製造、販売することにより、これを購入したユーザーを手足ないし道具として利用して右映画の著作物たる本件ゲームソフトウエアを上映せしめている旨主張するのであるが、被告がユーザーを手足ないし道具として利用して本件ゲームソフトウエアを上映せしめているものとして、被告自ら本件ゲームソフトウエアを上映しているのと同視できるためには、単に被告製品を購入したユーザーがその購入目的からして必然的に被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映するに至ることが明らかであるというだけでは足りず、被告において、被告製品をユーザーに販売した後も、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映することについて何らかの管理・支配を及ぼしていること、及び被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウエアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることが必要であると解するのが相当である。
しかして、被告製品を購入したユーザーは、これを被告の管理・支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り、被告の意思に関わりなくユーザー自身の自由意思をもって被告製品を本件ゲーム機本体に接続して本件ゲームソフトウエアを上映するのであって、本件全証拠によるも、ユーザーが被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアを上映することについて被告が何らかの管理・支配を及ぼしていることは認められない。
また、被告が被告製品を販売する目的がユーザーをして本件ゲームソフトウエアを上映させることそれ自体により利益を得ることにあることも、これを認めるに足りる証拠はない。原告は、被告製品を購入する対価は、観衆たるユーザーが本件ゲームソフトウエアの対戦モードのゲームストーリーの展開を楽しむために支払う料金の一括前払いに該当する(から、「営利を目的としない」上映には当たらない)旨主張するが、被告製品の価格は本件ゲームソフトウエアの上映の対価そのものである、あるいはこれが被告製品の価格のうちに含まれていると認めるに足りる証拠はなく、かえって、ユーザーが被告製品を購入する時点では、既に購入済みの本件ゲームソフトウエアがある場合の当該ゲームソフトウエアを除き、本件ゲームソフトウエアのうちどのゲームソフトウエアを購入し、これを上映するかは具体的に確定しておらず、将来原告によって販売されることあるべき本件ゲームソフトウエアの種類も確定していないといわざるをえないから、被告がその価格に本件ゲームソフトウエアの上映の対価を含ましめることは不可能というべきであり、また、被告製品を販売した後は、被告製品を使用して本件ゲームソフトウエアの上映がどの程度なされるかは、今後の被告製品の販売数量の見通しに関する資料にはなるとしても、原則として被告に何らの利害関係ももたらさないものと考えられるから、被告製品の価格について、製造原価その他の必要経費に適当な利潤を上乗せした金額のほかに、本件ゲームソフトウエアの上映の対価が加算されているということはできない。
被告は、被告製品の購入者による本件ゲームソフトウエアの上映は、被告製品の製造販売行為と映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を結びつける単なる因果の流れにすぎないということができるから、このような必然的因果の流れを前提として、不特定多数のユーザーをして本件ゲームソフトウエアの対戦モードをプレイできるようにする目的で被告製品を製造、販売する行為は、当然に不特定多数のユーザーによる被告製品を使用しての映画の著作物の上映という著作権侵害の結果を惹起せしめる行為であり、かかる行為は、法的には正に被告による著作権侵害行為と評価することができると主張するが、以上の説示に照らして採用することができない。
(3) 以上によれば、被告製品がもっぱら本件ゲーム機本体にのみ使用できること、被告製品が本件ゲームソフトウエアの上映に必要不可欠な機器であることを考慮しても、被告製品を製造、販売する被告の行為をもって、本件ゲームソフトウエアを上映する行為と同視することはできないといわなければならない。
(4) 被告は、仮に被告製品を購入したユーザーが本件ゲームソフトウエアの上映の主体であるとしても、被告もユーザーとともに上映の主体というべきであると主張するが、被告を右上映の主体とみることができないことは、前記説示から明らかである。
(三) なお、原告は、パックマン事件判決について、ハードウエアシステムを盗用したビデオゲーム機による上映を無断上映と断じたものであるとした上で、二人のプレイヤーによる対戦モードの本件ゲーム機の使用には対戦モード用のコントローラー(被告製品)が必要不可欠であり、しかも被告製品は原告の開発、設計した専用コントローラー(原告製品)の情報入力システムを盗用した模倣商品であるから、かかる被告製品の操作による本件ゲーム機の使用は、顧客とユーザーの違いを考慮に入れないとすれば、ハードシステムの盗用の点でパックマン事件判決の事案における「パックマン」の無断複製ゲーム機の使用と同視することができる旨主張する。
本件ゲームソフトウエアを上映するためには本件ゲーム機本体に接続が可能なコントローラーが必要不可欠であるとしても、コントローラーは、一種の電気信号による情報入力機器であって、その情報入力システムをどのように構成するかは、機械工学ないし情報工学上の技術的思想に外ならず、右のような技術的思想は、特許権等の工業所有権がない以上、何人も自由に実施することができるのであるから、原告がコントローラー(原告製品)について特許権等の工業所有権を有することについて何らの主張立証のない本件においては、原告が本件ゲーム機本体にのみ使用できるコントローラーないしは原告製品と同じ情報入力システムないし回路構成を有するコントローラーの製造販売を独占できると解すべき根拠はないというべきである。(証拠等)によれば、被告製品の回路構成は、連射機能に関わる部分を除き原告製品の回路構成と全く同じであることが認められ、被告において被告製品を開発、製造するに際し、原告製品の情報入力システムないし回路構成を模倣したことが窺われるが、右のとおり原告において原告製品と同じ情報入力システムないし回路構成を有するコントローラーの製造販売を独占できると解すべき根拠がない以上、これを模倣したコントローラーである被告製品を製造、販売することは、商道徳上の問題は別として、違法とはいえない。原告は、コントローラーは本件ゲームソフトウエアを上映する本件ゲーム機のハードウエアの基本的な構成部分であり、本件ゲーム機本体から完全に独立した周辺機器というようなものではないとか、本件ゲーム機本体及びコントローラーをどのような回路構成等にすることによりいかに効率的な情報の入出力及び合成処理を可能とするかが正にシステムの中核をなすなどと主張するが、右主張が本件ゲーム機本体及びコントローラーからなる回路構成等を模倣することそれ自体が違法であるとの趣旨であるとすれば、右と同様の理由により失当といわざるをえない。
パックマン事件判決は、いわゆるハードウエアのみではなくソフトウエアをも無断複製した事案についてのものと解され、ハードウエアたるコントローラーのみを模倣することにより上映権の侵害を認めたものとはいえず、また、家庭用のテレビゲーム機ではなく、無断複製品たる業務用ビデオゲーム機を喫茶店に設置して「パックマン」を上映していた経営者について上映権の侵害を認めたものであるから、本件とは事案を異にするという外はない。
3 したがって、原告の本訴主位的請求中、右上映権の侵害を理由とする差止等の請求及び損害賠償請求は理由がないといわなければならない。