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著作権判例セレクション
【同一性保持権】同一性保持権の非侵害事例(特定のゲーム機に必要不可欠なコントローラーの連射機能が問題となった事例)
▶平成9年07月17日大阪地方裁判所[平成5(ワ)12306]
(注) 本件における原告の主位的請求は次のとおり:
『(二) 著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求
本件ゲームソフトウエアはプログラムの著作物(著作権法10条1項9号)として、その上映による影像及び影像の動的変化は映画の著作物(同項7号)として、それぞれ保護されるから、その著作者である原告は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について同一性を保持する権利(同法20条1項)を有するところ、被告は、被告製品にいわゆる連射機能を付加していることにより、右同一性保持権を侵害しているものであると主張して、同法112条1項、2項に基づき、被告製品の販売の差止め並びに被告製品及びその製造に供する金型、各部品の廃棄を求めるとともに、著作者人格権侵害の不法行為に基づき損害賠償を請求する。』
一 争点1(被告が被告製品を製造、販売することは、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものの上映に該当し、原告の専有する上映権を侵害するものであるか)について
1 まず、本件ゲームソフトウエアが映画の著作物に該当するか否かについて検討する。
(略)
したがって、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従って本件ゲーム機により受像機に映し出される影像の動的変化又はこれと音声によって表現されるものは、そのそれぞれがいずれも映画の著作物として認められるための前記法律上の要件を満たしており、映画の著作物に該当するというべきである。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトウエアは、原告の発意に基づきその従業員が職務上作成したものであって、原告の著作名義の下に公表したものであることが認められるから(著作権法15条)、原告がその著作者であるというべきである。したがって、原告は、映画の著作物の著作者として、その著作物を公に上映する権利を専有することが明らかである(同法26条1項)。
(略)
二 争点2(被告製品にいわゆる連射機能を付加していることは、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであるか)について
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告製品には、原告製品と同様、キャラクターを前後左右に動かしたり、何らかの行動を起こさせたりするために必要なレバー(被告製品における名称は「ジョイスティック」)一本及びゲーム操作用ボタン(被告製品における名称は「トリガーボタン」)四個が設置されているが、その外に、原告製品にはない連射機能を発揮する「ターボスイッチ」と称するスイッチが設置されている。
(二) 本件ゲーム機本体のCPUは、一定時間毎(通常は60分の1秒毎)にコントローラーから発せられる電気信号の値(オンかオフか)をサンプリング(読込み)して本件ゲームソフトウエアにその命令を伝達して作動させるものであるが、レバー及びボタンの操作によりコントローラーから発せられる電気信号の値の読込みの方法には、次の三種類がある。
(1) コントローラーから発せられる電気信号の値をそのまま読み込むもので、レバー等をオンにし続けている限り、これをオンと認識する読込方法。レバーによるキャラクターの移動等に使用される。
(2) コントローラーから発せられる電気信号の値がオフからオンに変わった瞬間だけオンと認識する読込方法(例えばレバー等を10秒間オンにし続けても、これをオンにした最初の瞬間だけオンと認識する)。ボタンによる攻撃等に使用される。
(3)レバー等が一定時間以上押し続けられたときにはじめてオンと認識する読込方法。ボタンを押し続けたことによるパワー(気力)の増加や、同じボタンによる攻撃の大小の使分け(ボタンが一定時間以上押されていればより大きな攻撃ができる)に使用される。
(三) 被告製品に付加されている連射機能は、右(二)(2)の読込方法に対応するものであって、ボタンと発振回路の組合せにより、ボタンが押されている間は、コントローラーからオンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して出力するものである。プレイヤーがターボスイッチを使わずにコントローラーのボタンのオンとオフの操作を反復する場合、熟練したプレイヤーであっても、特別の道具を用いない限り1秒間当たりせいぜい約18回の割合でしかボタンを押せないのに対し、ターボスイッチをオンにしてボタンを押し続ければ、ボタンを1秒間当たり約22回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を本件ゲーム機本体内のCPUに入力することになる。
(四) そのため、ターボスイッチをオンにして連射機能を使用することにより、本件ゲームソフトウエアを受像機に映し出した影像に次のような影響を及ぼすことになる。
(1) 本件ゲームソフトウエアのうちシューティングゲーム(「ゴーストパイロット」「ASO2」「ラストリゾート」「アンドロデュノス」「ビューポイント」)、シューティングゲームの要素をもったキャラクターゲーム(「サイバーリップ」「ニンジャコンバット」「エイトマン」「ニンジャコマンドー」)又はアクションゲーム(「バーニングファイト」「戦国伝承」「戦国伝承2」「マジシャンロード」「ミューティションネイション」)については、ボタン操作による発射速度(連射速度)が速いほどゲームクリアが容易であるところ、ボタン操作に習熟せず、したがって自力では発射速度を速くすることができない初心者であっても、ターボスイッチをオンにするだけで自動的に高速の連射が行われるので、比較的容易にゲームクリアをすることができ、右各ゲームの難度が下がる結果になる。
(2) 対戦格闘ゲーム(「餓狼伝説」「餓狼伝説2」「餓狼伝説スペシャル」「龍虎の拳」「龍虎の拳2」「ワールドヒーローズ」「ワールドヒーローズ2」「ファイアースープレックス」「サムライスピリッツ」)については、右(1)と同様の理由により、右各ゲームの難度が下がる結果になる。
また、右各ゲームにおいては、いわゆる「必殺技」という攻撃手段が用意されているが、右「必殺技」を繰り出すためには、レバーとボタンの操作を比較的複雑に組み合わせることが必要であるところ、被告製品における連射機能を使用すると、前記のとおりボタンを1秒間当たり約22回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を出力することになるため、右のようなレバーとボタンの操作の組合せによる「必殺技」を繰り出すことが困難になる。
(3) また、「ニンジャコンバット」「スーパースパイ」「サッカーブロール」「ラストリゾート」「龍虎の拳」「龍虎の拳2」「ビューポイント」という各ゲームについては、コントローラーのボタンを押し続けてパワーを溜めること(前記(二)(3)の読込方法)により特殊攻撃を繰り出すことができるところ、被告製品における連射機能を使用すると、前記のとおりボタンを1秒間当たり約22回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を出力することになるため、ボタンを押し続けてパワーを溜めることによって繰り出すことのできる特殊攻撃を繰り出すことができなくなる。
(五) 連射機能の付いたコントローラーは、昭和58年頃からファミコン用の別売りのコントローラーとして発売されている。
2 原告は、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度を下げ、あるいは人気ゲームソフトウエア「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃手段を繰り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさを左右する重要な要素に影響を与え、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうものであるから、被告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売し、ユーザーをしてその連射機能用ボタンを操作させ、本件ゲームソフトウエアを上映させる行為(ユーザーは被告の手足又は道具であり、被告の上映行為と評価される)は、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度、ひいては本件ゲームソフトウエアに込められた原告の思想及び感情を被告が原告の意に反して改変し、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものである旨主張するので、検討する。
(一)前記1(三)認定のとおり、被告製品に付加されている連射機能は、同(二)(2)の読込方法に対応するものであり、ボタンと発振回路の組合せにより、ボタンが押されている間、コントローラーからオンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して出力するものであって、ターボスイッチをオンにしてボタンを押し続ければボタンを1秒間当たり約22回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を本件ゲーム機本体内のCPUに入力することになるから、受像機の画面上には、ボタンを1秒間当たり約22回の割合で規則的に反復して押した場合と同じ影像が映し出される結果になる。
このように、被告製品における連射機能は、コントローラーからオンとオフの電気信号を高速かつ規則的に反復して本件ゲーム機本体内のCPUに入力するものにすぎず、右のように入力されたゲーム操作情報に基づき、本件ゲームソフトウエアに蓄積された情報に従った影像が受像機の画面上に映し出されるにすぎないから、本件ゲームソフトウエアのプログラム自体には何らの改変も加えるものでないことが明らかである。
そして、本件ゲームソフトウエアのプログラム及びその上映により受像機の画面上に映し出される影像は、個々のプレイヤーの熟練度、好み、操作の仕方等によりきわめて多種多様な変化ないしストーリー展開を予定しているものであることが明らかであって、各テレビゲームをする際の具体的な影像の変化ないしストーリー展開は、もっぱら本件ゲームソフトウエアを購入し、プレイをするユーザーにおいて、コントローラーのレバー、ボタンを操作していかなる方法、タイミングで電気信号を発するかに委ねられているというべきであるが、被告製品における連射機能が本件ゲームソフトウエアのプログラム自体に何らの改変も加えるものでない以上、連射機能を使用した場合でも、その影像の変化ないしストーリー展開は、本来本件ゲームソフトウエアが予定していた範囲内のものといわなければならない。
もっとも、被告製品に付加されている連射機能は、ボタンを1秒間当たり約22回の割合で規則的に反復して押すのと同じ電気信号を出力するものであるところ、熟練したプレイヤーでも、特別の道具を用いない限りこのような時間的間隔で規則的に反復してボタンを押すことは不可能であるとしても、このことは右のとおりユーザーに委ねられたコントローラーからの電気信号(ゲーム操作情報)の入力の仕方の問題にすぎず、このことと本件ゲームソフトウエアのプログラム及びその上映により受像機に映し出される影像自体の改変の問題とは直接関係がないというべきである。
(二) 原告は、被告製品の連射機能を使用することが本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変してしまうものであるとする理由として、本件ゲームソフトウエアの開発設計において原告の意図した内容ないし難度を下げるものである旨主張する。確かに前記1(四)(1)のとおり、同記載の各ゲームにおいてはその連射速度がゲームクリアの成否に大きな影響を与えるものであるから、連射機能の使用によりゲームクリアが簡単になり、その意味で難度が下がることは明らかである。しかしながら、前記説示のとおり、各テレビゲームをする際の具体的な影像の変化ないしストーリー展開は、もっぱらユーザーにおいて、コントローラーのレバー、ボタンを操作していかなる方法、タイミングで電気信号を発するかに委ねられているというべきであって、ユーザーがその任意の選択により被告製品の連射機能を使用し、結果的に本件ゲームソフトウエアの難度を下げるような操作をすることも、本来本件ゲームソフトウエアが予定していた影像の変化ないしストーリー展開の範囲を出ないというべきである。
原告は、また、被告製品の連射機能を使用することは、人気ゲームソフトウエア「餓狼伝説シリーズ」「龍虎の拳シリーズ」等における「必殺技」の攻撃手段を繰り出すことをできなくし、四個のゲーム操作ボタンを押すタイミングの妙によるテレビゲームとしての興味を削ぐなど本件ゲームソフトウエアのおもしろさを左右する重要な要素に影響を与える旨主張する。確かに前記1(四)の(2)及び(3)のとおり、被告製品における連射機能を使用すれば、「必殺技」あるいは特殊攻撃を繰り出すことが困難あるいは不可能になるが、本件ゲームソフトウエアを使用したゲームの一場面において「必殺技」等を繰り出すかどうかは、正にその時点におけるプレイヤーの判断に委ねられているものであり、連射機能を使用したために右「必殺技」等を繰り出せなくなることは、プレイヤーがそのような選択をした結果にすぎず、プレイヤーが「必殺技」等を繰り出したいと考えれば、連射機能をオフにすることによりいつでも「必殺技」等を繰り出すことができるのであるから、本来本件ゲームソフトウエアが予定していた影像の変化ないしストーリー展開の範囲内でプレイヤーの選択に委ねられたところといわざるをえない。
3 以上のとおり、被告製品の連射機能を使用することは、本件ゲームソフトウエアのプログラムに込められた原告の思想及び感情を原告の意に反して改変するものとはいえないから、被告が連射機能を付加した被告製品をユーザーに販売する行為は、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及びその動的変化について原告が専有する同一性保持権を侵害するものとはいえない。
したがって、原告の本訴主位的請求中、右同一性保持権の侵害を理由とする差止等の請求及び損害賠償請求も理由がないといわなければならない。