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著作権判例セレクション
【一般不法行為】いわゆる不当訴訟としての不法行為性を認めなかった事例
▶平成9年07月17日大阪地方裁判所[平成5(ワ)12306]
六 争点6(原告の被告に対する本訴請求にかかる訴えの提起・維持及びこれを本案とする仮処分の申立ては、いわゆる不当訴訟として被告に対する不法行為を構成し、また、本訴における原告の主張は被告の名誉を毀損するものであるか)について
1 被告は、まず、本訴請求にかかる訴え等の提起・維持は、何ら法律上の根拠がないのに原告においてその慎重な検討を怠った過失のある不当訴訟として不法行為を構成すると主張する。
民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する不法行為を構成するのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁昭和63年1月26日第三小法延判決参照)。
これを本件についてみるに、本訴請求のうち、主位的請求にかかる映画の著作物の著作権に基づく請求、著作者人格権(同一性保持権)に基づく請求及び不正競争防止法2条1項1号に基づく請求は、前示のとおり結局理由がないものとして棄却すべきものではあるが、被告が原告の製造、販売する本件ゲーム機本体にのみ接続可能なコントローラーであって連射機能を付加した被告製品を原告の了解を得ることなく製造、販売している事実自体は争いがなく、被告による右被告製品の販売行為が映画の著作物についての上映権の侵害行為となり、本件ゲームソフトウエア並びにその上映による影像及び影像の動的変化について原告が有する同一性保持権を侵害するものであり、あるいは、本件ゲーム機によって映し出すことのできる本件ゲームソフトウエアのキャラクターを主体とする各種影像とゲームの進行に応じたこれら影像の動的変化の態様は本件ゲーム機ないし原告製品が原告の商品であることを示す商品表示に該当するという原告の法律上の主張については、結果的に当裁判所の採用しないところではあるものの、一応一つの見解としては成り立ちうるものであって、理由のないことが誰の目から見ても明らかであるとまではいえず、本件全証拠によるも、提訴者である原告において右法律上の主張が理由のないことを知っていたとも、通常人であれば容易にそのことを知りえたとも認められず、本件訴訟の全過程をみても本訴請求にかかる訴え等の提起・維持が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとはいえないことが明らかであるから、被告に対する不法行為を構成しないというべきである。加えて、当裁判所が原告の予備的請求を一部認容すべきものと判断したように、原告の本訴請求も、その請求の趣旨、原因いかんによっては理由があることになるのであるから、なおさら不法行為を構成しないといわなければならない。
2 また、被告は、原告は平成6年3月15日の第二回口頭弁論期日で陳述した同月14日付第一準備書面において、被告は「原告製品のシステムを盗用」した、というように「盗用」という語を前後11回にわたって使用しているが、「盗用」という語の意味は「盗んで用いること」であると解され、「盗む」とは、「横領」と異なり、相手方の占有を侵奪することを意味するから、原告は、被告が原告の占有を侵奪したことを公然と表明したことになるところ、被告は原告の占有下にある「システム」を侵奪し、これを被告の占有下においたことはないから、原告の主張は事実無根であり、被告に対する名誉毀損になることは明らかであり、仮に、「盗用」という語に占有侵奪という意味がないとしても、「盗用」という語は、「盗聴」あるいは「盗作」等と同じように反社会的で否定的価値判断を含んだ語であることは否定できないから、かかる反社会的な行為を被告が行ったということを公然と摘示することは、被告の名誉を毀損する行為であるというべきである旨主張する。
訴訟において自己の請求の事実的、法律的根拠を基礎づけるための主張内容を準備書面に記載し、これを公開の口頭弁論期日において陳述することは、正当な訴訟活動であり、訴訟活動としての性質上右記載内容又は陳述内容がときとして相手方を批判、非難するようなものであったとしても、それが本来の訴訟遂行目的とは離れてもっぱら相手方に対し損害を被らせることを意図してされた場合や、その態様が正当な訴訟活動から著しく逸脱したものではない限り、正当な訴訟活動として是認されるべきであると解するのが相当である。
これを本件についてみると、もともと「盗用」という語は、必ずしも相手方の占有を侵奪することを意味するものではなく、むしろ、「デザインの盗用」「論文の盗用」などというように、他人の抽象的な表現物を無断で使用することを意味するものであり、被告が原告製品のシステムを「盗用」したとの文言を使用した準備書面に記載された原告の主張の趣旨に照らしても、それは、被告の主張するように被告が原告の占有を侵奪したことを公然と表明したというものではなく、単に被告が原告製品のシステムを「模倣」したという趣旨の主張と解すべきことは明らかであり、前示のとおり被告製品の回路構成は連射機能に関わる部分を除き原告製品の回路構成と全く同じであるから、「模倣」と表現してもあながち不当とはいえない。
したがって、「盗用」という文言自体は、やや不適当といえなくもないが、本来の訴訟遂行目的とは離れてもっぱら相手方に対し損害を被らせることを意図したものとも、その態様が正当な訴訟活動から著しく逸脱したものともいえないことが明らかであるから、被告の名誉を毀損する不法行為を構成するということはできない。
3 以上によれば、被告の原告に対する反訴請求は、理由がないというべきである。