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著作権判例セレクション
【過失責任】自社商品の製造を第三者に委託していた加工食品会社の過失責任
▶平成31年3月13日東京地方裁判所[平成30(ワ)27253]
(注) 本件は,原告が,被告らにおいて製造し,又は販売する商品(「被告商品」)に記載された各イラスト(「被告イラスト」)は,原告の著作したイラスト(「本件イラスト」)を複製したものであり,被告らによる被告商品の製造又は販売は,本件イラストについての原告の著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を共同して侵害する不法行為であり,被告らには被告イラストの複製及び頒布のおそれがある旨を主張して,被告らに対し,著作権法112条1項に基づき,被告イラストの複製及び頒布の差止めなどを求めた事案である。
なお、本件の補助参加人は,カラーパッケージ等の企画,デザイン,製造,販売等を業とする株式会社である。
1 争点1(被告らは,被告行為により原告の著作権(複製権,譲渡権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害したか,又は著作権(複製権,譲渡権)を侵害するおそれがあるか)について
⑴ 著作権侵害及びそのおそれの有無
ア 本件イラストと被告イラストは,いずれも,互いの額を接して向き合う大小2頭のパンダを描いたものであり,2頭のパンダの姿勢,表情,大きさの比などを含めた構成が類似しており,表現上の本質的な特徴が同一である。そして,その同一性の程度は非常に高いものであるから,被告イラストは,本件イラストに依拠して有形的に再製されたものであると推認することができる。
したがって,被告商品を製造して本件イラストを複製する被告Sの行為は,原告の複製権(著作権法21条)を侵害し,被告商品を販売して本件イラストを譲渡する被告行為は,原告の譲渡権(同法26条の2)を侵害するものである。
イ 原告は,被告Iも原告の複製権を侵害している旨を主張するが,本件全証拠によっても,これを認めることはできない。
ウ 被告行為が平成29年11月頃から平成30年9月頃まで継続していたことを考慮すれば,被告Iには,被告商品の販売により原告の本件イラストについての譲渡権を侵害するおそれがあり,被告Sには,被告商品の製造及び販売により原告の本件イラストについての複製権及び譲渡権を侵害するおそれがあると認められる。
原告は,被告らに対し,被告イラストの頒布の差止めを求めるが,被告製品の貸与のおそれがあることを認めるに足る証拠はないから,譲渡を超えて頒布の差止めを認めることはできない。
⑵ 著作者人格権侵害の有無
ア 前記認定のとおり,被告商品には,原告の氏名又はペンネームが表示されていないから,被告行為は,原告の氏名表示権(著作権法19条1項)を侵害するものである。
イ また,被告イラストは,パンダの黒く示されている足及び耳について灰色の線で縁取られている部分があり,パンダの目の部分が黒一色で表され,白い部分がないほか,大きい方のパンダの耳の形が半円に近い形であり,2頭の鼻と口を示す線がより太く表されており,本件イラストと相違している部分があるところ,これらは原告に無断で変更されており,原告の意に反して変更されたと認められるから,被告行為は,原告の同一性保持権(著作権法20条1項)を侵害するものである。
2 争点2(被告らに著作権(複製権,譲渡権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害について故意,過失が認められるか)について
ア 前記のとおり,被告らは,いずれも加工食品の製造及び販売等を業とする株式会社であり,業として,被告商品を販売していたのであるから,その製造を第三者に委託していたとしても,補助参加人等に対して被告イラストの作成経過を確認するなどして他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義
務を負っていたと認めるのが相当である。
また,前記認定のとおり,本件イラストと被告イラストの同一性の程度が非常に高いものであったことからしても,被告らが上記のような確認をしていれば,著作権及び著作者人格権の侵害を回避することは十分に可能であったと考えられる。にもかかわらず,被告らは,上記のような確認を怠ったものであるから,上記の注意義務違反が認められる。
イ したがって,被告らに著作権(複製権,譲渡権)侵害及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害について過失が認められる。
3 争点3(損害の発生の有無及びその額)について
⑴ 著作権(複製権,譲渡権)侵害による損害(著作権法114条3項)
ア 証拠によれば,被告らは,経営を共通にする関連会社として,平成29年11月10日から平成30年9月27日までの期間,被告商品を1個550円で共同して合計6664個販売したと認められ,その販売額は合計366万5200円であったと認められる。そして,上記期間以外の被告らによる被告商品の製造又は販売を認めるに足る証拠はない。
イ(ア) また,本件イラストの使用料について,原告は,販売額の5%前後であると主張し,被告ら及び補助参加人は,3%ないし5%であると主張しているところ,別紙添付の写真のとおり,被告イラスト1は被告商品のパッケージの表面に大きく表示されており,消費者に強い印象を与えていると認められることなどに照らし,使用料相当額は販売額の5%であると認めるのが相当である。
(イ) この点,原告は,使用料相当額は被告商品の販売額の20%を下らないとし,その理由として,①販売額に5%前後を乗じて算出されるイラストの使用料とは別に商品化許諾料を支払うことが多いこと,②本件イラストは,原告の許諾なく商品化されたケースが過去にもあり,市場で人気のあるイラストであることなどを主張するが,上記①については,使用料とは別に商品化許諾料を支払うことが多いことを示す証拠はなく,上記②についても,本件イラストが原告に無断で使用された例があったというだけで,使用料相当額の料率を高くすべきであるとはいえないから,原告の主張は前提を欠いており,採用することができない。
他方で,被告ら及び補助参加人は,被告商品には被告イラストとは別のイラストも使用されており,本件イラストの使用割合は概ね2分の1であると主張するが,前記認定の被告イラストの使用態様等に照らし,別のイラストが使用されていることを大きく考慮することはできない。
ウ 原告は,被告らによる著作権侵害の損害として,被告商品の販売数量を基礎とした使用料相当額のみを主張しており,これについては,前記ア及びイを踏まえれば,被告商品の販売額366万5200円に5%を乗じて算定される18万3260円であると認められるところ,被告らは,前記アのとおり,共同して被告商品を販売していたから,上記損害の賠償について共同不法行為責任を負うというべきである。
⑵ 著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)侵害による慰謝料
前記⑴ア認定の被告商品の販売数,販売期間,被告イラストの使用態様等を総合すると,被告らによる氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,いずれも10万円と認めるのが相当である。
⑶ 弁護士費用
本件事案の内容,認容額等を総合すると,被告らによる著作権侵害及び著作者人格権侵害と相当因果関係のある弁護士費用は,4万円と認めるのが相当である。
(略)
4 争点4(謝罪広告等の必要性)について
原告は,原告が本件イラストの著作者であることを確保し,原告の名誉若しくは声望を回復するためには,被告らにより別紙謝罪広告目録記載の内容で謝罪広告を掲載する必要があると主張する。
しかしながら,被告イラストの使用態様等に照らし,被告商品の販売により原告の名誉,声望が毀損されたとは認められず,また,被告らが本件の訴訟提起後に被告商品の回収に向けて動いていることなどにも照らせば,原告が著作者であることを確保するため,差止めや金銭賠償等に加えて,謝罪広告を掲載する必要があるとは認められない。