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著作権判例セレクション
【著作権の制限】法38条1項の該当性
▶令和元年9月18日知的財産高等裁判所[平成31(ネ)10035等]
2 控訴人らの責任(争点(1))について
控訴人らの責任(争点(1))についての判断は,次のとおり訂正するほか,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。
(略)
(7)
原判決36頁15行目冒頭から37頁16行目末尾までを次のとおり改める。
「(3) 著作権法38条1項該当性(争点(1)ウ)について
著作権法38条1項は,①営利を目的とせず,②聴衆又は観衆から料金を受けない場合で,③実演家等に対して報酬が支払われない場合には,演奏権が及ばないことを規定するところ,①の非営利目的とは,当該利用行為が直接的にも間接的にも営利に結びつくものでないことをいうものと解される。
上記1に認定した事実によれば,控訴人らは本件店舗の各店におけるバンド演奏によりバンド音楽を好む客の来集を図っているものというべきであるから,本件店舗の各店におけるバンド演奏による管理著作物の利用行為が,直接的にも間接的にも営利に結びつくものでなかったということはできない。したがって,本件店舗の各店におけるバンド演奏について,同条の規定する,演奏権が及ばない場合に当たるとはいえない。
控訴人らは,現SUQSUQにおけるセット代金は飲食代金であるとか,演奏する者がスタッフによる無料サービスであるなどと主張して,非営利性を主張するが,飲食店での客寄せのための演奏であることは自認しており,間接的に営利に結びつくものでなかったといえないことは明らかである。」
(略)
(9)
原判決37頁26行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「(5) 控訴人らの責任
ア 以上によれば,控訴人Xは本件店舗の本件各店において管理著作物に係る著作権を侵害したこと,控訴人Yは現SUQSUQにおいて管理著作物に係る著作権を侵害したこと,控訴人らにおける著作権侵害についての故意があることが認められる。
したがって,控訴人らは,被控訴人に対し著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償責任を負う(現SUQSUQにおける著作権侵害については共同不法行為が成立する)。
イ 控訴人Xは,被控訴人は控訴人Xの旧SUQSUQにおける著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権につき消滅時効の完成を主張する。しかし,被控訴人が,本件訴訟の提起日(平成28年11月11日)の3年前である平成25年11月10日までに旧SUQSUQにおける控訴人Xによる著作権侵害の事実を知ったことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,被控訴人調査担当者が平成26年2月28日に社交場調査を行い,これにより旧SUQSUQにおける著作権侵害による具体的な損害の発生を認識したということができる。したがって,本件訴訟の提起時に,不法行為に基づく損害賠償請求権について消滅時効が完成したということはできない。」
3 損害ないし損失額(争点(2))について
(1)
損害額の算定
被控訴人は使用料規程により使用料を得ているのであるから,使用料規程に従って算出される使用料相当額をもって,被控訴人の損害と認めるのが相当である。
これに対し,控訴人らは,使用料規程のうち,入場料もなく無償で行われる著作物の演奏に対しても使用料を徴収する規定は,著作権法による保護の範囲を超えており,憲法上の表現の自由及び幸福追求権などの権利を過度に制約するもので,公序良俗に反し無効であるし,本件におけるSUQSUQでの演奏活動は著作権法の規制の範囲外のものであり,無償の範疇にあったと主張する。しかし,演奏権が及ばない場合については著作権法38条1項が規定するとおりであり,使用料規程の内容に照らし,一般に演奏権が及ぶ場合について使用料を規定したものであることは明らかであり,著作権の保護範囲に関する控訴人らの主張は独自の見解であって採用できない。また,控訴人らの行為が著作権法38条1項により演奏権が及ばない場合に該当しないことは上記2(7)において説示したとおりであり,控訴人らの行為が著作権法の規制の範囲外であるとの控訴人らの主張は失当である。
さらに,控訴人らは,使用料規程は具体性,合理性を欠くものであることを主張する。しかし,使用料規程には,社交場として定義される施設において,椅子又は座席以外の客席(客にダンスをさせるための場所を含む。)については面積を1.5㎡で除した数を座席数とみなすことを含めた座席数の算出方法,標準単位料金の算出方法(客1人あたりにつき通常支払うことを必要とされる税引き後の料金相当額(いずれの名義をもってするかを問わない))が定められており,十分に具体性がある。また,著作権等管理事業者において締結する著作物の利用許諾契約の性質上,このような座席数及び標準単位料金を基準に使用料を定めることにも合理性があるというべきである。
また,控訴人らは,損害額の算定に当たり,包括的利用許諾契約を締結する場合の規定によるべきであるとか,本件店舗における生演奏はカラオケと異ならないから使用料規程の別表7(2)記載の表中の2の区分が適用されるべきであるなどと主張するが,いずれも採用できない。
(略)
(ウ) 令和元年7月9日以降の損害ないし損失に係る請求について
将来の給付を求める訴えは,あらかじめその請求をする必要がある場合に限り認められるところ(民訴法135条),継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決,最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決等参照)。
以上によれば,現SUQSUQにおける,控訴審の口頭弁論終結日の翌日である令和元年7月9日以降の不法行為に基づく損害賠償請求ないし不当利得返還請求に係る訴えは不適法であり,却下を免れない。
(5)
控訴人らの主張について
控訴人らは,被控訴人による実態調査の方法そのものに大きな問題があり,その調査結果の信憑性は低いと主張するが,そのようにいえないことは前記1において引用した訂正された原判決説示のとおりである。
使用料規程によれば,座席の配置,実際の売上げや来店者数や椅子の利用状況により使用料額が変動するものではないから,これらの点についての控訴人らの主張は採用できない。また,控訴人らの主張する補助椅子がどのような椅子を指すのかは明らかではないが,(証拠)からは,本件店舗の各店の座席数は31~40席であったものと認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
控訴人らは,平成29年11月21日から同年12月11日にかけての利用状況や営業時間についての主張をするが,いずれもこれを裏付ける的確な証拠はなく,上記認定を左右するものではない。
控訴人らのその余の主張も採用できない。