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著作権判例セレクション
【映画著作物の著作権の帰属】「映画製作者」の意義と解釈(映画の著作権の帰属が争われた事例)
▶平成18年12月27日東京地方裁判所[平成16(ワ)13725]
(注) 以下、「本件映画」とは、「宇宙戦艦ヤマトTVシリーズ」を指す「本件映画1」と、「さらば宇宙戦艦ヤマト」を指す「本件映画2」を総称したもの(「宇宙戦艦ヤマト作品」)を意味する。
1 P2は,本件映画の映画製作者として,著作権法29条1項に基づき,本件映画の著作権を取得したか(争点(1))について
原告は,本件映画には,著作権法29条1項の映画製作者と参加約束が存在することを前提として,本件映画の映画製作者として本件映画の著作権を取得したP2から,甲3契約に基づき,本件映画の著作権の移転を受けた旨主張するのに対し,3被告及び補助参加人らは,本件映画の製作者はP2ではなく,オフィス・アカデミー又はウエスト・ケープであり,原告は,本件映画の著作権を取得していない旨主張するので,以下,P2が本件映画の映画製作者であったか否かについて検討する。
(1)
本件映画の製作の経緯
(略)
(2)
以上の認定事実を前提に判断する。
ア 著作権法2条1項10号は,映画製作者について,「映画の製作に発意と責任を有する者」と規定しているところ,同規定は,映画の製作には,通常,相当な製作費が必要となり,映画製作が企業活動として行われることが一般的であることを前提としているものと解されることから,映画製作者とは,自己の責任と危険において映画を製作する者を指すと解するのが相当である。そして,映画の製作は,企画,資金調達,制作,スタッフ等の雇入れ,スケジュール管理,プロモーションや宣伝活動,配給等の複合的な活動から構成され,映画を製作しようとする者は,映画製作のために様々な契約を締結する必要が生じ,その契約により,多様な法律上の権利を取得し,また,法律上の義務を負担する。したがって,自己の責任と危険において製作する主体を判断するに当たっては,これらの活動を実施する際に締結された契約により生じた,法律上の権利,義務の主体が誰であるかが重要な要素となる。
そこで,検討するに,前記(1)で認定したとおり,P2は,本件映画1の制作を企画し,スタッフの人選やテレビ局とのテレビ放映についての交渉を行っているが,本件証拠中には,上記スタッフやテレビ局と契約を締結した主体がP2であったと認めるに足る証拠はない。また,本件映画1のための資金の調達についても,本件証拠上,P2が自己の名義で資金調達をしたものと認めるに足りない。
かえって,甲3契約書に添付された「別紙(一)」の,本件映画1の「製作者」欄には,前記(1)のとおり,オフィス・アカデミーの社名が記載されているところ,P2がP1P2訴訟において提出した陳述書には,「映画の著作物の“製作”というのは“作品の制作”実務のことだけをいうのではなく,企画制作を行って出来上がった作品の上映される劇場の確保等配給,又は,テレビの放映される番組の決定等『営業』,“制作費”“宣伝費”“一般管理費”等を含む『資金の負担』,『損益の責任』を持って『作品の制作』を行うことをいうのであります。これを“映画会社”,“テレビ局”に所属をして行うのではなく,私のように“個人の責任”,“個人の会社”に於いて行った場合に,“製作者”と言われるのであって,」と記載されており,同記載によれば,P2は,映画製作者の法的意味を十分に認識した上で,「制作」と「製作」を明確に区別して使用していることが認められることから,P2は,上記別紙(一)の「製作者」は「映画製作者」を意味すること,したがって,甲3契約締結に当たっては,本件映画1の映画製作者は,オフィス・アカデミーであると認識していたことが認められる。
なお,上記の別紙(一)の,本件映画1の「著作権者」欄には,P2の名前が記載されているが,例えば,P2が映画製作者であるオフィス・アカデミーから,本件映画1の著作権の譲渡を受けた場合もあり得るから,上記「著作権者」欄の記載があるからといって,上記別紙(一)の「製作者」を映画製作者を意味すると解することが必ずしも不合理ということはできない。
したがって,P2が本件映画1の映画製作者であると認めることはできない。
本件映画2については,その製作の経緯についての証拠が全く提出されていないところ,本件映画1と同様,甲3契約書に添付された,上記別紙(一)には,本件映画2の「製作者」欄にオフィス・アカデミーの社名が記載されていることからすれば,上記のとおり,P2は,甲3契約締結に当たり,本件映画2の映画製作者はオフィス・アカデミーであると認識していたものと認められ,結局,P2が本件映画2の映画製作者であると認めることはできない。
イ この点,P2がP1P2訴訟において提出した陳述書には,「すべての責任はプロデューサー(製作制作者)である<私>が負うことになり,赤字も背負い,次のテレビシリーズの企画もなく,本当に悲惨な状態でした。」,「私は,『宇宙戦艦ヤマト』という作品について,自分が“発想”,“企画”して,自己の資金で製作を行い,且つ,制作に当たって『適正なる人材』を,その資質を理解して各部門に起用し,」,「私は『宇宙戦艦ヤマト』を劇場で上映する決意をし,これで失敗すれば私自身二度と立ち上がれなくなるかもしれないという背水の陣で『宇宙戦艦ヤマト』の制作を開始したのです。・・・私は,完成した劇場版『宇宙戦艦ヤマト』をもって映画館を回り,上映させて欲しいと頼みました。最終的には,配給会社のない自主上映という形でしたが,東急が上映してくれることになりました。」,「低視聴率で終わり忘れられた作品を,私が辛抱強く,お金をかけて,一文無しになるのも覚悟で劇場作品として配給をして,『宇宙戦艦ヤマト』を有名にした」との各記載があるが,上記記載のみからは,P2個人が,スタッフ,テレビ局や映画配給会社との契約を締結するなどの権利,義務の主体となっていたと認めることはできない。むしろ,前記アで認定したとおり,甲3契約書に添付された別紙(一)には,本件映画の映画製作者はオフィス・アカデミーである旨の記載があること,上記のP2の陳述書によれば,オフィス・アカデミーはP2が映画製作のために設立した個人会社であると推測されるところ,このように映画製作のための株式会社が存在しているのであれば,映画製作のための各種契約は,その代表者個人で締結するのではなく,会社が主体となって締結するのが一般的であることからすると,P2の上記陳述書のうちの法的責任及び経済的負担に係る部分の記載は,P2が個人の立場ではなく,オフィス・アカデミーの代表者としての立場で記載したものと推測される。
また,原告は,オフィス・アカデミーはダミー会社であり,その実態はP2個人である旨主張するが,本件においては,オフィス・アカデミーの実態等を示す証拠は全く提出されておらず,オフィス・アカデミーの法人格を否認してこれをP2個人と同視することはできない。
(3)
まとめ
以上のとおり,本件証拠上,本件映画の映画製作者がP2であると認めることはできない。そして,原告は,映画製作者として本件映画の著作権を取得したP2から,甲3契約により,本件映画の著作権の譲渡を受けたと主張するのみで,映画製作者がオフィス・アカデミーなどP2以外の者である場合に,その者から著作権の譲渡を受けた旨の主張,立証をしていないのであるから,結局,原告の本件映画の著作権の取得は認められない。