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著作権判例セレクション
【著作権の譲渡】映画の翻案権の譲渡の有無が争われた事例(法61条2項の「特掲」の解釈,譲渡契約の文言・移転登録に添付する「譲渡証書」の記載が問題となった事例)
▶平成18年12月27日東京地方裁判所[平成16(ワ)13725]
(注) 以下、「本件映画」とは、「宇宙戦艦ヤマトTVシリーズ」を指す「本件映画1」と、「さらば宇宙戦艦ヤマト」を指す「本件映画2」を総称したもの(「宇宙戦艦ヤマト作品」)を意味する。
1 P2は,本件映画の映画製作者として,著作権法29条1項に基づき,本件映画の著作権を取得したか(争点(1))について
(略)
(3)
まとめ
以上のとおり,本件証拠上,本件映画の映画製作者がP2であると認めることはできない。そして,原告は,映画製作者として本件映画の著作権を取得したP2から,甲3契約により,本件映画の著作権の譲渡を受けたと主張するのみで,映画製作者がオフィス・アカデミーなどP2以外の者である場合に,その者から著作権の譲渡を受けた旨の主張,立証をしていないのであるから,結局,原告の本件映画の著作権の取得は認められない。
2 原告は,甲3契約により,本件映画の翻案権を取得したか(争点(2))について
前記1で判示したように,そもそも,本件証拠上,P2が本件映画の映画製作者であると認めることはできず,したがって,原告が,甲3契約により,本件映画の著作権を取得したものと認めるに足りないが,念のため,P2が本件映画の映画製作者であったか,又は,P2が本件映画の映画製作者から本件映画の著作権の譲渡を受けていたものと仮定した上,争点(2)について,検討する。
(1)
甲3契約締結に至る経緯等
証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められ,これに反する証拠はない。
ア 原告は,平成8年9月ころから,P2との間で,宇宙戦艦ヤマト作品等の著作物の著作権を譲り受けるための交渉を始め,同年12月20日,同交渉がまとまり,同日付けで,甲3契約を締結した。なお,甲3契約書の草案はM弁護士が作成した。
イ 甲3契約書には,次のとおりの条項がある。
(ア) 前文
「株式会社東北新社フィルム(以下「甲」という),P2(以下「乙」という),株式会社ウエスト・ケープ・コーポレーション(以下「丙」という),株式会社ボイジャーエンターテインメント(以下「丁」という)とは,以下のとおり合意した。」
(イ) 「第1条 定義
本書において用いられるとき下記の用語は下記の意味を有する。
1.現存作品
本書に添付され本書の一部を成す別紙(一)のA項記載の映像著作物をいう。
2.将来作品
本書に添付され本書の一部を成す別紙(一)のB項記載の内容を有する作品であって,甲乙協議の上決定する制作費で乙が完成させる映像著作物をいう。
3.対象作品
現存作品および将来作品をいう。
4.対象権利
対象作品に対する著作権および対象作品の全部又は一部のあらゆる利用を可能にする一切の権利。」
(ウ) 「第2条 譲渡
乙は甲に対し,対象権利および権利行使素材の所有権の一切を,本書の日付をもって譲渡し,甲は乙からこれを譲り受けた。但し,対象権利と権利行使素材のうち将来作品に関するものについては,それらの完成を条件に乙は甲に対し譲り渡し甲は乙からこれを譲り受けた。」
(エ) 「第5条 著作権登録
乙は,現存作品に関する著作権の乙から甲に対する譲渡についての著作権登録を本契約締結日から三か月以内に行う。」
(略)
ウ 上記イのとおり,甲3契約対象作品の著作権譲渡登録が,甲3契約締結日から3か月以内に行うことと合意されたことから,原告は,平成9年3月に至り,上記著作物の著作権の譲渡登録の手続をしようとしたところ,甲3契約対象作品のうち,本件P3経由著作物の著作権については,平成8年11月25日付けで,P2からP3への譲渡登録がされていることが判明した(なお,本件映画は,本件P3経由著作物に含まれている。)。
そこで,原告は,P2に,上記の譲渡登録がされていることについての説明を求めたところ,P2から,宇宙戦艦ヤマト作品の著作権はP3に預けてあるだけであるとの説明を受けたことから,M弁護士と相談し,その結果,本件P3経由著作物の著作権については,P3から原告へ譲渡登録をする形をとることとし,その旨P2に連絡して,P2の合意を得た。
その後,原告は,P3に対して,甲3契約対象作品のうち,本件P3経由著作物についての,平成9年3月26日付け著作権譲渡証書(本件P3譲渡証書)2通を作成させ,同人からその交付を受け,P2に対しては,甲3契約対象作品のうち,本件P3経由著作物以外の著作物についての,平成9年3月26日付け著作権譲渡証書(以下「本件P2譲渡証書」という。)を作成させ,同人からその交付を受けた。そこで,原告は,平成9年3月26日,文化庁長官に対し,上記各著作権譲渡証書を添付資料として,甲3対象作品についての著作権譲渡登録の申請をし,その結果,平成9年11月19日付けで,本件P3経由著作物については,P3から原告への著作権譲渡登録が,それ以外の甲3対象作品については,P2から原告への著作権譲渡登録がそれぞれされた。
エ 本件P3譲渡証書には,2通とも,譲渡人(登録義務者)の欄にP3の記名捺印が,譲受人(登録権利者)の欄に原告の記名捺印があり,「下記の各著作物の著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)を平成8年12月20日に譲渡したことに相違ありません。」との記載がある。
本件P2譲渡証書には,譲渡人(登録義務者)の欄にP2の記名捺印が,譲受人(登録権利者)の欄に原告の記名捺印があり,「下記の各著作物の著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)を平成8年12月20日に譲渡したことに相違ありません。」との記載がある。
カ 本件P3経由著作物の一部である宇宙戦艦ヤマト作品の著作権登録原簿には,P2からP3への著作権譲渡の欄には,「この著作物について平成八年十一月二十五日,左記の者の間に著作権(著作権法第二十七条及び第二十八条に規定する権利を含む)の譲渡があった。」との記載,P3から原告への著作権譲渡の欄には,「この著作物について平成八年十二月二十日,左記の者の間に著作権(著作権法第二十七条及び第二十八条に規定する権利を含む)の譲渡があった。」との記載がある。
(2)
前記(1)で認定した事実を前提にして,以下,甲3契約において,本件映画の翻案権も譲渡の対象となっていたか否かについて検討する。
ア 著作権法61条2項は,「著作権を譲渡する契約において,第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは,これらの権利は,譲渡した者に留保されたものと推定する。」と規定するところ,これは,著作権の譲渡契約がなされた場合に直ちに著作権全部の譲渡を意味すると解すると著作者の保護に欠けるおそれがあることから,二次的な利用権等を譲渡する場合には,これを特に掲げて明確な契約を締結することを要求したものであり,このような同項の趣旨からすれば,上記「特掲され」たというためには,譲渡の対象にこれらの権利が含まれる旨が契約書等に明記されることが必要であり,契約書に,単に「すべての著作権を譲渡する」というような包括的な記載をするだけでは足りず,譲渡対象権利として,著作権法27条や28条の権利を具体的に挙げることにより,当該権利が譲渡の対象となっていることを明記する必要があるというべきである。
原告は,著作権法61条2項の「特掲」があったというためには,翻案権が当該譲渡の目的に含まれていることを終局的一義的文言で記載する必要はなく,翻案権も譲渡の目的に含まれていることを十分認識できる程度の記載で足りる旨主張するが,上記の説示に照らして,同主張が採用できないことは明らかである。
そこで,甲3契約書に翻案権譲渡の特掲があったといえるかについて検討するに,前記(1)のとおり,甲3契約書には,「対象権利および権利行使素材の所有権の一切を・・・譲渡し」(2条)との記載,及び「対象権利」の定義として,「対象作品に対する著作権および対象作品の全部又は一部のあらゆる利用を可能にする一切の権利」(1条の4)との記載があるのみであり,「著作権法27条の権利」又は「翻案権」等の文言を具体的に挙げて明記して,同権利を譲渡する旨の記載はない。
したがって,甲3契約書には,翻案権を譲渡の目的とする特掲があったということはできず,また,契約書に明記はしないが譲渡の対象に含まれる旨が合意されたなどの特段の事情も認められないから,著作権法61条2項により,甲3契約において,本件映画の翻案権は,著作権を譲渡した者,すなわちP2に留保されたものと推定される。
イ 原告は,前記(1)で認定した甲3契約締結における事情を基に,甲3契約において,甲3契約対象作品の翻案権も譲渡された旨を主張する。
しかしながら,以下の理由により,甲3契約によって原告が翻案権を取得したと認めることはできない。
(ア) まず,甲3契約締結当時,原告のように映画,テレビ,ビデオソフトなどの企画,制作,販売等を行い,映像に関わる著作権を日常的に処理する業界においては,高額な対価支払を伴う著作権の譲渡契約を行う場合,当該譲渡の対象である著作権に翻案権を含めて契約を締結するときには,著作権法61条2項の規定が存在する以上,作成される契約書に翻案権が譲渡対象となる旨の特掲がなされていることが一般的であると推測される。
また,本件においては,甲3契約書の草案の作成に原告側の弁護士が関与しており,このように弁護士などの法律専門家が譲受人側として著作権譲渡契約書の作成に関与する場合,譲渡の対象に翻案権も含める旨の合意が成立しているにも関わらず,その特掲のない契約書を作成し,又は,そのような契約書に署名をすることは,通常,想定し難いというべきである。
しかも,前記(1)エのとおり,原告が,P3から本件P3経由著作物の著作権譲渡登録をするために,弁護士が関与してP3に作成させた本件P3譲渡証書には,著作権法27条及び同法28条の権利が譲渡対象に含まれていることの特掲があり,本件P2譲渡証書にも,同様の特掲があったのであるから,原告及びその代理人弁護士は,著作権法61条2項の内容を十分理解し,翻案権の譲渡を受ける場合には,その旨の特掲の必要性を十分認識していたものと認められ,それにもかかわらず,甲3契約書に,翻案権譲渡の特掲がなかった以上,当該契約において翻案権の譲渡がなかったものと推測せざるを得ない。
(イ) 原告は,甲3契約書9条2項について,P2は,対象権利の行使に関して原告が第三者から異議を申し立てられ,請求をされることがないことを保証する旨規定していることから,P2は,甲3契約により,対象作品のあらゆる利用を第三者から異議を述べられずに行うことが可能な権利を譲渡したことになるところ,そのような権利保証をすることは,翻案権の譲渡をせずしては不可能である旨主張する。
しかしながら,甲3契約書9条2項の上記文言は,前記(1)イ(キ)のとおりであり,P2から原告に譲渡された「対象権利の行使」に関して,原告が第三者から異議等を受けた場合に,P2がそれに関する一切の費用負担等を行うことを約するものであり,本件映画に即していえば,映画に関する著作権を行使して複製や上映などをした場合に,第三者から異議を受けたときを念頭においたものと解することも可能であって,上記文言が,原告に翻案権があることを常に前提とするとは限らないから,原告の上記主張は,その前提において誤りがあり,採用することができない。
(ウ) 原告は,本件P3譲渡証書は,P3から一旦P2に交付された後,P2から原告に交付されたものであるところ,本件P3譲渡証書には,譲渡の対象に著作権法27条及び同法28条に規定する権利が含まれる旨の特掲があるのであるから,P2は,本件P3譲渡証書の上記記載内容を認識しており,甲3契約において,上記権利も譲渡の対象とする意思を有していた旨主張する。
しかしながら,本件P3譲渡証書は,前記(1)ウ認定のとおり,原告がP3に作成させて同人から交付を受けたものと認められ,P2が本件P3譲渡証書の具体的な記載内容を認識していたということができない以上,原告の上記主張は,その前提において誤りである。また,確かに,本件P3譲渡証書には,前記( )エのとおり,著作権法27条及び同法 128条の権利が譲渡対象に含まれていることの特掲があるが,同証書は,甲3契約に利害関係がなく,P2に依頼されて著作権登録原簿上の権利者となっていたにすぎないP3が,原告の依頼により作成したものであり,前記(1)ウで判示した本件P3譲渡証書作成に関する状況からすると,同証書は,原告の利益のために作成されたものと認められ,したがって,その内容も,原告の希望を反映したものとなると考えられることから,本件P3譲渡証書に,上記特掲があるからといって,それが甲3契約締結当時における,当事者間の意思を反映したものであるということはできない。
いずれにしても,原告の上記主張を採用する余地はない。
この点,P4陳述書には,本件P3譲渡証書は,P3が一旦P2に交付したものを,P2が原告に交付したものであり,P2は,本件P3譲渡証書の記載内容を認識し,同内容の譲渡証書を交付することを承諾していた旨の記載がある。
しかしながら,仮に,上記権利も譲渡対象に含まれることについてP2の承諾を得ていたのであれば,P3から原告への譲渡証書ではなく,本件P3経由著作物の著作権登録原簿上の著作権をP2に戻すとともに,P2から原告への上記特掲のある譲渡証書を作成するのが,上記特掲の必要性を認識していた原告にとって確実であり,通常とるべき手段であると考えられるが,実際には,P3から原告への譲渡証書である本件P3譲渡証書が作成されるにとどまり,不自然であるところ,上記の通常とるべき手段が行われなかったことについての合理的な説明はないから,P4陳述書の上記記載部分は採用できない。
(エ) なお,甲3契約により,原告が権利取得の対価として支払義務を負った金額は,4億5000万円であるが,証拠及び弁論の全趣旨によれば,甲3契約対象作品の中に含まれている宇宙戦艦ヤマト作品は,その最初の作品である本件映画1が昭和49年に製作され,昭和58年に劇場公開された「宇宙戦艦ヤマト完結編」までの,合計8作のシリーズ作品であり,劇場公開された4本の作品は,21億円ないし43億円と巨額の興行収入をもたらし,また,宇宙戦艦ヤマト作品は,日本中に空前のブームを引き起こしたものであることが認められ,このように,甲3契約対象作品の中に,極めて著名な映画である宇宙戦艦ヤマト作品が含まれていることからすると,同作品が,甲3契約締結時においては,テレビ放映ないし劇場公開がされてから13年ないし22年が経っていることを考慮しても,甲3契約対象作品の複製権の対価が4億5000万円であることが,不自然であるということはできない。
ウ 以上のとおり,甲3契約においては,本件映画の翻案権は譲渡の対象となっていたと認めることはできず,甲3契約によって原告が本件映画の翻案権を取得したと認めることはできない。
3 被告映像は,本件映画を複製又は翻案したといえるか(争点(3))について
前記1で判示したとおり,P2は本件映画の映画製作者と認めることはできず,したがって,原告は,甲3契約により,本件映画の著作権を取得したものとは認められないが,念のため,P2が本件映画の映画製作者であったか,又は,P2が本件映画の映画製作者から本件映画の著作権の譲渡を受けていたものと仮定して,争点(3)についても検討する。ただし,前記2で判示したように,原告が,甲3契約によって,P2から本件映画の著作権の譲渡を受けたと仮定したとしても,甲3契約の譲渡の対象となった著作権は複製権のみであり,翻案権は対象となっていなかったのであるから,以下では,被告映像が本件映画の複製権を侵害するか否かについて検討する。
(略)
(4)
本件映画と被告パチンコ映像との対比
(略)
(5)
本件映画と被告パチスロ映像との対比
(略)
(6)
本件映画と被告プレステゲーム映像との対比
(略)
4 小括
以上のとおり,まず,本件証拠上,P2が本件映画の映画製作者であると認めることはできないから,P2が著作権法29条1項に基づき,本件映画の著作権を取得したとは認められず,したがって,原告が,甲3契約により,本件映画の著作権を取得したものと認めることはできない。また,本件証拠上,原告がP2から本件映画の翻案権の譲渡を受けたと認めることはできない。
そして,念のため,P2が本件映画の映画製作者であると仮定して,被告映像侵害主張部分が本件映画被侵害主張部分の著作権を侵害するかについて検討しても,被告映像侵害主張部分は,いずれも本件映画被侵害主張部分の複製物とはいえない。
[参照:同種事件の▶平成18年12月27日東京地方裁判所[平成17(ワ)16722]も同旨]
同種事件中の以下の判示部分も参照:
4 不競法に基づく請求の可否(争点(2))について
(1)
原告表示は,原告の商品を示す商品表示として,著名,周知といえるかについて
ア 原告の商品表示としての著名又は周知であることを要する時期自己の商品等表示が不競法2条1項1号にいう周知の商品等表示に当たる,あるいは,同項2号にいう著名な商品等表示に当たると主張して,これに類似の商品等表示を使用する者に対して損害賠償を請求する場合には,損害賠償請求の対象とされている類似の商品等表示の使用等をした時点において,請求人の商品等表示が周知性又は著名性を獲得していることを要し,かつ,これをもって足りるというべきである(最高裁昭和63年7月19日第三小法廷判決参照)。
本件で,原告は,被告商品の製造・販売による損害として使用料相当額の逸失利益を主張し,被告パチンコゲーム機については,平成16年11月ころから少なくとも20万台を製造,販売したこと,被告パチスロゲーム機については,平成17年3月以前から少なくとも1万台を製造,販売したとしており,その請求の対象となる期間は必ずしも明確ではないものの,被告パチンコゲーム機については,平成16年11月から本件口頭弁論終結日である平成18年9月21日までの期間,被告パチスロゲーム機については,平成17年3月から本件口頭弁論終結日である平成18年9月21日までの期間の損害を主張しているものと解されるので,これらの期間における原告表示の周知性ないし著名性について,まず検討する。
イ 著名性ないし周知性に関する事実認定
(略)
ウ 検討
上記認定事実によれば,原告は,ライセンス契約に基づいて,複数の企業に対し,原告表示等の使用を許諾していると推認されるが,これらの販売地域,販売時期,売上額等を示す証拠は全く提出されておらず,また,原告表示を付した各商品において,原告との結びつきを示すような表示があると認めることもできないから,結局,原告表示が原告の商品表示としてどの程度認識されているかを示す事情を認定することは困難であり,原告の商品表示として著名又は周知であると認めることはできない。
エ 原告の主張の検討
(略)
(ア) 原告は,原告表示は,遅くとも,甲3契約を締結した平成8年12月までには,著名性,周知性を獲得した旨主張しており,甲3契約締結前に甲3契約の相手方であるP2から,同人の獲得した著名性ないし周知性を譲り受けたことを前提とした主張をする。
(イ) この点に関し,甲3契約書には,原告が,P2から,「既存契約」,すなわち,「同人が平成8年9月10日以前に,宇宙戦艦ヤマト作品について締結した契約」の契約上の地位を譲り受ける旨の条項(甲3契約書1条,4条)があり,上記のP2が締結していた契約には,宇宙戦艦ヤマト作品のDVD化や,キャラクター使用等の許諾に関する契約が含まれていること(甲3契約書1条,4条,別紙(二))からすれば,P2は,甲3契約締結前に,宇宙戦艦ヤマト作品のキャラクター等を利用した商品等の宇宙戦艦ヤマト作品の関連商品の製造,販売等を許諾する事業を行っていたものと推認される。
しかしながら,P2が,上記事業において,どのような商品表示を使用していたか,それがP2の商品表示として周知又は著名であったかについては,これらを裏付ける証拠が全く提出されておらず,これらの事実を認めることはできないから,P2の商品表示としての原告表示の著名性又は周知性を承継した旨の原告の主張は,まず,その前提を欠くことになる。
(ウ) また,商品表示の著名性,周知性については,以下のとおり,営業譲渡を伴う場合などの特段の事情がある場合を除き,原則としてこれを譲渡することはできないと解するのが相当である。
すなわち,不競法は,権利の発生や変動についての一般的な規定を欠いており,また,当該権利についての登記や登録制度に関する規定も設けていないのであるから,同法は,不法行為に関する訴えの特別法として(最高裁平成15年(許)第44号同16年4月8日第一小法廷決定参照),同法所定の要件を充足する保護主体に対し,差止請求権や損害賠償請求権等を認めたにとどまり,上記保護主体に,譲渡可能な差止請求権や損害賠償請求権自体を付与したものではないと解するのが相当である。仮に,同法の認める保護主体性を譲渡可能なものと解すると,同保護主体性は,性質上,重畳的に譲渡されることが十分想定され,しかも,登記や登録制度がないことから,第三者に不測の損害を与えるおそれが生じることになり,妥当性を欠くものといわなければならない。
ただし,不競法によって保護される地位は,営業と一体となって構成されるものであり,当該営業がすべて譲渡されたにもかかわらず,その営業について獲得された不競法上の保護主体性は譲渡できないと解することは,経済活動の実態に合致するものではないと考えられるところ,事業の実体を伴う営業譲渡が重畳的になされることは一般的には想定し難く,また,営業譲渡に伴い不競法上の保護主体性が譲渡される場合には,譲渡人の競業避止義務の存在などにより,第三者に不測の損害を与える可能性が少ないことを考慮すると,営業譲渡がなされた場合には,当該営業と一体として構成される不競法上の保護主体性も承継されることがあり得るものと解するのが相当である。
そこで,本件について検討するに,原告とP2との間の甲3契約においては,前記のとおり,原告が,P2から,平成8年9月10日以前に締結した契約の契約上の地位を譲り受ける旨の条項(1条,4条)が定められているものの,甲3契約に示された契約(別紙(二))が,P2の行っていた宇宙戦艦ヤマト作品に関する事業のすべてであったことを示す条項は定められておらず,それを認めるに足りる証拠もない。そして,宇宙戦艦ヤマト作品のキャラクターを使用した新たな映像作品を制作する権利はP2に留保され,その際の商品化権等の権利の運用については別途協議する旨の条項(10条)が定められていることからすると,宇宙戦艦ヤマト作品に関する事業全体が,P2から原告に譲渡されたとは言い難く,これを認めることはできない。
その他,本件では,営業譲渡に類するような特段の事情も認められないから,P2の商品表示の著名性又は周知性を譲り受けたとする原告の主張を採用することはできない。
(エ) なお,原告は,本件映画を含む宇宙戦艦ヤマト作品の著名性を理由に,原告表示1に著名性,周知性が認められると主張するところ,原告表示1は,本件映画の題名に係る表示として著名であるとしても,あくまでも著作物である本件映画自体を特定するものであって,それが直ちに商品やその出所ないし放映・配給事業を行う営業主体を識別する機能を有するものとしての商品等表示ということはできないから,本件映画を含む宇宙戦艦ヤマト作品の映画としての著名性を理由に,原告表示の著名性又は周知性を主張する原告の上記主張は,到底,採用することができない。
以上より,原告の不競法に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。