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著作権判例セレクション
【損害額の算定例】「まねきTV事件」の差戻し審での賠償額の認定
▶平成24年01月31日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10009]
4 争点(4) (損害額)について
(1)
著作権法114条2項に基づく損害額について
原告らは,平成16年9月から平成23年6月末までに,被告が本件サービスによって受けた利益が,原告らの損害額と推定される旨主張する。
上記3のとおり,被告は,平成16年11月4日以降,本件サービスが原告らの公衆送信権・送信可能化権の侵害に該当し,著作権及び著作隣接権を侵害するものであることを認識し,又は,認識し得たと認められる。そこで,同日以降,平成23年6月末までに,被告が本件サービスにより受けた利益の額を検討する。
なお,被告は,原告らは本件サービスと代替性のあるサービスを現実に提供しておらず,被告が本件サービスにより得た利益に相当する利益を得ていた可能性はないから,著作権法114条2項による損害の推定を行う基礎がない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,原告らは,本件番組等の提供を含む放送事業を継続することを通じて,利益を得てきたとの経緯に照らすならば,被告が本件サービスを提供することは,原告らに対して,そのような利益を得る機会を喪失させた可能性を否定することはできない。したがって,被告主張に係る,原告らが本件サービスと全く同種の役務を提供していないとの事実のみによっては,同条同項の規定の適用を排除することはできないというべきである。
ア 被告の利益
(略)
イ 著作隣接権侵害による損害
送信可能化行為は,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなどして,自動公衆送信し得るようにする行為であり(著作権法2条1項9号の5),自動公衆送信の前段階の行為とも評価できる。また,送信可能化が行われたとしても,自動公衆送信される対象や機会に制約があり得るなど諸事情によって,著作権侵害に対する危険の程度は一様ではないから,送信可能化行為による著作隣接権侵害の損害額の算定に当たっても,このような事情が考慮されるべきである。
本件について検討すると,被告の送信可能化行為により本件サービスの利用者に対して自動公衆送信し得るようになるが,その相手方は本件サービスの利用者という一応の限定があり,利用者は契約において受信した番組の同時再送信ないし再分配が禁止されている(上記2(2)ア認定のとおり)。また,本件サービスの利用者に限定があることから,自動公衆送信行為が無数に行われる可能性も認められない。
これらの事情を考慮すると,被告の送信可能化行為によって生じた原告らの著作隣接権侵害による損害は,被告が本件サービスにより得た利益額の5%である110万1597円(≒2203万1945円×0.05)と認めるのが相当であり,原告らの1放送波当たりの損害額は15万7371円(=110万1597円÷7)となる。
この点,原告らは,本件サービスの提供に当たっては,本件放送に係る著作隣接権が重要であるとして,著作隣接権侵害による原告らの損害額は被告が受けた利益の2分の1に相当する旨主張する。しかし,本件放送に係る著作隣接権が重要であるとしても,本件サービスにより送信可能化される本件放送について著作隣接権を有する放送事業者らと,本件サービスにより公衆送信される著作物のうち番組についての著作権者らとが同等の損害を被ったと擬制すべき理由はなく,原告らの主張は失当である。
ウ 著作権侵害による損害
本件サービスにより本件放送に係るテレビ番組の著作権者が被った損害は,全体として,被告が本件サービスにより得た利益における送信可能化による利益分を除外した部分である2093万0348円(=2203万1945円-110万1597円)と認められる。
さらに進んで,このうち,原告らの主張に係る別紙放送番組目録記載の各番組の全放送番組に対する割合をも考慮して,当該各番組の著作権侵害による損害額を検討する。
平成16年11月4日から平成23年6月末までの間に,毎週継続して同じ番組が放送された場合,いわゆる1時間番組の1番組当たりの金額は12万4585円(≒2093万0348円÷24時間÷7日),いわゆる30分番組の1番組当たりの金額は6万2292円(≒2093万0348円÷24時間÷7日×30/60),23分間の番組の1番組当たりの金額は4万7757円(≒2093万0348円÷24時間÷7日×23/60)と,一応算定される。ただし,本件サービスの利用者が別紙放送番組目録記載の各番組を実際に視聴する可能性等の諸事情も勘案し,別紙放送番組目録記載の各番組の著作権侵害による損害額としては,上記金額の5割程度を認めるのが相当である。
そうすると,別紙放送番組目録記載の各番組のうち,いわゆる1時間番組である同目録記載3,4,4-2,6,7,7-2の1番組当たりの損害額は6万2292円,いわゆる30分番組である同目録記載2,5,5-2の1番組当たりの損害額は3万1146円,23分間の番組である同目録記載1の損害額は2万3878円となる。
なお,本件番組のうち,別紙放送番組目録記載2の番組は毎週月曜日から木曜日までの4回放送されており,それ以外の番組は毎週1回放送されている。また,原告TBS及び原告テレビ東京は,同目録記載4と4-2,7と7-2の放送の重複期間については1番組分についてのみ一部請求している。
エ 弁護士費用
被告の著作権侵害,著作隣接権侵害行為と相当因果関係を有する弁護士費用は,各原告について,上記イ,ウにおいて認容された損害額の10%程度とするのが相当である。
オ まとめ
以上によれば,被告の著作権侵害,著作隣接権侵害行為による各原告の損害額は,次のとおり算定される。
(略)
(2)
著作権法114条3項に基づく損害額について
原告らは,著作権法114条2項に基づく損害額と同条3項に基づく損害額とを選択的に主張するものと解されるが,その趣旨は,本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額は,本件サービスの売上高の70%であり,当該金銭の額を基礎として,同条2項に基づいて主張された損害額の算定方法と同様の方法で,著作隣接権侵害による損害額,著作権侵害による損害額等を算定するというものである。
しかし,原告らが,一般的なコンテンツの配信サービスにおいて,配信事業者から著作権者等の権利者に対して支払われる金額が,当該コンテンツによって配信事業者が得た売上の70%を下らないことの根拠とする証拠は,配信されるコンテンツの内容,配信のしくみ,利用状況等が本件サービスとは異なるサービスに関するものであるから,これらの証拠から,本件放送に係る権利者全体が著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額が,本件サービスの売上高の70%であるとは認められない。
本件サービスの売上高の一部が著作権者等に支払われるべきであるとしても,その額は,上記(1)において認定された金額を上回らないものと認めるべきである。
(3)
したがって,被告の著作権侵害,著作隣接権侵害行為による原告らの損害の額は,上記(1)のとおり認定される。