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著作権判例セレクション

【差止請求】謝罪放送等の必要性を認めなかった事例

▶平成160611日東京地方裁判所[平成15()11889]▶平成17324日東京高等裁判所[平成16()3565]
() 本件は,原告作成のインターネットホームページ上の米国デンバー市を紹介したウェブサイトにおいて,原告が撮影した,原告の知人であるデンバー元総領事の写真を掲載していたところ,平成13年当時,社会的に問題となっていた外務省における不祥事に関連する報道の一環として,被告が放送したテレビジョン番組(「本件番組」)の中で,原告に無断で,上記元総領事の写真が使用されたことについて,原告が,被告に対し,同写真の著作権(著作権法21条〔複製権〕,同法23条〔公衆送信権〕)及び著作者人格権(同法19条〔氏名表示権〕,同法20条〔同一性保持権〕)を侵害されたとして,損害賠償(同法114条3項),上記写真の複製・公衆送信の差止め(同法112条1項),上記写真及び上記写真が撮影された録画テープの廃棄(同法112条2項),被害回復措置としての謝罪放送及び謝罪広告(同法115条)を求めた事案である。

3 争点3(謝罪放送及び謝罪広告,差止め請求の要否)について
(1) 原告は,被告の氏名表示権の侵害行為により,本件著作物の著作者としての原告の名誉,声望が著しく損なわれたため,謝罪放送及び謝罪広告が必要である旨述べる。
本件において,被告が放送した本件各番組中,本件著作物が掲載された本件ウェブページを「B元領事のホームページ」と真実に反するナレーションにより紹介したことがあることについて,氏名表示権の侵害にあたることは当事者間に争いがないとしても,このことにより謝罪放送あるいは謝罪広告を掲載する必要性を認め得るほど,原告の名誉又は声望が侵害されたとまでは認められない(なお,放送法上,真実と異なる放送を放送事業者が行った場合,訂正放送の制度が認められていること(同法4条),新聞等の刊行物と異なり,放送については,番組の編成内容は,放送事業者のみで決定することができないことなどを考慮すれば,そもそも,謝罪放送については,著作権侵害による名誉回復措置として,相当なものとは解されない。)。
(2) また,著作権法112条1項において,著作権者等は,その権利を「侵害する者や侵害するおそれのある者」に対して,「その侵害の停止又は予防を請求することができる」と定められ,同規定は,著作権侵害が発覚した後の事後の損害賠償だけでは適切な法益の保護を図ることが困難であると認められる場合に限り,相手方が善意・無過失であっても,侵害の停止や予防を請求することができることを規定したものであり,さらに,同条1項のみでは著作権あるいは著作者人格権が保護されない場合があることにかんがみて,同条2項において,侵害行為の停止や予防を請求する際に,侵害の行為によって作成された物等の廃棄,その他侵害の停止・予防に必要な措置を講ずることができる旨定められているものである。
本件についてみると,被告が,本件著作物を撮影したものを録画するなどして複製し,これを公衆送信するおそれは否定できないから,本件著作物を複製し,あるいは公衆送信する行為につき,これを差止めを求める必要性は認められる。
しかし,本件著作物を複製した写真あるいは本件著作物を撮影して録画した本件各番組において使用された録画テープの廃棄請求については,その必要性を認めるに足りる証拠はない。すなわち,まず,本件各番組における本件著作物の使用は,本件著作物が掲載された本件ウェブページを撮影して録画したものである旨主張しており,本件著作物を写真にして複製したものが存在することについて本件証拠から明らかでない。
したがって,本件著作物を写真として複製したものについての廃棄請求はその前提を欠くというべきであり,理由がない。
そして,本件各番組の録画テープについては,公衆送信を禁じられれば,これを廃棄する必要性までは認められないというべきであるから,本件各番組の録画テープについての廃棄請求もまた,理由がない。

[控訴審]
3 原判決が示した争点3(謝罪放送及び謝罪広告,差止請求の要否)について判断する。
(1) 差止請求について
この点は原判決が認容したのにつき,被告は不服を申し立てていないので,当審の審理範囲外である。
(2) 謝罪放送及び謝罪広告の必要性について
原告がその必要性について強調して主張するところは,主として米国デンバー市,さらにはコロラド州における原告の名誉,声望に関するものと理解される。
しかしながら,本件においては,被告に対して前記の慰謝料の支払を命じる以外に,原告の名誉,声望が侵害されたことなど,被告に謝罪放送あるいは謝罪広告の掲載を命じる必要性までの事実関係は認めることができない。原告が当審において主張する民法723条に照らしてみても,その必要性は認めることができない。
(3) 廃棄請求について
本件において,原判決別紙「番組目録」及び原判決別紙「供給ネットワーク局と放送一覧」に記載の番組の録画テープの廃棄を命じるについて特段の支障はないから(被告も,証拠調べなどの必要がなくなった段階でその複製部分を消去する意向であると述べている。),その廃棄請求は,主文1(3)で命じる消去の限度で理由があるが,本件著作物を写真として複製したものについての廃棄請求については,そのような写真が存在することを認めるべき証拠はないので,理由がない。