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著作権判例セレクション

【著作権の譲渡】プログラム著作物の譲渡契約の解釈が争点となった事例/612項の「推定」を覆した事例

▶平成281025日東京地方裁判所[平成28()360]▶平成29427日知的財産高等裁判所[平成28()10107]
() 本件第2事件は,原告らが,被告に対し,本件先行ソフトウェア部品プログラムについて,①これを創作したことによる著作権,②「オリジナルソフトウェア部品」という名称のプログラム(「本件オリジナルソフトウェア部品プログラム」)を原著作物とする二次的著作物である本件先行ソフトウェア部品プログラムについての原著作者の著作権(以下,上記①の著作権と併せて「本件各著作権」という。)を有することの確認を求めた事案である。
(前提事実)
〇 原告B社は,プログラム著作物である「BSS-PACKクライアント(メニュークリエイト)」,「BSS-PACKサーバー(UNIX)」,「BSS-PACKサーバー(WindowsNT版)」,「部品マイスター」及び「部品ビュー」(以下,これらを「本件登録プログラム」と総称する。)を創作したとして,それぞれ平成7年10月16日,平成8年1月16日,平成9年3月14日,平成10年2月13日及び平成11年5月13日に創作年月日の登録を受けた。
〇 原告B社は,S社との間で,平成18年3月28日,S社による原告B社の事業継続の支援に関する合意(以下「本件合意」という。)をした。本件合意においては,原告B社が有する本件登録プログラムその他の著作物及びこれに関する著作権等の一切の権利をS社へ譲渡すること(なお,この譲渡に当たって詳細な条件を定めた最終契約書の作成が予定されていた。),原告B社の全従業員をS社の指定する会社へ移籍させて雇用を確保し,当該会社が上記譲渡の対象となったプログラムに関わる開発を行うことができるようS社が支援を行うことなどが定められていた。
〇 原告B社は,S社との間で,平成18年3月30日,原告B社が有する上記の著作物及び権利(ただし,譲渡の対象範囲については当事者間に争いがある。)を代金11億5000万円で譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)を締結した。
〇 本件登録プログラムに係る著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)は,平成18年4月7日譲渡(ただし,部品マイスターのみ同年9月27日)を原因として,同年4月17日(同,同年10月4日)に原告B社からS社への移転登録がされた。その後,上記著作権は,平成19年にS社から株式会社Fへ,平成21年に同社から被告へそれぞれ譲渡され,その旨の登録がされた。

1 争点(1)(本件営業秘密部プログラムは原告らの営業秘密であるか)及び(3)(本件各著作権は本件譲渡契約によりS社に移転したか)について
(1) 原告らが,本件営業秘密部プログラムが原告らの営業秘密であり,本件各著作権が原告らに帰属する旨主張するのに対し,被告は,これらに係る権利は本件譲渡契約によりS社に譲渡されたことから,第1事件及び第2事件の原告らの請求はいずれも認められない旨主張するので,以下検討する。
(2) 前記前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 原告B社は,平成8年1月以降,本件登録プログラムの著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)に譲渡担保権を設定して金融機関から融資を受けることを繰り返していた。
イ 原告とS社は,平成18年3月28日,S社が原告B社の事業継続を支援することについて,原告B社がS社に対しソフトウェアに関する権利を譲渡すること,譲渡価格は11億5000万円とすること,原告B社はS社に対し上記ソフトウェアにつき著作者人格権を一切行使しないこと,原告B社の従業員全員をS社が指定する会社に移籍させ雇用を確保するとともに同会社に対して上記ソフトウェアの開発を委託するものとして,同会社が継続的に事業を行えるようS社が支援を行うことを内容とする本件合意をした。譲渡の対象とされたのは,①本件登録プログラム,②非登録プログラム著作物(本件登録プログラムのバージョンアップ等改良後のプログラム著作物,その他関連する一切のプログラム著作物)並びに③上記①及び②のプログラムの関連著作物(ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物)その他の著作物並びにこれらに関する著作権その他一切の知的財産権であり,これらの譲渡に当たっては,「より詳細な条件を定めた最終契約書を別途締結するものとする」とされた。
ウ 本件譲渡契約は,本件合意の2日後の同月30日付けで締結されたものであり,譲渡対象は上記イの本件合意と同一であるが,本件登録プログラムに係る譲渡担保権の抹消及びS社への譲渡の登録等に関する定めがされた。一方,本件合意及び本件譲渡契約には,譲渡の対象として著作権法27条及び28条に規定する権利は明記されていない
エ 本件登録プログラムについては,本件譲渡契約締結後に著作権譲渡の登録がされた。その登録簿の【登録の原因】欄には「著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)の譲渡があった。」旨の記載がある
(3) 上記(2)の認定事実によれば,本件合意及びこれに引き続いて締結された本件譲渡契約は,実質的に原告B社のBSS-PACKに関する事業を従業員ごと他の会社に移転させ,その事業をサンライズ社の支援の下で継続させることを念頭に置いたものということができ,本件譲渡契約の契約書上,譲渡対象については包括的な記載となっており,本件営業秘密部プログラム及び本件先行ソフトウェア部品プログラムを含め明示的に譲渡対象から除かれたプログラムはない。そうすると,本件譲渡契約により譲渡されたのは旧BSS-PACKないしBSS-PACKに関するプログラム著作物の全てについての著作権その他の知的財産権であったと解するのが相当であり,本件営業秘密部プログラムについて原告B社が有していたという営業秘密や,本件先行ソフトウェア部品プログラムに係る著作権も譲渡対象であったものと認められる。
これに加え,前記(2)の認定事実によれば,原告B社はS社に対し著作者人格権を行使しないとされたこと,本件登録プログラムについては著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて譲渡されたことが明らかであることを併せ考えれば,原告B社とS社との間では,上記事業を移転させるため,登録の有無を問わず,著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて,本件オリジナルソフトウェア部品プログラムが含まれている旧BSS-PACKや本件先行ソフトウェア部品プログラムが含まれているBSS-PACKに係る一切の著作権を譲渡する旨の合意があったものと認められる。
以上によれば,本件営業秘密部プログラムについての営業秘密や本件先行ソフトウェア部品プログラムについての本件各著作権を原告B社が有していたとしても,これらは本件譲渡契約によりS社に譲渡されており,原告らが現時点においてこれを有するということはできないから,原告らの第1事件及び第2事件の請求はいずれも理由がない。
(4) これに対し,原告らは,①原告B社とS社との間で購入条件等に関して別途の契約(第二の契約)の締結が予定されていたこと,②本件譲渡契約の契約書には譲渡対象となる「当該著作物を引き渡す」と規定されているが(同契約書第1条の1),原告B社は,S社からエスクロウ(ソフトウェアの著作権者の倒産等に備えてそのソースコードを第三者に預託しておくこと。)の協力要請を受けて本件営業秘密部プログラムのソースコードを送付したにとどまり,S社に対して本件営業秘密部プログラムを引き渡していないことなどからすれば,本件営業秘密部プログラムは本件譲渡契約の対象となっていない,③本件譲渡契約の譲渡対象に本件先行ソフトウェア部品プログラムが含まれているとしても,著作権法27条及び28条に規定する権利は原告B社に留保されている(同法61条2項),④原告B社は本件オリジナルソフトウェア部品プログラムの著作者として二次的著作物である本件先行ソフトウェア部品につき著作権を有する旨主張する。
そこで判断するに,上記①について,本件合意では「より詳細な条件を定めた最終契約書を別途締結するものとする」とされていたところ(前記(2)イ),その合意書と本件譲渡契約の契約書の記載内容及び作成日をみると,最終契約書とは本件譲渡契約の契約書を意味していると解することができる。なお,原告B社がこれとは別に「第二の契約」の締結を望んでいたとしても,その締結に至らなかった以上,本件譲渡契約による前述の権利移転の効果が妨げられることはないというべきである。
上記②について,本件譲渡契約にいう「当該著作物を引き渡す」とは,同契約により原告B社が譲渡するとされた著作物(その範囲は前記(3)のとおりである。)についてのソースコード等を印刷した文書,保存した記録媒体等を引き渡すべき同原告の義務について定めたものであって,引渡しのされなかったものが本件譲渡契約の譲渡対象に含まれていないことを意味するものでないことはその文言上明らかと解される。
上記③及び④について,前記(3)で説示したとおり,本件譲渡契約により本件オリジナルソフトウェア部品及び本件先行ソフトウェア部品を含む旧BSS-PACKないしBSS-PACKに関するプログラム著作物及びこれらに関する一切の著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む。)がS社に譲渡されたものと認められ,同法61条2項の推定は覆ったというべきである。
したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。

[控訴審]
1 当裁判所は,当審における主張及び立証を踏まえても,控訴人らが,本件営業秘密部プログラムについての営業秘密や本件先行ソフトウェアプログラムについての本件各著作権を有するということはできないものと判断した原判決は,相当であると判断する。
その理由は,次のとおりである。
(1) 前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
()
イ 控訴人B社とS社は,平成18年3月28日,本件合意書(以下「本件合意書」という。)記載のとおりの次の内容の本件合意をした。
「第1条(ソフトウェアの譲渡の合意)
1 乙(判決注:控訴人B社。以下同じ。)は甲(判決注:S社。以下同じ。)に対し,乙の所有する下記記載のプログラムその他の著作物(文書,図面,磁気テープ・ディスクその他の媒体物を含む。)及び当該各著作物に関する著作権その他一切の知的財産権(以下,「本件ソフトウェア」という。)の所有権を以下の条件で移転し,かつ当該各著作物を引き渡すことに合意する。なお,本件ソフトウェアの譲渡にあたっては,甲及び乙は,より詳細な条件を定めた最終契約書(以下,「本件最終契約書」という。)を別途締結するものとする。

(1) 登録済プログラム著作物
(判決注:本件合意書記載の表示番号,著作物の題号のみを記載し,登録年月日及び枠線の記載は省略する。)
① P第4574号 BSS-PACKクライアント(メニュークリエイト)
② P第4724号 BSS-PACKサーバー(UNIX)
③ P第5363号 BSS-PACKサーバー(WindowsNT版)
④ P第6339号 部品ビュー
⑤ P第5814号 部品マイスター
(登録先:財団法人ソフトウェア情報センター)
(2) 非登録プログラム著作物
上記(1)の著作物のバージョンアップ等改良後のプログラム著作物,その他関連する一切のプログラム著作物
(3) 上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物
ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物
2 乙は,本件最終契約書締結日に,本件ソフトウェアについて,担保権その他本件ソフトウェアを制限する一切の権利を抹消し,何等制限のない状態で甲に引渡す。但し,前記(1)⑤及びそれに関る前項(2)(3)のプログラムその他の著作権に対して乙が第三者のために設定している譲渡担保権については,乙は,甲乙間で別途定める期日までに当該譲渡担保権の抹消を行うものとする。
3 乙は,本条第1項(1)に関する著作権については,本件最終契約書締結後すみやかに移転登録手続きを行い,登録の完了を証する書類を甲に提出するものとする。
但し,本条第1項(1)⑤に関する著作権については,乙は,甲乙間で別途定める期日までに移転登録手続きを完了させるものとする。なお,当該移転登録手続きに要する一切の費用は乙の負担とする。
4 本件ソフトウェアの譲渡価額は金1,150,000,000円(消費税別)とする。
5 甲は乙に対し,前項の譲渡代金を本条第3項の移転登録手続き完了後6ヶ月以内に,乙の指定する銀行口座に振込みにより支払うものとする。
6 乙は甲に対し,本件最終契約書締結日以降,本件ソフトウェアについて著作者人格権を一切行使しないものとする。
第2条(事業継続支援に関する合意)
甲は,甲の指定する会社に乙の従業員を全員移籍させ継続的に雇用を確保するとともに,当該会社に対し本件ソフトウェアに関わる開発を委託するものとし,当該会社が継続的に事業を行える様に支援を行うことに合意する。
第3条(解除)
甲及び乙は,次の各号の場合,相手方に対して書面にて通知することにより本合意書を解除することができる。但し,本条の解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない。
① 相手方が本合意書を履行しなかった場合
② 乙の表明及び保証に虚偽があることが判明した場合(以下略)」
ウ 控訴人B社とS社は,平成18年3月30日付け「ソフトウェア譲渡契約書」(以下「本件譲渡契約書」という。)記載のとおりの次の内容の本件譲渡契約を締結した。
「株式会社B(以下,「甲」という。)と,株式会社S(以下,「乙」という。)とは,甲が乙に対し甲の所有するソフトウェアを譲渡することに合意したので,ここにソフトウェア譲渡契約書を締結する。
第1条(ソフトウェアの譲渡)
1 甲は乙に対し,平成18年4月末日までに,甲の所有する下記記載のプログラムその他の著作物(文書,図面,磁気テープ・ディスクその他の媒体物を含む。)及び当該各著作物に関する著作権その他一切の知的財産権(以下,「本件ソフトウェア」という。)の所有権を移転し,かつ当該各著作物を引き渡す。

(1) 登録済プログラム著作物
(判決注:本件譲渡契約書記載の表示番号,著作物の題号のみを記載し,登録年月日及び枠線の記載は省略する。)
① P第4574号 BSS-PACKクライアント(メニュークリエイト)
② P第4724号 BSS-PACKサーバー(UNIX)
③ P第5363号 BSS-PACKサーバー(WindowsNT版)
④ P第6339号 部品ビュー
⑤ P第5814号 部品マイスター
(登録先:財団法人ソフトウェア情報センター)
 (2) 非登録プログラム著作物
上記(1)の著作物のバージョンアップ等改良後のプログラム著作物,その他関連する一切のプログラム著作物
(3) 上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物
ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物
2 甲は,本件ソフトウェアについて,担保権その他本件ソフトウェアを制限する一切の権利を抹消し,何等制限のない状態で乙に引渡す。但し,前記(1)⑤及びそれに関わる前項(2)(3)のプログラムその他の著作権に対して甲が第三者のために設定している譲渡担保権については,甲は平成18年6月30日までに当該譲渡担保権の抹消を行うものとする。
3 甲は,本条第1項(1)に関する著作権については,本契約書締結後すみやかに移転登録手続きを行い,登録の完了を証する書類を乙に提出するものとする。但し,本条第1項(1)⑤に関する著作権については,甲は平成18年6月30日までに移転登録手続きを完了させるものとする。なお,当該移転登録手続きに要する一切の費用は甲の負担とする。
第2条(譲渡価額及び支払方法)
1 本件ソフトウェアの譲渡価額は金1,150,000,000円(消費税別)とする。
2 乙は甲に対し,前項の譲渡代金を第1条第3項の移転登録手続き完了後6ヶ月以内に,甲の指定する銀行口座に振込みにより支払うものとする。
第3条(表明保証)
甲は乙に対し,次の各号について表明し,保証する。
① 本契約書締結日において,本件ソフトウェア(第1条第1項(1)⑤及びそれに関わる同条同項(2)(3)のプログラムその他著作物に関する著作権を除く。)について,担保権者等として権利を主張する第三者が存在しないこと。
② 本件著作物が第三者の著作権その他の権利を侵害していないこと。
第4条(著作者人格権)
甲は乙に対し,本件ソフトウェアについて著作者人格権を一切行使しないものとする。
第5条(解除)
甲及び乙は,次の各号の場合,相手方に対して書面にて通知することにより本契約を解除することができる。但し,本条の解除権の行使は損害賠償の請求を妨げない。
① 相手方が本契約を履行しなかった場合
② 甲の表明及び保証に虚偽があることが判明した場合(以下略)」
(2) 控訴人らの主張するところによっても,平成9年以後,控訴人B社は,資金逼迫状態が続いていたというのであり,前記認定事実,証拠及び弁論の全趣旨によると,控訴人B社は,前記(1)アの登録のとおりの各契約を,各契約の相手方と締結したことが認められる。
前記認定事実,証拠及び弁論の全趣旨によると,①控訴人B社は,平成9年頃以降,本件登録プログラムに譲渡担保権を設定して多数の金融機関から融資を受けていたが,Iサービス株式会社からも融資を受けるようになり,平成15年には,部品マイスターを除く本件登録プログラムの著作権は,Iサービス株式会社が単独で保有するに至っていたこと,②控訴人B社は,平成18年3月頃までに,Iサービス株式会社に替えて,S社から資金援助を受けることとし,そのために,控訴人B社は,部品マイスターを除く本件登録プログラムの著作権のIサービス株式会社から取得した上,これをサンライズ社に譲渡し,その旨の登録をするとともに,本件登録プログラムのうち,部品マイスターの著作権については,譲渡担保権者と交渉の上,譲渡権設定契約の解除を受けて,これをS社に譲渡し,その旨の登録をすることになったこと,③控訴人B社とS社は,平成18年3月28日,控訴人B社が,S社が指定する会社(以下「指定会社」という。)に控訴人B社の全従業員を移籍させ,S社は,控訴人B社から譲渡を受けるプログラムに関わる開発を,指定会社に委託し,指定会社が継続的に事業を行えるように支援することになったこと,④平成18年3月28日までには,譲渡対象のプログラムとその対価は合意されていたが,契約の履行期限は定まっておらず,その日時が定まった段階で,最終的な譲渡契約書を作成して譲渡契約を締結することとされたこと,⑤これを受けて,平成18年3月30日付けで本件譲渡契約書が作成され,本件譲渡契約が締結されたことが認められる。
以上に,前記前提事実及び弁論の全趣旨を総合すると,控訴人B社とS社は,控訴人B社のBSS-PACKに係る全事業を全従業員ごと指定会社に移転させ,その事業に係るプログラムについての全ての権利をS社に譲渡し,S社が前記権利から利益を得るとともに,S社が,本件譲渡契約の対価を控訴人B社に支払い,指定会社が当該事業を継続的に行えるように支援をすることを約したものということができる。
そうすると,本件譲渡契約において,本件営業秘密部プログラム及び本件先行ソフトウェア部品プログラムを含むBSS-PACKに係るプログラムについての全ての権利が,登録の有無を問わず,著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて,譲渡の対象とされたものと認められる。
以上によると,本件営業秘密部プログラムについての営業秘密や本件先行ソフトウェア部品プログラムについての本件各著作権を,現時点において控訴人らが有するということはできない。
(3)ア 控訴人らは,控訴人B社とS社との間で,本件営業秘密部プログラムが控訴人B社に留保されていたことを前提とする「第二の契約」の締結が予定されていたことからして,本件営業秘密部プログラムは本件譲渡契約の対象となっていなかった旨主張し,控訴人X及び同Xの各供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,控訴人らは,その主張する「第二の契約」の内容につき,在庫として一定量のハードロックを仕入れること等を内容としたものである,本件営業秘密部プログラムが控訴人ビーエスエス社に留保されていることを前提としたソフトロック,ハードロックの控訴人ビーエスエス社又はその事業承継者からの仕入れを主な内容とするものであるなどと主張するのみで,その具体的内容を特定する主張をしない。また,控訴人らが,S社が本件営業秘密部プログラムが作動するハードロックを控訴人B社に発注する意思があり,S社が,本件営業秘密部プログラムの譲渡を受けていないことを認めていることを証明する証拠として提出した「株式会社B 」名義の平成18年10月27日付けメールには,控訴人B社が「先日のミーティングの中にて,ご提案をいただきました LOCKの在庫方式へのスキームの変更に関して,検討を致しました。ビジネスの本格スタートに当たり,御社とソフトウエア部品開発との関係を明確化することは,極めて重要であると考えます。そこで,「業務協力契約」の締結をご検討いただきたく,素案を作成しましたので,添付いたします。」,「また,現在の御社からの借入金とLOCKとの相殺ですが,ご注文後,約2週間にて納品することが可能です。以上よろしくご検討くださいますようお願い申し上げます。」などと記載されているところ,添付されていたはずの「素案」は提出されておらず,このメールによって,控訴人らが主張するところの「第二の契約」の具体的内容は明らかにならない。
また,前記認定事実及び弁論の全趣旨によると,本件合意では「より詳細な条件を定めた最終契約書を別途締結するものとする」とされていたところ,本件合意書作成段階で,譲渡対象や対価等,本件譲渡契約の内容の主要な点は合意されていたが,履行期限が決まっておらず,本件譲渡契約書作成段階で決まっていたこと,本件譲渡契約書では,本件合意書には記載がなかった,虚偽があることが判明した場合に,解除権の行使が可能とされている控訴人B社のS社に対する表明及び保証の内容として,譲渡対象のプログラムにつき,部品マイスターとそれに関わるプログラムその他著作物に関する著作権を除き,担保権者等として権利を主張する第三者が存在せず,譲渡対象のプログラムが第三者の著作権その他の権利を侵害していないことが付加されたこと,本件譲渡契約書の文言は,本件合意書と同旨の内容を記載した部分は,「甲」と「乙」を入れ替えた以外,同文の部分が多いが,本件合意書第1条第1項の「なお,本件ソフトウェアの譲渡にあたっては,甲及び乙は,より詳細な条件を定めた最終契約書(以下「本件最終契約書」という。)を別途締結するものとする。」との記載,第1条第2項の「本件最終契約書締結日に」との記載は,本件譲渡契約書にはなく,本件合意書第1条2項及び第3項の「甲乙間で別途定める期日」は,本件譲渡契約書では「平成18年6月30日」となり,本件合意書第1条第3項の「本件最終契約書締結後」は,本件譲渡契約書では「本契約書締結後」になっているのであって,その記載内容からして,S社と控訴人B社は,本件合意書記載の「最終契約書」として,本件譲渡契約書を作成して本件譲渡契約を締結したものと認められる。本件合意書の作成日付は平成18年3月28日で,本件譲渡契約書の作成日付がその後であることも,前記認定と整合する(控訴人らは,本件合意及び本件譲渡契約がいずれも平成18年4月4日に締結された旨主張するが,前記認定の本件合意書及び本件譲渡契約書の各記載内容は,同じ日に締結される内容としては不自然である上,控訴人らの前記主張を裏付けるに足りる客観的証拠はなく,控訴人Xの供述内容とも一致しないから,採用することができない。)。
そもそも,控訴人らは,本件先行ソフトウェア部品プログラムを作動させるためには,中核部(ミドルソフト)を必要とし,特に本件営業秘密部プログラムとソフトロック及びハードロックがないとシステムとして全く作動しない仕組みになっていた旨主張しており,そうであるとすれば,控訴人B社においてBSS-PACKに係る事業を継続するのではなく,S社がプログラムの譲渡を受け,同社から委託を受けた会社がこれを行うことが予定されているのに,控訴人B社とS社との間において,システムに不可欠なプログラムを除外して譲渡対象とされたというのは,不自然である。
したがって,控訴人X及び同Xの前記供述部分は,採用することができず,控訴人らの前記主張は,認められない。
イ 控訴人らは,本件譲渡契約書には譲渡対象となる「当該各著作物を引き渡す」と規定されている(第1条第1項)が,控訴人B社は,Sズ社にエスクロウの協力要請を受けて本件営業秘密部プログラムのソースコードを送付したにとどまり,サンライズ社に対して本件営業秘密部プログラムを引き渡していないことなどからすると,本件営業秘密部プログラムは本件譲渡契約の対象となっていない旨主張し,控訴人X及び同Xの各供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,本件譲渡契約にいう「当該各著作物を引き渡す」との文言から,引渡しのされなかったものが本件譲渡契約の譲渡対象に含まれていないと解することはできない。
なお,控訴人らは,控訴人B社が,S社に対し,平成18年9月7日,本件営業費秘密部プログラムを除く中核部(ミドルソフト)のソースコードを送り,同年10月17日,本件営業秘密部プログラムのソースコードをCDに書き込み,エスクロウ用として送付したと主張するが,(証拠)はいずれも佐川急便株式会社の送り状のお客様控えであり,(証拠)は,東京都千代田区<以下略>の控訴人B社から東京都千代田区<以下略>のS社宛てに,「ソフトウェアエスクロウ契約関係(資料)」を,(証拠)は,東京都千代田区<以下略>の控訴人B社から東京都港区のS社宛てに,「ソフトウェアエスクロウ関係資料」を送った旨記載されているだけで,内容物が控訴人ら主張のものであったことを裏付けるに足りない。仮に,控訴人B社が,平成18年10月17日,本件営業秘密部プログラムをエスクロウ目的でS社に送付したという事実があったとしても,S社が自社が保有する本件営業秘密部プログラムにつきエスクロウ制度を利用するに当たり,控訴人B社に資料送付を依頼したものとみても,不自然ではなく,控訴人B社が本件営業秘密部プログラムに係る権利を保有したまま,エスクロウのためにそのソースコードを送付したことを裏付けるに足りるものではない。
したがって,控訴人X及び同Xの前記供述部分は,採用することができず,控訴人らの前記主張は,認められない。
ウ 控訴人らは,本件譲渡契約の譲渡対象に本件先行ソフトウェア部品プログラムが含まれているとしても,本件先行ソフトウェア部品プログラムに係る著作権法27条及び28条に規定する権利は,控訴人B社に留保されている(同法61条2項)旨主張し,控訴人Xの供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,前記認定の本件合意及び本件譲渡契約の内容からすると,控訴人B社とS社は,控訴人B社の全従業員を,指定会社に移籍させ,控訴人B社がS社にBSS-PACKに係るプログラムについての権利を譲渡し,指定会社が,S社から委託を受けて,控訴人B社が行っていたBSS-PACKに係る事業を継続することとして,控訴人B社の側では,控訴人B社の従業員の雇用とBSS-PACKに係る事業の継続等を指定会社において確保し,S社の側では,BSS-PACKに係る事業から得られる収入を得ること等を意図して,本件合意及び本件譲渡契約をしたと認めるのが相当であり,このことに鑑みると,BSS-PACKに係る著作物の翻案権等(著作権法27条)及び二次的著作物利用に関する原著作者の権利を控訴人B社に留保するということは,本件合意及び本件譲渡契約の趣旨に反するものであって,不自然である。
また,前記認定事実によると,本件譲渡契約により譲渡された本件登録プログラムについては,本件譲渡契約において,著作権法27条及び28条の権利の移転につき明文がないにもかかわらず,著作権法27条及び28条に規定する権利を含む著作権の譲渡がされた旨の登録がされている。
さらに,前記認定事実のとおり,本件合意及び本件譲渡契約においては,本件登録プログラムである「上記(1)の著作物」の「バージョンアップ等改良後のプログラム著作物,その他関連する一切のプログラム著作物」である「(2)非登録プログラム著作物」及び「上記(1)及び(2)のプログラムの関連著作物 ユーザーズガイド一式及び環境開発マニュアル一式に係る著作物」が譲渡対象とされている。
以上からすると,本件譲渡契約では,著作権法27条及び28条に規定する権利を含めて著作権を譲渡する旨の合意があったと認められるのであって,同法61条2項の推定は覆ったというべきである。
したがって,控訴人Xの前記供述部分は,採用することができず,控訴人らの前記主張は,認められない。
(4)ア 控訴人らは,旧BSS-PACKの全プログラムとその著作権及びソースコードは,本件譲渡契約時,控訴人Xが保有していたのであり,また,その他にBSS-PACKに関する知的財産権で控訴人Xが保有していたものがあったから,本件譲渡契約は,他人が保有する権利をその対象とすることとなり,民法90条により無効である旨主張し,控訴人Xの供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,前記認定事実によると,本件譲渡契約においては,控訴人B社は,S社に対し,譲渡対象が控訴人Bの所有する知的財産権であることを明示した上,担保権者等として権利を主張する第三者が存在しないこと,譲渡対象が第三者の著作権その他の権利を侵害していないことを保証し,その保証に虚偽があることが判明した場合は,解除理由になるとされていることが認められるところ,控訴人らが前記主張を原審ではせず,甲51を提出していなかったことを考え合わせると,本件譲渡契約の対象は,全て控訴人B社が所有していたものと認められるのであり,控訴人Xが保有していたものが含まれていたと認めることはできない。
したがって,控訴人Xの前記供述部分は,採用することができず,控訴人らの前記主張は,認められない。
なお,そもそも,民法は他人物売買を認めている(民法555条,561条等)のであって,本件譲渡契約の対象の一部が他人物であったとしても,それだけで,本件譲渡契約が公序良俗違反となるということはできない。
イ 控訴人らは,本件譲渡契約の対価である11億5000万円は,譲渡対象の価値に比して廉価であり,本件譲渡契約は,暴利行為であるから,民法90条により無効である旨主張し,控訴人Xの供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,ソフトウェアの市場価格が常に開発原価以上であることを裏付けるに足りる証拠はない。また,前記前提事実のとおり,旧BSS-PACKは平成9年以前から,BSS-PACKは平成9年からその販売が開始されていたにもかかわらず,前記認定のとおり,控訴人B社は,平成9年から平成18年に至るまで資金逼迫状態が続き,金融機関からの融資だけではなく,他社からの資金援助を必要とするに至っていたのであって,BSS-PACKに係るソフトウェアが,控訴人Bの経営を好転させるに足りる利益を控訴人B社にもたらしていなかったといえ,BSS-PACKに控訴人らが主張するような現在価値があったとは認められない。以上の認定は,著作者人格権の不行使の合意や,譲渡対象が,登録,非登録にかかわらず,一切のプログラムであり,著作権法27条及び28条の権利が含まれることを前提としても,左右されるものではない。
なお,控訴人らが主張するとおり,本件譲渡契約の対価が相殺契約により支払われなかったとしても,控訴人B社は,相殺の対象である債務を免れたはずであり,これをもって,本件譲渡契約の対価が高額に過ぎることを裏付けるに足りる事実とはいえない。
したがって,控訴人Xの前記供述部分は,採用することができず,控訴人らの前記主張は,認められない。
ウ 控訴人らは,S社は,控訴人B社及び控訴人S部品開発社への支援が長期間継続するかに見せ掛けて,控訴人Xを欺罔し,協業体制と支援が継続するとの錯誤に陥れて,本件登録プログラムの著作権とそのソースコード及び本件営業秘密部プログラムのソースコードを詐取したのであって,S社がBSS-PACKに関する一切の権利を保有する状態に置き続けることを容認することは,正義の観念に反するから,本件譲渡契約は,民法90条により無効である旨主張し,控訴人X及び同Xの各供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,前記認定事実によると,本件合意書には,S社の指定会社への支援の具体的内容は記載されておらず,支援の期間も記載されておらず,控訴人B社がS社からの長期間の支援を期待していたとしても,S社が支援の具体的内容及び期間につき,実際に控訴人B社及び控訴人S部品開発社に対して行った以上のことを行う旨を,本件譲渡契約締結に先立ち,控訴人B社に伝えていたことを認めるに足りる客観的証拠はなく,S社の控訴人B社に対する欺罔行為の存在を認めるに足りる客観的証拠はない。
したがって,控訴人X及び同Xの前記各供述部分のみでは,控訴人らが主張する上記事実を認めることはできず,控訴人らの前記主張は,認められない。
エ 控訴人は,本件譲渡契約は,違法な目的を達成するための違法な契約締結を積み重ねる過程でのその一段階であるから,民法90条により無効である旨主張し,控訴人X及び同Xの各供述中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,控訴人X及び同Xの前記各供述部分のみによっては,控訴人らの主張する違法行為の存在を認めることができず,他にこれらの違法行為の存在を認めるに足りる証拠はない(本訴の対象となっている不正競争行為が認められないことは,既に認定したとおり,控訴人らが本件営業秘密部プログラムについての営業秘密を有しないことから明らかである。)。そして,控訴人らの主張する「計画」については,その存在を裏付けるに足りる客観的証拠はなく,控訴人X及び同Xの前記各供述部分のみでは,上記「計画」の存在を認めることはできない。
したがって,控訴人らの前記主張は,認められない。
オ 以上のとおりであって,本件譲渡契約が公序良俗違反(民法90条)により無効であるとは認められない。
2 以上のとおり,控訴人らが本件営業秘密部プログラムや本件先行ソフトウェア部品プログラムについての著作権を有しているとは認められない。
なお,控訴人らは,創作ソースコード等の引渡しを受けて保有していなければ,その権利保有を対抗することはできないと主張するが,そのように解すべき法的根拠はなく,採用することはできない。
また,その他,控訴人らが主張するところによっても,前記(1)(4)の認定,判断が左右されることはない。
第4 結論
以上の次第で,控訴人らの本件各請求は,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がなく,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。