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著作権判例セレクション
【共有著作権】共有著作権者が他の共有著作権者を訴えた事例(共有持分権の侵害を認定した事例)
▶平成27年2月26日東京地方裁判所[平成25(ワ)32114]▶平成27年10月14日知的財産高等裁判所[平成27(ネ)10041]
(注) 本件(控訴審)は,「板画家」の亡Aが制作した著作物である原判決別紙記載の作品24点(「本件作品」)についての著作権(「本件著作権」)の共有著作権者である被控訴人が,控訴人X及び控訴人会社が被控訴人に無断で本件作品の複製を他人に許諾し,その複製をさせた行為が被控訴人の共有著作権(複製権)の侵害に当たるなどと主張して,控訴人らに対し,民法719条1項,著作権法117条に基づき,損害賠償金等の連帯支払を求めた事案である。
(前提事実)
〇 被控訴人は,亡Aとその妻亡B夫婦の長男である亡Cの妻である。
〇 控訴人Xは,亡Aと亡B夫婦の二男である。控訴人Xは,少なくとも平成9年3月31日以前から平成15年3月6日まで控訴人会社の取締役を務めていた。控訴人会社は,広告制作,企画,編集,デザイン等を目的とする株式会社である。
1 争点1(被控訴人が有する本件著作権の共有持分割合)について
(1)
前記前提事実によれば,亡Bは,亡Aの死亡(昭和50年9月13日死亡)に伴う遺産分割によりその全作品の著作権(本件著作権を含む。)を単独で取得し,亡C及び控訴人Xは,亡Bの死亡(平成7年11月28日死亡)に伴う遺産分割によりその遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権を各2分の1の割合で取得し,さらに,被控訴人は,亡Cの死亡(平成10年5月13日死亡)に伴う遺産分割によりその遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権を単独で取得したことが認められるから,被控訴人は,本件著作権の2分の1の共有持分権を有することが認められる。
(2)
これに対し控訴人らは,亡BとDが講談社との間でそれぞれ締結した「A全集
全12巻」の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1及び2)には,亡B及びDがそれぞれ著作権者と記載され,講談社が著作権使用料を亡Bに対して10分の3の割合で,Dに対して10分の7の割合で支払う旨の記載があることからすると,亡Bは,その生前,上記出版契約書作成までの間にDに対し亡Aの全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していたから,亡Bの遺産としての亡Aの全作品の著作権の共有持分権は10分の3であり,被控訴人が有する亡Aの全作品の著作権の共有持分割合はその2分の1の10分の1.5にすぎない旨主張する。
しかしながら,控訴人らの主張は,以下のとおり理由がない。
ア Dと講談社間の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1)には,著作者名を「A」,書名を「A全集
全12巻」,「物語の柵。神々の柵(1)(2)。花鳥の柵。詩歌の柵(1)(2)。想いの柵(1)(2)。海道の柵。雑華の柵。女人の柵(1)(2)」とし,上記著作物を書籍として出版することについて,「著作権者
財団法人D(全集編集者)」を「甲」とし,「出版者 株式会社講談社 F」を「乙」とし,両者の間に次のとおり契約する旨の記載があり,上記出版契約書3条本文には,乙が甲に対し,著作権使用料として発行部数1部ごとに「定価の5.5%×7/10に相当する金額」の印税を支払う旨の記載がある。
他方で,亡Bと講談社間の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の2)には,著作者名を「A」,書名を「A全集
全12巻」,「物語の柵。神々の柵(1)(2)。花鳥の柵。詩歌の柵(1)(2)。想いの柵(1)(2)。海道の柵。雑華の柵」とし,上記著作物を書籍として出版することについて,「著作権者 B」を「甲」とし,「出版者
株式会社講談社 F」を「乙」とし,両者の間に次のとおり契約する旨の記載があり,上記出版契約書3条本文には,乙が甲に対し,著作権使用料として発行部数1部ごとに「定価の5.5%×3/10に相当する金額」の印税を支払う旨の記載がある。
上記各記載によれば,乙8の1及び2は,いずれも亡Aの著作物である各作品を素材とした編集著作物である「A全集
全12巻」を講談社が書籍として出版する旨の出版契約書であることが認められる。
しかるところ,乙8の1には,「著作権者
財団法人D(全集編集者)」と記載され,「著作権者 財団法人D」の名下に「(全集編集者)」と付記されているのに対し,乙8の2には,「著作権者 B」と記載され,「(全集編集者)」の付記がないことに照らすと,乙8の1の上記記載は,Dが編集著作物である「A全集
全12巻」の編集著作権者であることを示したものであり,乙8の2の上記記載は,亡Bが編集著作物である「A全集 全12巻」の素材である亡Aの各作品の著作権者であることを示したものと認めるのが相当である。
そして,素材である著作物と編集著作物全体とは独立して保護されるから(著作権法12条2項),乙8の1に「著作権者
財団法人D(全集編集者)」との記載があるからといって乙8の1の作成時にDが「A全集 全12巻」の素材である亡Aの各作品の著作権者として取り扱われていたことの根拠となるものではない。ましてや乙8の1から亡Bが乙8の1及び2が作成されるまでの間にDに対し亡Aの全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していた事実を認めることはできない。他に上記事実を認めるに足りる証拠はない。
イ かえって,①亡B及びDと講談社との間の昭和52年11月30日付け出版契約書(乙8の1及び2)が作成された後の平成7年6月1日付けで作成された,作品名を「観自在菩薩御図」(原画1971年作)とする亡Aの作品の複製版画の制作及び出版を許可する旨の株式会社東急百貨店日本橋店及び株式会社大月あての許可書(乙9の2)には,「著作権所有者」欄に亡Bの署名押印があり,「監修者」にDの記名押印があること,②亡Bの相続人である亡C及び控訴人X,D及び株式会社安川電機(以下「安川電機」という。)が作成した,亡Aの作品を使用したカレンダーの製作出版を安川電機に対し許諾する旨の平成10年3月21日付け著作権利用許諾約定書(乙10)には,亡C及び控訴人Xのみが著作権者として表示され,安川電機は,亡C及び控訴人Xに対しては著作権使用料を,Dに対しては監修・校正等の報酬を支払う旨の条項(5条)があることからすると,Dは,亡B及びDと講談社との間の上記出版契約書の作成後,亡Bの死亡の前後を通じて,亡B又はその相続人である亡C及び控訴人Xのみが亡Aの全作品の著作権者であり,自らは亡Aの全作品の著作権者ではないことを前提とした行動をとっていたことがうかがわれる。
ウ 以上のとおり,亡Bが乙8の1及び2が作成されるまでの間にDに対し亡Aの全作品の著作権の10分の7の共有持分権を譲渡していた事実を認めることはできないから,控訴人らの上記主張は,その前提を欠くものであり,理由がない。
2 争点2(控訴人らによる不法行為の成否)について
争点2についての判断は,次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第3の2記載のとおりであるから,これを引用する。
[原判決]
2 争点2(被告らによる不法行為の成否)について
前記前提事実によれば,被告会社は,平成14年8月7日に凸版印刷との間で本件許諾契約を締結して,同社に対して本件製作物等に本件作品を使用することを許諾する本件許諾をし,同社は本件許諾に基づいて本件複製行為をしたことが認められる。前記認定の事実によれば,本件作品の著作権について,原告と被告乙がそれぞれ2分の1の共有持分権を有しているのであるから,その行使は原告と被告乙の合意によることを要するところ(著作権法65条2項),本件許諾に関してかかる合意がされたことを認めるに足りる証拠はないから,被告会社が本件許諾を行う権原を有していたとはいえず,これに基づく本件複製行為により原告の本件著作権の共有持分権が侵害されたと認められる。
そして,他人が著作権を有する著作物について利用許諾をする場合,誰が著作権者であるかを十分に調査すべきであるところ,証拠によれば,本件作品の著作権が原告と被告乙との共有であることは,被告乙が当時被告会社の取締役を務めていたことからしても,これを容易に知り得たといえるのに,被告会社はDがこの件を掌握しているなどと軽信して本件許諾をしたと認められるから,被告会社には,凸版印刷に本件複製行為をさせたことについて過失がある。
また,前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,Dの理事長を務めていた被告乙は,本件作品の著作権が原告と被告乙との共有であることを認識しながら,原告に同意を得ることなく,被告会社が凸版印刷との間で【本件許諾契約を締結】することを承諾し,Dは,平成14年12月30日に被告会社から「作品使用料及び監修料」として630万円の支払を受けたことが認められるから,被告乙にも,本件複製行為をさせたことについて少なくとも過失がある。被告らは,被告乙は本件許諾契約とは無関係であるなどと主張するが,被告乙が本件許諾契約を締結した被告会社の取締役であったことや,同人が本件許諾契約の締結を承諾しこれに基づく金員を受領したDの理事長を当時務めていたことからして,被告らの上記主張は採用することができない。
したがって,被告らには,原告に対する共同不法行為が成立する。
3 争点3(被控訴人の損害額)について
争点3についての判断は,次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第3の3記載のとおりであるから,これを引用する。
[原判決]
3 争点3(原告の損害額)について
【(1) 著作権法114条3項に基づく損害額について
著作権法114条3項によれば,被控訴人は,本件著作権(複製権)の共有持分権を侵害した控訴人らに対し,「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(使用料相当額)を自己が受けた損害額として,その賠償を請求することができる。そこで,本件著作権の使用料相当額について判断する。
ア(ア) 前記前提事実と証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(略)
ウ 以上を前提に検討するに,①控訴人会社は,凸版印刷から本件覚書に基づく「本件作品の使用の対価」として2520万円の支払を受け,上記2520万円には,亡Aの著作物である本件作品の利用許諾料,本件原稿の使用料,本件作品の解説及び本件製作物等についての監修料を含む凸版印刷が本件覚書に基づいて本件作品の使用等に関して支払うべき一切の対価ないし報酬が含まれているが,上記2520万円のうち,本件作品の利用許諾料に相当する部分がいくらとして支払われたのかは証拠上明らかとはいえないこと,②一方で,控訴人会社が本件原稿の作成,本件作品の解説の作成又は本件製作物等の監修のために必要とした費用の具体的な額を認めるに足りる証拠はないこと,③亡Aは,世界的に著名な芸術家であり,その作品には高い価値があると評価されていたこと,④本件作品の利用態様は,B4版用紙の表全面に複製された本件作品のうちの1点が,裏面に作品の題名と当該作品の数百字程度の解説がそれぞれ掲載されたもの全24枚から構成される本件製作物について毎月2点ずつ配布用封筒に入れて1年間にわたり全国の読売新聞の読者等に配布されたものであり,その配布部数は多数に及び,その配布地域は全国的規模であること,⑤亡Aの著作物を利用し,その利用許諾料を定めた例としては,本件作品の利用態様とは異なるが,被控訴人,G及び控訴人Xが本件管理合意をした後に,新学社らが亡Aの作品を使用してカレンダー,備忘録,暑中見舞い状,年賀状の製作出版を行うことを許諾した際に,新学社らの毎年の支払総額330万円のうち,270万円(約82%)を著作権使用料及び写真借用料,60万円(約18%)を監修料とした例があったこと,その他本件に現れた諸般の事情を総合考慮すると,本件において,被控訴人が,控訴人らによる本件著作権の共有持分権の侵害行為について,「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(使用料相当額)は,控訴人会社が凸版印刷から支払を受けた2520万円の80%相当額に被控訴人の本件著作権の共有持分割合2分の1を乗じた1008万円と認めるのが相当である。
エ これに対し控訴人らは,著作権の利用許諾料は,通常は作業対価の5%ないし10%であること,新学社らが亡Aの作品を使用してカレンダー,備忘録,暑中見舞い状,年賀状の製作出版を行うことを許諾した事例は本件作品の利用の対価の算定の根拠となるものではないなどと主張する。
しかしながら,亡Aの著作権の利用許諾料が,通常は作業対価の5%ないし10%であることを認めるに足りる証拠はない。
また,前記の事例における亡Aの作品の利用態様は,本件作品の利用態様とは異なるから,上記事例のみをもって,控訴人らによる被控訴人の本件著作権の共有持分権の侵害行為に対する使用料相当額を算定するに当たっての直接の基準とすることは適切とはいえないが,他に亡Aの著作物を利用し,その利用許諾料を定めた例の具体的な主張立証のない本件においては,上記事例を上記算定の考慮事情の一つとして斟酌することは差し支えないというべきである。
したがって,控訴人らの上記主張は採用することができない。
オ 以上によれば,被控訴人の著作権法114条3項に基づく損害額は,1008万円と認められる。
(2)
著作権法114条2項に基づく損害額について
控訴人らが本件複製行為により受けた利益の額が前記認定の1008万円を上回ることを認めるに足りる証拠はないから,被控訴人の著作権法114条2項に基づく損害額は,上記金額を上回ることはない。】
【(3) 遅延損害金の起算日について】
不法行為に基づく損害賠償債務は,なんらの催告を要することなく,損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきところ(最高裁昭和37年9月4日第三小法廷判決参照),本件における原告主張の損害の発生時期は,原告が主張する平成14年8月7日(本件許諾契約の締結日)ではなく,凸版印刷による本件複製行為がされた時というべきである。そして,本件複製行為がされた時期は必ずしも判然としないが,本件複製物が平成15年1月から12月までの間,毎月2点ずつ配布されたことからすると,遅くとも上記期間の各月末日までには本件作品のうち2点ずつの複製がされていたと解されるから,前記損害額を12分した金額(各月84万円)につき,各月末日から遅延損害金が発生すると認めるのが相当である。
4 争点4(消滅時効の成否)について
争点4についての判断は,次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」の第3の4記載のとおりであるから,これを引用する。
[原判決]
4 争点4(消滅時効完成の有無)について
(1)
被告らは,本件製作物が平成15年に配布された当時から原告は配布の事実を知っていたと主張するが,【読売新聞社が本件製作物を全国に多数配布したことをもって直ちに被控訴人がその事実を知っていたと認めることはできないし,また,被控訴人が平成14年7月から平成15年3月までフィラデルフィア美術館及びロサンゼルス郡美術館での百年記念展に赴いていたからといって本件製作物が配布された事実を当然知っていたということもできない。他にこれを】認めるに足りる証拠はないから,これを前提とする被告らの消滅時効完成の主張は理由がない。
【(2)ア 控訴人らは,控訴人らの代理人弁護士が,被控訴人の代理人弁護士に対し,平成21年11月24日に被控訴人が有する亡Cの遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権の侵害の有無に関する調査結果を書簡(甲6)で報告したことにより,被控訴人は,本件複製行為による被控訴人が有する本件著作権の共有持分権の侵害者が,読売新聞社のほか,控訴人会社及びD(代表者控訴人X)であることを知り得たから,上記書簡の受領の日の翌日(同月25日)から起算して3年の経過により,被控訴人の損害賠償請求権の消滅時効が完成した旨主張する。
イ 前記前提事実と証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(略)
ウ 前記イの認定事実によれば,被控訴人が,控訴人会社が凸版印刷との間で本件覚書に基づいて凸版印刷に対して本件作品の複製を許諾し,凸版印刷からその許諾料等として2520万円の支払を受けたことを知ったのは,平成23年1月24日,被控訴人の代理人弁護士が,被控訴人と凸版印刷間の同日付け合意書に基づいて,凸版印刷から,その旨の情報の開示を受けたことによるものと認められるから,被控訴人が本件複製行為による本件著作権の共有持分権侵害に係る「損害及び加害者を知った時」(民法724条)は,同日であるものと認められる。
これに対し控訴人らは,控訴人らの代理人弁護士が,控訴人らの代理人弁護士に対し,平成21年11月24日に被控訴人が有する亡Cの遺産である亡Aの全作品の著作権の共有持分権の侵害の有無に関する調査結果を同日付け書簡で報告したことにより,被控訴人は,本件複製行為による被控訴人が有する本件著作権の共有持分権の侵害者が,読売新聞社のほか,控訴人会社及びD(代表者控訴人X)であることを知り得たから,被控訴人は,上記「損害及び加害者を知った時」は,被控訴人の代理人弁護士が上記書簡を受領した日である旨主張する。
しかしながら,前記イ(イ)認定の上記書簡の記載内容及び同封された文書の各写しからは,控訴人会社と凸版印刷とが本件覚書を作成した事実及びその記載内容,控訴人会社が凸版印刷から本件作品の複製の許諾料等として2520万円の支払を受けたことを把握することはできないから,控訴人らの上記主張は,採用することができない。
(3)
したがって,控訴人らの消滅時効の主張は,いずれも理由がない。】
5 争点5(本件管理合意による被控訴人の損害賠償請求権の消滅の有無)について
争点5についての判断は,原判決「事実及び理由」の第3の5記載のとおりであるから,これを引用する。
[原判決]
5 争点5(本件管理合意による原告の損害賠償請求権の消滅の有無)について
被告乙は,原告の被告乙に対する損害賠償請求権は本件管理合意の成立により消滅したと主張するが,証拠によれば,本件管理合意は,被告乙と原告が,これを作成した平成22年8月31日以後における全作品の著作権の共有持分の管理等の一切をEに委託するもの(2条1項)に過ぎないと認められ,それ以前に生じた損害賠償請求権の帰趨について何らかの取決めをしたものとは認められないから,被告乙の上記主張は理由がない。