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著作権判例セレクション
【登録制度】著作権移転登録の法意(「受話器の象徴」にかかる著作権移転登録を認めた文化庁長官の行為に対して国賠償法1条1項に基づき損害賠償請求がなされた事例)
▶平成25年1月31日東京地方裁判所[平成23(ワ)40129]▶平成25年06月20日知的財産高等裁判所[平成25(ネ)10015]
第2 事案の概要
本件は,原告が,原告が著作権法(以下,単に「法」という。)77条1号の著作権の移転登録申請を行ったことにつき,文化庁長官の行為に違法があり,これにより損害を被ったと主張して,被告に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償として4105億5626万円の一部である1626万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年4月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
【(1) 平成15年10月14日,「著作物の題号」を「受話器の象徴」,「著作者」を「A」,「著作物の種類」を「美術の著作物」,「著作物の内容又は体様」を下記のとおりとする著作物について,同年9月11日にBからC及びDへの著作権(著作権法(以下「法」という。)27条及び28条に規定する権利を含む。)の譲渡があった旨の著作権の移転登録がされた(以下,この移転登録(著作権登録原簿の表示番号第19532号)に係る6点の図柄を「本件図柄」という。)。
記
「本著作物は「受話器の象徴」と題した六点からなるAが創作したアートであり,電話又は通信機器を主とする受話器のシンボルを表現したものである。『左手に受話器を持ち右手にペンを持っている』というイメージから話しやすい傾きと膨らみがこのデザインの基礎をなしている。受話器の形,種類は数多く想像できるが,本著作物は受話器としてのシンボルを目的としたため,最も分り易く,誰もがイメージしやすい形を表現した。」
(2)
その後,平成22年4月8日,本件図柄に係る著作物の著作権の持分2分の1全部について,同年2月12日にCからEへの譲渡があった旨の著作権の移転登録がされた。】
【(3)】原告は,【本件図柄に係る著作物について,】登録権利者及び登録義務者代理人として,平成22年3月26日,譲渡人Bから譲受人原告に対して同年3月17日に著作権(法27条及び28条に規定する権利を含む。)の持分2分の1の全部の譲渡があった旨の著作権の移転登録を申請し,平成23年10月28日,譲渡人Cから譲受人原告に対して平成22年6月12日に上記と同様の著作権の持分2分の1の全部の譲渡があった旨の著作権の移転登録を申請した。
文化庁長官は,前者につき平成22年4月8日付け,後者につき平成23年11月17日付けで登録を完了した(以下,これらを一括して「本件各登録」という。)。また,文化庁長官は,原告ないしはその代理人からの上記著作権登録原簿の謄本の交付申請に応じてきた。
【(4)】原告は,平成22年9月22日及び同年10月18日に,訴外三菱電機ビルテクノサービス株式会社ほか133の株式会社等を被告として,本件図柄の著作権(複製権及び翻案権)侵害を理由に,それぞれ1000万円の損害賠償を求める訴えを福岡地方裁判所に提起した(以下,これらを一括して「別訴」という。)。原告は,別訴のうち51社分については訴えを取り下げたが,福岡地方裁判所は,その余につき,本件図柄は著作物には当たらない,著作権登録原簿に登録されていることを根拠として本件図柄が著作物であるという原告の主張は採用することができない,などと判示して,原告の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
(略)
第3 当裁判所の判断
1 争点1(文化庁長官の行為が国家賠償法上違法であるか否か)について
(1)
原告は,原告が本件各登録申請を行った際,文化庁長官は,本件担当職員をして,原告に対し,本件各登録をしたからといって著作権の権利者という地位は保証されない等の説明をさせるべき職務上の法的義務を負っていたのに,これを怠った違法があると主張する。
【ア そこで検討するに,法は,著作権は著作物の創作によって発生し,著作権の発生に登録その他の方式の履行を要しないとする無方式主義を採用しており(法17条2項),著作権の発生を登録する制度は存在しない。
一方で,法は,著作権は,その全部又は一部を譲渡することができ(法61条1項),著作権の移転(相続その他の一般承継によるものを除く。)は,登録しなければ第三者に対抗することができないと規定し(法77条1号),著作権の移転を公示する登録制度を設けて,当事者の意思表示によって生じた著作権の譲渡(移転)について登録を第三者に対する対抗要件としている。そして,著作権の移転登録は,申請又は嘱託により,文化庁長官が著作権登録原簿に記載し,又は記録して行うものとし(法78条1項,著作権法施行令15条1項),登録の申請は,原則として登録権利者及び登録義務者が共同で(著作権法施行令16条ないし19条),著作物の題号,権利の表示,登録の原因及びその発生年月日,登録の目的等の所定の事項を記載した申請書を登録の原因を証する書面等の所定の添付資料とともに文化庁長官に提出して行わなければならないとしている(著作権法施行令20条,21条)。
文化庁長官は,①登録を申請した事項が登録すべきものでないとき,②申請書が方式に適合しないとき,③申請書に必要な資料を添付しないとき,④申請書に登録の原因を証する書面を添付した場合において,これが申請書に記載した事項と符合しないとき,⑤登録免許税を納付しないときなどの却下事由(著作権法施行令23条1項各号)の有無を審査し,却下事由が認められないときは,登録の申請の受付けの順序に従って著作権の移転登録を行うものとされているが(著作権法施行令22条),この却下事由には,移転登録の対象とされた著作権の客体が法2条1項1号の「著作物」に該当しないことは含まれていないから,文化庁長官の審査権は,上記「著作物」の該当性に及ぶものではない(なお,文化庁長官官房著作権課が平成23年6月に発行した「登録の手引き」には,「著作権の登録に関するQ&A」の「Q13
文化庁に登録されている著作物は,公的に認められた価値あるものなのでしょうか。」に対する「答」として,「A 著作権に関する登録の審査は,…登録の前提となる事実が行われているか否かを申請書等から形式的に審査するものであり,文化庁は登録されている著作物の内容には関知しておりません。との記載がある。)。
以上によれば,著作権の移転登録は,当事者の意思表示によって生じた著作権の権利変動を公示し,第三者に対する対抗要件となるものではあるが,移転登録の対象とされた著作権が発生していることや,その著作権の客体が法2条1項1号の「著作物」に該当することを公示すらするものでないことは,著作権の移転登録の制度上明らかであるから,文化庁長官は,著作権の移転登録申請があった際に,申請者に対し,その申請に係る登録がされたからといって著作権が発生するものではないとか,著作権の権利者という地位が保証されるものではないなどの説明を著作権の移転登録事務を担当する文化庁の担当職員(本件担当職員)にさせるべき職務上の法的義務を負うものとはいえないし,文化庁長官がかかる法的義務を負うものとする法令の定めや根拠はない。
したがって,文化庁長官がかかる法的義務を負うことを前提に,文化庁長官の行為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるとする控訴人の主張は,その前提を欠くものとして,理由がない。
イ この点に関し,控訴人は,当審において,文化庁長官が「著作物でないもの」や「著作物かどうか不明なもの」を登録しているという事実を認識しながら,登録申請の際に申請者から登録免許税を徴収し,著作権登録原簿に登録の記載をして登録行為を行うことは,法の目的に反し,信義則から派生する禁反言の原則にも反するものであるから,文化庁長官及び文化庁の担当職員は,信義則上,登録申請に係る著作物は「著作権法上の著作物にあらず」,「著作権の権利者という地位は保証されない」旨を説明すべき説明義務を負う旨主張する。
しかしながら,前記アのとおり,文化庁長官の審査権は,申請者が著作権の移転登録の対象として申請書に記載した著作権の客体が法2条1項1号の「著作物」に該当するかどうかには及ばないのであって,文化庁長官が著作権の移転登録を行う際に「著作物でないもの」や「著作物かどうか不明なもの」を登録しているという事実を認識しているものとはいえないから,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものとして,理由がない。】
(2)
原告は,文化庁長官の行為が違法であるとして,文化庁長官が著作物ではない本件図柄について著作権登録原簿に登録をした,文化庁長官が原告に告知,弁解,防御の機会を与えることなく原告の著作権を没収した,などと主張するが,原告の主張は,独自の見解に立つものであって,失当というほかない。
【(3) 控訴人は,法には,「著作物でないもの」や「著作物かどうか不明なもの」も登録できるという規定は一切存在しないから,「著作物ではないもの」や「著作物かどうか不明なもの」を登録している登録手続や著作権登録原簿の様式,記載方法等を規定した著作権法施行令及び著作権法施行規則は,無効となり,これらを制定した文部科学大臣の行為には,国家賠償法1条1項にいう違法がある旨主張する。
しかしながら,控訴人が挙げる理由によって著作権法施行令及び著作権施行規則の規定が無効であると認めることはできないから,控訴人の上記主張は,採用することができない。】
2 よって,原告の請求は,その余の点について検討するまでもなく,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
[控訴審同旨]