Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【登録制度】「登録の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者」に当たらないとした事例

▶平成120630日東京地方裁判所[平成11()3101]▶平成130712日東京高等裁判所[平成12()3758]
() 本件は、原告(JASRAC)が、「原告補助参加人B(以下「補助参加人」という。)は、同人が作曲した別紙楽曲目録記載の楽曲(以下「本件楽曲」という。)の著作権(以下「本件著作権」という。)を、原告に対して信託的に譲渡しており、原告は本件楽曲の著作権者であるところ、被告は、原告に無断で、本件楽曲を複製している。」と主張して、被告に対し、著作権侵害による損害賠償を求めた事案である。
(争いのない事実等)
〇 原告と補助参加人は、補助参加人が本件楽曲を作曲する前である平成311日、補助参加人が有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、信託財産として原告に移転し、原告は、補助参加人のためにその著作権を管理することを内容とする契約(「本件信託契約」)を締結した。
〇 被告は、本件楽曲を背景音楽とする別紙記載のビデオ(「本件ビデオ」)を制作し、これらを複製した。
〇 原告は、補助参加人から原告への、本件信託契約に基づく、本件著作権の移転につき、著作権登録原簿への登録をしていない。

2 前記のとおり、本件著作権については、著作権登録原簿への登録がされていないところ、本件信託契約による本件著作権の原告への移転は、右登録がなければ、第三者に対抗することができず、右第三者とは、登録の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者をいうと解するのが相当である。
三1 前記によると、本件楽曲は、本件ビデオの背景音楽として使用するために、被告が補助参加人に依頼したものであること、右依頼の前後において、補助参加人は、本件支払金のほかに、本件ビデオの複製本数に応じた複製許諾料の支払を求める意思を表示しておらず、C、D及びEのいずれも、補助参加人に対し、右複製許諾料の支払を行う旨を表示していなかった上、補助参加人は、被告に対して、自己の著作権が本件信託契約に基づいて原告に移転していることを何ら告げていないこと、補助参加人は、他人が作曲した背景音楽を使用したビデオが発売された後になって、初めて、被告に対して、本件楽曲の複製許諾料の請求を行っていること、以上の事実が認められ、これらの事実に前記で認定したその余の事実を総合すると、補助参加人と被告との間において、本件支払金は、本件ビデオの複製許諾料を含むものとして合意されたと認めるのが相当である。
()
4 そうすると、被告は、本件楽曲の作曲者である補助参加人から、本件楽曲を本件ビデオの背景音楽として複製して使用することについて許諾を受けた者であるから、本件著作権の移転に関する、原告の著作権登録原簿への登録の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者であるというべきである。
四 結論
以上の次第であるから、補助参加人から原告への本件信託契約に基づく本件著作権の移転につき、著作権登録原簿への登録をしていない原告は、右登録の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者である被告に対して、本件著作権に基づく本訴請求を行うことは許されない。

[控訴審※原審と判断が分かれた]
2 補助参加人の被控訴人に対する本件楽曲の複製許諾の有無について
(1) 控訴人及び補助参加人は,補助参加人が,被控訴人に対し,本件楽曲の複製許諾をした事実はない旨主張する。
前記1で認定したとおり,補助参加人は,被控訴人に対して,本件楽曲につき,本件支払金のほかに,本件ビデオの複製本数に応じた複製許諾料の支払を求める意思表示を明示的にはしておらず,被控訴人も,補助参加人に対し,上記複製許諾料の支払を行う旨の意思表示を明示的にはしていない。しかし,同時に,補助参加人は,被控訴人に対して,本件支払金のほかに上記複製許諾料の支払を求めない旨の意思表示を明示的にはしておらず,被控訴人も,補助参加人に対し,本件支払金の支払は上記複製許諾に対する対価をも含むものである旨の意思表示を明示的にはしていないことも,弁論の全趣旨で明らかである。
したがって,本件において次の問題となるのは,本件楽曲につき,補助参加人が,被控訴人に対し,本件支払金以外の対価を支払うことなく複製することを許諾する旨の黙示の意思表示をしたと認めることができるかどうか,すなわち,上記のように,この点についての明示の意思表示のない状態の下で,それにもかかわらず明示の意思表示があったのと同様に扱うべきであると評価することを正当化する事情があったかどうか,ということである。
(2) 当事者間に争いのない事実,前記認定事実及び証拠を総合すると,次の事実が認められる。
()
上記認定によれば,補助参加人は,控訴人の会員となってからは,自らの作曲に係る,本件楽曲を含む多数の作品の作品届を控訴人に提出し,現に,これに基づき,本件楽曲の場合と同様の場合につき控訴人から複製許諾料の分配を受けた例もあることになる。被控訴人が補助参加人の黙示の意思表示により,本件支払金以外の対価を支払うことなく複製許諾を得たとするためには,上記事実の下でもなお,補助参加人が上記複製許諾の意思表示を明示的にしたのと同様に扱うことを正当化するに足る事情が認められなければならないことになるのである。
(3) そこで,本件において,このような事情が認められるか否かについて検討する。
()
(4) 以上述べたところによれば,結局のところ,補助参加人が,被控訴人に対し,本件支払金以外の対価を支払うことなく本件楽曲を複製することを許諾した,と積極的に認めることはできないのである。
3 付言するに,本件紛争の根本の原因は,補助参加人と被控訴人との間で複製許諾に関する明確な意思表示ないし合意がされなかったことに求められる。補助参加人が,作曲の依頼を受けるに当たって,被控訴人に対し,自分が控訴人の会員であること,被控訴人は控訴人に対して複製許諾料を支払う必要があることを明示していれば,このような紛争は避けられたということができ,その意味では,補助参加人にも本件紛争を発生させたことについての責任の一端はあるというべきである。特に,本件楽曲は,ビデオ製作用のものとして,多数複製されることが当初から予定されていたものであることを考えると,なおさらである。
しかしながら,同じことは,被控訴人についてもいえることである。
甲第14号証,原審における被告(被控訴人)代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は控訴人の存在を以前からよく知っていたこと,被控訴人と控訴人の間で,過去にもビデオの背景音楽の複製許諾料の支払をめぐって紛争があったことが認められるから,被控訴人において,このような不利益を避けるため,作曲の依頼に当たり,補助参加人に対し,控訴人との契約の有無や複製許諾の意思の有無を明らかにする等の紛争防止の措置をとることは十分に可能であったということができる。特に,被控訴人と補助参加人との力関係において被控訴人の方が優位にあること(被控訴人の自認するところである。)を考慮に入れると,このことはより一層強くいうことができる。したがって,上記の結論を,被控訴人にとって酷なものとすることはできない。
4 以上によれば,被控訴人が本件楽曲の複製許諾を得ていたとは認められず,被控訴人は,本件信託契約に基づく,補助参加人から控訴人への本件著作権の移転についての著作権登録原簿への登録の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者には当たらないものというべきである。そうすると,被控訴人は,本件楽曲につき,控訴人の複製許諾を得るべきであったのに,少なくとも過失により許諾を得ないまま複製行為をしたことになり,控訴人に対し,著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償の責任を負う。
(以下略)