Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【著作権侵害総論】依拠性が争点の1つになった事例
▶平成17年05月17日東京地方裁判所[平成15(ワ)12551]▶平成18年3月15日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10095等]
2 争点(2)ア(依拠性)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(略)
(2) 既存の著作物の表現内容を認識し,それを自己の作品に利用する意思を有しながら,既存の著作物と同一性のある作品を作成した場合は,既存の著作物に依拠したものとして複製権侵害が成立するというべきであり,この理は,翻案権侵害についても同様である。
そして,被告各文献は,いずれも原告各文献が出版された後に出版されているが,特に,被告文献1は,原告文献1の出版から約4か月後,被告文献3は,原告文献3の出版から約6か月後という極めて近接した日にそれぞれ出版され,また,原告文献2の1は相当数販売されたものであって,被告a及び被告bはこれに接する機会があったこと,現に被告bは,原告各文献を知っていたこと,被告各文献は,それぞれ対応する原告各文献と,基本的な概念及び構成,章立ての順序,各章の内容,さらに記載されている内容も類似している箇所が多いこと,後記認定のとおり,被告各文献の中には,そこに記述されている順序及び構成で表現される必然性のない文章等について,原告各文献の各対応部分とほぼ同一の表現がされている部分があること,以上の事実を総合すれば,被告文献1は原告文献1に,被告文献2は原告文献2の1及び2の2に,被告文献3は原告文献3に,それぞれ依拠して執筆されたことは明らかである。上記認定に反する(証拠)及び被告会社代表者尋問の結果は,信用することができない。
[控訴審]
2 依拠性について
(1)
当裁判所も,被控訴人文献1は控訴人文献1に,被控訴人文献2は控訴人文献2の1及び2の2に,被控訴人文献3は控訴人文献3に,それぞれ依拠して執筆されたと認められるものと判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決において説示するとおりであるから,これを引用する。
(2)
被控訴人らは,控訴人各文献と被控訴人各文献の読者層,著作の目的等がほとんど同一であるために,基本的な構成等が類似しているものにすぎないと主張する。
しかし,両文献を子細に比較すると,単に読者層や著作の目的・性格が同一であるというだけでは説明し難いほどに構成,文章等が酷似しており,執筆者が異なれば通常は多少の相違が生じるのが自然であると思われる部分についても共通していることが認められる。その詳細は,以下のとおりである。
(略)
(3)
被控訴人らは,控訴人各文献と被控訴人各文献の出版時期の近接性は,依拠性を認定する根拠とはなり得ないと主張する。
確かに,被控訴人らの主張する被控訴人各文献の「原稿執筆依頼日ないし執筆着手日」を前提とすれば,被控訴人文献1及び3に関しては,控訴人文献1及び3の発行日よりも前に執筆に着手したこととなる(なお,被控訴人文献2に関しては,控訴人文献2の1及び2の2の発行日より7~11年後に発行されている。)。
しかし,現実に被控訴人らの主張する日に被控訴人各文献の執筆に着手したことを裏付ける証拠はなく,控訴人文献1及び3の発行日よりも前に執筆に着手したことを裏付ける証拠もない。
また,控訴人文献1及び3の発行日と,被控訴人らの主張する被控訴人文献1及び3の「脱稿日」とを比較すると,控訴人文献1の発行日が平成14年7月25日であるのに対し,被控訴人文献1の脱稿日は同年9月中旬であり,控訴人文献3の発行日が平成14年7月25日であるのに対し,被控訴人文献3の脱稿日は同年11月中旬である。したがって,控訴人文献1及び3が発行されてから被控訴人文献1及び3の脱稿日までには約2か月以上の期間があるのであり,もし被控訴人文献1及び3が控訴人文献1及び3に依拠して執筆されたのであるとすれば,執筆するのに十分可能な期間が存在したといえる。
したがって,被控訴人らの前記主張は,採用することができない。