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著作権判例セレクション

【確認の訴え】 船舶情報管理システムにつき、「原告が著作権を有することを確認」及び「原告の開発寄与分がどれほどの割合かの確認」が求められた事例

▶平成200722日大阪地方裁判所[平成19()11502]▶平成230315日知的財産高等裁判所[平成20()10064]
() 本件における原告の「請求の趣旨」は次のとおりである:
(1) 原告が別紙著作権目録記載の「船舶情報管理システム」について著作権を有することを確認する。
(2) 前項の「船舶情報管理システム」に対する原告の開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める。

1 はじめに
まず,被告は,被告が現在使用中の「船舶情報管理システム」なる著作物は原告が開発したものではなく,原告の開発したものは被告には存在しない旨主張する。被告の上記主張の趣旨は,原告が本件確認訴訟の対象とする「船舶情報管理システム」(以下「本件システム」という。)は,それが存在するとしても,被告とは何らかかわりのない著作物として存在するものであり,同著作物については原告と被告との間に何らその著作権の帰属について争いはないというものと解される(この主張を以下「第1の被告主張」という。)ところ,仮に,第1の被告主張のとおりであるとすれば,原告の請求の趣旨第1項の訴えは訴えの利益(確認の利益)を欠くもので不適法であり,却下すべきものである。
また,被告は,仮に原告主張の「船舶情報管理システム」なる著作物が原告が開発したものとして存在するとしても,同著作物は,著作権法15条2項の職務著作に係る著作物であり,原告が著作権を有するものではないとも主張している(この主張を以下「第2の被告主張」という。)。仮に第2の被告主張が認められるとすれば,それだけで原告の請求の趣旨第1項に係る請求は理由がないものに帰し,棄却を免れないことになる。
このように,原告の請求の趣旨第1項に係る請求を認容するためには,第1の被告主張及び第2の被告主張のいずれをも排斥する必要があるのに対し,上記各主張のいずれか一つでも理由があるものとすれば,原告の上記訴えないし請求は却下又は棄却を免れないのである。したがって,裁判所としては,第1の被告主張又は第2の被告主張のいずれかを判断し,そのいずれかを採用すべきものと判断すれば,原告の上記訴えを却下すべきである又は上記請求を棄却すべきであるという結論に至るのであるから,当裁判所は,第1の被告主張についての判断に先立って,第2の被告主張について判断することとする。
この点について,原告は,まず,第1の被告主張について審理判断をし,第2の被告主張は第1の被告主張が排斥されて初めて審理判断すべきであると主張する。しかし,まず,訴訟要件の審理と本案訴訟の審理との先後関係については,特に前者を先行させる必要性はない。また,確かに,訴訟要件の存否が不確定なのに,その点の審理をしないで請求棄却の本案判決をすることは,原則として許されないというべきであるが,本件のような訴えの利益(確認の利益)については,本案の主張と重複する点が少なくなく,また,公益的要請のある他の訴訟要件とは異なるものであるから,訴訟要件の判断をせず,請求棄却の判決をすることも許されると解するのが相当である。したがって,被告の上記両主張の判断順序に制約があると解すべき根拠はない。
そこで,当裁判所は,第1の被告主張についての判断に先立って,第2の被告主張について判断することとする。
2 本件システムの著作物性について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件システムは,新造船受注システム,塗装仕様発行システム,成績管理システム,修繕船入渠管理システム,チェック項目検索システム,入渠予定リスト,その他データベースを支える船舶,塗料,塗装,船主,造船所,成績管理等マスタープログラム類からなるものであること,このうち,新造船受注システムは,新造船の建造計画情報からコンピュータ入力を行い,他社を含めた受注活動状況,建造スケジュール表,塗料メーカーが決まっていない船,決まった船(塗装部分を含め)の必要情報を任意に取り出るようにしたシステムであり,これにより,被告の新造船用塗料受注活動,管理を行うものであること,塗装仕様発行システムは,コンピュータから最適塗装仕様を前回塗装仕様と対比させて発行し,塗装された塗料の適否,これからの製品開発に役立てるシステムであって,新造船塗装仕様書発行システムと修繕船塗装仕様書発行システムとからなるものであること,成績管理システムは,いつどのような塗料が,どのように,どれだけ塗られ,その成績がどんなものかを正しく判断する基準をシステム化し,コンピュータに入力し,必要なデータをいつでも取り出すようにしたシステムであること,修繕船入渠管理システムは,修繕船が次回入渠する時期と場所,使用塗料予定量,売上数量と金額概算,その見積書の発行,代理店別・月別,年別販売予測と結果,担当者別各種データの把握,成績及び履歴,クレームとその内容,クレーム履歴,修繕船に関する必要データをタイムリーに取り出すことのできるシステムであること,チェック項目検索システムは,入力された船名,船種,トン数,速度,航路,稼働率,船会社,船主グループ,建造造船所名,入渠造船所名,引渡し年月日,前回,今回,次回入渠年月日,売船先船会社,売船先船名,新造船時塗装塗料名,前回,今回塗装塗料名,塗装時の下地処理,膜厚,塗装系,塗装仕様No,さび,ふくれ,はがれなど塗膜の損傷状態,フジツボ,アオサなど海生動物の付着状態などコンピュータに入力されたデータすべてを必要なデータに加工し,取り出すことのできる検索システムであること,入渠予定リストは,受注活動,ユーザー管理,他社製品攻略,クレーム対応などに活用することを目的として,造船所に入渠する船舶の予定を年月別,造船所別,担当店所別,船主別,船種別,塗料メーカー別,塗料タイプコード別にどの組み合わせても出力できるようにしたシステムであることが認められる。
以上によれば,本件システムは,そのプログラムの構成の詳細は明らかでないものの,船名,船種を始めとする船舶塗装に関する種々の情報を単独で,また,各情報を組み合わせた情報を随時任意に検索し,取り出せるようにしたものであって,電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合せたものとして表現したものをいうことができ,プログラムの著作物と評価することができるものというべきである(著作権法2条1項10号の2,10条1項9号 。)
3 本件システムは職務著作に係る著作物であるかについて
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そうすると,本件システムは,著作権法15条2項のいわゆる職務著作に当たり,その著作者は信友ないし中国塗料技研であるということができる。
原告は,本件システムを実際に作成したものであるにしても,その著作者にはなり得ないものである。上記説示に反する原告の主張は採用できない。
したがって,仮に,原告に最大限に有利に,本件システムが原告の著作に係るものと認めるとしても,原告がその著作権を有するとはいえず,本件システムについて原告が著作権を有することの確認を求める原告の請求の趣旨第1項の請求は理由がないことに帰する。
4 本件船舶情報管理システムに対する原告の開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める訴えについて
次に,請求の趣旨第2項の請求について検討する。原告が請求の趣旨第2項で確認の対象としているのは,本件システムに対する原告の開発寄与分がどれほどの割合であるかということであり,要するに,原告の本件システムの開発について過去から現在に至るまでどの程度の寄与をしたかという過去の事実を数量的割合の形で確認するよう求めたものと解される。
民事訴訟は,法律上の争訟を解決することを目的とするものであるから,民事訴訟の1類型である確認訴訟の対象となるのは,原則として争いのある現在の権利又は法律関係に限定され,単なる過去の事実の存否は,確認訴訟の対象とはなり得ないものというべきである。もっとも,過去の事実が現在の複数の権利又は法律関係の成否の前提となっており,その事実を確定することがこれら現在の権利又は法律関係を巡る紛争を抜本的に解決することができるような場合には,例外的にこれを確認訴訟の対象となし得るものと解される場合がある(たとえば,証書真否確認訴訟等)。
しかし,本件システムに対する原告の開発寄与分がどれほどの割合であるかという過去の事実が現在の複数の権利又は法律関係の成否の前提となっているものということはできず,その事実を判決をもって確認することにより他の権利又は法律関係を巡る紛争が抜本的に解決され得るという関係に立っているとはいえない。なお,原告の上記訴えは,実質的には,原告が本件システムの著作権についてどの程度の共有持分を有しているかという確認を求める趣旨であると解されるが,それは,結局のところ,原告の請求の趣旨第1項の請求に包含されるというべきである(同請求は本件システムの著作権がすべて原告に属することの確認を求めるものであるが,そのすべてが原告に属するものではないとしても,その一部が原告に属するものであれば,同請求を一部認容して,原告が本件システムについて一定割合の著作権の共有持分を有することを確認する旨の判決をすることは何ら妨げられない。)から,この観点からしても,同訴えは確認の利益を欠くものというべきである。
そうすると,原告の本件訴えのうち,本件システムに対する原告の開発寄与分がどれほどの割合であるかの確認を求める部分は不適法であり,却下を免れない。

[控訴審]
1 控訴人が本件システムについてその著作権の確認を求める請求に関する判断は,次のとおり加えるほかは,原判決記載のとおりであり,本件システムは,職務著作(著作権法15条2項)に該当し,その著作者は信友又は中国塗料技研であると認められるから,控訴人が作成した部分があるとしても,その著作権を有するものではない。
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3 控訴人が本件システムに対する開発寄与分がどれほどの割合かの確認を求める訴えについて判断するに,この割合自体が現在の権利又は法律関係となるものではなく,単なる事実関係の範疇に属するものであり,その事実関係から直截に現在の権利又は法律関係が導かれ,紛争を抜本的に解決するような事実関係ということもできないので,この訴えは,確認の利益を欠くものといわなければならない。
よって,上記訴えは,不適法であって却下を免れない。
第5 結論
以上によれば,控訴人の著作権の確認を求める主位的請求は理由がなく,これを棄却した原判決は相当であり,また,本件システムについての開発寄与分の割合の確認を求める請求は訴えの利益がなく,これを却下した原判決は相当であるから,本件控訴は理由がないのでこれを棄却する。併せて,当審における予備的請求も理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。