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著作権判例セレクション

【写真著作物】写真と文字,図形等を組み合わせた画像の著作物性が問題となった事例

▶令和元年103日大阪地方裁判所[平成30()5427]▶令和21028日知的財産高等裁判所[令和1()10071]
() 本件は,被控訴人Pの委託を受けて,「1risekabu.com」ドメインのウェブサイト(「原告制作ウェブサイト」)を制作した控訴人が,被控訴人P及びその取締役である被控訴人Y1,同取締役であった被控訴人Y2,被控訴人I及びその取締役である被控訴人Y3に対し,被控訴人らが別紙記載のウェブサイト(「risekaubu.com」ドメインのウェブサイト。以下「被告ウェブサイト」)及び同記載のウェブサイト(「plusone.socialcast.jp」ドメインのウェブサイト。以下「本件動画ウェブサイト」)を制作して公開した行為が,控訴人が保有する原告制作ウェブサイトに係る著作物(イラスト,URL名,タイトル名,写真,プログラム等)の著作権(複製権,翻案権及び公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権及び同一性保持権)の侵害並びに一般不法行為に当たるなどと主張して,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告ウェブサイト及び本件動画ウェブサイトの各ウェブページの複製等の差止め及び削除を,民法709条,719条又は会社法429条1項に基づく損害賠償等の金員(控訴人と被控訴人P間の原告制作ウェブサイト等に関する制作・保守業務委託契約(「本件保守業務委託契約」)に基づく未払報酬金及び違約金を含む。)などのの連帯支払を求めた事案である。
原審は,①原告制作ウェブサイトに係る著作物の著作権は全て被控訴人Pに帰属し,また,仮にその一部につき控訴人が著作権を有するとしても,控訴人がその著作権を行使することは権利の濫用に当たる,②本件動画ウェブサイトと原告制作ウェブサイト及び被告ウェブサイトとは,内容も形式も全く異なるから,本件動画ウェブサイトの制作が控訴人の著作権侵害となる余地はない,③控訴人主張の本件保守業務委託契約に基づく未払報酬及び違約金は認められないなどと判断し,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。

3 争点1(ウェブページに係る差止請求の可否)について
()
⑷ 小括
以上のとおり,本件プログラム,本件データベース及び原告制作ウェブサイトに係る表示等は,いずれも著作物に該当することを認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の被告ウェブサイト,本件動画ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトに係る各ウェブページの複製等の差止等請求は,理由がない。
4 争点2(プログラムデータに係る差止等請求の可否)(当審における追加請求)について
(1) 争点2-1(本件各データの著作物性)
控訴人は,本件各データは,プログラムの著作物である本件プログラムの一部を構成するものであるから,プログラムの著作物として保護される旨主張する。
しかしながら,本件データ1,2,6及び7は,IDやアカウント等の記号の羅列にすぎないデータであり,控訴人の思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
また,本件データ3ないし5については,どのような表現が創作性を有するのかについて,控訴人は具体的な主張立証をしていない。
さらに,本件プログラムが著作物に該当するものと認めることはできないことは,前記3⑴で説示したとおりである。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
⑵ 小括
以上のとおり,本件各データが著作物に該当することを認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本件各データの複製等の差止等請求は,理由がない。
5 争点3(ユーザーデータに係る差止等請求の可否)(当審における追加請求)について
(1) 争点3-1(本件会員情報の著作物性)
控訴人は,本件会員情報は,本件データベースに格納された本件プログラムと協働するデータであるから,本件プログラムの著作物の一部として,著作権法で保護される旨主張する。
しかしながら,本件会員情報は,人の属性等を示すデータにすぎず,単にプログラムが処理の対象とするデータにすぎないから,プログラムの著作物であると認めることはできない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
⑵ 小括
以上のとおり,本件会員情報が著作物に該当することを認めることができないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本件会員情報のデータの複製等の差止等請求は,理由がない。
6 争点4(画像データに係る差止請求の可否)(当審における追加請求)について
⑴ 争点4-1(本件各画像の著作物性)について
ア 写真は,被写体の選択,組合せ,配置,陰影若しくは色彩の配合,構図若しくはトリミング,部分の強調若しくは省略,背景,カメラアングルの設定,シャッターチャンスの捕捉又はシャッタースピード若しくは絞りの選択等の諸要素を結合してなる表現であり,写真を写真の著作物として保護するためには,これら諸要素に撮影者の思想又は感情が創作的に表現され,その撮影者の個性が表されていることが必要であると解される。
また,写真と文字,図形等を組み合わせた画像を著作物として保護するためには,これと同様に,当該画像に作成者の個性が表されていることが必要であると解される。
イ 本件画像1
() 本件画像1は,研修会の会場において複数の参加者が展示物をのぞきこんでいる様子を撮影した写真の画像であり,会場における多数の参加者の動きある姿を後方から全体的に俯瞰するように撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像1は,会場全体が見渡せるように隅から撮影するという構図はありふれており,写っている来場者も雑多で特段の決定的瞬間を写し撮ったものではなく,セミナー風景を撮影する写真としては誰が撮影しても同じような写真となるありふれた表現物であり,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像1は,複数の参加者の特定の動きを捉えて撮影したものであり,単に雑多な参加者の姿を会場隅から撮影したというものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
ウ 本件画像2
() 本件画像2は,神戸国際会館の外観を撮影した写真の画像であり,丸みのある外観を有する大きなビルをその全体が俯瞰できるやや離れた位置からやや見上げるようにして上記ビルの形状や大きさが強調されるように撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当すると認められる。
() これに対し被控訴人らは,建物の外観全体が見渡せる交差点の斜め向かいから撮影するという構図はありふれたものであり,また,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもなく,被写体となる建物を撮影する写真としてはありふれた表現物であり,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像2は,建物の外観の特徴を強調するように撮影しているのであり,単に建物の外観をやや離れた位置から撮影したというものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
エ 本件画像3
() 本件画像3は,神戸国際会館のビル外壁上層に設置されているロゴ及び建物名を表す切り文字の銘板を撮影した写真の画像であり,下側から見上げられた当該ロゴ及び文字が左上から右下に向けて斜めになるような角度配置にして撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当すると認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像3は,単に建物を示す標識部分を通常の方法で撮影したものであり,写真中央部に同標識部分が収まっておりそれ以外の被写体もないという構図はありふれており,特筆すべき決定的瞬間を映したものでもないから,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像3は,一定の構図を念頭にして撮影しているものであり,単に標識を平面的に撮影したものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
オ 本件画像4
() 本件画像4は,神戸国際会館内部の案内板が設置されている付近の廊下を撮影した写真の画像であるが,天井の斜光を積極的に画面に取り入れながら曲線形の廊下の形状が奥行きをもって強調されるよう撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像4は,単に歩行可能な通路を歩行者の目線から撮影したものであり,その構図はありふれたもので,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもなく,撮影者の個性が表れているものではない旨主張する。
しかしながら,本件画像4は,特徴ある廊下の形状が強調されるように撮影した写真の画像であり,単に廊下の様子を撮影したものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
カ 本件画像5
() 本件画像5は,神戸国際会館近くの街路樹の中の花壇にあった置物を望遠でクローズアップして撮影した写真の画像であり,あたかも深い森の中で雌雄のカップルが逢引きをしている様子を覗くような構図となっている点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像5は,中央に置物を配置しこれをほぼ正面から写す構図はありふれたものであり,カメラワークに特段の工夫も見て取れず,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもなく,撮影者の個性が表れているものではない旨主張する。
しかしながら,本件画像5は,花壇の中にあった置物をそれとは全く異なる姿に構成した上で,撮影しており,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
キ 本件画像6
() 本件画像6は,会議室で研修を受けている出席者の姿を撮影した写真の画像であり,意図的に極端にピントをぼかしてホワイトオーバーをさせるなど通常と異なる撮影をしている点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像6は,教室全体が見渡せる会場の隅から全体を撮影する構図は,セミナー風景を撮影するものとしてはありふれており,ぼかしの加工も写真の加工方法としては一般的であり,しかも,ぼかしに強弱がつけられているものではなく全体が均一にぼかされているにすぎず,また,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもなく,撮影者の個性が表れているものではない旨主張する。
しかしながら,本件画像6のピントのぼかし方はかなり極端なものであり,単にぼかし加工を加えたものとはいえず,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
ク 本件画像7
() 本件画像7は,ぼやけた複数の人様の姿を背景にして,「なぜ今,株を学ぶことが必要とされているのか。」との文字と,緑色の長方形の枠の中に,金色の勲章を模した図形,「13,000名が受講した」の文字,赤字の四角形を下地とした「無」「料」「株式セミナー」との白抜きの文字,橙色の長方形を下地とした「お申込みはこちら」との白抜きの文字及び黄色の早送りを示す記号並びに「福岡・広島・神戸・大阪・名古屋・横浜・東京で開催!」のとの白抜きの文字を重ね合わせた画像である。
しかるところ,上記案内文は広告宣伝文として特徴のないものであり,文字の字体及び図形のデザインやそれらの配置・配色のいずれもありふれたものである。
また,背景とされている写真は撮影対象を明瞭に認識することもできないものであるから,特段の思想又は感情を感得させるものではない。
そうすると,本件画像7に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像7は著作物に該当すると認めることはできない。
() これに対し控訴人は,本件画像7の白飛びしている部分は,文字情報が明瞭となり的確に情報伝達できることから,その部分にセミナーの案内の見出しを制作した旨主張するが,そのような制作方法はありふれたものであり,そのような方法をとったことで本件画像7に創作性が生じるとする余地はない。
控訴人の上記主張は,採用することができない。
ケ 本件画像8
() 本件画像8は,会議室で研修を受けている出席者の姿を後方から撮影した写真の画像であり,遠近感を強調して会場の奥方向に視点が向くように撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像8は,会場全体が見渡せるように会場後部から撮影するという構図はありふれており,写っている来場者も一様に聴講し特段の決定的瞬間を写し撮ったものではなく,通常,このようなセミナー風景を撮影する写真としては誰が撮影しても同じようなものとなるありふれた表現物であるから,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像8は,遠近感が強調されるようにして会場を撮影しているのであり,単に会場後部から会場の様子を撮影したものとはいえず,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
コ 本件画像9
() 本件画像9は,会議室にて研修を受けている出席者の姿を後方から撮影した写真の画像の上に,黒色の「無料株式セミナー開催決定!!」の文字,緑色の「参加者募集中」の文字及び黄色の線の上に書された黒色の「目からウロコの株式投資のコツを伝授!」との文字を重ね合わせた画像である。
しかるところ,上記案内文は広告宣伝文として特徴のないものであり,文字の字体及び図形のデザインやそれら配置・配色のいずれもありふれたものである。
また,背景とされている画像は,本件画像8の下半分を薄くぼかしているにすぎず,これにより本件画像8に新たな創作部分が付加されたものとはいえない。
そうすると,本件画像9に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像9は著作物に該当すると認めることはできない。
() これに対し控訴人は,本件画像9は,背景画像を半透明の白マットで覆うことで画像の情報を減らし,株式セミナーのキャッチコピーの視認性が高まるようにし,「目からウロコの株式投資のコツを伝授!」には,黄色マーカーを下線として加えてキャッチコピーと背景画像の相乗効果を出すようにした旨主張する。
しかしながら,文字部分の視認性を高めるために背景をぼかしたり,下線を付したりすることは特段の創意を要することではないから,それによって本件画像9に新たな創作的部分が付加されたとはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
サ 本件画像10
() 本件画像10は,ゴルフ場内の風景を撮影した写真の画像であり,樹木や芝生の緑色が強調される一方で青空が白色に近くなるよう撮影して点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像10は,風景全体を展望地から写す構図はありふれたものであり,カメラワークに特段の工夫も見て取れず,また,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもないから,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像10は,芝生等の緑を強調し青空を白色に近くなるよう撮影しているのであり,単に風景をそのまま撮影したものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
シ 本件画像11
() 本件画像11は,本件画像10の上に白色の「コミュニケーション活動」との文字を重ね合わせたものであるが,上記文字の字体や装飾・色彩には特徴はなく,この文字部分に創作性があるとは認められない。また,背景とされている本件画像10は本件画像の上側と下側をトリミングしたものであり,これにより本件画像10に新たな創作的部分が付加されたとはいえない。
そうすると,本件画像11に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像11は著作物に該当すると認めることはできない。
() これに対し控訴人は,本件画像11は,樹木部分だけを抜き出すようトリミング加工した旨主張するが,そのような制作方法はありふれたものであり,そのような方法をとったことで本件画像11に創作性が生じるとする余地はない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
ス 本件画像12
() 本件画像12は,控訴人が購入したイラストの上に,紺色の「スクール理念」,「株式投資の技術を習得し自分で投資先を選び,売買のタイミングまで判断できる自立した個人投資家の育成を行い,金融教育の普及とともに,各個人の人生の豊かさの実現を提案し続けます。」との文字を重ね合わせた画像である。
しかるところ,購入したイラストは控訴人の著作物ではない。また,上記文言は,株式投資の知識を教授する学校の設立理念としてごくありふれたものであり,上記文字の字体や色彩にも特徴がないから,この文字部分には創作性は認められず,これにより本件画像12に新たな創作部分が付加されたとはいえない。
そうすると,本件画像12に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像12は著作物に該当すると認めることはできない。
() これに対し控訴人は,本件画像12は,背景になじむように,スクール理念の文字の色に濃紺を用い,文字の輪郭にソフトエッジを採用し,透過度を60パーセントとすることで,徐々にエッジが衰退する表現にして文字の柔らかさを表現している旨主張するが,それらは,ありふれた手法にすぎず,そのような加工を加えたからといって,本件画像12に新たな創作的部分が付加されたとはいえない。
控訴人の上記主張は,採用することができない。
セ 本件画像13
() 本件画像13は,控訴人が購入した日本地図をドットで表したイラストの西日本部分について,その色彩を変え,そこに,緑色で「無料株式セミナー」との文字及び黒色の「福岡・広島・神戸・名古屋・横浜・東京で開催中!」との文字を加え,上記日本地図の東京,横浜,名古屋,神戸,広島,福岡に相当する部分のドットの色を地のドットとは異なる色にしたものである。
しかるところ,購入したイラストは控訴人の著作物ではない。また,上記文言は,広告宣伝文としありふれたものであり,上記文字の字体や色彩もありふれたものであるから,この文字部分に創作性はなく,さらに,開催地のドットの色を変えたことは本来的にこのイラストが想定しているデザイン変更を実現したにすぎないものであり,ありふれたものである。
そうすると,本件画像13は原画に新たな創作性が付加されたとはいえず,本件画像13に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像13は著作物に該当すると認めることはできない。
() これに対し,控訴人は,本件画像13は,「福岡」,「広島」,「神戸」,「名古屋」,「横浜」,「東京」に位置するドットをそれぞれ異なる色で表現し,「ライズ株式スクール」に緑を用いて「無料株式セミナー」の文字色を装飾し,背景は文字とドット調の日本地図を目立たせるために,明るめのパールオレンジ色を採用し,各地域名には偏った印象を持たれないように中立性をイメージできる黒文字単色で表現した旨主張するが,ごく普通の色彩を適宜に選んだというにすぎず,文字部分及び原画に新たな創作性が付加されたとはいえない。
控訴人の上記主張は,採用することができない。
ソ 本件画像14
() 本件画像14は,控訴人が購入した女性の写真に,緑色線の吹き出しを加え,その中に,紺色の「\」「株式投資で失敗したくない方へ」「/」,「あなたの」の文字,緑色の太くやや大きい「疑問や不安」の文字,紺色の「を,これまでの」の文字,緑色の太くやや大きい「受講生の皆さまの声」の文字,紺色の「の中から,ご紹介します!」との文字をはめた画像である。
しかるところ,購入した写真は控訴人の著作物ではない。また,上記文言は,受講生の体験等を紹介する文章の構成としてありふれたものであり,上記文字の字体や色彩にも特徴はないから,この文字部分に創作性はなく,受講生の体験等を紹介する文章の構成として受講生が発言する構成にとることもありふれている。
そうすると,本件画像14が元の写真に新たな創作性が付加されたものとはいえず,本件画像14に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像14は著作物に該当すると認めることはできない。
控訴人の上記主張は,採用することができない。
() これに対し控訴人は,女性の画像は適切なイメージを持つ女性として控訴人が選択し,顧客が,女性の目線で注意を引かれた後,左側の吹き出し内容を読んでもらえるようなデザインとレイアウトを行っており,吹き出し枠には,吹き出しからはみ出た部分の文字を置き,吹き出しに立体表現を取り入れた旨主張するが,いずれもありふれた手法であり,元の写真に新たな創作性を付加するようなものではない。
タ 本件画像15
() 本件画像15は,横浜駅近くのビル群を撮影した写真の画像であるが,近景に都市の水辺を配置し,遠景にビル群が立つ様子を撮影して水辺とビル群を対比させるよう撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当すると認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像15は,建物の外観全体が見渡せる川の対岸から撮影するという構図はありふれたものであり,また,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもなく,被写体となる建物を撮影する写真としてはありふれた表現物であるから,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像15は,水辺とビル群を近景と遠景に分けて配置するよう撮影しているのであり,単に川の対岸にある建物を撮影したものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
チ 本件画像16
() 本件画像16は,研修会の会場で掲示されていた資料(グラフ)を撮影した写真の画像であるが,掲示されている資料に対し,左側のごく近接した位置から右側に向け,画面中央にのみ焦点を合わせるようして,資料に立体感と奥行きが与えられるよう撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像16は,手書きのチャート図をほぼ画面いっぱいに撮影したものであり,いわば被写体を忠実に写し撮ったものに過ぎず,カメラワークに特段の工夫も見て取れず,また,特筆すべき決定的瞬間を写したものでもないから,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像16は,撮影方向や焦点を調整して資料に立体感と奥行きが生じるよう撮影したものであり,単に図面を平面的に撮影したものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
ツ 本件画像17
() 本件画像17は,控訴人が購入したピラミッド状のイラストの上3段分を抜き出し,3段目の色を黄色から黄緑色に変え,元のイラストにあったテキストを削除して,上の段から順に,赤地の段に紫色の「発展」及び黒色の「実践会」の文字,橙色の段に赤色の「応用」及び黒色の「RTC」の文字,黄緑色の段に緑色の「基礎」及び黒色の「初級・中級・上級」の文字をはめ込んだものである。上記文言は,階層又はカテゴリーを示すありふれた語句に被控訴人Pのクラス名を組み合わせたものにすぎず,それら文字に字体や配色もごく普通のものである。
そうすると,本件画像17が元の画像に新たな創作的部分が付加されたとはいえず,本件画像17に作成者の個性が表れていると認めることはできないから,本件画像17は著作物に該当すると認めることはできない。
() これに対し控訴人は,本件画像17は,伝えたいことを大きく3つのポイントに分けて説明すると相手に伝わりやすいという手法を応用して,「基礎」,「応用」又は「発展」の3つの区分と本件スクールのクラスとを対応させた旨主張するが,それ自体はアイディアであって表現にすぎず,また,具体的な表現をとしてもありきたりのものであるから,元の画像に新たな創作的部分を付加するものとはいえない。
控訴人の上記主張は,採用することができない。
テ 本件画像18
() 本件画像18は,会議室で研修を受けている出席者の姿を後方から撮影した写真の画像であるが,天井のスポットライトや凹凸ある壁も画面に取り込んで会場の奥行きを強調して撮影している点に撮影者の個性が表れているといえるから,著作物に該当するものと認められる。
() これに対し被控訴人らは,本件画像18は,会場全体が見渡せるように会場後部から撮影するという構図はありふれており,写っている来場者も一様に聴講し特段の決定的瞬間を写し撮ったものではなく,通常,このようなセミナー風景を撮影する写真としては誰が撮影しても同じようなものとなるありふれた表現物であるから,撮影者の個性が表れているとはいえない旨主張する。
しかしながら,本件画像18は,スタジオ風の会場の形状を取り込みながら会場の奥行きを強調して同所を撮影しているのであり,単に会場後部から会場の様子を撮影したものではなく,撮影者の個性が表れているといえるから,被控訴人らの上記主張は,採用することができない。
ト 小括
以上のとおり,本件各画像のうち,本件画像1から6,8,10,15,16及び18の11枚の画像については,著作物と認めることができる(以下,これらの画像を「本件画像著作物」という。)。
⑵ 争点4-2(本件各画像の著作権の帰属)について
()
ウ まとめ
以上によれば,本件画像著作物の著作権は控訴人に帰属するものと認められる。
⑶ 争点4-3(被控訴人らによる著作権(複製権,翻案権及び公衆送信権)の侵害の有無)について
証拠によれば,①被告ウェブサイトに本件画像著作物が掲載されていること,②旧被告ウェブサイトの「スクール会場案内」のページに本件画像2が,「横浜校」として本件画像15が,「神戸校」のページに本件画像2,3及び4が掲載されていることが認められる。
そして,被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトにおける本件画像著作物の上記掲載は,本件画像著作物の複製及び公衆送信に当たるものと認められる。また,被控訴人Pが上記掲載について控訴人の許諾を受けていないことは,前記⑵イ()認定のとおりである。
したがって,被控訴人Pによる上記掲載行為は,本件画像著作物の複製権及び公衆送信権の侵害行為に当たるもの認められる。
⑷ 争点4-4(被控訴人らによる著作者人格権(公表権及び氏名表示権)侵害の有無
ア 公表権侵害の有無について
控訴人は,被控訴人らが本件画像著作物に係る公表権を侵害した旨主張する。
しかしながら,本件画像著作物を含む本件各画像は原告制作ウェブサイトの素材として一般に公開されていたものであり,「著作物でまだ公表されていないもの」(著作権法18条1項)に該当しないから,控訴人の上記主張は理由がない。
イ 氏名表示権侵害の有無について
() 前記⑶の認定事実と証拠によれば,本件画像著作物は被告ウェブサイトに係るサーバに記録されており,被告ウェブサイトを閲覧するユーザーの端末の画像に表示されることによって公衆へ提供又は提示されるが,その際,控訴人の名称は表示されないこと,本件画像2,3,4及び15は,旧被告ウェブサイトに係るサーバーに記録されており,旧被告ウェブサイトを閲覧するユーザーの端末の画像に表示されることによって公衆へ提供又は提示されるが,その際,控訴人の名称は表示されないことが認められる。
() この点について被控訴人らは,被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトは,専ら宣伝広告を目的とした企業サイトであり,このようなウェブサイトにおいては著作者が表示されないことが一般的であり,著作者の氏名表示を省略しても,著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれはなく,かつ,公正な慣行に反するものではないから,氏名表示を省略できる(著作権法19条3項)旨主張する。
しかしながら,著作権を侵害する態様で著作物が公衆へ提供又は提示された場合には,当該著作物の著作者が創作者であることを主張する利益を害するものであり,又は,このような態様で著作物を利用するときに著作者名の表示を省略してよい慣行があるとは認められないと解されるところ,被控訴人Pによる被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトにおける本件画像著作物の掲載行為は複製権及び公衆送信権の侵害行為に当たるから,被控訴人らの上記主張は採用することはできない。
() 以上によれば,被控訴人Pによる被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトにおける本件画像著作物の掲載行為は,控訴人が本件画像著作物について有する氏名表示権侵害に当たるものと認められる。
⑸ 争点4-5(差止めの必要性)について
ア 被控訴人Pによる被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトにおける本件画像著作物の掲載行為が,控訴人が本件画像著作物について有する複製権,公衆送信権及び氏名表示権の侵害行為に当たることは,前記⑶及び⑷のとおりである。
被控訴人らは,①被告ウェブサイトは,本件スクールのホームページであるところ,被控訴人Pは,平成30年5月に自主廃業し,破産手続開始の申立てをし,本件スクールの営業をしておらず,その他の被控訴人らも本件スクールを営業していないから,将来的に被控訴人らが被告ウェブサイトの複製等を行う具体的なおそれはない。②ウェブサイトに関する記録データの複製,翻案又は公衆送信を停止するためには,当該ウェブサイトのドメインの利用を停止し,情報が格納されたサーバーの記録を削除しなければならないから,差止請求の相手方は,現に当該ドメイン及びサーバーを管理している者であるところ,被告ウェブサイトのドメイン及びサーバの管理情報はマークス社の代表者のAが有しており,被控訴人らは,被告ウェブサイトを利用しておらず,被告ウェブサイトのドメイン及びサーバーの管理権限もないから,被告ウェブサイトに係る各ウェページの複製等の差止めや削除を実行することはできない,③旧被告ウェブサイトのドメイン及びサーバーについても,マークス社によって管理されているから,これと同様であるとして,控訴人が被控訴人らに対して本件画像著作物のデータの複製等の差止め及び削除を求める必要性はない旨主張する。
そこで検討するに,前記認定事実によれば,①被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトはA又はAが代表取締役を務めるマークス社がレンタル契約をするサーバに記録されていること,②被控訴人PはAに対して平成30年11月から再三にわたり被告ウェブサイトの閉鎖を求めたが,Aはこれを拒否したこと,③Aは自ら更新料を負担してサーバのレンタル契約を延長し,被告ウェブサイトの公開を続けていることが認められる。上記認定事実によれば,被控訴人らが独自に被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトを閉鎖することはできないことが認められる。
また,ウェブサイトを閉鎖することは,A又はマークス社の被控訴人Pに対するウェブサイト制作料未払金の支払の反対給付ではないから,被控訴人Pが上記未払金を支払うことは,そのウェブサイトを閉鎖するための前提として被控訴人Pが先に履行すべきことでも同時に履行すべきことでもない。そして,A又はマークス社が委託者である被控訴人Pの要請を拒絶して被告ウェブサイトの公開を継続することは,いかに被控訴人PがA又はマークス社に未払金債務を有していたとしても,正当なものとはいえない。
そうすると,被控訴人Pが,A及びマークス社に対してウェブサイトの閉鎖の要請があった平成30年11月以降は,被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトを公衆送信している主体は,A又はマークス社というべきであり,被控訴人らではないものと認めるのが相当である。
以上によれば,控訴人の被控訴人らに対する本件画像著作物のデータの複製等の差止等請求は,差止めの必要性がないものと認められる。
イ これに対し控訴人は,控訴人が被控訴人Y2のログイン情報を使用して被告ウェブサイトの管理者ページにログインをすることができたこと,被控訴人らは,原告制作ウェブサイトで設定されたメールアドレスを利用していること,さらに,Aが被告ウェブサイトの閉鎖を拒否したことについては,Aに対してウェブサイト制作費用の支払をしなかった被控訴人らに責任があり,控訴人とは何の関係もないことであるから,控訴人が被控訴人らに対し,上記各ウェブサイトに係る各ウェブページの複製等の差止め及び削除を求める必要性があることを否定する理由にはならないなどと主張する。
しかしながら,前記アの認定事実に照らすと,控訴人の上記主張は採用することができない。
⑹ 小括
以上のとおり,控訴人の被控訴人らに対する本件画像著作物のデータの複製等の差止等請求は,差止めの必要性がないものと認められるから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の上記差止等請求は理由がない。
7 争点6(損害賠償等請求の可否)について
⑴ 争点6-1(被控訴人らの責任の有無)
ア 被控訴人P及び被控訴人Y1の責任について
被控訴人Pによる被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトにおける本件画像著作物の掲載行為が,控訴人が本件画像著作物について有する複製権,公衆送信権及び氏名表示権の侵害行為に当たることは,前記6⑶及び⑷のとおりである。
そこで,被控訴人Y1の責任について検討するに,前記認定事実によれば,①被控訴人Y1は,被控訴人Pの代表取締役として,被控訴人Pと控訴人との間で本件保守業務委託契約及び本件制作業務委託契約を締結したこと,②本件保守業務委託契約に係る本件保守契約書には,「本件成果物の著作権(著作権法27条及び28条に規定する権利を含む)その他の権利は,制作者に帰属するものとする。」(14条3項)との規定があること,本件制作業務委託契約に係る本件注文書の「備考」欄には,「全面リニューアル後の成果物の著作権その他の権利は,制作者のBに帰属するものとする。」との記載があり,控訴人Y1は,原告制作ウェブサイトに係る著作物の著作権は控訴人に帰属することを確認していること,③被控訴人Y1が平成29年12月15日付け通知書で控訴人から原告制作ウェブサイトの著作権が控訴人に属する旨の告知を受けていること,④被控訴人Pは,本件サーバが凍結された後の平成29年12月13日頃,マークス社に対し,原告制作ウェブサイトの復旧を依頼し,その後,マークス社は,旧被告ウェブサイトの制作過程で取得した原告制作ウェブサイトのデータをコピーして,被告ウェブサイトを制作したことが認められる。
上記認定事実によれば,被控訴人Y1は,原告制作ウェブサイトの各ウェブページに係る著作物の著作権が控訴人に帰属することを十分に認識しながら,控訴人の許諾を受けることなく,マークス社又はその代表取締役のAに対し,原告制作ウェブサイトをコピーした被告ウェブサイトの制作を依頼したものと認められるから,被控訴人Y1は,故意により,控訴人が本件画像著作物について有する複製権,公衆送信権及び氏名表示権を侵害したものと認められる。
したがって,被控訴人P及び被控訴人Y1は,民法709条,719条に基づき,上記侵害行為により控訴人が被った損害を賠償すべき義務を負うものというべきある。
これに反する被控訴人ピー・エム・エー及び被控訴人Y1の主張は採用することができない。
イ 被控訴人Y2の責任について
被控訴人Y2の責任について検討するに,前記認定事実のとおり,被控訴人Y2は,被控訴人Pの取締役として,被控訴人Y1から,マークス社に対する原告制作ウェブサイトの復旧依頼について事前に相談を受けていること,被控訴人Y1は,平成29年12月15日付け通知書で控訴人から原告制作ウェブサイトの著作権が控訴人に属する旨の告知を受けていることに鑑みると,被控訴人Y2は,被控訴人Y1が原告制作ウェブサイトに係る控訴人の著作物を無断で利用しようとしていることを容易に認識することができたものと認められる。
そうすると,被控訴人Y2は,被控訴人Pの取締役としての職務を行うについて少なくとも重過失があったものと認められるから,会社法429条1項に基づき,被控訴人Pによる本件画像著作物についての複製権,公衆送信権及び氏名表示権の侵害行為により控訴人が被った損害を賠償すべき義務を負うものというべきである。
これに反する被控訴人Y2の主張は採用することができない。
ウ 被控訴人I及び被控訴人Y3の責任について
被控訴人I及び被控訴人Y3の責任について検討するに,①被控訴人Iは,被控訴人Pと別法人であること,②被控訴人I及び被控訴人Y3が,被控訴人Pによる被告ウェブサイト及び旧被告ウェブサイトにおける本件画像著作物の掲載行為に関与したことを認めるに足りる証拠はないことに照らすと,被控訴人Pによる本件画像著作物についての複製権,公衆送信権及び氏名表示権の侵害行為により控訴人が被った損害を賠償すべき義務を負うものと認めることはできない。
これに反する控訴人の主張は,採用することができない。
エ 一般不法行為に基づく不法行為の責任等について
控訴人は,被控訴人らの行為の悪質性に鑑みれば,被控訴人らは,原告制作ウェブサイト等に係る控訴人の独占的利用権,営業権等の権利を侵害したといえるから,一般不法行為に基づく損害賠償義務を負う旨主張する。
しかしながら,控訴人の上記主張は,その根拠となる法律上の根拠及び具体的事実を主張立証するものではないから,理由がない。
その他営業秘密の侵害など控訴人がるる主張する点は,いずれも採用することができない。
⑵ 争点6-2(控訴人の損害額等)について
ア 著作権侵害の慰謝料
控訴人は,被控訴人らによる著作権侵害によって控訴人が被った精神的損害を慰謝するための慰謝料は,200万円を下らない旨主張する。
しかしながら,財産権侵害に基づく慰謝料を請求し得るためには,侵害の排除又は財産上の損害の賠償だけでは償い難い程の大きな精神的苦痛を被ったと認めるべき特段の事情がなければならないものと解されるところ,本件において,上記特段の事情が存するとまでは認められないから,上記控訴人の主張は採用することができない。
イ 著作者人格権侵害の慰謝料
前記認定事実によれば,被控訴人P,被控訴人Y1及び被控訴人Y2は,被告ウェブサイトを公開したことによる本件画像著作物(11枚)に係る氏名表示権侵害,旧被告ウェブサイトを公開したことによる本件画像2ないし4及び15(4枚)に係る氏名表示権侵害について損害賠償義務を負うものである。
そして,本件画像著作物が控訴人自身によって無名の著作物として公表されていたこと,その他本件に顕れた諸般の事情に鑑みると,上記被控訴人らの氏名表示権侵害行為により控訴人が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は,1サイト1枚の使用につき使用期間を問わず1枚当たり1万円と認めるのが相当である。
したがって,上記慰謝料額は15万円となる。
ウ 調査費用等
民事訴訟手続の遂行により要した費用のうち,民事訴訟費用等に関する法律第2条各号に掲げられた費目のものについては,専ら訴訟裁判所の裁判所書記官の処分を経て取り立てることが予定されているというべきであるから,当該訴訟における不法行為に基づく損害賠償請求において,民事訴訟費用等に関する法律第2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されないと解される(最高裁判所令和2年4月7日第三小法廷判決参照)。
控訴人は,証人の旅費日当,書記料,自身の出頭費用を不法行為に基づく損害として主張するが,これらは民事訴訟費用等に関する法律第2条4号,6号に定めるものであるから,これら費目を本件において損害賠償として請求することはできない。
また,控訴人は,事実実験公正証書の作成費用を損害賠償として請求するが,保全措置の趣旨であるとするものの,平成30年12月11日時点になってようやく行われたものであるから,その作成費用を不法行為と因果関係のある損害と認めることはできない。
したがって,控訴人の主張する調査費用等の損害は,いずれも認めることができない。
エ 本件保守業務委託契約に基づく報酬等
() 控訴人の本件保守業務委託契約に基づく報酬請求は,被控訴人Pを除くその余の被控訴人らは契約当事者ではないから,その請求は失当であり,被控訴人Pに対する請求も,前記のとおり,平成29年12月28日に被控訴人Pから控訴人に対して本件保守業務委託契約を解約する旨の意思表示がされているから,この契約解除後の期間に係る報酬請求は根拠を欠ものである。
() 控訴人の本件保守業務委託契約に基づく違約金請求については,本件保守契約書には,「相手方に損害を与えた場合には」,「運営業務に対する委託料額の12か月分を限度として,損害賠償責任を負う。」と定めているのであって,実損が生じた場合であっても損害額を保守料の12か月分を限度とするというものであって,これは損害賠償額の予定ではなく損害賠償額の制限規定にすぎないこと,控訴人は,本件保守業務委託契約に関連していかなる損害が生じているのか明らかにしていないことに鑑みると,理由がない。
オ 小括
以上のとおり,控訴人の損害額等については,本件画像著作物の著作者人格権侵害(氏名表示権侵害)に係る慰謝料15万円が認められる。
(3) 争点6-3(権利の濫用の成否)について
ア 被控訴人Y1,被控訴人P及び被控訴人Y2は,控訴人の損害賠償請求権の行使は権利の濫用に当たり,許されない旨主張する。
そこで検討するに,前記認定事実によれば,①控訴人は,原告制作ウェブサイト制作後,本件保守管理業務委託契約に基づき,その保守管理を行い,本件保守管理業務委託契約には,控訴人のウェブサイトの不具合等の修補等の保守義務が定められていたこと,②被控訴人Pは,平成29年秋の時点で,控訴人に対する原告制作ウェブサイトの制作代金の分割支払金に対する支払を遅滞し,控訴人を介してエックスサーバー社に支払うべき本件サーバの更新料を控訴人に交付していなかったこと,③本件サーバは、平成29年12月12日,同年11月30日利用期限の本件サーバの更新費用の未払のために,エックスサーバー社によって凍結され,原告制作ウェブサイトは,閲覧,利用できなくなったこと,④被控訴人Pは,同年12月12日,控訴人に対し,上記更新費用相当額を含む未払金として13万8240円を振込送金し,原告制作ウェブサイトを復旧するよう求めたところ,控訴人は,被控訴人Pに対し,本件サーバが凍結されたため,原告制作ウェブサイトの復旧はできない,新たなウェブサイトを制作するほかない旨を伝えた上で,同月13日付け請求書をもって,控訴人が新たなウェブサイトを代金432万1600円で制作することを提案したが,被控訴人Pは,これに応じなかったこと,⑤一方で,本件サーバの規約によれば,更新費用は1万2960円(12か月分)であり,ウェブサイトのドメインが失効した場合,利用期限日から30日以内に更新費用を支払えば,復旧が可能であり,控訴人の説明は本件サーバーの規約と異なる内容のものであったこと,⑥被控訴人ピー・エム・エーは,同月13日頃,マークス社に対し,原告制作ウェブサイトの復旧を依頼し,その後,マークス社は,旧被告ウェブサイトの制作過程で取得した原告制作ウェブサイトのデータをコピーして,被告ウェブサイトを制作し,平成30年1月頃,公開したことが認められる。
上記認定事実に鑑みると,控訴人の一連の行為は,本件保守業務委託契約に反するものであり,社会的相当性を逸脱する行為であるとの評価もあり得ないではない。
しかしながら,他方で,本件画像著作物はウェブサイトの視覚的効果を高めるデザインとして配置された画像にすぎないから,被控訴人Pの業務継続のため暫定的・臨時的に原告制作ウェブサイトを稼働させるためであれば,それら画像を掲載することは必須のことではない。
また,被控訴人Y1,被控訴人P及び被控訴人Y2に本件画像著作物の著作者人格権侵害に係る程度の賠償責任を負わせることは,想定外に重い負担を負わせるものではない。
以上によれば,控訴人の権利の行使が被控訴人Y1,被控訴人P及び被控訴人Y2の権利又は利益に重大な重大な影響を及ぼすものではないというべきであるから,控訴人の損害賠償請求権の行使が権利の濫用に当たるものと認めることはできない。
したがって,被控訴人Y1,被控訴人P及び被控訴人Y2の上記主張は採用することができない。
⑷ 争点6-4(被控訴人Y1につき再生計画認可決定確定による権利変更の有無)
()
(5) まとめ
以上のとおりであるから,控訴人は,本件画像著作物の著作者人格権(氏名表示権)侵害の不法行為に基づき,被控訴人P及び被控訴人Y1に対し,それぞれ,損害賠償金15万円及びこれに対する被控訴人らに対する最終の訴状送達の日の翌日である平成30年7月14日から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,会社法429条1項に基づき,被控訴人Y2に対し,損害賠償金15万円及びこれに対する同日から支払済みまでに民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。これら被控訴人らの債務は同一の損害を填補するものであるから,不真正連帯債務の関係に立つものである。