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著作権判例セレクション

【映画著作物】 信仰体験を紹介するビデオ映像の映画著作物性及び侵害性が問題となった事例

平成251025日東京地方裁判所[平成25()15969]
1 争点(1)(本件各投稿動画に対応する本件各ビデオ映像の著作物性の有無)について
被告は,本件各ビデオ映像自体の著作物性について認めていないので,以下,念のため本件各ビデオ映像自体の著作物性について,判断する。
証拠によれば,本件各ビデオ映像は,仏法の実践による信仰体験を紹介する目的で,社会で活躍する芸能人が,仏法を実践して芸能界で活躍するに至った信仰体験を語る様子を撮影した動画映像であること,本件各ビデオ映像の製作に当たっては,上記目的に沿って,出演者らの自然で的確な発言が引き出されるように進行を工夫した内容の台本が作成され,出演者の表情等が現れるように被写体が選択され,アングルや光量が調整されて撮影が行われ,さらに,上記目的に沿う場面を選択して編集がされた上に,色調や音声の補正がされたり,BGMやナレーションが組み込まれたりといった加工が施されたことが認められる。このような本件各ビデオ映像は,出演者らが信仰体験を語る様子が視聴者に臨場感をもって伝わるように,脚本の内容や,被写体の選択,撮影方法に工夫がこらされ,出演者の信仰体験を短時間で効果的に紹介できるように編集・加工がされたものということができるから,思想又は感情を創作的に表現したものであると認められる。
本件各ビデオ映像は,上記認定事実からして映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で作成されたものであるところ,証拠によれば,ビデオテープ(磁気テープ)に固定されたものであると認められるから,映画の著作物(著作権法2条3項)に該当すると認めるのが相当である。
なお,被告が争う本件各ビデオ映像のうちの,本件各投稿動画に対応する部分の著作物性についての当裁判所の判断は,下記争点(2)における判断の中で示すことにする。
2 争点(2)(本件各投稿動画による本件各ビデオ映像の複製権ないし翻案権侵害の成否)について
(1) 著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい(最高裁判所昭和53年9月7日第一小法廷判決参照),ここでいう再製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解すべきであり,同一性の程度については,完全に同一である場合のみならず,多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない,すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。
また,著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
そして,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないと解するのが相当である(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
(2) 以上を前提にして本件について検討する。
まず本件投稿動画①については,別紙対照表1により,本件投稿動画①の画像のうちの人物の顔の部分と,本件ビデオ映像①の約7分55秒付近の画像を左右に反転したものを比較すると,Dの前髪を含む髪形,眉,目鼻立ち,少し笑って開いた口の状態がほぼ同一であるといえる。そして,本件投稿動画①の他の音声と重なってはいるものの,本件ビデオ映像①のDの発言である「じゃ,学会活動できるじゃない」との音声が明らかに聞き取れることも併せ考えると,本件投稿動画①の上記画像は,本件ビデオ映像①に依拠したものということができる。
そして,本件投稿動画①の人物の画像は,上記のとおり本件ビデオ映像①のDの髪形,眉,目鼻立ち,口の状態とほぼ同一であることから,その顔であることを覚知することができ,本件ビデオ映像①のDの顔の部分と実質的に同一であること,Dの「じゃ,学会活動できるじゃない」との発言が音声としてそのまま用いられていることからすると,少なくとも視聴者がその表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものというべきである。
そして,本件投稿動画①に複製ないし翻案された部分であるとされる別紙対照表1の「本件ビデオ映像①」欄上段のDの音声を含む画像については,Dが信仰に関する体験を語るについて,Dを被写体として,その表情や,撮影アングル等にも工夫がされたものであり,その発言も音声として用いられているものであるから,その部分についても著作物性を認めるのが相当である。
以上によれば,本件投稿動画①は,本件ビデオ映像①の複製ないし翻案に当たるものというべきである。
次に本件投稿動画②について検討すると,別紙対照表2の「本件投稿動画②」欄の上段ないし下段の映像のうちの,左上の人物(E)の胸から顔の部分と,本件ビデオ映像②の約12分0秒から12分2秒付近に至る映像を比較すると,Eがうつむいて顔を手で覆い指を拡げた状態から,顔を上げ,目を開けて手を顔の両側に開いて拡げる状態までの連続的な映像とほぼ同一の映像が,本件投稿動画②には用いられており,本件投稿動画②の上記映像は,本件ビデオ映像②に依拠したものであることが明らかであり,本件投稿動画②の人物の映像は,上記のとおり本件ビデオ映像②のうつむいて顔を手で覆った状態から顔を上げて手を拡げるまでの映像を約20秒間にわたり反復連続して用いており,本件ビデオ映像②と実質的に同一であるか,少なくとも視聴者がその表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものというべきである。
そして,本件投稿動画②に複製ないし翻案された部分であるとされる別紙対照表2の「本件ビデオ映像②」欄上段ないし下段の映像は,Eが信仰に関する体験を語るについて,Eを被写体として,Eの表情や動きを的確に捉え,その撮影アングル等にも工夫がされたものであり,その部分についても著作物性を認めるのが相当である。
以上によれば,本件投稿動画②は,本件ビデオ映像②の複製ないし翻案に当たるものというべきである。
なお,被告は,本件投稿動画①につき,法4条2項に基づく意見照会には,グーグル画像検索から引用した画像である旨記載があることを根拠に依拠性を否定するが,その主張に沿う証拠を提出しておらず,他に本件全証拠を精査しても,同主張を裏付ける証拠はなく,かえって,前記のとおり,Dの発言も本件投稿動画①に収録されていることからすれば,本件投稿動画①が本件ビデオ映像①に依拠したものであることは明らかであるから,被告の上記主張は採用することができない。
3 争点(3)(本件各投稿動画が本件サイトに掲載されたことによる権利侵害の明白性の有無)について
前記1及び2の説示によれば,前記のように,本件各投稿動画をインターネット上のウェブサイトである本件サイトに掲載する行為は,原告が有する本件各ビデオ映像の送信可能化権を侵害するものと認めるのが相当である。
そして,本件全証拠を精査しても,上記送信可能化権の侵害の成立を否定すべき事情は何ら認められないから,本件各投稿動画が本件サイトに掲載されたことによって原告の権利が侵害されたことは明らかである。
4 争点(4)(本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
原告が本件各発信者に対して著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権を行使する意向を示していることは当裁判所に顕著であるところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,そのために本件各発信者情報の開示が必要であると認められる。
したがって,原告には被告から本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。