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著作権判例セレクション

【美術著作物の侵害性】製品(浴湯保温器)取扱説明書中のイラストの侵害性を否定した事例

▶平成170208日大阪地方裁判所[平成15()12778]▶平成171215日大阪高等裁判所[平成17()742]
() 原告製品は,浴槽内に自立させた状態で,内蔵する電気ヒーターによって浴湯を加熱し,加熱した浴湯の上昇流によって生じる浴槽内対流を利用して浴湯を均一に保温させるものである。被告は,原告製品と同種製品である被告製品を販売している。

3 著作権法に基づく請求(争点(3))について
(1) 争点(3)()()(別紙著作物目録1ないし3記載のイラストは,著作物性を有するか。仮に著作物性を有する場合,被告取扱説明書は,別紙著作物目録1ないし3記載のイラストを複製したものであるか)について
争点(3)()(別紙著作物1ないし3(イラスト)は,著作物性を有するか)についての判断はしばらくおき,まず,争点(3)()(仮に著作物性を有する場合,被告取扱説明書は,別紙著作物1ないし3を複製したものであるか)について判断する。
ア 原告イラスト1ないし3に何らかの創作性,そして著作物性が認められるとしても,更に被告イラスト1ないし3が原告イラスト1ないし3を複製したものと認められるためには,原告イラスト1ないし3の創作性のある部分が被告イラスト1ないし3と実質的に同一か,又は被告イラスト1ないし3が原告イラスト1ないし3の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得させることができなければならないと解される。
製品の取扱説明書の場合,製品の使用方法,機能,生じ得る問題点とその対処方法,部品や部分の名称,注意事項や禁止事項などが文章やイラストで説明されるが,説明すべきこれらの内容が共通し,その説明内容等がありふれた表現でなされる限り,別の商品の取扱説明書であっても表現として同一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし,著作権法が保護するのはあくまで思想や感情の創作的表現であること(同法2条1項1号)からすれば,仮にそのような共通性が認められたとしても,そのことをもって,創作性ある部分が実質的に同一であるとか,表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。
そこで,以上の点を踏まえて,原告イラスト1ないし3と被告イラスト1ないし3を比較検討する。
イ 原告イラスト1と被告イラスト1について
() (証拠)によれば,次の事実が認められる。
a 原告イラスト1と被告イラスト1は,その掲載頁の説明内容からすれば,製品を使用して浴湯を保温する場合,浴室外に電源とスイッチを置き,浴室内には耐熱コードを置くこと,製品は浴槽内に入れ,風呂の蓋は閉めておくこと,製品は直立させるべきであり,斜めに傾けた場合には作動しないこと,以上の説明のために描かれているイラストである。
(a) 原告イラスト1
原告イラスト1は,正常な使用方法と,作動しない使用方法とが描かれている。
正常な使用方法を示すイラストは,左に浴室外の状況を,右に浴室内の状況を描いている。浴室外には原告製品の電源と原告製品のスイッチとが描かれている。浴室内には,2枚の風呂蓋が閉められ,浴槽内部に原告製品の本体が直立しており,吸盤で固定され,湯が波打っている様子が描かれている。説明すべき内容については,吹出しが付され,その中に文章が記載されている。
作動しない使用方法を示すイラストは,正常な使用方法を示すイラストの右横に描かれ,蓋のない浴槽内部に,波打った湯の中で原告製品が斜めに傾いている様子が描かれ,これが作動しない場合であることを示すために左上に「×」印が描かれている。
(b) 被告イラスト1
被告イラスト1は,正常な使用方法と,作動しない使用方法とが描かれている。
正常な使用方法を示すイラストは,左に浴室外の状況を,右に浴室内の状況を描いている。浴室外には被告製品の電源と被告製品のスイッチとが描かれている。浴室内には,数枚の板状からなる風呂蓋が閉められ,浴槽内部に被告製品の本体が直立しており,吸盤で固定されている様子が描かれている【(ただし,被控訴人商品は吸盤を備えているが,被控訴人取扱説明書として控訴人から提出された(証拠)の被控訴人イラスト1に該当する部分のイラストには,吸盤は描かれていない。)】。説明すべき内容については,吹出しが付され,その中に文章が記載されている。
作動しない使用方法を示すイラストは,正常な使用方法を示すイラストの右下に描かれ,蓋の閉められた浴槽内部に,被告製品が斜めに傾いている様子が描かれ,これが作動しない場合であることを示すために被告製品左横で浴槽部分にかかる部分に「×」印が描かれている。
c 原告イラスト1と被告イラスト1は,正常な使用方法と作動しない使用方法が記載されていること,正常な使用方法については,左に浴室外の状況,右に浴室内の状況が描かれていること,浴室外には電源とスイッチがあること,浴室内には蓋が閉まった浴槽の中に製品が自立した状態で設置されていること,作動しない使用方法については,浴槽内で斜めに傾いた製品が記載され,その側に「×」印が描かれていること,絵のみでは表現しきれないことは吹出しを付してその中で文章で表現されていること,以上の点で共通する。
しかしながら,描かれているものが原告製品であるか,被告製品であるかの点,風呂蓋,浴槽内の湯の表示の有無【(ただし,被控訴人イラスト1には,浴槽内の湯は表示されていないが,被控訴人取扱説明書として控訴人から提出された(証拠)の被控訴人イラスト1に該当する部分のイラストには,控訴人イラスト1と同様に,浴槽内の湯が表示されている。)】等において相違する。
() 以上によれば,被告イラスト1は確かに前記()c記載の共通点の範囲において原告イラスト1と共通する。しかし,これらの部分は,結局,原告製品と被告製品に共通する製品の使用方法やその際の注意事項をありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないというべきである。そして,ありふれた表現以外の部分において相違点が認められる。したがって,被告イラスト1が,原告イラスト1の創作性ある部分と実質的に同一であるとか,原告イラスト1の表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから,被告イラスト1は,原告イラスト1を複製したものということはできない。
ウ 原告イラスト2と被告イラスト2について
() (証拠)によれば,次の事実が認められる。
a 原告イラスト2と被告イラスト2は,その掲載頁の説明内容からすれば,入浴する際には製品を浴槽から取り出し,浴室外のトレーの上に置くことを説明するために描かれているイラストである。
(a) 原告イラスト2
原告イラスト2は,左側に浴室外を,右側に浴室内を描いている。
浴室外には,原告製品の電源と,原告製品のスイッチと,原告製品の付属品であるトレーの上に置かれた原告製品本体が描かれている。
浴室内には,タイル張りの床の上に浴槽が描かれ,浴槽内には浴湯とお湯が入浴可能な温度であることを示す湯気のようなものが描かれている。
原告製品を浴槽内から浴室外のトレーの上に移動させたことを示すために,浴槽の左上部端から浴室外の原告製品に向けて,矢印が描かれている。
(b) 被告イラスト2
被告イラスト2は,左側に浴室外を,右側に浴室内を描いている。
浴室外には,被告製品の電源と,被告製品のスイッチと,被告製品の付属品であるトレーの上に置かれた被告製品本体が描かれている。
浴室内には,無模様の床の上に浴槽が描かれ,浴槽内には浴湯が入浴可能な温度であることを示す湯気のような曲線が描かれている。
被告製品を浴槽内から浴室外のトレーの上に移動させたことを示すために,浴槽の左上部端から浴室外の被告製品に向けて,矢印が描かれている。
c 原告イラスト2と被告イラスト2は,浴室外と浴室内とに分けられ,浴室外には電源とスイッチとトレーの上に置かれた製品が描かれていること,製品を浴槽内から浴室外のトレーの上に移動させることを示すために矢印が記載されていること,浴室内には浴槽があり,浴槽上部には浴湯が入浴可能であることを示す湯気のようなものが描かれていること,以上の点で共通する。
しかしながら,描かれているものが原告製品であるか被告製品であるかの点,浴湯の表示の有無,湯気の状況,浴室内の床の模様において相違している。
() 以上によれば,被告イラストは確かに前記()cに記載した共通点の範囲において原告イラストと共通する。しかし,これらの部分は,結局原告製品と被告製品に共通する使用方法をありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないというべきである。そして,ありふれた表現以外の部分において相違点が認められる。したがって,被告イラスト2が,原告イラスト2の創作性ある部分と実質的に同一であるとか,原告イラスト2の表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから,被告イラスト2は,原告イラスト2を複製したものということはできない。
エ 原告イラスト3と被告イラスト3について
() (証拠)によれば,次の事実が認められる。
a 原告イラスト3と被告イラスト3は,その掲載頁全体からすれば,製品の使用時を例にとって,浴室外にあるアース線,プラグ,コード,スイッチ等の,浴室内にある耐熱コード,浴槽内にある本体,本体上部のパイロットランプ(被告製品の場合LEDランプ)等の各部分の名称を説明しているものである。
(a) 原告イラスト3
原告イラスト3は,上部を浴室外として,原告製品のプラグとコードと原告製品のスイッチ及びスイッチ固定台と耐熱コードの一部と,原告製品のトレーとを描いている。
また,下部を浴室内とし,蓋の閉まった浴槽内に,浴湯の中に原告製品本体が自立した図と,その図の右横に,原告製品の上部を拡大してパイロットランプを指示した図が描かれている。
各部の名称については,各部から引出線を引いて説明されている。
(b) 被告イラスト3
被告イラスト3は,上部を浴室外として,被告製品のプラグとコードと被告製品のスイッチと耐熱コードの一部とを描いている。
また,下部を浴室内とし,蓋の閉まった浴槽内に,被告製品本体が自立した図と,その図の左横に,被告製品の上部を拡大してLEDランプを指示した図が描かれている。
各部の名称については,各部から引出線を引いて説明されている。
c 原告イラスト3と被告イラスト3は,上部を浴室外とし,下部を浴室内とし,上部には電源とプラグとコードとスイッチと耐熱コードの一部が描かれていること,下部には耐熱コードの残部と,蓋の閉まった浴槽と,浴槽内に自立している製品が描かれていること,通電状況を示すパイロットランプ(被告製品の場合LEDランプ)を説明するために,製品上部が拡大された図が描かれ,パイロットランプあるいはLEDランプが指示されていること,各部の名称が引出線を引いた上で説明されていること,以上の点において共通する
しかしながら,描かれているものが原告製品であるか被告製品であるか,スイッチ固定台やトレーのイラストの有無,浴湯の有無等において相違する。
() 以上によれば,被告イラスト3は確かに前記()c記載の共通点の範囲において原告イラスト3と共通する。しかし,これらの部分は,結局,原告製品と被告製品の部品や製品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないというべきである。また,ありふれた表現以外の部分において相違点が認められる。したがって,被告イラスト3が,原告イラスト3の創作性ある部分と実質的に同一であるとか,原告イラスト3の表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから,被告イラスト3が原告イラスト3を複製したものということはできない。
オ 以上のとおり,原告イラスト1ないし3が著作物性を有するか否かの点はともかく,被告イラスト1ないし3が,原告イラスト1ないし3を複製したものであるということはできない。

[控訴審同旨]
3 著作権法に基づく請求について
次のとおり,原判決を訂正等し,当審主張に対する判断を付加するほかは,原判決…に記載のとおりであるから,これを引用する。
()
(2) 争点(3)ア(控訴人イラストの著作物性と複製の有無)について
ア 引用にかかる原判決認定,説示のとおりであって,商品の取扱説明書の場合,商品の使用方法,機能,生じ得る問題点とその対処方法,部品や部分の名称,注意事項や禁止事項などが文章やイラストで説明されるが,説明すべきこれらの内容が共通し,その説明内容等がありふれた表現でなされる限り,別の商品の取扱説明書であっても表現として同一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし,著作権法が保護するのはあくまで思想や感情の創作的表現であること(著作権法2条1項1号)からすれば,仮に上記のような点に共通性が認められたとしても,そのことをもって,創作性ある部分が実質的に同一であるとか,表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。
そうすると,控訴人イラストが著作物性を有するか否かの点はともかくとして,被控訴人イラストと控訴人イラストは,それぞれが共通する部分は,結局,控訴人商品と被控訴人商品の部品や商品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないし,また,ありふれた表現以外の部分において相違点が認められ,被控訴人イラストが,控訴人イラストの創作性ある部分と実質的に同一であるとか,控訴人イラストの表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから,被控訴人イラストが控訴人イラストを複製したものであるとはいえない。
したがって,争点(3)()(著作物性の有無)を判断するまでもなく,控訴人イラストの著作権侵害を理由とする控訴人の請求は,いずれも理由がない。
イ もっとも,控訴人が主張するように,控訴人商品と同種商品である「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱説明書には,控訴人イラストと同一ないし似通ったイラストは見当たらない。
しかしながら,説明内容が共通している場合に,これをありふれた表現で説明すると,同一又は似通った表現になることがあるからといって,必ず同一又は似通った表現になるとまではいえない。
そうすると,控訴人商品と同種商品であって,その説明内容に共通する点もあると考えられる「ユーフィー」及び「湯美人」の取扱説明書中のイラストが,いずれも控訴人イラストと異なっているからといって,直ちに,控訴人イラストの当該表現がありふれた表現ではないとはいえない。
したがって,上記同種商品の取扱説明書の存在は,前記認定判断を左右するものではない。