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著作権判例セレクション
【写真著作物の侵害性】カーテン用副資材等のカタログ中の写真等の著作物性及び侵害性が争点となった事例
▶平成7年03月28日大阪地方裁判所[平成4(ワ)1958]
一 争点1について
(略)
右事実を前提に、原告の主張に従い、以下順次判断する。
1 本件カタログに掲載された本件写真及び本件説明図は著作物に該当するか
(一) 写真の著作物性
著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義しているところ、ここで要求される表現の創作性については、著作者の個性が表現の中に何らかの形で現れていれば足りると解すべきである。
これを写真についてみると、単なるカメラの機械的な作用のみに依存することなく、被写体の選定、写真の構図、光量の調整等に工夫を凝らし、撮影者の個性が写真に現れている場合には、写真の著作物(同法10条1項8号)として著作権法上の保護の対象になるものというべきである。
(二) 本件写真の著作物性
(1) 本件写真1
本件写真は、いずれも原告旧カタログ3に掲載され、その後本件カタログに掲載されたものであるが、制作担当が原告代表者からBに交替したこともあり、それまでの原告旧カタログ1及び2の写真とは違うものを作るという視点で撮影されたこと、本件写真1は、黒地に長さの目盛りをあらわす青い横線をほどこした台紙の上に、フックを一列に配列して撮影したほぼ原寸大のものであり、原告旧カタログ1及び2の同種の写真が、青地に白い線が一本ないし三本引かれた台紙(線が引かれていないものもある。)の上にフックを並べて撮影しているものであるのに対し、①フックの色が銀色及び金色であるため、これが最も映えるように背景を黒地にしたこと、②右背景にはフックのサイズが一目で分かるよう、五ミリ単位で青い横線を入れたこと、③なお、背景の作成については、青線が浮かび上がるようにシルク印刷の手法を取り入れたこと等の面で新たな工夫を凝らしたものであり、Cにより撮影されたものであること、右①ないし③の構想はBによるものであるが、これを実際に本件写真1という形で具体化するについては、プロのカメラマンたるCの技量に負うところが大きいこと(なお、この点は以下の本件写真2ないし7についても同様である。)が認められる。
そうすると、本件写真1は、写真の著作物に該当するというべきである。
被告は、本件写真1は商品見本に用いられていた従来の手法をその商品の写真にそのまま用いたものに過ぎず、その手法は原告が初めて採用したものではないと主張するが、被告指摘の商品見本はそもそも写真ではなく、方眼紙上に各種カーテンフックを単純配列したものである上、本件写真1とは、背景の色、横線の色、横線のピッチ、背景の作成方法等において異なっているから、右主張は採用できない。
(2) 本件写真2
本件写真2は、いずれも、ロール状に巻いた複数のカーテンテープの芯地を立てて、その一端を上から若干前方に引き出して垂らしたものを、向かって右斜め前方から撮影したものであること、これは、撮影に際して、あまり見栄えがしない商品を豪華に見せるために、複数のカーテンテープを正しく同一方向(写真に向かって左斜め前方)に揃えて配列し、しかもそのテープ始端をほぼ同じ長さだけ引き出した形で並べて撮影する手法を用いることで読者に対してリズム感と同時に整然とした美しさを感じさせることを狙い、また、背景の地色をグラデーションという手法によって濃淡をつけ、柔らかさの中に対象カーテンテープが浮かび上がるようにし、さらに芯地の目を見せる等の工夫をしたものであることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、別紙参考資料一を引用して、選択可能なありふれた手法である旨主張するが、右参考資料一においては、ロール状のテープを立てたものと倒したもの、立てたものについては、テープ始端を上から引き出して垂らしたもの、下から引き出したもの、あるいは全く引き出さないものの写真が示されているに過ぎず、右のような工夫は見られないから、採用できない。
(3) 本件写真3
本件写真3は、上部にギャザーテープをカーテンに使用した写真を配し、下部に左側はギャザーを施し右側は平板に引き伸ばされた状態のギャザーテープの実物の写真を配したものであること、その撮影に際しては、ギャザーテープの規格別の形状と用法が一目で対比できるような写真になるように意識するとともに、背景の色彩について商品が映え、ひだがよく見えるようなものを選択し、また、ギャザーテープをカーテンに使用した写真については、ボール紙を丸めて、丸いひだをカーテンに出させて、カーテンをスプレーの糊で固めて撮影する等の工夫をしたものであることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、別紙参考資料二を挙げ、部品のカタログにその部品の写真とそれを用いた完成品の写真を近接して示すことは、商品カタログにおける常套手段に過ぎないと主張するが、右参考資料二は、撮影対象を全く異にするものであるから、本件写真3の創作性を否定する根拠にはならないというべきである。
(4) 本件写真4
本件写真4は、左側に、バルーンテープをカーテンに使用したものの写真を、右側に、上部はギャザーを施し下部は平板に引き伸ばした状態のバルーンテープの写真を配したものであること(なお、バルーンテープは、昇降タイプのカーテンに使用するテープであって、通常は平板に引き伸ばした状態にあるが、テープの中に入っているひもを上に引っ張るとテープ自体にひだができ、その結果バルーンテープを使用したカーテンにもひだができるという仕組みのものであること。)、その撮影に際しては、バルーンテープの規格別の形状と、右の仕組みが一目で対比できるような配置にする(特に、右側のバルーンテープの写真については、テープの中のひもを引っ張ると徐々にひだができることを示すために上部はギャザーを施し下部は平板に引き伸ばした状態の写真を使用している。ただし、左側のバルーンテープをカーテンに使用したものの写真との対応関係でみると、上下が逆になっている。)等の工夫をしたものであることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物であるというべきである。
別紙参考資料二に基づく被告の主張が理由のないことは、右(3)説示のとおりである。
(5) 本件写真5
本件写真5は、同一の形状で色彩の異なる複数のフレンジを一列に並べてつなぎ合わせて撮影したものであること、その撮影に際しては、これらつなぎ合わされた複数のフレンジがあたかも一本のフレンジであるかのような外観を呈するとともに、その色彩のコントラストが見る者に対して鮮やかさと美的感覚を抱かせるように対象の配置をする等の工夫をしていることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、フレンジ(やタッセルコード)を切断してつないで表示する手法は従来から存在するありふれたものに過ぎないと主張し、被告カタログ二七頁の写真及び昭和六〇年にトーソーが発行したカタログ掲載の写真を挙げるが、被告カタログ二七頁の写真は、フレンジの色違いの現物多数を横に離してあるいは近接させて五段に台紙に張りつけた色見本を単純に撮影したものであり、複数のフレンジがつなぎ合わされて一本のフレンジであるかのような外観を呈するものではなく、また、トーソー発行のカタログ掲載の写真は、フレンジ(やタッセルコード)を切断してつないで表示する手法という限度では本件写真5と共通するが、異なる製品(同種製品ではあるが)を撮影対象としたものであるから、いずれも、本件写真5の創作性を否定する根拠にはならない。
(6) 本件写真6
本件写真6は、色の異なる複数のタッセルコードを一列に並べてつなぎ合わせて撮影したものであること、その撮影に際しては、これらつなぎ合わされた複数のタッセルコードが、あたかも一本のタッセルコードであるかのような外観を呈するとともに、その色彩のコントラストが見る者に対して鮮やかさと美的感覚を抱かせるように対象の配置をする等の工夫をしていることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告カタログ二七頁の写真及び昭和六〇年トーソー発行のカタログ掲載の写真に基づく被告の主張が理由のないことは右(5)説示のとおりである。
(7) 本件写真7
本件写真7は、縦に伸ばした状態で小さく撮影したタッセルを複数配し、その左側に、大きく撮影したタッセルをその上部が小さなタッセルの上におおいかぶさるように左下から右上へ斜めに湾曲させて配したものであること、その撮影に際しては、タッセルの柔らかさを表現するために、サイズの大きな写真の商品について外側にやや湾曲させる等の工夫をしていることが認められ、そこに創作性が認められるから、写真の著作物というべきである。
被告は、別紙参考資料三を引用して、同種商品の写真を複数同頁に掲載するときに大きなものと小さなものを印刷段階で合成することは、商品カタログにおける常套手段に過ぎないと主張するが、右参考資料三は、撮影対象を全く異にするだけでなく、その構図(写真の配置)も全く異なるものであるから、採用できない。
(三) 本件説明図について
本件カタログでは、上飾り芯地の用途説明として芯地のカット方法をイラストで説明し、その下部に説明文を配している。
原告は、この説明図は原告がカット線の形状等を指示し、これに基づきデザイナーに線画を作成してもらったものであり、その芯地のカット(切り方)の形状自体は一般的なものであるが、それを図示するに当たりカットの形状を異なった太さの線で表現し、鋏のイラストを加えて一目で切り方を表現した図であることを示しているものであり、その表現方法に創作性がある旨主張するが、平成元年発行のエスエム工業のカタログ一〇五頁の「上飾り用型紙 使用方法」の項に「上飾り用型紙を好みのスタイルのラインにそってカットします。」として掲載された図と対比すれば、本件説明図は、これを複製したものであること(ただし、上段下段各三本のカット線のうち各一本を省略している。)が明らかである(本件説明図は、原告旧カタログ1ないし3には掲載されておらず、平成三年発行の本件カタログに初めて掲載されたものである。)から、創作性を認め難く、これを著作物ということはできない。
また、本件説明図中の説明文は、単に上飾り芯地の使用方法をわずか六〇字程度で表現したものに過ぎないから、これをもって著作物とまでいうことはできない。
したがって、本件説明図については、その余の争点について判断するまでもなく、著作権侵害に基づく原告の請求はいずれも理由がないことになる。
(略)
三 争点3(被告カタログは、原告の著作物の複製〔又は翻案〕物に当たるか)について
1 被告写真と本件写真の複製
(一) 著作物の複製
著作権法21条にいう複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形体を覚知させるに足りるものを再製することをいい、既存の著作物への依拠と既存の著作物との同一性が要件となる。そして、その判断に当たっては、著作権が保護の対象とするのはその表現の手法という抽象的なアイデア自体ではなく、具体的な表現形式であることに注意しなければならない。
この点に関して、原告は、写真の著作物については、他人の絵画を人の手で模写する場合、模写を行う画家の創作性(オリジナリティ)が新たに加わらない限り絵画の複製に当たるのと同様に、他人の著作物たる写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法(被写体の構図、アレンジ、ライティング、シャッターチャンス等写真の著作物としての創作性を決定する諸要素)を用いて写真Bを撮影する場合に、写真Aの創作性に対して写真Bの撮影者の創作性が何ら付加されていないと認められるときは、写真のAの複製であるといって差支えないとし、さらに、このことを前提に、人物や特定の建築物、特定の風景のように個性があり代替性のない被写体を撮影した写真については、被写体自体が著作物としての写真の創作性を基礎付ける重大な要素となっているから、被写体が異なれば撮影方法が同一でも互いに異なった著作物となるが、被写体が個性のない代替性のある商品である場合には、被写体は写真の著作物の創作性を基礎付ける要素ではなく、撮影者が行った構図の設定、被写体のアレンジ、ライティング、シャッター速度の設定こそが著作物としての写真の創作性を決定するのであり、一般人が写真上から被写体の相違を認識することができず、両者の撮影方法の同一性から一方の写真が他方の写真を再製したものであるとの認識を抱く場合には、一方の写真を他方の複製であると解するのが相当であると主張する。
しかし、まず、絵画の複製に当たる「他人の絵画を人の手で模写する場合」と対比すべきは、写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影する場合ではなく、写真Aそのものを有形的に再製する場合であるから、写真Aと同一の被写体を同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影したからといって、直ちに写真Aの複製になるとはいい難い。まして、写真Bが写真Aの被写体とは異なる対象物を被写体として撮影したものである場合、被写体が個性のない代替性のある商品であり、同様の撮影方法を用いているからといって、写真Bをもって写真Aの複製であると解する余地はない。原告主張のように、一般人が写真上から被写体の相違を認識することができず、両者の撮影方法の同一性から一方の写真が他方の写真を再製したものであるとの認識を抱くというのは、主として、被写体が個性のない代替性のある商品であることによるのであって、撮影方法が同一のものであることによるのではない。
(二) 被告写真と本件写真の複製
そこで、被告写真を本件写真と対比するに、確かに、被告写真1は、罫線を引いた黒の地色を背景にしてカーテンフックを撮影したものであり、左から順に①アルファベットのpに似たカーテンフック、②hに似たカーテンフック、③pに似たカーテンフック(①よりサイズが小さいもの)、④hに似たカーテンフック(②よりサイズが小さいもの)の順で配置している点で本件写真1と共通しており、同様に、被告写真2は、ロール状に巻いた二本のカーテンテープの芯地を立てて、その一端を若干前方に引き出して上から垂らしたものを、向かって右斜め前方より撮影し、グラデーションによる背景を用いている点で本件写真2と、被告写真3は、ギャザーテープをカーテンに使用したものと、左側はギャザーを施し右側は平板に引き延ばしたギャザーテープとを上下二段に配した写真である点で本件写真3と、被告写真4は、バルーンテープをカーテンに使用した写真と、上部はギャザーを施し下部は平板に引き延ばしたバルーンテープの写真とを左右に配したものである点で本件写真4と、被告写真5は、色の異なる複数のフレンジを切ってつなぎ合わせ、一本のフレンジに見せるように撮影している点で本件写真5と、被告写真6は、色の異なる複数のタッセルコードを切ってつなぎ合わせ、一本のタッセルコードに見せるように撮影している点で本件写真6と、被告写真7は、縦に延ばした状態で小さく撮影したタッセルを複数配し、大きく撮影したタッセルをその上部が小さなタッセルの上におおいかぶさるように左下から右上へ斜めに湾曲させて配したものである点で本件写真7と、それぞれ共通している。
しかしながら、いずれについても、本件写真の被写体がパロマの商品であるのに対し、被告写真の被写体は被告の商品であるから、前説示に照らし、被告写真をもって本件写真の複製という余地はないものといわなければならない(同様に、被告写真をもって本件写真を翻案したものということもできない。)。