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著作権判例セレクション
【職務上作成する著作物の著作者】カーテン用副資材等のカタログの著作権の帰属(職務著作性を含む。)が問題となった事例/職務著作性における「公表」の要件
▶平成7年03月28日大阪地方裁判所[平成4(ワ)1958]
二 争点2(著作物に該当するものについて、原告に著作権が帰属するか)について
1 本件カタログの編集著作権
前記一冒頭認定の本件カタログの制作過程に証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件カタログは、(1)法人たる原告の発意に基づき作成されたものであること、(2)原告の業務に従事する者(B等)が原告との雇用契約に基づきその従業員としての職務上作成したものであること、(3)著作者表示として、「Planning & Artwoks by Angle Co.,Ltd.」との表示があり、原告の著作の名義の下に公表されたものであることが認められ、他方、(4)本件カタログの制作時における契約、就業規則その他にその著作者について別段の定めがあると認めるに足りる証拠はないから、編集著作物としての本件カタログの著作者は著作権法15条1項により原告であるというべきであり、その編集著作権は原告が有することになる。
被告は、本件カタログの右「Planning & Artwoks by Angle Co.,Ltd.」という表示は、「株式会社アングルによる企画と美術作品」との意味合いを看取させるとしても、原告である「有限会社アングル」名義の著作者表示とは到底理解できないと主張するが、甲第五号証(英米法辞典)によれば、「Co.,Ltd.」と略称される「limited company」は有限責任会社と訳され、その解説として「株主等の社員が対外的に会社資本への出資額(未払込の引受額を含む。)を限度としてのみ責任に任ずる会社。イギリスでは、株式会社(company limited by shares)及び保証有限会社(company limited by guarantee)をさす。」と記載されていることが認められ、これによれば、「limited company」は、社員が有限責任を負う会社一般を指すものと解されるから、有限会社を表示するのに「limited company」「Co.,Ltd.」の語を用いても誤りとはいえず、被告の主張は理由がない。
2 本件写真について
(一) 前記一説示のとおり本件写真はCにより撮影されたものであるところ、原告は、それにもかかわらず法人著作の要件を充足することに変わりはないとし、本件カタログのような商品カタログに用いられる写真は、対象商品の色彩、形状、品質等を顧客に伝達することを目的として作成されるものであるから、芸術写真等と比較すれば、撮影方法に撮影者の主観や裁量が介在する余地は少なく、しかも、原告は個々の写真著作物の撮影に当たっては、被写体の設定、構図の設定、光量の調整の外、カメラアングルや絞りの工夫等その創作行為のすべてについてCに指示を与えて、自己の意図に従った写真の作成を行っているから、原告がCを自己の手足として写真著作物の創作行為を行っているに等しく、原告が本件写真をはじめとする本件カタログに掲載された写真著作物の著作者であるといって差支えない旨主張する。しかし、前記説示のとおり、その①ないし③の構想は原告の従業員であるBによるものであるが、これを実際に本件写真という形で具体化するについては、プロのカメラマンCの技量に負うところが大きいのであるから、原告がCを自己の手足として写真著作物の創作行為を行っているに等しいとは到底いえず、右主張は採用し得ない。
原告は、仮にCに何らかの創作行為が認められるとしても、Cは個々の写真の創作に関して原告の指揮監督を受けている以上、原告の義務に従事する者が職務上作成したものと認められると主張するが、プロのカメラマンとして本件写真を撮影したCが原告主張のように原告に対して従属的地位にあったと認めるに足りる証拠はないから、右主張も採用できない。
したがって、本件写真は、原告の業務に従事する者が職務上作成したものとはいえないから、著作権法15条1項の要件を充足せず、その著作者はCであると認める外はない。
のみならず、本件写真は、いずれも本件カタログ発行前に発行された原告旧カタログ3(平成二年度版)に掲載されて既に公表済みのものであるところ、原告旧カタログ3には原告ないしAの著作者表示が存しない。
原告は、この点につき、①本件写真は、原告ないしその前身たる個人経営のAが、パロマのために数次にわたって作成した原告旧カタログ1ないし3及び本件カタログに掲載されており、これら以外には掲載公表されていないものであって、専ら原告旧カタログ1ないし3及び本件カタログのために製作されていることは性質上明らかであり、②しかも、原告旧カタログ1ないし3がAの、本件カタログが原告の制作にかかる著作物であることは明らかであるから、原告あるいはAが本件写真をカタログに掲載する際に特に実際の製作者(C)の名を掲載個所に明示することによって実際の製作者自身の著作物であることを表示することをしていない以上、本件写真は、原告旧カタログ1ないし3や本件カタログと一体となって、それぞれのカタログの制作者であるAあるいは原告の著作名義の下に公表されている著作物とみなすのが相当であると主張する。右主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、原告旧カタログ1ないし3と本件カタログはそれぞれ独立のものであり、本件写真が原告旧カタログ3において公表された時点では原告ないしAの著作者表示が存しないのであるから、右主張は採用することができない。
原告は、さらに、著作権法15条1項の「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」には、「法人等が現に自己の著作の名義の下に公表したもの」だけでなく、「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格のもの」を含むと解されているところ、本件写真は、その製作時から原告旧カタログ1に掲載を予定したものであり、その後も原告旧カタログ2、3あるいは本件カタログ以外には公表されていないのであるから、その当初から「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」であったといえると主張する。しかし、未公表の著作物については、性質上法人等の著作名義で公表することを予定しているものは「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」ということができるとしても、既に公表された著作物であって、その公表の時点において法人等の著作名義が付されていないものは、「公表するとすれば法人等の名義を付するような性格の著作物」という余地はないから、右主張は採用することができない。
したがって、本件写真につき著作権法15条1項に基づき原告がその著作者であるという原告の主位的主張は理由がない。
(二) しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、AとCの間では、原告旧カタログ3に掲載する写真(本件写真)の撮影に際し、写真の点数及び要する時間によって報酬を決定した上、写真の原版も含め原告が買い取ることが合意されていたことが認められ、右事実によれば、本件写真の著作権はCからAに譲渡する旨の合意が成立していたものと推認することができ、弁論の全趣旨によれば、その後本件写真の著作権は、Aの個人営業を承継した原告の設立に際し、原告に承継取得されたものと認めることができ、原告の予備的主張は理由がある。
(三) 以上要するに、本件カタログについての編集著作権及び本件写真の著作権は原告が有していることになる。