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著作権判例セレクション

【映画著作物の侵害性】携帯向けSNS釣りゲームの侵害性が争われた事例

▶平成24223日東京地方裁判所[平成21()34012]▶平成240808日知的財産高等裁判所[平成24()10027]
() 本件は,第1審原告が,第1審被告らに対し,
(1) 第1審被告らが共同で製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲーム「釣りゲータウン2」(「被告作品」)を製作し公衆に送信する行為は,第1審原告が製作し公衆に送信している携帯電話機用インターネット・ゲーム「釣り★スタ」(「原告作品」)に係る第1審原告の著作権(翻案権,著作権法28条による公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張し,①著作権法112条に基づき,被告作品に係るゲームの影像の複製及び公衆送信の差止め,ウェブサイトからの上記影像の抹消及び記録媒体からの上記影像に係る記録の抹消,②民法709条,719条に基づき,損害賠償金の支払,③著作権法115条に基づき,謝罪広告の掲載を求め,
(2) 第1審被告らが,原判決別紙記載の影像(「被告影像1」「被告影像2」)を第1審被告らのウェブページに掲載する行為は,不正競争防止法2条1項1号の「混同惹起行為」に当たると主張して,①同法3条に基づき,被告影像1の抹消及び第1審被告Oに対する被告影像2の抹消,②民法709条,719条に基づき,損害賠償金の支払,③不正競争防止法14条に基づき,謝罪広告の掲載を求め,
(3) 第1審被告らが,第1審原告に無断で原告作品に依拠して被告作品を製作し配信した行為は,第1審原告の法的保護に値する利益を違法に侵害し,不法行為に該当すると主張して,①民法709条,719条に基づき,損害賠償金の支払,②民法723条に基づき,謝罪広告の掲載を求める事案である。
なお,第1審原告は,上記(1)について,(ⅰ)被告作品における「魚の引き寄せ画面」は,原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害し,また,(ⅱ)被告作品における主要画面の変遷は,原告作品における主要画面の変遷に係る第1審原告の著作権及び著作者人格権を侵害する旨主張した。
原判決は,被告作品における「魚の引き寄せ画面」は,原告作品における「魚の引き寄せ画面」に係る第1審原告の著作権(翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとしたが,その余の著作権及び著作者人格権侵害の主張を認めず,また,第1審被告らの行為は不正競争防止法2条1項1号にも不法行為にも当たらないとして,前記1(1)①の全部並びに(1)②のうち合計2億3460万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で,第1審原告の請求を認容し,その余の請求を全て棄却した。
そこで,第1審原告が,これを不服として控訴するとともに,第1審被告らも,原判決を不服として控訴した。

1 「魚の引き寄せ画面」に係る著作権及び著作者人格権の侵害の成否(争点1-1)について
(1) 翻案権及び同一性保持権について
著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は,既存の著作物の翻案に当たらない(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
また,既存の著作物の著作者の意に反して,表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に変更,切除その他の改変を加えて,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは,著作権法20条2項に該当する場合を除き,同一性保持権の侵害に当たる(著作権法20条,最高裁昭和55年3月28日第三小法廷判決参照)。
(2) 認定事実
第1審原告は,被告作品における「魚の引き寄せ画面」は,原告作品における「魚の引き寄せ画面」の翻案に当たる旨主張する。そして,第1審原告は,原告作品における「魚の引き寄せ画面」を原判決別紙比較対照表1の左欄記載の影像と特定し,被告作品における「魚の引き寄せ画面」を同表1の右欄記載の影像と特定して,著作権侵害を主張するのに対し,第1審被告らは,原判決別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ影像)1(3)及び2(2)のとおり主張するところ,以下,両作品の「魚の引き寄せ画面」を対比する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(なお,書証には枝番を含む。以下同じ)。
()
(3) 翻案の成否
ア 原告作品と被告作品とは,いずれも携帯電話機向けに配信されるソーシャルネットワークシステムの釣りゲームであり,両作品の魚の引き寄せ画面は,水面より上の様子が画面から捨象され,水中のみが真横から水平方向に描かれている点,水中の画像には,画面のほぼ中央に,中心からほぼ等間隔である三重の同心円と,黒色の魚影及び釣り糸が描かれ,水中の画像の背景は,水の色を含め全体的に青色で,下方に岩陰が描かれている点,釣り針にかかった魚影は,水中全体を動き回るが,背景の画像は静止している点において,共通する。
イ しかしながら,そもそも,釣りゲームにおいて,まず,水中のみを描くことや,水中の画像に魚影,釣り糸及び岩陰を描くこと,水中の画像の配色が全体的に青色であることは,前記(2)ウのとおり,他の釣りゲームにも存在するものである上,実際の水中の影像と比較しても,ありふれた表現といわざるを得ない。
次に,水中を真横から水平方向に描き,魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは,原告作品の特徴の1つでもあるが,このような手法で水中の様子を描くこと自体は,アイデアというべきものである。
また,三重の同心円を採用することは,従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが,弓道,射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって,釣りゲームに同心円を採用すること自体は,アイデアの範疇に属するものである。そして,同心円の態様は,いずれも画面のほぼ中央に描かれ,中心からほぼ等間隔の三重の同心円であるという点においては,共通するものの,両者の画面における水中の影像が占める部分が,原告作品では全体の約5分の3にすぎない横長の長方形で,そのために同心円が上下両端にややはみ出して接しており,大きさ等も変化がないのに対し,被告作品においては,水中の影像が画面全体のほぼ全部を占める略正方形で,大きさが変化する同心円が最大になった場合であっても両端に接することはなく,魚影が動き回っている間の同心円の大きさ,配色及び中央の円の部分の画像が変化するといった具体的表現において,相違する。
しかも,原告作品における同心円の配色が,最も外側のドーナツ形状部分及び中心の円の部分には,水中を表現する青色よりも薄い色を用い,上記ドーナツ形状部分と中心の円部分の間の部分には,背景の水中画面がそのまま表示されているために,同心円が強調されているものではないのに対し,被告作品においては,放射状に仕切られた11個のパネルの,中心の円を除いた部分に,緑色と紫色が配色され,同心円の存在が強調されている点,同心円のパネルの配色部分の数及び場所も,魚の引き寄せ画面ごとに異なり,同一画面内でも変化する点,また,同心円の中心の円の部分は,コインが回転するような動きをし,緑色無地,銀色の背景に金色の釣り針,鮮やかな緑の背景に黄色の星マーク,金色の背景に銀色の銛,黒色の背景に赤字の×印の5種類に変化する点等において,相違する。そのため,原告作品及び被告作品ともに,「三重の同心円」が表示されるといっても,具体的表現が異なることから,これに接する者の印象は必ずしも同一のものとはいえない。
さらに,黒色の魚影と釣り糸を表現している点についても,釣り上げに成功するまでの魚の姿を魚影で描き,釣り糸も描いているゲームは,前記(2)ウのとおり,従前から存在していたものであり,ありふれた表現というべきである。しかも,その具体的表現も,原告作品の魚影は魚を側面からみたものであるのに対し,被告作品の魚影は前面からみたものである点等において,異なる。
ウ 以上のとおり,抽象的にいえば,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面とは,水面より上の様子が画面から捨象され,水中のみが真横から水平方向に描かれている点,水中の画像には,画面のほぼ中央に,中心からほぼ等間隔である三重の同心円と,黒色の魚影及び釣り糸が描かれ,水中の画像の背景は,水の色を含め全体的に青色で,下方に岩陰が描かれている点,釣り針にかかった魚影は,水中全体を動き回るが,背景の画像は静止している点において共通するとはいうものの,上記共通する部分は,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず,また,その具体的表現においても異なるものである。
そして,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の全体について,同心円が表示された以降の画面をみても,被告作品においては,まず,水中が描かれる部分が,画面下の細い部分を除くほぼ全体を占める略正方形であって,横長の長方形である原告作品の水中が描かれた部分とは輪郭が異なり,そのため,同心円が占める大きさや位置関係が異なる。また,被告作品においては,同心円が両端に接することはない上,魚影が動き回っている間の同心円の大きさ,パネルの配色及び中心の円の部分の図柄が変化するため,同心円が画面の上下端に接して大きさ等が変わることもない原告作品のものとは異なる。さらに,被告作品において,引き寄せメーターの位置及び態様,魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係や,中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと,円の中心部分の表示に応じてアニメーションが表示され,その後の表示も異なってくるなどの点において,原告作品と相違するものである。その他,後記エ()のとおり,同心円と魚影の位置関係に応じて決定キーを押した際の具体的表現においても相違する。なお,被告作品においては,同心円が表示される前に,水中の画面を魚影が移動する場面が存在する。
以上のような原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると,被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が,その全体から受ける印象を異にし,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない。
エ 第1審原告の主張について
() 第1審原告は,原告作品には,水中のみを画像として水中の真横から水平方向の視点で描き,視点が固定されている点に表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,水中のみを描き,水平方向からの視点で水面及びその上を描写しない釣りゲームは,原告作品及び被告作品以外に少なくとも5作品は存在するのであるから,上記のように水中を描くことは,ありふれたものということができる。
() 第1審原告は,原告作品は,中心からほぼ等間隔である三重の同心円が描かれ,同心円の中心が画面のほぼ中央に位置し,最も外側の円の大きさは,水中の画像の約半分を占める点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
上記のうち,三重の同心円を描くことは,従前の釣りゲームにおいて見られない特徴であり,被告作品においても,三重の同心円を採用したことから,第1審被告らは,この点につき原告作品からヒントを得たものであると推測される。
しかしながら,釣りゲームに三重の同心円を採用することは,アイデアというべきものであり,同心円の具体的態様は,前記イのとおり,表現が異なる。よって,同心円を採用したことが共通することの一事をもって,表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。なお,被告作品における同心円は,大きさが9段階に変化し,常に,水中の画像の約半分を占めるわけではない。
() 第1審原告は,原告作品には,背景の水中の色が全体的に薄暗い青で,水底の左右両端付近に同心円に沿うような形で岩陰があり,水草,他の生物,気泡等が描かれていない点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
しかし,釣りを描く上において,海や川の水の色が青系の色で表現されることや,水中の背景に岩陰を描くことは,ありふれた表現である。しかも,原告作品の青色に比べ,被告作品の青色は,やや明るい色調であり,同一の青色を用いているわけではないし,両作品において岩陰の具体的な描き方及びその位置も必ずしも同一とはいえない。
() 第1審原告は,原告作品は,魚の姿を黒色の魚影とし,魚の口から影像上部に伸びる黒い直線の糸の影を描いている点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
しかし,釣りゲームにおいて,魚や釣り糸を表現すること自体は,ありふれたものというべきである。そして,魚を具体的な魚の絵ではなく,魚影をもって表現すること自体は,アイデアの領域というべきものであるし,従前から,魚を魚影により表現したゲームも存在したものである。しかも,原告作品における魚影は,円盤状の胴体と三角形の尾びれとの組合せにより側面からみた魚であるのに対し,被告作品における魚影は,尾びれ,背びれ及び胸びれを描いた前面からみた魚である点において,具体的表現は異なっている。なお,釣り糸についても,原告作品では,魚と連動して動くのに対し,被告作品では,魚の動きにかかわらず,釣り糸が常に画面左上に伸びている点においても,その具体的表現が異なる。
() 第1審原告は,原告作品には,同心円や背景画像は静止し,釣り針にかかった魚影のみが,頻繁に向きを変えながら水中全体を動き回る点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
しかしながら,被告作品においては,同心円は静止しているわけではなく,大きさやパネルの色等が変化するのであって,釣り針にかかった魚影のみが動き回るとはいえない点において,原告作品とは異なるものである。
() 第1審原告は,原告作品には,静止した同心円と動き回る魚影の位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現している点において表現上の本質的な特徴がある旨主張する。
しかしながら,前記(2)エのとおり,フラッシュゲームにおいて,タイミングを計ってボタンをクリックするというゲームのルールがあり,一定の範囲に対象物が入った場合にクリックすることは,上記ルールのうち,ある対象物と他の対象物が重なるようにタイミングを計ってクリックするパターンで,一方の対象物が固定で他方の対象物が移動するパターンに属するルールである。すなわち,静止した同心円と動き回る魚影の位置関係によって釣り糸を巻くタイミングを表現することは,ゲームのルールであり,画面全体を素早くかつ不規則に動き回る対象物が,画面上に設けられた一定の枠内にあるときに決定キーを押すことを成功とし,一定回数成功した場合等に当該ステージをクリアとすることは,ゲームのルールにほかならず,いずれもアイデアの範疇に属するものである。そして,前記(2)(),イ()のとおり,原告作品においては,中央の円に魚影がある際に決定キーを押した場合は「PERFECT」,中央の円と外側のドーナツ形状部分との間に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GREAT」,上記ドーナツ形状部分の内側に魚影がある際に決定キーを押した場合は「GOOD」,それ以外の時に決定キーを押した場合は「BAD」と表示されるのに対し,被告作品においては,同心円の緑色で配色された部分に魚影がある際に決定キーを押した場合は「Good」,同心円の紫色で配色された部分及び同心円以外の部分に魚影がある際に決定キーを押した場合は「Out」と表示されるのであって,具体的な位置関係は異なっており,どの位置でタイミングを表現するかが共通するわけではない。
() 第1審原告は,個々の要素がそれぞれバラバラでは表現上の創作性を有しない場合でも,複数の要素が全体として表現上の創作性を有することがあるから,一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して,パーツに分けて創作性の有無や,アイデアか表現かを判断することは妥当ではないと主張する。
しかしながら,著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益であり,かつ必要なことであって,その上で,作品全体又は侵害が主張されている部分全体について,表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することは,正当な判断手法ということができる。
本件において,魚の引き寄せ画面全体についてみると,被告作品においては原告作品にない画面やアニメーションの表示が存在することや,水中が描かれた部分の輪郭が異なり,そのため,同心円が占める大きさや位置関係が異なること,同心円の大きさ,配色及び中心の円の部分の図柄の変化,魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係等の具体的表現が異なっていることにより,これに接する者が魚の引き寄せ画面全体から受ける印象を異ならせるものである。
() 第1審原告は,あくまで第1審原告が設定した枠内での対比をすべきであり,訴訟物の範囲外の,無関係の画面を持ち出すのは失当であると主張する。
翻案権の侵害の成否が争われる訴訟において,著作権者である原告が,原告著作物の一部分が侵害されたと考える場合に,侵害されたと主張する部分を特定し,侵害したと主張するものと対比して主張立証すべきである。それがまとまりのある著作物といえる限り,当事者は,その範囲で侵害か非侵害かの主張立証を尽くす必要がある。
しかし,本件において,第1審原告は,「魚の引き寄せ画面」についての翻案権侵害を主張するに際し,魚の引き寄せ画面は,同心円が表示された以降の画面をいい,魚の引き寄せ画面の冒頭の,同心円が現れる前に魚影が右から左へ移動し,更に画面奥に移動する等の画面は,これに含まれないと主張した上,被告作品の魚の引き寄せ画面に現に存在する,例えば,円の大きさやパネルの配色が変化することや,中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと,「必殺金縛り」,「確変」及び「一本釣りモード」などの表示がアニメーションとして表示される画面等を捨象して,原判決別紙比較対照表1における特定の画面のみを対比の対象として主張したものである。このように,著作権者が,まとまりのある著作物のうちから一部を捨象して特定の部分のみを対比の対象として主張した場合,相手方において,原判決別紙報告書(キャスティング・魚の引き寄せ影像)1(3)及び2(2)のとおり,まとまりのある著作物のうち捨象された部分を含めて対比したときには,表現上の本質的な特徴を直接感得することができないと主張立証することは,魚の引き寄せ画面の範囲内のものである限り,訴訟物の観点からそれが許されないと解すべき理由はない。
なお,本件訴訟の訴訟物は,原告作品に係る著作権に基づく差止請求権等であって,第1審原告の「魚の引き寄せ画面」に関する主張は,それを基礎付ける攻撃方法の1つにすぎないから,第1審被告らの上記防御方法が,訴訟物の範囲外のものであるということはできない。仮に,本件訴訟の訴訟物が原告作品のうちの「魚の引き寄せ画面」に係る著作権に基づく差止請求権等であると解するとしても,第1審被告らの上記防御方法は,上記訴訟物の範囲外のものであるということはできない。
オ まとめ
以上のとおり,被告作品の魚の引き寄せ画面は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品の魚の引き寄せ画面と同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,翻案に当たらない。
(4) 小括
被告作品の魚の引き寄せ画面の表現から,原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。よって,第1審被告らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る翻案権を侵害するものとはいえず,これを配信したことが,著作権法28条による公衆送信権を侵害するということもできない。また,同様に,第1審被告らが魚の引き寄せ画面を含む被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る同一性保持権を侵害するということもできない。
2 主要画面の変遷に係る著作権及び著作者人格権の侵害の成否(争点1-2)について
(1) 認定事実
証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
()
(2) 翻案の成否
ア 画面の選択と変遷について
原告作品と被告作品とは,いずれも,「トップ画面」,「釣り場選択画面」,「キャスティング画面」,「魚の引き寄せ画面」及び「釣果画面(釣り上げ成功時又は釣り上げ失敗時)」が存在し,その画面が,ユーザーの操作に従い,①「トップ画面」→②「釣り場選択画面」→③「キャスティング画面」→「魚の引き寄せ画面」→④「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」の順に変遷し,上記④「釣果画面(釣り上げ成功時)」又は「釣果画面(釣り上げ失敗時)」から上記①の「トップ画面」に戻ることなくゲームを繰り返すことができる点において,共通する。
しかし,原告作品及び被告作品は,いずれも携帯電話機用釣りゲームであり,釣り人の実際の行動という社会的事実に立脚し,釣りの準備のため釣り場の情報を収集し,目的の魚種に適した釣具を選んだり購入したりして装備を整え,釣り場に行って釣りを行い,釣果を確かめ,同じ釣り場で引き続き釣りをするかどうかを決め,違う獲物を狙う場合には装備を改めたり釣り場を変えたりするなど,基本的な釣り人の一連の行動を中心として,この社会的事実の多くを素材として取り込み,釣り人の一連の行動の順序に即して配列し構成したものである。
前記(1)ウのとおり,上記のような画面を備えた釣りゲームが従前から存在していたことにも照らすと,釣りゲームである原告作品と被告作品の画面の選択及び順序が上記のとおりとなることは,釣り人の一連の行動の時間的順序から考えても,釣りゲームにおいてありふれた表現方法にすぎないものということができる。また,被告作品には,原告作品にはない決定キーを押す準備画面や魚が画面奥に移動する画面があり,逆に原告作品にある海釣りか川釣りかを選択する画面や魚をおびき寄せる画面がないなどの点においても異なること,原告作品と被告作品とはその他にも具体的相違点があることも併せ考えると,上記の画面の変遷に共通性があるからといって,表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない。
イ トップ画面について
原告作品と被告作品のトップ画面は,タイトルが記載されていること,湾の形をした釣り場全体を描いたイラストの下に釣り場選択画面へのリンクが貼られていること,日誌画面,攻略法画面,釣具画面及びショップ画面へのリンクが配置されていること,イベント等告知画面へのリンクや特定のユーザーの紹介画面へのリンクが配置されていること等の点において共通している。
しかし,ゲームのトップ画面にタイトルやイラストが記載されることは,ありふれたものといわざるを得ないし,携帯電話機用釣りゲームにおいて,釣り場選択画面へのリンクが配置されるのも,釣りゲームの展開上,ありふれたものである。また,日誌画面,攻略法画面,釣具画面及びショップ画面へのリンクの配置についても,釣りゲームにおけるユーザーの主要な行動パターンとして,釣具を購入するなどして装備し釣りをすること,釣りの記録を見ること,釣りに関する情報(釣り方や攻略法)を知ること及び伝えることがあり,それが現実の釣り人の基本的な行動パターンと共通することに照らすと,上記「日誌」,「攻略法」,「釣具」及び「ショップ」へのリンクを,携帯電話機向けウェブページのトップ画面にまとめて配置することは,利用者がよく利用するページへのリンクを上方にまとまりよく配置するという利用者の便宜を考慮した,ありふれたものといわざるを得ない。なお,原告作品と被告作品とでは,上記タイトル,イラストや各リンクの具体的な文言,図柄,配置等が異なっているなど,具体的表現において多数の相違点が存在する。
ウ 釣り場選択画面について
原告作品と被告作品の釣り場選択画面は,海の側から釣り場のある湾を上空からの視点で,海と山を描き,砂浜は白砂で,海面に白波を立たせ,灯台を置いたイラストに,釣り場の名前が合計4つ配置されていること,ユーザーが行ける各釣り場の名称に貼られた各釣り場のキャスティング画面へのリンクと,ユーザーが行けない釣り場の名称が,並べて配置されていること,「釣りの準備をする」として,釣具えらび,釣具を買う,攻略を見る及び魚の釣り方のリンクが配置されていること,「釣り場情報」として,各釣り場のイラスト・名称や,「キャスティング画面」へのリンク,その釣り場で大きい魚を釣ったユーザーのランキングを示す画面へのリンク,攻略・雑談掲示板の画面へのリンクなどが配置されていること等において共通する。
しかしながら,釣り場をイラストにより掲載することはアイデアにほかならず,両作品の釣り場選択画面のイラスト自体は全く異なるものである。また,複数の釣り場の中から釣り場を選択して釣りをするゲームにおいて,釣り場のある湾を上空からみたイラストで表示することや,釣り場に山,白砂,白波及び灯台を表すことは,他の釣りゲームにおいても多数存在する,ありふれたものである。また,原告作品は,一般的な海釣りの釣り場のうち,港や防波堤,砂浜,小磯周り及び河口の各釣り場を,ひめみ港,すさの浦,つるぎ岬及びかがみ橋という4つの釣り場で表現しているのに対し,被告作品は,海釣り施設,港や防波堤,砂浜及び小磯周りに対応する釣り場を,はまな公園,あさしお堤防,みかづき浜及びしまかぜの磯という釣り場に対応させて設置しているところ,これらの釣り場は,いずれも,海釣りの釣り場として一般的に想定される釣り場であり,釣りの経験を積むにしたがって,海釣り施設,防波堤,砂浜,そして磯へと,より難易度の高い釣り場にチャレンジしていくことは釣り人の常識である。
また,釣具えらび,釣具を買う,攻略を見る及び魚の釣り方のリンクの配置も,釣りゲームにおけるユーザーの具体的な行動パターンに合致する,ありふれた配置である。
SNSのようなコミュニティサイトにおいて,特定のトピックごとに掲示板を備え,トピックに興味関心を持ったユーザーが自由にコメントを書いていくことが一般的に行われ,攻略掲示板や雑談掲示板を設けること自体は,ゲームの攻略サイトや携帯電話機向けのウェブページ閲覧機能を用いるゲームでは一般的に行われているものであることは,前記(1)エ認定のとおりである。また,ランキングを設けること自体はアイデアであり,また,前記(1)ウ認定のとおり,コレクションゲームにおいてユーザーが収集を行う場所別のランキングを設けるものも複数存在する。これらのことからも,掲示板やランキングを設けることや,それらのリンクを配置することは,ありふれたものというべきであり,また,その具体的な掲示板の画面やランキングの画面の表現も,異なっている。
エ キャスティング画面について
原告作品(海の釣り場の場合)と被告作品のキャスティング画面は,釣り人の姿は表示されないが,釣り人からの目線で,画面の上段に空,中段に水面,下段に釣り人の立っている場所が表現されていること,キャストする目標を指し示すマークが決まった動きをし,ユーザーが決定キーを押すと,釣り竿を振る動きがアニメーションで表現されるとともに,その箇所にルアー又は仕掛けがキャストされることにおいて,共通する。
しかし,いかなる視点から画面を描くかはアイデアの範疇に属する上,釣り人の視点で釣り場を描いた釣りゲームも存在する。また,その具体的表現には,イラスト,キャストする場所を示す矢印,釣り竿の表示及びキャストしてから魚が餌等に食いつくまでの影像,魚が釣り針にかかったことを示す文字の表示等,印象的な画面において多数の相違点が存在する。
オ 魚の引き寄せ画面について
原告作品と被告作品の魚の引き寄せ画面については,前記1のとおりである。なお,原告作品のキャスティング画面から魚の引き寄せ画面への遷移は,従前の釣りゲームに同様のものが存在するのに対し,被告作品においては,魚影の現れ方等,具体的表現が異なる。
カ 釣果画面(釣り上げ成功時)について
原告作品と被告作品の釣果画面(釣り上げ成功時)は,画面最上部に,釣り上げた魚のイラスト,名前,大きさ,評価を示す「☆」印,釣果記録のポイントが記載されていること,もう一度釣る画面へのリンクや釣具,ショップ,攻略法や日誌の各画面へのリンクが配置されていることにおいて共通する。
しかしながら,釣り上げた魚のイラスト,名前,大きさ,ユーザーが当該魚を釣ることによって獲得したポイントの全部又は一部を表示することが,他の釣りゲームにも存在することは,前記(1)ウ認定のとおりであり,ありふれたものである。そして,両作品の具体的表現は異なっている。また,トップ画面以外にも,釣具の装備や購入,釣りの記録を見たり,釣り方を知り,釣りの攻略法を知り,伝えたりするといった目的を達するためのリンクを配置することは,利用者の便宜を考慮した,アイデアというべきものである。
キ 釣果画面(釣り上げ失敗時)について
原告作品と被告作品の釣果画面(釣り上げ失敗時)は,「?」印を中央部に付した魚影の影像,釣り上げに失敗した魚の種類とおよその大きさを表示していること,キャスティング画面,釣り場選択画面,釣具,ショップ及び攻略法の画面へのリンクを配置していることにおいて共通する。
しかしながら,コレクションゲームにおいて,収集に失敗した対象物の名称,およその大きさ,対象物の影像や,「?」を表示するものが存在することは,前記(1)ウ認定のとおりであり,実際の釣りの場面での釣り人の行動を反映したありふれたものである。また,トップ画面以外にも,上記リンクを配置することは,アイデアというべきものである。
ク 本質的な特徴の直接感得について
以上のとおり,被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品のそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく,また,具体的な表現においては相違するものであって,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。
ケ 第1審原告の主張について
() 第1審原告は,非主要画面においても類似点が多数存在するものであり,主要画面の遷移の共通性とあいまって,被告作品から原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる旨主張する。
しかしながら,第1審原告は,他方において主要画面の共通性を強調しているのであり,それが翻案といえないことは,前記のとおりである。そして,第1審原告が上記非主要画面において類似点であると主張する点も,単なるアイデアであるか,又はありふれたもので創作性のない部分であり,非主要画面の素材の選択と配列についても,原告作品と被告作品とは,アイデアないし表現上の創作性のない部分において類似しているにすぎない。
() 第1審原告は,創作性は著作物を全体的に観察して判断されるもので,一つのまとまりのある著作物を個々の構成部分に分解して,パーツに分けて創作性の有無や,アイデアか表現かを判断することは妥当ではないとも主張する。
しかしながら,著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告作品と被告作品の共通部分が表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益であり,かつ必要なことであって,その上で,作品全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することが,正当な判断手法ということができることは,前記1のとおりである。
なお,原告作品と被告作品との共通点それ自体がアイデアや創作性のないものにとどまる場合であっても,これらのアイデア等の組合せが作品の中で重要な役割を担っており,これらのアイデア等の組合せが共通することにより,被告作品に接する者が原告作品の表現上の本質的な特徴を感得することができるのであれば,翻案と認められることがあり得ないではないとしても,本件において,個々の画面は異なり,具体的な表現も異なるものであり,表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとまではいえない。
() 第1審原告は,原告作品の主要画面であるトップ画面から,釣り場選択画面,キャスティング画面,魚の引き寄せ画面及び釣果画面への遷移のいずれの表現も,他の釣りゲームには見られない表現であり,主要画面の選択と配列の共通点については,原告作品のようにする必然性はなく,他の選択もあり得るが,第1審原告は,あえて原告作品のような主要画面の選択と配列を選択し,遷移を個性的に表現したものであるところ,被告作品はこれと同様の画面の選択と配列をしたものであると主張する。
表現に選択の余地がない場合には,その表現が共通するとしても著作権侵害とはいえないが,逆に,選択の余地があるからといって,必ずしも常にそれが著作権侵害といえるわけではない。そして,著作権法上,著作物として保護されるのは,そのような選択に関するアイデア自体ではなく,具体的表現である。したがって,画面の選択や配列に選択の余地があったとしても,実際に作成された表現がありふれたものである限り,それが共通することを理由として,翻案権侵害ということはできないし,具体的な表現が異なることにより,表現上の本質的な特徴が直接感得できなくなる場合がある。
本件において,被告作品の画面の選択と配列から原告作品のそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。第1審原告が主張するような抽象化された視点やアングルに,表現上の本質的な特徴を認めることはできない。
コ まとめ
以上のとおり,被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告作品のそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者が原告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,翻案に当たらない。
(3) 小括
被告作品の画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現から,原告作品のそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできない。よって,第1審被告らが被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る翻案権を侵害するものとはいえず,これを配信したことが,著作権法28条による公衆送信権を侵害するということもできない。また,同様に,第1審被告らが被告作品を製作したことが,第1審原告の原告作品に係る同一性保持権を侵害するということもできない。
3 不正競争防止法2条1項1号に係る不正競争行為の成否(争点2)について
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(3) 小括
以上のとおり,原告影像が第1審原告を表示するものとして周知な商品等表示であるとはいえないし,被告影像1及び2が商品等表示として使用されているとはいえないから,これを掲載することが類似の商品等表示を使用して混同を生じさせる行為に該当するということはできない。原告影像の周知商品等表示性を根拠に被告影像1及び2の掲載行為を対象とする第1審原告の不正競争防止法2条1項1号に係る主張は,理由がない。
4 法的保護に値する利益の侵害に係る不法行為の成否(争点3)について
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5 結論
以上の次第で,第1審原告の請求はいずれも理由がなく,これを全部棄却すべきものである。これを一部認容した原判決は一部失当であり,第1審被告らの控訴は理由があるから,原判決中第1審被告ら敗訴部分を取り消した上,同部分に係る第1審原告の請求を棄却することとし,また,第1審原告の控訴及び当審における請求の拡張部分は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。