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著作権判例セレクション
【同一性保持権/侵害主体論】ゲームソフト中のキャラクターのコスチューム画像を改変し得る編集ツールによって作成されたメモリーカードを使用につき、同一性保持権侵害を認定した事例/そのような編集ツールを作成販売する者の侵害主体性
▶平成14年08月30日東京地方裁判所[平成13(ワ)23818]▶平成16年03月31日東京高等裁判所[平成14(ネ)4763]
(注) 本件は,プレイステーション2(「PS2」)用ゲームソフト「DEAD OR ALIVE 2」(DVD-ROMに収録されている。「本件ゲームソフト」という。)について著作権及び著作者人格権を有する原告が,そのキャラクターのコスチューム画像を改変し得る本件編集ツール(本件ゲームソフトに「かすみ」という名称で登場するキャラクターについて,そのユーザーが裸体の「かすみ」を選択できるようにメモリーカード上のパラメータ・データを編集できるプログラム)を作成の上,それを本件CD-ROMに収録し,販売する被告の行為は,原告の翻案権又は同一性保持権を侵害するものであると主張して,損害の賠償を請求した事案である。
1 争点(1)について
(1) 上記争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。
ア 本件ゲームソフトは,ゲームを行う主人公(プレイヤー)が12人のキャラクターの中から1人のキャラクターを任意に選択し,さらに複数のコスチュームから1つを任意に選択し,8つのゲームモードから1つを任意に選択した上で,対戦相手と戦闘し,戦闘に勝利すると場面が変わり他の対戦相手と戦闘するというストーリーを内容とする。
イ プレイヤーが,市販のPS2用メモリーカードをPS2所定のスロットに挿入した状態で本件ゲームソフトを起動させると,主要登場キャラクターの戦闘姿をデモンストレーションするオープニングムービーがモニター上に表示される。
このオープニングムービー中にゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」が登場する。これは本件ゲームソフトのストーリー中に「偽かすみ」がクローン技術によって作られたとの設定があり,そのストーリーの中で「かすみ」が捕らえられているシーンを表示したものである。
ウ プレイヤーが,PS2所定のアナログコントローラを操作し,「CHARACTER SELECT」と題する画面を表示させると,画面下中央部分に12人のキャラクターの顔を表示したアイコンが表示される。ユーザーはアナログコントローラを操作し,この中の1人のキャラクターのアイコンにカーソルを合わせて選択すると,画面左下部分に,「C1」,「C2」等が白い文字で記載された,角がやや丸い横長の長方形のアイコンが縦に並んで表示される。これは当該キャラクターのコスチューム数データの数だけ表示される。プレイヤーがこの中から1つのコスチュームのアイコンにカーソルを合わせると,画面上左側にコスチュームが表示され,そのアイコンをプレイヤーが選択すると,戦闘シーンにおいて当該キャラクターが着用するコスチュームが決定される。
エ プレイヤーが12人のキャラクターから「かすみ」というキャラクターを選択した場合,初期段階では,画面左下に下から順に「C1」,「C2」と表示された2つのアイコンから2種類のコスチュームを選択することができ,対戦相手との戦闘に勝利しゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増えていき,最終的には6種類のコスチュームを選択することができるようになる。上記コスチュームの中には本件裸体画像は含まれていない。
オ 本件ゲームソフトにおいては,ユーザーがセーブコマンドを選択した際にメモリーカードに記録されているパラメータ・データ・ファイルの13E0A番目から13E15番目のアドレスにその時点で各キャラクターが選択可能なコスチュームの数を記録している。「かすみ」の場合,13E0F番目のアドレスにゲームの進行具合に応じて「02」から「06」までのいずれかが記録され,このアドレスに「02」というデータが格納されたときはプレイヤーは2種類のコスチュームを選択でき,「06」というデータが格納されたときは6種類のコスチュームを選択できる。本件ゲームソフトにおいては,通常,13E0F番目のアドレスに「07」というデータが格納されることはなく,仮に「07」というデータが格納された場合でも,チェックサムプログラムによりエラーとなる。したがって,コスチュームリミットテーブル上の「かすみ」の使用可能なコスチューム数の最大値は6である。
カ 「かすみ」については,その裸体画像が3Dポリゴンデータの形式で,本件ゲームソフトに格納されている。
キ 被告は,本件ゲームソフトのプレイヤーが「かすみ」について戦闘シーンの際に,裸体画像を選択できるように,メモリーカード上のパラメータ・データを編集できるプログラム(本件編集ツール)を開発し,これを本件CD-ROMに収録して,本件CD-ROMを包装したCD-ROMマガジン「お楽しみCD」30号及び31号として全国490店舗に販売した。
なお「お楽しみCD」30号のパッケージ表紙に「ここまでやっていいのか?ヌードのかすみでゲームする!PS2 DEAD OR ALIVE2」との宣伝文言が掲載され,被告作成のホームページにも本件編集ツールの効果として「[PSメモリーカード変更]裸霞,全コスチューム使用可能」との記載がある。
ク 本件CD-ROMを購入したユーザーは,それに収録されている本件編集ツールによってPS2用メモリーカードに記録されたパラメータ・データを編集して,本件メモリーカードを作成することができる。
本件編集ツールは,メモリーカードの13E0F番目のアドレスに格納されているデータを「07」とすると共に,これに応じてチェックサムデータを変更するものである。
ケ ユーザーが,PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し,12人のキャラクターの中から「かすみ」を選択すると,初期段階から,画面左下の「C1」から「C6」までのアイコンに加えてさらに「C6」の上に「C2」と表示され,合計7種類のコスチュームが選択可能となる。ユーザーが「C2」のアイコンにカーソルを合わせると,画面上左側に「かすみ」の裸体の静止画像が表示される。プレイヤーが「C6」の上の「C2」を選択し,8つのゲームモードのうちストーリーモードを選択すると,本件裸体画像の「かすみ」が対戦相手と戦闘することになる。
(2) 本件ゲームソフトの映像は,思想又は感情を創作的に表現したもので,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものと解される。そして,上記(1)で認定した事実によると,本件編集ツールによって編集された本件メモリーカードを使用して,本件裸体画像を表示することは,本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチュームの映像を改変するものであって,原告の本件ゲームソフトに対して有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。なぜなら,上記(1)で認定した事実によると,通常市販されているメモリーカードを使用した場合には,「かすみ」の使用可能なコスチューム数の最大値は6であって,本件裸体画像を表示することはできないところ,本件メモリーカードを使用することによって,上記コスチューム数の制限を超え,本件裸体画像を表示することが可能になるからである。
以上のとおり,通常市販されているメモリーカードを使用した場合には,表示されない本件裸体画像が,本件メモリーカードを使用することによって,表示される以上,上記(1)認定のとおり,本件ゲームソフトには,「かすみ」の裸体画像が3Dポリゴンデータの形式で格納されており,また,オープニングムービー中に「かすみ」の裸体画像が表示され,その他,前記において被告が主張する事実が存するとしても,これらのことは,上記同一性保持権を侵害するとの認定を左右することはないというべきである。
(3)
上記(1)で認定した事実によると,被告は本件編集ツールを含む本件CD-ROMを雑誌に収録して販売し,多数の者が現実に本件CD-ROMを入手したものと認められる。そうすると,被告は,現実に本件編集ツールを使用して作成した本件メモリーカードを使用する者がいることを予期した上で本件CD-ROMを流通に置いたものということができ,他方,本件編集ツールを購入したユーザーが,現実にこれを使用して本件メモリーカードを作成し,本件裸体画像を表示させたことを推認することができる。また,上記(1)で認定した事実及び弁論の全趣旨によると,ユーザーによる本件メモリーカードの作成は,ユーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによってすることができ,ユーザーがそのメモリーカードを通常のメモリーカードの使用方法に従って使用することにより,本件裸体画像が表示されるものであり,そこには,ユーザー固有の判断は必要とされていないものと認められる。
ところで,上記(1)で認定したとおり,ユーザーは本件編集ツールによって作成される本件メモリーカードを使用することにより,本件裸体画像を表示することが可能になるにとどまらず,最初から本件裸体画像を含むすべての「かすみ」のコスチュームを戦闘シーンで使用することが可能になるものと認められるが,前記(1)キ認定のとおり,「お楽しみCD」30号のパッケージ表紙に「ここまでやっていいのか?ヌードのかすみでゲームする!PS2 DEAD OR ALIVE2」との宣伝文言が掲載され,被告作成のホームページにも本件編集ツールの効果として「[PSメモリーカード変更]裸霞,全コスチューム使用可能」との記載があることからすると,本件編集ツールが,本件裸体画像を表示することができることを主要な目的としていることは明らかである。
以上述べたところを総合すると,本件編集ツールは,本件裸体画像を表示することができることを主要な目的としているところ,被告は,そのような本件編集ツールを使用して作成した本件メモリーカードを使用して,本件裸体画像を表示させる者がいることを予期して,本件編集ツールを含む本件CD-ROMを多数販売し,その結果,ユーザーが被告の指示した方法に従って機器を操作することによって本件メモリーカードを作成し,それを通常のメモリーカードの使用方法に従って使用することにより,本件裸体画像が表示され,本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから,本件CD-ROMに本件編集ツールを収録して販売し,その使用を意図して流通に置いた被告は,本件メモリーカードの使用による本件ゲームソフトの同一性保持権の侵害を惹起したものとして,民法709条の不法行為に基づく損害賠償責任を負うと解するのが相当である(最高裁判所第3小法廷平成13年2月13日判決参照)。
(4)
被告は,ユーザーによる本件メモリーカードを使用する行為は,通常それによって表示された「かすみ」の裸体画像を公衆に見せるものではないから,同一性保持権侵害に当たらないと主張するが,上記(3)で述べたとおり,被告は,本件編集ツールを本件CD-ROMに収録して多くの本件CD-ROMを販売することにより,それを買い受けた者が,本件メモリーカードを使用して,本件ゲームソフトを改変するという結果を生じさせたのであるから,その結果は,広範囲に生じており,不特定多数の者が改変された映像を見たものと認められる。したがって,被告の行為により同一性保持権侵害が生じたものということができることは明らかである。
(5) 被告は,現実に利用行為を行っているわけではない者を規範的に利用行為の主体と認定するためには,①その者の管理,支配の下に,現実の行為者が当該利用行為を行っていること,②その者が,現実の行為者により利用行為がされることにより利益の得ることを目的としていること,以上の要件が具備されることを要するところ,本件については,これらの要件を具備していないから,被告を侵害行為の主体と考えることはできないと主張する。
上記①,②の要件を具備している者が,著作権侵害の主体として責任を負うことがあるとしても,著作権侵害の責任を負う者が,このような者に限定される理由はない。本件においては,前記(3)のとおり,被告は,本件編集ツールを含む本件CD-ROMを多数販売し,その結果,ユーザーが,本件メモリーカードを作成使用することにより,本件ゲームソフトが改変されたものと認められるから,このような事実関係の下では,被告について不法行為の成立を認めるのが相当であって,それが妨げられる理由はない。
(6) 被告は,本件CD-ROMには,本件編集ツール以外に様々なソフトやデータが収録されていると主張するが,このことは,複数のソフトウェア等が一つのCD-ROMに収録して販売されたというにすぎないから,この事実は,前記不法行為の成立を妨げるものではない。
(7) 以上の次第であるから,被告は原告の本件ゲームソフトに対する同一性保持権を侵害した者として不法行為責任(民法709条)を負うものというべきである。
2 争点(2)について
上記1で認定判断したとおり,被告の同一性保持権侵害行為の内容は,本件ゲームソフトにおいて,本件裸体画像を表示することができるようにしたものである。そして,前記(1)キ認定のとおり,被告は,本件CD-ROMを包装したCD-ROMマガジン「お楽しみCD」30号及び31号を全国490店舗に販売したことが認められる。これらの事実に,本件に現れたその他の事情を総合すると,被告の同一性保持権侵害行為による慰謝料の額は,200万円が相当である。
なお,前記の事実があり,これが不法行為に当たるとしても,認容額は,上記金額を超えることはないものと認められるので,この点は,判断しないこととする。
3 よって,原告の請求は主文の限度で理由がある。
なお,翻案権侵害を理由とする請求は,これが認められたとしても,上記認容額を超えることがないものと認められるので,この点は,判断しないこととする。
[控訴審同旨]
1 本件ゲームソフトの改変について
(1)
上記前提となる事実と証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 被控訴人が著作者として本件同一性保持権を有する本件ゲームソフトは,ゲームを行う主人公(プレイヤー)が,「ストーリーモード」,「チームバトルモード」,「タイムアタックモード」,「スパーリングモード」,「サバイバルモード」,「バーサスモード」,「タッグバトルモード」及び「オプションモード」の8ゲームモードから一つを選択し,「かすみ」,「レイファン」,「ゲン・フー」,「ティナ・アームストロング」,「ザック」,「ハヤブサ」,「あやね」,「ジャン・リー」,「エレナ」,「バース・アームストロング」,「レオン」及び「アイン」の12人のキャラクターの中から一人のキャラクターを選択し,さらに,複数のコスチューム(「かすみ」については,「C1」は忍装束(青),「C2」は忍装束(白),「C3」は忍装束(赤),「C4」は忍装束(黒),「C5」は制服,「C6」は制服(冬服)である。)から一つを選択した上でプレイするが,「ストーリーモード」においては,戦闘に勝利すると場面が変わり,次の対戦相手と戦闘するというストーリーを内容とする。ユーザーが,メモリーカードをPS2所定のスロットに挿入した状態で本件ゲームソフトを起動させると,登場キャラクターの戦闘姿をデモンストレーションするオープニングムービーがモニター上に表示されるが,その中で,ゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」が登場する。これは本件ゲームソフトのストーリー中に「偽かすみ」がクローン技術によって作られたとの設定があり,そのストーリーの中で「かすみ」が捕らえられているシーンを表示したものである。ユーザーが,コントローラを操作し,「ストーリーモード」を選択し,「CHARACTER SELECT」と題する画面を表示させると,画面下中央部分に上記12人のキャラクターの顔を表示したアイコンが表示される。ユーザーがコントローラを操作し,この中から一人のキャラクターのアイコンにカーソルを合わせて選択すると,画面左下部分に,「C1」,「C2」等の文字を角がやや丸い横長の長方形で囲んだコスチューム選択アイコンが縦に並んで表示される。コスチューム選択アイコンは,当該キャラクターのコスチューム数データの数だけ表示され,ユーザーがこの中から一つのコスチュームのアイコンにカーソルを合わせると,画面上左側に当該コスチュームが表示され,そのアイコンをユーザーが選択すると,対戦画面において当該キャラクターが着用するコスチュームが決定される。ユーザーが上記12人のキャラクターから「かすみ」を選択した場合,初期段階では,画面左下に下から順に「C1」,「C2」と表示された二つのコスチューム選択アイコンが示す上記2種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青),「C2」は忍装束(白))から選択することができ,対戦相手との戦闘に勝利してゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増え,最終的には,6種類のコスチュームを選択することができるようになる。上記6種類のコスチューム中に裸体影像は含まれていないのに,「かすみ」の裸体影像は,ポリゴンデータとして本件ゲームソフトに収録されているが,その理由は,被控訴人が各キャラクターの影像のポリゴンデータを製作するに当たっては,まず,コスチュームを着けていない状態の各キャラクターの体の基本線を決めるポリゴンデータである「素体」を製作した上,「素体」を基本に各コスチュームを着けたキャラクターのポリゴンデータを製作したものであるところ,その際,オープニングムービーの上記シーンにおいて使用するポリゴンデータとして,「かすみ」の「素体」のポリゴンデータを利用したためである。上記「かすみ」の裸体影像は,対戦画面で使用することを予定して製作したものではないため,対戦画面で使用することを予定して製作されたコスチュームを着けた「かすみ」とは異なり,まばたきをするモーションデータがなく,まばたきをしない。
イ 本件ゲームソフトにおいて,ユーザーがセーブコマンドを選択した際に,メモリーカードに記録されているパラメータデータの13EOAないし13E15のアドレスにその時点で各キャラクターが選択可能なコスチュームを記録している。「かすみ」の場合,13E0Fのアドレス(以下「アドレス13E0F」という。)に,ゲームの進行具合に応じて,2ないし6のいずれかのデータが記録され,アドレス13E0Fに2というデータが収録されたときは,ユーザーは2種類のコスチュームを選択でき,6というデータが収録されたときは,6種類のコスチュームを選択できる。本件ゲームソフトにおいて,通常にプレイした場合,アドレス13E0Fに7というデータが収録されることはなく,仮に,7というデータが収録された場合は,チェックサムプログラムによりチェックサム値の異常が検出され,エラーとなる。また,コスチュームリミットテーブル上の「かすみ」の選択可能なコスチュームの最大値は6である。
ウ 本件編集ツールは,メモリーカードに記録されたアドレス13E0Fの本件パラメータデータを7にするとともに,これに合わせてチェックサムデータを変更する(以下,これらの処理を「本件編集」という。)ものである。本件編集ツールは,本件CD-ROMに,多数のソフトやデータ集などと共に収録され,ユーザーは,コンピュータで本件CD-ROMを起動し,メニュー画面から「ヌードのカスミでゲームする PS2版DEAD OR ALIVE2」を選択し,画面の表示に従って操作すると,本件編集ツールの使用法(以下「ツール使用法」という。)が表示され,ツール使用法に従って,本件CD-ROMに「doa2edit.lzh」のファイル名で収録されている本件編集ツールをユーザーのコンピュータにインストールした上,インストールした本件編集ツールを実行し,さらに,ツール使用法に従って操作すると,パソコンからPS2用メモリーアダプターを介して接続されたメモリーカードに本件編集がされたデータが転送され,本件メモリーカードが作成される。
エ ユーザーが,PS2所定のスロットに本件メモリーカードを挿入し,「ストーリーモード」を選択し,12人のキャラクターの中から「かすみ」を選択すると,画面左下の「C1」ないし「C6」のコスチューム選択アイコンに加えて,「C6」のコスチューム選択アイコン上に更に本件アイコン(「C2」)が表示される。ユーザーが本件アイコンにカーソルを合わせると,画面上左側に「かすみ」の裸体の静止影像が表示され,本件アイコンを選択すると,「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘するできるようになる。本件アイコンを選択すると裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示されるのは,コスチューム選択アイコンにカーソルを合わせると,対応するポリゴンデータを読み込むためである。
オ 本件ゲームソフトは,業務用「DEAD OR ALIVE 2」をPS2用に移植したものであるが,当初の企画では,各キャラクターのコスチュームを各10種類まで使用可能なように製作することを企図し,キャラクターのコスチューム選択画面に表示されるコスチューム選択アイコンの影像データも「C1」ないし「C10」までを製作し,収録することができるようにしていた。しかし,当初製作されたコスチュームは最大で5種類までであったため,コスチューム選択アイコンの影像も「C1」ないし「C5」が製作され,「C6」以降は製作されていなかったが,将来6種類以上のコスチュームが製作された際に,これを無理なく速やかに本件ゲームソフトに収録し,使用できる状態にするため,及び動作確認をする便宜のため,とりあえず,6番目には初めに戻って「C1」を,7番目には「C2」を,8番目には「C3」を表示するように割り当てていた。その後,「かすみ」と「あやね」については6番目のコスチュームが実際に製作され,これに合わせて「C6」というコスチューム選択アイコンの影像データも製作され,6番目のコスチュームと対応させた上で,本件ゲームソフトに収録された。「かすみ」も「あやね」も,7番目のコスチュームは製作されなかったが,将来の7番目以降のコスチュームデータに対応するコスチューム選択アイコンの「C2」ないし「C5」という設定自体は上記のままになっている。
(2)
控訴人は,本件ゲームソフトには,ゲーム中の対戦画面において本件裸体影像を表示する機能があらかじめ組み込まれていたと主張し,その理由として,①オープニングムービーを表示するために必要のない「かすみ」の裸体影像のポリゴンデータが作成されていること,②オープニングムービーの場面はストーリー上必然性がないこと,③本件アイコンを選択すると裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示されるのに対し,「あやね」については,「かすみ」とは異なり,本件アイコンを選択するとプログラムが停止するが,これは,「あやね」については,「かすみ」とは異なり,「C6」上の「C2」に対応するデータが存在しないからであることを挙げる。
そこで,まず,上記①の点について検討すると,オープニングムービーは,「かすみ」の「素体」のポリゴンデータを利用して製作したものであり,「かすみ」の裸体影像は,対戦画面で使用することを予定して製作したものではないため,対戦画面で使用することを予定して製作されたコスチュームを着けた「かすみ」とは異なり,まばたきをするモーションデータがなく,まばたきしないことは上記(1)アのとおりであり,「かすみ」の裸体影像のポリゴンデータがオープニングムービーを表示するために必ずしも必要ないとしても,「素体」のポリゴンデータとしては必要であり,これを利用してオープニングムービーを作成したにすぎないのであるから,「かすみ」の裸体影像のポリゴンデータが作成されたことは,控訴人の上記主張を裏付けるものということはできない。また,上記②の点についても,オープニングムービー中に登場するゼリー状のカプセルに包まれた裸体の「かすみ」は,本件ゲームソフトのストーリー中に「偽かすみ」がクローン技術によって作られたとの設定があり,そのストーリーの中で「かすみ」が捕らえられているシーンを表示したものであることは,上記(1)アのとおりであるから,オープニングムービーの場面に特に不自然な点はないというべきである。さらに,上記③の点について,本件アイコンが表示される理由は,上記(1)オのとおりであり,本件アイコンを選択すると裸体の「かすみ」の胸から上の影像が画面上左側に表示される理由が,コスチューム選択アイコンにカーソルを合わせると,対応するポリゴンデータを読み込むためであることは,同(1)エのとおりであり,「あやね」について,「かすみ」とは異なり,本件アイコンを選択するとプログラムが停止する理由が,「C6」上の「C2」に対応するデータが存在しないからであることは,控訴人の主張するとおりであるが,「かすみ」のみ「C6」上の「C2」に対応するデータ,すなわち,裸体影像のポリゴンデータが作成されたことは,上記(1)アのとおりである。したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(3)
また,控訴人は,「ストーリーモード」において,戦闘相手を倒す以外の方法によっても本件パラメータデータが7になることはないということは何ら証明されていないと主張する。しかしながら,本件ゲームソフトにおいて,通常にプレイした場合,アドレス13E0Fに7というデータが収録されることはなく,仮に,7というデータが収録された場合は,チェックサムプログラムによりチェックサム値の異常が検出され,エラーとなり,また,コスチュームリミットテーブル上の「かすみ」の選択可能なコスチュームの最大値は6であることは,上記のとおりである。
控訴人は,業務用「DEAD OR ALIVE 2」には,「かすみ」及び「あかね」について,選択可能なコスチュームが増加する「裏技」があり,被控訴人は,このような「裏技」を忍ばせておくことに関しては,実績があると主張し,業務用「DEADOR ALIVE 2」に控訴人主張のような「裏技」が存在することは,被控訴人の認めるところであるが,被控訴人執行役員管理部部長A作成の陳述書によれば,本件ゲームソフトには,ゲーム中の対戦画面において本件裸体影像を表示する「裏技」は存在しないことが認められる。
さらに,控訴人は,コスチュームリミットテーブルの数値を6から7に変更するに当たってチェックサムデータを変更しなければならないからといって,本件ゲームソフトにおいて,コスチュームリミットテーブルの数値の上限が6と定められていたことを意味せず,本件裸体影像でプレイされることを防止するために組み込まれたものではなく,また,本件パラメータデータは,「メモリージャグラーUSB」などのメモリーカード編集用汎用ツールを用いて容易に編集することができ,その場合に,本件ゲームソフトは,その数値を排除せずに,そのままメインプログラムのパラメータデータとして受け付ける仕組みになっているから,本件ゲームソフトについて,「かすみ」をコスチューム番号7でプレイしたときに画面上に展開するゲーム展開が改変禁止の限界範囲を超えるとは客観的に明らかではないとも主張する。しかしながら,本件ゲームソフトの「ストーリーモード」においては,各キャラクターの対戦成績に対応してコスチューム数が増加し,「かすみ」においては,初期段階では2種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青),「C2」は忍装束(白))から選択することができるにすぎないが,対戦相手との戦闘に勝利してゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増え,ユーザーがセーブコマンドを選択した際にメモリーカードに記録されているパラメータデータのアドレス13E0Fに,ゲームの進行具合に応じて,2ないし6のいずれかのデータが記録され,アドレス13E0Fに2というデータが収録されたときは,ユーザーは2種類のコスチュームを選択でき,6というデータが収録されたときは,6種類のコスチュームを選択でき,通常にプレイした場合,アドレス13E0Fに7というデータが収録されることはないことは,上記のとおりである。チェックサムとは,控訴人の主張するとおり,「データを送受信する際の誤り検出方法の一つ。送信前にデータを分割し,それぞれのブロック内のデータを数値とみなして合計を取ったもの。求めたチェックサムはデータと一緒に送信する。受信側では送られてきたデータ列から同様にチェックサムを計算し,送信側から送られてきたチェックサムと一致するかどうかを検査する。両者が異なれば,通信系路上でデータに誤りが生じていることになるので,再送などの誤り訂正手続をとる」(NTTコムウェアのワーズオンライン)ことであり,本件ゲームソフトのチェックサムプログラムは,直接的に「かすみ」の裸体影像データでプレイすることを禁止することを目的として作成されたものではないが,チェックサムプログラムが上記のような働きをする結果,セーブデータに変更を加えない限り,「かすみ」のコスチューム数を記録しているアドレス13E0Fに7というデータが収録された場合は,チェックサムプログラムによりチェックサム値の異常が検出され,エラーとなるのであるから,本件ゲームソフトにおいて,「かすみ」のコスチューム数を記録しているアドレス13E0Fに7というデータを収録し,これをPS2に読み込んでプレイすること,すなわち,「ストーリーモード」の対戦画面において「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することは,本件ゲームソフトの対戦画面の影像ないしゲーム展開が,本来予定された範囲を超えたものと認められる。したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(4)
控訴人は,改変行為の主体は各ユーザーであり,①本件CD-ROMを購入したユーザーは,控訴人の管理,支配の全く及ばない自宅等に持ち帰り,控訴人の意思にかかわりなくユーザー自身の自由意思をもって本件CD-ROMに収録された本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し,それを用いてコスチュームを選択し,本件ゲームソフトにおける対戦画面の実行を行うのであって,ユーザーが上記行為をすることについて控訴人がユーザーを管理,支配しているとはいえず,②控訴人が本件CD-ROMを販売する目的は,本件編集ツールを用いて本件メモリーカードを作成し,コスチュームを選択して対戦画面を実行するという「改変」行為をユーザーにさせることにより利益を得ることにあったとはいえないから,控訴人が本件CD-ROMを販売した行為は,昭和63年最判のいう各要件を具備せず,また,本件CD-ROMは,「かすみ」の影像の改変のみを目的とするものではないと主張する。しかしながら,昭和63年最判は,スナック等の経営者が,カラオケ装置と音楽著作物である楽曲の録音されたカラオケテープと備え置き,客に歌唱を勧め,客の選択した曲目のカラオケテープの再生による伴奏により他の客の面前で歌唱させるなどし,もって店の雰囲気作りをし,客の来集を図って利益を上げることを意図しているときは,右経営者は,当該音楽著作物の著作権者の許諾を得ない限り,客による歌唱につき,その歌唱の主体として演奏権侵害による不法行為責任を免れないとしたものであり,音楽の著作物に係る著作権である演奏権侵害に関する事案であって,著作者人格権である同一性保持権の侵害に関する本件とは事案を異にし,適切でない。また,本件編集ツールは,ツール使用法に従って操作すると,パソコンからPS2用メモリーアダプターを介して接続されたメモリーカードに本件編集がされたデータが転送され,本件メモリーカードが作成されるものであることは上記のとおりである。そして,本件CD-ROMには,本件編集ツール以外の多数のソフトやデータ集なども収録されていることが認められるが,本件編集ツール自体には,本件編集による本件メモリーの作成以外の目的があるとは認められない。
2 本件同一性保持権の侵害について
(1)
本件ゲームソフトは,ユーザーが,「ストーリーモード」を選択してプレイした場合,各キャラクターの対戦成績に対応してコスチューム数が増加し,「かすみ」においては,初期段階では2種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青),「C2」は忍装束(白))から選択することができるにすぎないが,対戦相手との戦闘に勝利してゲームをクリアするごとに選択可能なコスチュームが増え,最終的には,6種類のコスチューム(「C1」は忍装束(青),「C2」は忍装束(白),「C3」は忍装束(赤),「C4」は忍装束(黒),「C5」は制服,「C6」は制服(冬服))を選択することができるようになるという設定となっているものであることは上記1の(1)アのとおりである。ユーザーが,通常にプレイした場合,対戦画面において「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することはないのに対し,本件メモリーカードを使用すると,「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することができるようになるものであり,これは,本件ゲームソフトの対戦画面の影像ないしゲーム展開が,本来予定された範囲を超えたものである。したがって,本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,本件同一性保持権を侵害するものというべきであるところ,本件編集ツールは,本件編集による本件メモリーの作成のみを目的とするものであるから,専ら本件ゲームソフトの改変のみを目的とするものと認めることができ,これを収録した本件CD-ROMを販売し,他人の使用を意図して流通においた控訴人は,他人の使用による本件同一性保持権の侵害を惹起したものとして,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うものというべきである(最高裁平成13年2月13日第三小法廷判決参照)。
(2)
控訴人は,平成10年最判を引用し,本件編集ツールにより改変された本件裸体影像は,被控訴人が創作した6種類のコスチュームの表現形式上の本質的特徴を維持していないから,本件裸体影像を表示することは,本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチューム影像を改変するものということはできず,本件同一性保持権の侵害に当たらない旨主張する。しかしながら,本件裸体影像を表示することは,本件ゲームソフト中の「かすみ」のコスチューム影像,すなわち,「C1」の忍装束(青),「C2」の忍装束(白),「C3」の忍装束(赤),「C4」の忍装束(黒),「C5」の制服及び「C6」の制服(冬服)を改変するものではないが,被控訴人が主張している改変は,上記コスチュームを着けた形で表現している「かすみ」の影像であって,当該コスチューム部分のみにとどまるものではなく,本件編集ツールにより改変された本件裸体影像が裸体の「かすみ」であることは,控訴人自身,本件CD-ROM,CD-ROMマガジン「お楽しみCD」30号のパンフレット及びその広告中において,「ヌードのカスミでゲームする!」,「[PSメモリーカード変更]裸霞,全コスチューム使用可能」と表示していることからも明らかである。したがって,本件裸体影像は,被控訴人が創作的に表現した6種類のコスチュームを着けた形で表現されている「かすみ」の影像との表現形式上の本質的特徴を維持しているというべきである。
(3)
控訴人は,本件編集ツールを用いて本件裸体影像をモニター上に表示させるユーザーは,一般に自ら本件裸体影像を楽しむために改変を行うのであって,自らのモニターに本件裸体影像が表示されている状態を公衆に見せるということは通常ないから,ユーザーが本件編集ツールを用いて本件裸体影像をモニター上に表示させたとしても,私的領域内にとどまる改変であり,本件同一性保持権は侵害されないというべきであると主張する。しかしながら,ユーザーによる本件メモリーカードの使用が私的領域内にとどまるとしても,控訴人の行為は,上記のとおり,他人の使用による本件同一性保持権の侵害を惹起したものというべきであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。さらに,控訴人は,著作権法20条1項にいう「意に反して」とは,当該改変を著作者の意に反しているとすることが社会的にも承認される場合に限定され,改変が著作者の意に反しないものと客観的に評価される場合には,著作者の同意がなくても同一性保持権の侵害には当たらないというべきであり,本件ゲームソフトの改変は,著作者の名誉や自尊心が損なわれるとはいえないから,被控訴人の本件同一性保持権を侵害しないとも主張するが,同項にいう「意に反して」の趣旨を,控訴人主張のように限定して解釈するとしても,本件事実関係の下においては,本件ゲームソフトの改変について,著作者である被控訴人の同意を要しないものということはできないところ,被控訴人の同意があったことについて主張・立証はないから,控訴人の上記主張も採用することができない。
3 損害について
本件ゲームソフトの改変は,上記のとおり,本件CD-ROMに収録した本件編集ツールを使用して,「かすみ」が本件裸体影像で対戦相手と戦闘することができるようにするものである。本件CD-ROMを収めたCD-ROMマガジン「お楽しみCD」30号(平成13年2月9日発売)及び同31号(同年4月13日発売)の各販売総数は証拠上明らかではないが,証拠によれば,控訴人は,上記「お楽しみCD」30号及び同31号(定価各2980円)を,それぞれ,全国490店舗のソフト販売店等に対し,各数十枚程度を販売し,インターネットショップ上でも販売したことが認められる。控訴人は,本件CD-ROMには,本件編集ツール以外にも多数のソフトやデータ集などが収録されていたこと等を考慮するならば,本件CD-ROMを入手したユーザーが,本件編集ツールを使用して,メモリーカードに記録されたパラメータデータを編集し,本件裸体影像を表示させたものと断定することはできないと主張する。確かに,本件CD-ROMには,本件編集ツール以外の多数のソフトやデータ集なども収録され,その購入者全員が本件編集ツールを使用して本件ゲームソフトの改変を行ったものとまでは認められないが,これらの点を考慮しても,改変の内容及び上記販売数等の本件に現れた諸般の事情に照らすと,本件同一性保持権の侵害に基づく損害賠償としての慰謝料の額は,原判決の認定した200万円を下らないものと認めるのが相当である。
4 結論
以上のとおり,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。