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著作権判例セレクション
【氏名表示権】 氏名表示権の非侵害事例(ホームページ上の書籍の表示が問題となった事例)
▶平成30年8月2日東京地方裁判所[平成30(ワ)8291]▶平成31年1月31日知的財産高等裁判所[平成30(ネ)10066]
(注) 本件は,原告が,被告に対し,被告が開設するホームページ(「被告ホームページ」)において,原告の著作物である書籍2冊(「本件各書籍」)を原告以外の者の著作物であるなどと表示し,これが原告の著作者人格権(氏名表示権)の侵害に当たると主張し,民法709条に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。
なお、被告は,被告ホームページにB(健康エクササイズの開発,健康指導者の育成・指導等の活動をしている者)のプロフィールや活動内容等を掲載しており,そこには下記の表示(「本件表示」)がある。被告ホームページにおいて,本件各書籍の具体的な表現が掲載されているものではなく,また,その内容が提供されているものではない。
■ 主な著書
・ 『くびれスッキリ!ろっ骨エクササイズ』(C著/ソフトバンククリエイティブ社)
・ 『5分で効く!効く!ルーシーダットン』メイツ出版(全面指導解説,DVD全面出演指導)
・ 『乾貴美子のがんばらないで最短キレイ!ルーシーダットン』自由国民社(全面指導解説)
・ 『もっと楽しく!ゆったり長く泳げるコツ50』山海堂(監修)
1 争点 (本件表示は原告の氏名表示権を侵害するか)について
氏名表示権(著作権法19条1項)は,著作者が原作品に,又は著作物の公衆への提供,提示に際し,著作者名を表示するか否か,表示するとすれば実名を表示するか変名を表示するかを決定する権利である。
本件表示は,Bの活動等を紹介する記事中の「主な著書」との見出しに続けて,本件各書籍等のタイトル及び出版社を表示し,その表示に続けて,本件書籍1については「(全面指導解説)」,本件書籍2については「(全面指導解説,DVD全面出演指導)」と表示するものである。被告ホームページにおいて,本件各書籍の具体的な表現が掲載されたり,その内容が提供されたりしているものではない。被告ホームページのこのような内容に照らせば,著作物である本件各書籍につき,被告ホームページにおいて公衆への提供,提示がされているとはいえないから,本件表示は,著作物(本件各書籍)の公衆への提供,提示に際してされたものということはできない。また,本件表示は本件各書籍の原作品における表示と関係するものではない。
したがって,仮に原告が本件各書籍の著作者であるとしても(争点1),本件表示は,本件各書籍に係る原告の氏名表示権を侵害するものではない。
これに対し,原告は,本件表示を見た者は,本件各書籍は,Bの単独著作物か,少なくとも,Bが創作のほぼ全てに関与した書籍であると認識すると主張する。しかしながら,本件表示によって本件各書籍に係る原告の氏名表示権(著作権法19条1項)が侵害されているということができないことは前記説示のとおりである。
なお,原告は,侵害されたと主張する権利等の内容を明らかにするよう求められたのに対し,本件においては,本件各書籍に係る著作権法19条1項の氏名表示権の侵害を主張すると述べた。
2 結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
[控訴審同旨]
1 時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて
本件は,平成29年12月20日に東京簡易裁判所に訴えが提起され,平成30年2月9日に東京地方裁判所に移送され,3回の弁論準備手続期日を経て,同年6月21日の口頭弁論期日において弁論が終結されたところ,弁論の全趣旨によると,東京地方裁判所は,同年3月30日,控訴人(一審原告)訴訟代理人に対し,被侵害利益が公表権(著作権法18条),氏名表示権(著作権法19条),同一性保持権(同法20条)又は著作権法に定めのない権利利益であるのか,具体的に明らかにすることなどを求めるファックス文書を送付したこと,控訴人(一審原告)訴訟代理人は,同年4月25日,被侵害利益は「氏名表示権(著作権法19条)」である旨を記載した同日付け原告第1準備書面を東京地方裁判所に提出し,同書面は同日の第1回弁論準備手続期日において陳述されたことが認められる。そうすると,控訴人は,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張を,遅くとも原審の口頭弁論終結日である平成30年6月21日までにすることが可能であったといえるから,これを当審において初めて主張することは「時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法」(民訴法157条1項)に該当することが認められる。
しかし,控訴人は,本件の控訴審の第1回口頭弁論期日(平成30年11月21日)において,被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張をしたものであって,本件は,第2回口頭弁論期日において弁論が終結されたことからすると,上記の時点における上記主張により,訴訟の完結を遅延させることとなると認めるに足りる事情があったとはいえない。
したがって,上記主張に係る時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立ては,認められない。
2 被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権の主張について
(1)ア 本件書籍1の奥付には,「発行 株式会社ビックス」,「発行人 A16」,「監修
X」,「ナビゲーター A5」,「モデル A17」,「ドクターコメント A3」,「ポーズ指導 A1,A18」,「企画 A10」,「総合プロデュース A11」,「撮影
A19」,「スタイリスト A20」,「ヘアメイク A21」,「表紙・デザイン A22,A23」,「編集 A12,A13」,「イラスト A24」,「校正 A14」,「DVD構成
A25,A26」,「DVD撮影 A27,A28,A29」,「DVD制作・総合演出 A30」,「協力 コラロ」,「写真提供 タイ国政府観光庁」,「制作 OSプロモーション inc.」,「発売 株式会社自由国民社」,「印刷・製本・DVDプレス凸版印刷株式会社」などと記載されている。
本件書籍1に「著(者)」又は「著作(者)」の記載はない。
イ 証拠及び弁論の全趣旨によると,本件書籍1は,DVD付きの書籍であり,書籍には,写真,イラスト,文章等が,DVDには映像が掲載されていることが認められる。そして,前記アのとおり,本件書籍1の奥付には,控訴人以外の多くの個人又は団体の名が,様々な立場から本件書籍1の成立に関与したものとして記載されていること,「監修」が「書籍の著述や編集を監督すること」(広辞苑第7版)を意味することからすると,本件書籍1が編集著作物であるとしても,前記アの記載から,その編集著作物の著作者が,控訴人であると推定すること(著作権法14条)はできず,著作者が控訴人であるとは認められない。
また,その他に,控訴人が,本件書籍1につき,素材の選択又は配列によって創作性を発揮したものと認めるに足りる主張・立証はない。
この点について,控訴人は,株式会社ビックスとの間における作業過程に照らしてみても,控訴人が実態として編集著作物の著作者となる旨主張する。
しかし,控訴人が主張する本件書籍1への控訴人の関与については,控訴人の陳述書以外の証拠はなく,また,上記陳述書によっても,「明確に覚えていない」というのであって,控訴人が,「監修」,すなわち,書籍の著述や編集を監督することを超えて編集著作物の著作者と評価し得る作業を行ったことを認めることはできないから,控訴人の上記主張は,採用できない。
したがって,控訴人が本件書籍1の編集著作者であるとは認められない。
そうすると,本件書籍1については,控訴人の主張する被侵害利益は,その根拠を欠くから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存するとは認められない。
(2)ア 本件書籍2の奥付には,「監修者 X」,「発行者 A31」,「発行所 株式会社山海堂」,「印刷・製本
美研プリンティング株式会社」などと記載されている。また,上記奥付と同頁の上部には,「プロフィール」という記載の後に,「監修 X」,「技術指導・DVD出演 A8」,「スチールモデル
A2」との記載が,「取材協力」という記載の後に「A3」,「A4」との記載が,「制作スタッフ」という記載の後に「執筆・編集協力 A15」,「ブックデザインA32」,「撮影
A33,A34」,「ヘアメイク A35」,「スタイリストA36」,「イラスト A37」,「DVDディレクター A38」,「DVDプロデューサー A33」,「撮影
(株)KVC」,「選曲 A39」,「MA・DVDオーサリング クロースタジオ」,「ナレーション A40」などの記載がある
本件書籍2に「著(者)」又は「著作(者)」若しくは「編(者)」又は「編集(者)」の記載はない。
イ 証拠及び弁論の全趣旨によると,本件書籍2も,DVD付きの書籍であり,書籍には,写真,イラスト,文章等が,DVDには映像が掲載されていることが認められる。そして,前記アのとおり,本件書籍2には,控訴人以外の多くの個人や団体の名が,さまざまな立場から本件書籍2の成立に関与したものとして記載されていること,前記(1)イのとおり,「監修」が「書籍の著述や編集を監督すること」を意味することからすると,本件書籍2が編集著作物であるとしても,前記アの記載から,その編集著作物の著作者が控訴人であると推定すること(著作権法14条)はできず,著作者が控訴人であると認めることはできない。
また,その他に,控訴人が,本件書籍2につき,素材の選択又は配列によって創作性を発揮したものと認めるに足りる主張・立証はない。
この点について,控訴人は,本件書籍2につき,控訴人を著作権者とする出版契約書(甲7)の表記に従うと,本件書籍2を一般的な著作物及び編集著作物として,著作権者が控訴人であることが証明されると主張する。
しかし,甲7は,「出版契約書」と題する書式に手書きで書き込まれたり,押印がされた文書であるところ,原稿の引渡しと発行の期日が空欄のままになっており,平成19年5月8日付けであるにもかかわらず,原審における審理中は提出されず,平成30年12月12日に至り,提出されたものである。また,本件書籍2につき,他に株式会社山海堂と甲7と同じ書式を用いて出版契約を締結した者がいなかったかどうかは定かではない。さらに,控訴人自身が,本件書籍2につき,株式会社山海堂とのやりとりの記憶が明確ではないと主張している。そうすると,甲7によっても,上記認定は左右されない。
また,控訴人の陳述書の本件書籍2についての記載も,極めて簡単なものであり,それを裏付ける証拠に乏しいから,上記認定は左右されない。
ウ したがって,控訴人が本件書籍2の編集著作者であるとは認められない。
そうすると,本件書籍2について,控訴人の主張する被侵害利益は,その根拠を欠くから,その余の点を判断するまでもなく,控訴人の被控訴人に対する被侵害利益を「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」とする不法行為に基づく損害賠償請求権が存するとは認められない。
(3)
なお,甲3の被告のホームページには,「A8」の「主な著書」として,「『A5のがんばらないで最短キレイ!ルーシーダットン』自由国民社(全面指導解説)」,「『5分で効く!効く!ルーシーダットン』メイツ出版(全面指導解説,DVD全面出演指導)」との記載がある。
仮に,控訴人が,本件各書籍の編集著作者であったとしても,本件書籍1につき,前記(1)アの奥付の記載のとおり,A1及びA18が「ポーズ指導」を行っていたとすれば,A1が本件書籍1のポーズの記載について著作者又は編集著作者として認められる可能性があるから,A1の「ポーズ指導」が「著書」,「全面指導解説」と表現されたとしても,そのことから直ちに編集著作者の「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」を侵害したとは認められない。
本件書籍2についても,A1が,前記(2)アの「奥付」の記載のとおり,「技術指導・DVD出演」を行っていたとすれば,本件書籍2のポーズ等の記載について著作者又は編集著作者として認められる可能性があるから,A1の「技術指導・DVD出演」が「著書」,「全面指導解説,DVD全面出演指導」と表現されたとしても,そのことから直ちに編集著作者の「インターネット上で自己の書籍著作物について第三者の著者であると偽られない利益」を侵害したとは認められない。
第4 結論
以上の次第で,控訴人の本件請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由がなく,原判決はその結論において相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。