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著作権判例セレクション
【同一性保持権】学習用教材に使用するイラスト類の同一性保持権の侵害性等が問題となった事例
▶平成28年6月23日東京地方裁判所[平成26(ワ)14093]
3 争点(1)ウ(同一性保持権侵害の成否)について
(1)
原告は,別紙2-1のとおり,本件書籍に使用された本件イラスト類1~6につきサイズの変更(縮小),色の変更及びトレーミング(トリミング。イラストの一部のカット)を行ったこと,本件イラスト類19につき大型ポスターとした上でシールを貼るための丸枠内に別の画像をはめ込んだことが原告の同一性保持権を侵害する旨主張する。
(2)
そこで判断するに,まず,本件イラスト類1~6については,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告主張のとおり大きさの変更等がされたと認められる一方,これらイラスト類は,小学校の社会科の授業で用いる教材のために紺瑠璃杯,五弦琵琶,安土城と城下町,矢じり等の道具,吉野ヶ里遺跡及び大仙古墳を描いたものであり,独立して観賞の対象とされるのではなく,他の多数のイラストや図表等と共に教材に掲載されること,カットされたのは安土城周辺の風景,木のクワの柄の一部,吉野ヶ里遺跡のうち左方の住居及び柵,大仙古墳周辺の住宅地等であり,サイズ変更及び一部カットの後も描かれた対象が安土城等であると認識できること,カラーからモノクロ又は2色刷りに変更されたのは社会科作業帳・6年生別冊資料などごく一部であること,以上の事実が認められる。
上記事実関係によれば,本件イラスト類の作成に当たっては,学習対象への児童の関心を引いて理解を深めるという教材の目的や,教材の限りある紙面に多数のイラスト等を掲載するという利用態様に照らし,掲載箇所の紙幅等を考慮してサイズや色を変更したり,一部をカットしたりすることが当然に想定されていたとみることができる。そうすると,本件イラスト類1~6につき上記のようにサイズを変更するなどした被告らの行為は同一性保持権の侵害に当たらないと判断するのが相当である。
(3)
次に,本件イラスト類19についてみるに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件イラスト類19は,A4判の理科学習ノートの口絵部分に見開き(ほぼA3判の大きさ)で掲載するものとして,原告が被告らの依頼により作成したこと,動植物の四季の変化の様子を1枚に描いたものであり,シールを貼るための円形の枠が十数か所設けられていること,被告らは,これをA1判相当に拡大した上,上記の枠に替えて別の画像をイラスト中に埋め込んで,授業で使用できる掲示用資料(ポスター)を作成したことが認められる。
上記事実関係に照らすと,本件イラスト類19に加えられたサイズ及び画像の変更は,学習用教材であることを考慮しても,その内容及び程度に照らし原告の意に反する改変というほかない。したがって,本件イラスト類19については同一性保持権侵害が成立すると判断すべきものである。
(略)
4 争点(2)(原告の損害額)について
(略)
(2)
著作者人格権侵害について
ア 同一性保持権侵害について
前記3(3)のとおり本件イラスト類19について同一性保持権の侵害が認められるところ,これによる損害の額については,前記認定の侵害の態様に加え,被告ら作成の掲示用資料(ポスター)は,単体で販売されるのではなく,他の教材の付録として無償で提供されるものであること,これにより原告の著作者としての名誉,声望等が具体的に害されたとの主張立証はないことを考慮すると,慰謝料10万円を認めるのが相当である。
したがって,原告の請求は10万円及びこれに対する平成23年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由がある。
イ 氏名表示権侵害について
本件書籍の中に原告の氏名が表示されていないもの及び誤った漢字で表示されたもの)があることは当事者間に争いがない。
これらは被告らの過失による共同不法行為ということができ,氏名表示権侵害に対する損害賠償としては,侵害行為が多数かつ平成17年度から平成24年度まで長期にわたる一方,その大部分はテスト類であり,教師用の冊子の裏表紙への表示がされなかったにとどまることに照らすと,慰謝料として40万円及びうち各5万円に対する平成17年から平成24年まで各4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を命じるのが相当である。
(3)
氏名権侵害について
平成23年度及び平成24年度の理科学習ノート・3年生に,原告の作成したイラスト類が使用されていないのに,イラスト作成者として原告の氏名が表示されたことは当事者間に争いがない。これは被告らの過失による原告の氏名権侵害の共同不法行為であり,原告はこれにより無形損害を被ったと認められる。
そして,上記理科学習ノートが準拠する教科書の発行元5社それぞれにつき平成23年度及びその翌年度に発行されたこと,氏名表示の態様は裏表紙に「イラスト」として他の数名のイラスト作成者と列挙するものであったことに照らすと,原告の上記損害については,慰謝料5万円及びうち各2万5000円に対する平成23年及び平成24年の各4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で原告の請求を認めるのが相当である。