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著作権判例セレクション
【編集著作権の侵害性】写真集(花の写真を365枚集めた画像データ)の同一性保持権侵害を認めなかった事例/その他
▶平成19年12月6日東京地方裁判所[平成18(ワ)29460]▶平成20年06月23日知的財産高等裁判所[平成20(ネ)10008]
(注) 本件は,365枚の花の写真を1年間の日ごとに対応させた日めくりカレンダー用デジタル写真集を作成した原告が,原告から同写真集の著作権の譲渡を受けた被告が,インターネット上に開設した携帯電話利用者向けのサイトにおいて,同写真集中の写真を携帯電話の待受画面用の画像として毎週1枚のみを配信し,かつ各配信日に対応すべき写真を用いなかったことが,編集著作物である同写真集の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとして,被告に対して,不法行為に基づく精神的損害についての慰謝料の支払を求めた事案である。
1 はじめに
本件においては,本件写真集がそもそも編集著作物に該当するかという点(争点1),及び本件配信行為が原告の本件写真集に対する同一性保持権の侵害を構成する態様のものかという点(争点2)についても,それぞれ争点となっている。
しかしながら,本件事案の紛争の実体は,原告が,本件写真集の発表の手段として,本件サイトにおいて,本件写真集中の花の写真が「日めくりカレンダー」として画像配信されることを期待していたのに対して,被告による本件配信行為の内容が結果的にその期待に添うものではなかったという行き違いに端を発したものであることに鑑み,当裁判所は,まず争点3(本件配信行為について,原告の明示又は黙示の同意があったか)について判断することが相当であると考える。
2 争点3(本件配信行為について,原告の明示又は黙示の同意があったか)について
(略)
イ 上記アにおいて認定した各事実によれば,仮に本件写真集が編集著作物に該当するものであったとしても,原告は,被告が本件サイトにおいて本件写真集中の花の写真を毎週1回の割合で更新して配信することについて,遅くとも本件譲渡行為の時点までには黙示に同意していたものと解さざるを得ない。
また,原告が本件写真集の作成に際して企図した花の写真と1年365日の日付との対応関係についても,「日めくり」にすることによって初めてその配列の連続性に創作的な意義を見出すことができるものであるから,毎週1回の割合による更新,すなわち1週間は同じ花の写真が配信され続けることについて黙示の同意を与えた時点で,原告は,被告が本件写真集中の花の写真から本件サイトにおける配信日に対応すべきものを用いるとは限らないということについても,やはり黙示の同意を与えたものと解するのが相当である。
以上をまとめると,原告は,本件配信行為について黙示に同意をしていたということができる。
(略)
第5 結論
よって,本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
[控訴審]
控訴人の本訴請求は,同一性保持権侵害又は期待権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料と遅延損害金)であるところ,まずその基礎となる事実関係について認定し,次いで上記各侵害を理由とする損害賠償請求の当否について判断する。
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下に述べるとおりである。
2 本件における基礎的事実関係について
(略)
3 同一性保持権侵害を理由とする請求について
(1)
編集著作物性の有無(争点1)
一審原告たる控訴人は,本件写真集は同人が過去に撮影しストックしていた写真に加えて,本件写真集のためだけに撮影された写真を追加し,1年365日の日ごとにそれぞれの季節・行事等にふさわしいと考えられる花を対応させて「日めくりカレンダー」として編集されたものであるから,1枚1枚の写真自体が著作物であると同時に,全体として素材の選択又は配列によって創作性を有する編集著作物であると主張し,これに対し一審被告たる被控訴人は,本件写真集について知的創作活動の結果としての表現は何ら読み取ることができず,単なる花の写真の画像データの集合でしかないから編集著作物には当たらないと反論する。
よって検討するに,著作権法12条は,編集著作物につき「編集物…でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,著作物として保護する」と規定しているところ,前記2認定のとおり,控訴人が撮影した花の写真を365枚集めた画像データである本件写真集は,1枚1枚の写真がそれぞれに著作物であると同時に,その全体も1から365の番号が付されていて,自然写真家としての豊富な経験を有する控訴人が季節・年中行事・花言葉等に照らして選択・配列したものであることが認められるから,素材の選択及び配列において著作権法12条にいう創作性を有すると認めるのが相当であり,編集著作物性を肯定すべきである。
そこで,進んで,被控訴人のなした週1回の配信行為が上記編集著作物に関する著作者人格権としての同一性保持権を侵害するかについて判断する。
(2)
同一性保持権侵害の有無(争点2)
控訴人は,本件写真集は対応する日付による花の写真の順序に殊の外意味があり,無作為に並べ替えるのではその意味が全く失われてしまう性格のものであるから,花の写真の配信が毎週1枚のみでしかも各配信日に対応すべき花の写真が用いられないことは同一性保持権侵害になると主張し,これに対し被控訴人は,著作権法20条の同一性保持権を侵害する行為とは他人の著作物における表現形式上の本質的特徴を維持しつつその外面的な表現形式に改変を加える行為をいい,他人の著作物を素材として利用してもその表現形式上の本質的特徴を感得させないような態様においてこれを利用する行為は同一性保持権を侵害しない,等と反論する。
よって検討するに,著作権法20条は同一性保持権について規定し,第1項で「著作者は,その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し,その意に反してこれらの変更,切除その他の改変を受けないものとする」と定めているところ,前記2認定のとおり,平成15年5月27日ころまでに控訴人から本件写真集の個々の写真の著作物及び全体についての編集著作権の譲渡を受けた被控訴人が,別紙4記載の各配信開始日に,概ね7枚に1枚の割合で,控訴人指定の応当日前後に(ただし,正確に対応しているわけではない)配信しているものであって,いわば編集著作物たる本件写真集につき公衆送信の方法によりその一部を使用しているものであり,その際に,控訴人から提供を受けた写真の内容に変更を加えたことはないものである。
そうすると,著作権法20条1項が「変更,切除その他の改変」と定めている以上,その文理的意味からして,被控訴人の上記配信行為が本件写真集に対する控訴人の同一性保持権を侵害したと認めることはできない(毎日別の写真を日めくりで配信すべきか否かは,基本的には控訴人と被控訴人間の契約関係において処理すべき問題であり,前記2認定の事実関係からすると,そのような合意がなされたとまで認めることもできない)。
(3)
小括
上記(1),(2)によれば,控訴人が被控訴人に譲渡した本件写真集は著作権法12条にいう編集著作物性を有するものの,被控訴人がなした上記配信行為が同法20条に基づき控訴人が有する同一性保持権を侵害したということはできないから,その余(争点3〔明示又は黙示の同意〕)について判断するまでもなく,同一性保持権侵害を理由とする損害賠償請求は理由がないことになる。
4 期待権侵害を理由とする請求について
控訴人は,仮に本件写真集が編集著作物とは認められないとしても,控訴人は,納品した本件写真集(日めくりカレンダー)の写真を控訴人の配列した順序に従って日々花の写真を変えて使用してもらう期待権を有していたもので,被控訴人が控訴人より納品を受けた日めくりカレンダーの花の写真について,控訴人が行った花の写真の配列を無視して配信したことは,控訴人の期待権を侵害すると主張する。
しかし,上記2で認定した事実によれば,平成15年1月20日の控訴人とAとの面談の際,本件サイトの更新がその当時週1回であったことは既に控訴人も認識していたところ,控訴人宛ての「注文書」にも「備考:①画像に関する権利は富士通パレックスを通し,富士通株式会社へ譲渡するものとします。②納入物件は富士通株式会社が使用するにあたり何ら支障の無いよう,第三者の著作権その他何らかの権利が含まれていないことを保証するものであること。③富士通パレックス株式会社,富士通株式会社は,当該著作権等の紛争から逃れるものとします。」との記載があるのみで,本件写真集の花の画像の具体的な配信方法の記載はない。
このように,本件写真集に関する著作権譲渡契約に関し,控訴人が配列した順序に従い毎日花の写真を変えて被控訴人が配信するとの点について,その契約に関連する内容として上記注文書等に記載されていないことはもちろん,上記2で認定した事実経過に照らせば,控訴人においてそのような期待を抱くことが正当と認められるような事情も存しないというべきである。仮に控訴人が被控訴人がそのような方法で使用(配信)することについて事実上の期待を内心において抱いたとしても,これを「期待権」ないし何らかの法的保護に値すべき利益と認めることはできない。そうすると,控訴人の期待権侵害を理由とする請求も理由がないというべきである。
5 結論
以上のとおり控訴人の請求は理由がないから,原判決は結論において相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。