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著作権判例セレクション

【著作者】東京都の商業業務施設用地事業者募集で提出された企画書の著作者が問題となった事例

令和4330日東京地方裁判所[令和1()25550]
2 争点2(著作権又は著作者人格権侵害に基づく差止請求権の存否)について
事案に鑑み、争点2-2(原告が本件企画書等の著作者か否か)及び争点2-4(差止めの必要性)について判断する。
(1) 争点2-2(原告が本件企画書等の著作者か否か)について
原告は、本件企画書の作成に際して本件土地の開発計画を立案し、H等から提出された検討結果を総合的に取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業を行ったこと、建築計画等の制作において設計図面等の著作権は発注者である取りまとめ会社に帰属する慣例があることから、原告は本件企画書の著作者であると主張する。
しかし、単に計画を立案したというのみではアイデアの提供にとどまるし、他社による検討結果を取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業をしたとしても、当該他社の創作的表現を本件企画書に記載したのみでは、当該作業を通じて、本件企画書に原告の思想又は感情を創作的に表現したことにはならないというべきである。そして、本件全証拠によっても、原告が本件企画書等の作成にどのように関与したのかは明らかではないから、本件企画書等が「著作物」に該当するとしても、原告がこれを「創作」したと認めることはできない。したがって、原告が本件企画書等の「著作者」(著作権法2条1項2号)であるとは認められない。
また、原告が主張するような慣例が存在することを認めるに足りる証拠もないから、そのような慣例に基づいて原告が本件企画書等の著作者になると認めることもできない。
以上の次第で、仮に本件企画書等に著作物性が認められるとしても、原告は本件企画書等の著作者であると認めることはできない。
(2) 争点2-4(差止めの必要性)について
原告は、被告が本件企画書を複製、改変したり、本件企画書の別紙図面①及び②に従って本件建物を建築したりする蓋然性が高いとして、差止めの必要性があると主張する。
しかし、本件全証拠によっても、被告が実際に本件企画書を複製、改変したという事実は認められない。
そもそも、前記前提事実のとおり、本件企画書は、募集要項上、本件開発事業の事業予定者として応募するための必要書類として用いられたものであるから、被告が本件企画書等を提出して本件開発事業に応募し、事業予定者として選定された以上、更に本件企画書を複製又は改変して利用する必要性があるとは直ちには認めがたい。
この点、前記前提事実のとおり、本件土地の売買契約書には建築義務等条項が置かれているものの、当該条項で義務付けられているのは企画書に基づいて複合施設を建築すること、すなわち企画書の記載内容に沿って複合施設を建築することにすぎない。そして、建築義務等条項に従い本件開発事業を進めるために本件企画書を複製又は改変することが必須であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、建築義務等条項が存在することから直ちに企画書が複製又は改変される蓋然性があると認めることはできないというべきである。
しかも、前記前提事実のとおり、被告は、東京都に対し、平成30年11月(日にちは省略)付けで、建築義務等条項に基づく変更を申請し、東京都は同月20日付けでこれを承認している。そして、証拠によれば、複合商業施設については、渋滞緩和や公害(騒音、大気汚染、光害)の防止のため、建物の建設場所を敷地東側幹線道路沿いから敷地西側に配置し、幹線道路側に駐車場を配置するという変更が加えられ、物流業務施設については、主なテナントターゲットの変更に伴い、(内容は省略)の削減、乗用車専用の出入口の追加設置、施設中央部へのカフェテリアの設置、延べ床面積の増加(約(面積は省略)から約(面積は省略)への増加)などの変更が加えられたことが認められる。このような大幅な変更を東京都が承認した以上、被告が、今後、変更前の計画が記載された本件企画書を複製又は改変して使用するといった事態は認め難いというべきである。
以上によれば、仮に原告が本件企画書等に係る著作者と認められるとしても、被告において、本件開発事業を進めるに当たり、本件企画書を複製、改変したり、別紙図面①、②に従って建物を建築したりなどして、原告の本件企画書等に係る複製権及び同一性保持権を侵害するおそれがあるとはいえないから、差止めの必要性を認めることはできない。
(3) 争点2に関する結論
以上の次第で、争点2に関するその余の争点について検討するまでもなく、原告の差止請求には全て理由がない。