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著作権判例セレクション

【言語著作物の侵害性】一連のおみくじの侵害性を認定した事例/一連のおみくじの改変につき、同一性保持権の侵害を認定した事例/1141項適用事例(一連のおみくじの複製販売が問題となった事例)

令和3126日東京地方裁判所[平成31()2597]
() 本件第1事件は,別紙記載1の「開運推命おみくじ」(1から100の番号が付された100種類のおみくじからなるものである。以下,上記の開運推命おみくじを「本件文書1」と総称し,個別のおみくじをいう場合には「本件文書1の1番」などと表記する。)の著作者及び著作権者であると主張する原告が,被告に対し,次の各請求をした事案である;()①被告が本件文書1を複製,販売した行為についての複製権及び譲渡権侵害,②被告が本件文書1の字句や体裁等の一部について変更をした別紙記載2の「開運推命おみくじ」(以下「本件文書2」と総称する。)及び別紙記載3の「開運推命おみくじ」(以下「本件文書3」と総称する。)を複製販売する行為についての複製権又は翻案権及び譲渡権侵害をそれぞれ理由とする本件文書1ないし3の複製,翻案,譲渡の差止め,()被告が本件文書1の20番,86番を原告の意に反して改変して本件文書2の20番及び本件文書3の20番,86番を作成した行為についての同一性保持権侵害を理由とする本件文書1の改変の差止め,()上記()及び()の権利侵害を停止又は予防するための本件文書1ないし3の複製物等の廃棄等。

1 証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は,1番から100番の100種類のおみくじからなる本件文書1の著作者及び著作権者であると認められる。
2 争点1(被告による本件文書1ないし3の作成,複製販売が原告の本件文書1についての著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものであるか否か)について
(1) 著作権侵害について
本件文書1,本件文書2及び本件文書3は,それぞれ別紙文書目録記載1ないし3のとおりであり,いずれも,100種類の個別のおみくじからなり,個別のおみくじは,いずれも,「開運推命おみくじ」との記載の後に,1から100までの番号(数字)の後,運勢全般や注意すべき事項等の説明,金運その他の個別の運勢の説明等が記載されている。いずれの番号のおみくじにおいても,運勢全般(総合運勢)についての説明がある程度の長さのまとまりのある文章で記載されるほか,原則として,金運,事業運,仕事運,学業運,健康運,家庭対人運,異性運等についての簡単な説明が記載されている。そして,本件文書1,本件文書2及び本件文書3において,同じ番号のおみくじに記載されたそれぞれの運勢等の説明は,その内容だけでなく表現もほぼ同一である。他方,文字の字体やおみくじの体裁は異なる。
ここで,本件文書1と本件文書2及び3の作成時期,共通点の程度及び内容に照らせば,本件文書2及び3は,本件文書1に依拠して作成されたものと認められる。
そして,上記の共通する運勢等の説明について,本件文書1と,本件文書2及び3の個別のおみくじの表現は,ほとんどが同一であり,本件文書1における具体的表現に修正,増減,変更が加えられている箇所を見ても,それらは文末の表現を整えたり,ひらがなを漢字に改めたりするなどの軽微かつ形式的な変更にすぎないものか,本件文書1と同じ文章に対して趣旨を分かりやすく伝えるために短い語句等を挿入,付加するなどしたものである。また,本件文書1と本件文書2及び3において,個別の運勢の説明について付加,変更されたものもあるが(本件文書2及び3の20番における学業運を示す説明の追加と本件文書3の86番のおける異性運について反対の内容の説明),これらの付加,変更はいずれもありふれた表現の短いものである。
以上によれば,本件文書2及び3は,本件文書1の創作性ある該当部分を有形的に再製するものであるといえ,本件文書2及び3を作成する行為は,原告の複製権を侵害するものであると認められる。なお,被告は,原告がC寺に対して本件文書1を複製,販売することを承諾していたという趣旨の主張もするが,上記事実を認めるに足りる証拠はない。
(2) 著作者人格権侵害について
本件文書1の20番の個別の運勢の記載において,学業運に関する記載はないのに対し,本件文書2及び3の20番には学業運についての記載があり,本件文書1の86番の個別の運勢の記載について,異性運として「男性は順調に整います。女性は良縁に恵まれます。」と記載されているのに対し,本件文書3の86番には異性運について,「男性は苦情が生じやすい。女性はまとまりにくい。」と記載されている 。
上記の表現の相違は,本件文書1の20番,86番の表現に改変を加えたものと認められるから,本件文書2及び3の20番,本件文書3の86番を作成する行為は,本件文書1の著作者である原告が有する著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものと認められる。
3 争点2(原告の損害額)について
(1) 本件文書2及び3が作成された経緯等に照らし,本件文書2及び3を作成した被告には,本件文書1に係る原告の複製権及び同一性保持権を侵害することについて,少なくとも過失があったと認められる。
(2) 原告の主位的主張(著作権法114条1項による損害額)について
ア 著作権法114条1項の適用について
原告は寺院に対しておみくじを販売している 。原告が販売しているおみくじは,被告が販売する商品と同じ種類の商品であって,被告が販売するおみくじと競合するものであり,原告は著作権法114条1項に基づく損害の主張をすることができる。
被告は,原告のおみくじと被告のおみくじとで記載の体裁等が異なっていることや価格が異なっていることを挙げて,本件に著作権法114条1項が適用されないと主張する。しかし,いずれも「開運推命おみくじ」と題する紙のおみくじであり,その内容もほぼ同一であって,被告が指摘する事情をもって原告が販売するおみくじと被告が販売したおみくじが競合しないとは認められず,被告の主張には理由がない。
イ 単位数量当たりの利益
原告は,本件文書1を一部改変したおみくじを寺院に対して販売しており,その販売価格は1枚当たり120円である。そのおみくじについて,印刷,用紙及び折り畳みを印刷業者に依頼した場合に要する費用が1枚当たり約41円以下であって,その他の販売に要する経費を考慮してもその販売により追加的に必要となった経費は1枚当たり50円を上回ることはないと認められるから,原告における本件文書1を一部改変したおみくじの1枚当たりの利益額は70円を下回ることはないと認められる。
ウ 本件文書1(平成29年4月1日以降)及び本件文書2,3についての被告の譲渡数量
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エ 原告の販売能力について
被告は,原告のおみくじについての販売能力は2170枚を超えることはないと主張する。しかし,これを認めるに足りる証拠はないし,おみくじは印刷により大量に作成できるもので,原告がその印刷を依頼することができる業者が多くあることが明らかなことからも,原告の販売能力が被告主張のように限定されるとは認められない。
オ 著作権侵害による損害額
以上によれば,著作権法114条1項に基づく原告の損害額は,以下の計算式のとおり,572万8590円となる。
(計算式)
70円(単位数量当たりの原告利益)×(81117枚+720枚+0枚)(被告の譲渡数量)=572万8590円
原告は,著作権侵害について,予備的に著作権法114条2項に基づく額を主張するが,原告の主張するおみくじ1枚当たりの被告の利益額が同条1項に基づく主張における原告の利益額よりも小さいことなどから,予備的な主張が著作権法114条1項に基づく損害額よりも大きくなるとは認められない。
カ 著作者人格権侵害による損害額
本件文書1において,その内容が真逆になるような内容の改変がされることは,おみくじについての表現の本質的部分についての改変であるといえることに加え,その他,本件にあらわれたの著作者人格権侵害について原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は50万円をもって相当であると認める。
キ 弁護士費用
本件にあらわれた一切の事情を勘案し,本件の弁護士費用としては50万円をもって相当であると認める。
ク 結論
以上によれば,本件における著作権及び著作者人格権侵害に係る損害額は672万8590円となる。
4 争点3(差止め及び廃棄の必要性)について
前提事実のとおり,原告と被告ないしC寺との間における第1次和解,第2次和解の経緯及び第2次和解後の本件文書1ないし3の販売等の経緯等に照らせば,被告による,本件文書1ないし3の複製,譲渡による将来的な権利侵害のおそれが否定できず,これらについての差止請求が認められる。また,本件においては,被告が関与して2回にわたる裁判上の和解がされたにもかかわらず,被告は第2次和解の成立後,本件文書1に些細な改変がされた本件文書2及び3を作成,販売した。これらによれば原告が著作権を有する本件文書1の翻案,改変についての差止請求が認められる。また,主文第4項記載の限度での廃棄請求は,その必要性,相当性があると認められる。他方,原告が著作権を有する文書である本件文書1の翻案の差止請求が前記のとおり認められるところ,本件文書2及び3は本件文書1と全く同一ではなく(前記2(1)) ,それらの翻案の範囲が完全に重なり合うとまではいえないことから,本件文書2及び3の翻案についての差止請求は相当ではなく,認められない。
原告は,別紙物件目録記載の表データ又はその複製物についての廃棄を請求する。しかし,前提事実のとおり,「年表」は,誰にどのおみくじを配布するかを決めるためのものであり,毎年更新されるものであるところ,原告がそれを独占的,排他的に使用できる根拠は見当たらないし,「年表」を使用した場合であっても,具体的な説明文が本件文書1と同じになるとは限らず,本件文書1とは異なる著作物を作成することが可能である以上,「年表」が本件文書1と一体になるものであるとも認められない。したがって,上記「年表」についての廃棄請求は必要性,相当性を欠き,「侵害の停止又は予防に必要な措置」(著作権法112条2項)に該当するとは認められない。