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著作権判例セレクション

【職務上作成する著作物の著作者/その他】健康器具の紹介画像と説明文につき、職務著作性を認定した事例/会社法4291項の適用事例

▶令和4114日東京地方裁判所[令和4()5840]▶令和5621日知的財産高等裁判所[令和5()10004]
※同種事案▶令和41222日東京地方裁判所[令和3()23925]▶令和5621日知的財産高等裁判所[令和5()10016]
()「本件画像」とは、「少し曲げるなどした原告商品(健康器具の一種である加圧ベルト)を4本、先頭の位置をずらすなどして並べて、バックルが画像の右下方向に位置し、ベルトが左上方向に延びているように配置した上で、それらの斜め上方から撮影した画像と「知的財産権承諾済の加圧ベルト」、「当商品は株式会社サーナが所有する知的財産権(特許権、意匠権、商標権)承諾済の人体用加圧ベルトです!大人気商品の加圧ベルトだけに知的財産権を侵害するコピー品・模造品にはご注意ください。」という文字とによって構成される画像等」のことである。

1 争点①(原告会社が本件画像の著作権を有するか。)、争点②(被告会社の著作権侵害により原告会社が受けた損害及び額)及び争点⑩(被告bに、被告会社の原告会社に対する著作権侵害に関し、その職務を行うについて重大な過失があったか。)について
⑴ 争点①(原告会社が本件画像の著作権を有するか。)について
【前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件画像は、控訴人商品の写真の画像と控訴人商品の説明文を併せた内容であり、控訴人会社が控訴人商品を販売するウェブサイトに掲載する目的で作成を決めたこと、控訴人会社の代表者である控訴人Xが、SоSoft社の従業員に対し、商品の置き方や撮影アングル等を具体的に指示して控訴人商品を撮影させ、撮影した複数の写真の中から本件画像に使用するものを選択し、控訴人商品の説明文も作成したことが認められる。
上記事実によれば、本件画像は、控訴人会社の思想を創作的に表現したものであってその個性が現れているから、言語及び写真の著作物に該当すると認められ、かつ、控訴人会社がその作成を決め、その写真はSоSoft社の従業員が控訴人会社の指揮監督の下で撮影したものであるから、本件画像は控訴人会社の業務に従事する者が職務上作成した著作物であると認められる。
また、本件画像は控訴人商品を販売するウェブサイトに掲載され、その控訴人商品の説明部分の箇所には、控訴人会社の商号が記載されるとともに、控訴人商品が控訴人会社の有する知的財産権(特許権、意匠権、商標権)承諾済みの商品である旨の記載があり、これらの事実によれば、本件画像は控訴人会社が自己の著作の名義の下に公表したものであるということができる。
そして、本件画像の作成の時における契約等に別段の定めがあるとは認められないから、著作権法15条1項により、控訴人会社が本件画像の著作者であり、本件画像の著作権を有すると認められる。】
⑵ 争点②(被告会社の著作権侵害により原告会社が受けた損害及び額)について
被告会社は、令和元年5月20日頃、被告オンラインストアにおいて原告商品を販売するに当たり、その商品紹介ページに原告商品の画像を含む本件画像を表示し、これにより、本件画像を複製し、公衆送信用記録媒体にその情報を記録して自動公衆送信し得るようにして送信可能化した。【本件画像は、控訴人商品を撮影した写真と文字が組み合わされたものであり、その文字には、控訴人会社の名称と、控訴人会社が控訴人商品に係る特許権等を有するという趣旨の文言が含まれており、控訴人商品を販売するインターネット上の商取引サイトに掲載されていたのであって、これらの事実によれば、本件画像の内容から、控訴人会社が本件画像に関して著作権を有する可能性があることを被控訴人会社が容易に認識し得たといえる。それにもかかわらず被控訴人会社は控訴人会社に無断で本件画像の複製物を被控訴人オンラインストアに掲載したのであるから、この掲載によって控訴人会社が有する本件画像の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害したことについて、故意があったか、又は少なくとも重過失があったと認められる。】
本件画像の内容、被告会社における本件画像の使用態様、使用期間が約2週間と比較的短くその閲覧数も少なかったと推認されること、原告会社は自ら原告商品を販売するために本件画像を作成したのであり(前記⑴)仮に販売を行う他人にその使用を許諾する場合には一定の使用料を求めると考えられることなど、本件に現れた諸事情に照らせば、原告会社が本件画像の著作権(複製権、公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は5万円が相当であると認められ、原告会社は、被告会社に対し、本件画像の著作権(複製権、公衆送信権)の侵害についての損害として、5万円を請求することができる。
被告オンラインストアにおける原告商品の販売のために原告商品が写っている本件画像を表示したという態様に照らし、被告会社の原告会社に対する著作権侵害によって原告会社が主張するその他の損害が発生したとは認めるに足りない。また、本件画像の著作権(複製権、公衆送信権)侵害について、仮に被告会社に故意があったとしても、原告会社に生じた損害額は上記額を超えない。
⑶ 争点⑩(被告bに、被告会社の原告会社に対する著作権侵害に関し、その職務を行うについて重大な過失があったか。)について
【会社の代表取締役は、会社に対して受任者として善良な管理者の注意義務(会社法330条、民法644条)及び忠実義務(会社法355条)を負っているところ、悪意又は重大な過失によりこれらの義務に違反し、これによって第三者に損害を被らせたときは、取締役の任務懈怠と第三者の損害に相当因果関係が認められれば、第三者に対して損害賠償義務を負う(同法429条1項)。
被控訴人会社は、本件画像の複製物を被控訴人オンラインストアに掲載し、これによって控訴人会社が有する本件画像の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害した(前記1⑵)。被控訴人Yは被控訴人会社の代表取締役であり、かつ、被控訴人オンラインストアの責任者であって、これらの事実によれば、被控訴人Yは、被控訴人会社が本件画像を被控訴人オンラインストアに掲載したことを認識していたと推認され、この推認を覆す事情は認められない。また、本件画像は、その内容からして控訴人会社が著作権を有する可能性があると容易に認識し得るものであり(前記1⑵)、被控訴人Yも上記可能性を認識したか、又は容易に認識し得たと認められる。
以上の事実によれば、被控訴人Yは、被控訴人会社の代表取締役として、著作権を控訴人会社が有する可能性のある本件画像の複製物を、被控訴人会社が被控訴人オンラインストアに掲載しないようにさせるべき義務があったにもかかわらず、この義務を怠ったものであり、この任務懈怠について少なくとも重大な過失があると認められる。そして、上記任務懈怠によって、控訴人会社の著作権侵害が生じ、控訴人会社に前記⑵のとおり5万円の損害が生じたと認められるから、被控訴人Yは、控訴人会社に対し、会社法429条1項に基づき同額の損害賠償義務を負う。】
⑷ 小括
以上から、原告会社は、被告会社に対し、著作権侵害の不法行為による損20 害賠償請求権に基づき5万円の支払を求めることができ、また、この損害について、被告bに対しても、会社法429条に基づき支払を求めることができる。
【なお、被控訴人会社の控訴人会社に対する不法行為に基づく損害賠償義務と、被控訴人Yの控訴人会社に対する会社法429条1項に基づく損害賠償義務とは、不真正連帯債務の関係にあると解される。】
2 争点③(被告会社が本件画像を利用して法律上の原因なく利得し、原告会社がこれにより損失を受けたか。)及び争点④(被告会社による本件画像を利用により原告会社が受けた損失及び額)
被告会社による本件画像の利用により原告会社が受けた損失の額は、これによる本件画像の著作権侵害に係る損害(前記1)の額を超えない。
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5】 争点⑪(被告会社が、著作権侵害により原告aの権利を侵害したか、また、原告aが被った損害及び額)について
被告会社は原告会社の本件画像の著作権を侵害したところ、原告aは、この件に関して、警察署に相談に行くなどの対応をしたと認められる。もっとも、同対応は原告会社の代表者としてのものであるといえ、被告会社が、原告会社の本件画像の著作権を侵害したことに関して、原告会社の権利侵害とは別に、【控訴人Xの権利又は法律上保護される利益の侵害が生じた】とは認めるに足りない。
第4 結論
以上によれば,原告会社の各請求は、被告会社に対し、著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき5万円の支払を求め、また、これについて、被告bに対し、会社法429条に基づき同額の支払を求める限度で理由があるから、同限度で認容し、原告会社のその余の各請求、原告aの各請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。

[控訴審]
当裁判所も、控訴人会社の請求は、被控訴人会社及び被控訴人Yにそれぞれ5万円の支払を求める限度で理由があり(後記のとおり、被控訴人らの債務は不真正連帯債務の関係にあると解される。)、その余の請求はいずれも理由がなく、控訴人Xの請求はいずれも理由がなく、当審における追加請求もいずれも理由がないものと判断する。その理由は、後記1のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほか、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
()
2 控訴人らの当審における追加請求に係る主張に対する判断
控訴人らは、被控訴人会社の行為の態様に照らし、民法710条に基づき控訴人らの無形損害の賠償が認められるべきであると主張する。
しかし、控訴人会社については、被控訴人会社の行為によって控訴人会社の名誉又は信用が毀損されたと認めるに足りる証拠はない。控訴人Xは、その陳述書において、顧客から、控訴人商品の販売価格がインターネット上の商取引サイトごとに異なっているとして、控訴人会社がいい加減な会社であると電話で言われた旨陳述しているが、仮に顧客から上記内容の電話がかけられた事実があったとしても、控訴人会社の名誉又は信用が一般的に低下したと認められることにはならない。
また、仮に、控訴人会社に何らかの信用低下があったとしても、被控訴人会社が被控訴人オンラインストアで控訴人商品を販売した期間が短期間であったことなど、本件の事実関係に照らせば、控訴人会社の信用低下の程度が大きいものであるとはいえず、財産的損害の5万円の賠償によって評価し尽くされているといえ、更に無形的損害に係る金銭的賠償を受けることはできないというべきである。
控訴人Xについては、被控訴人会社の行為によって、控訴人会社に対する権利侵害とは別に、控訴人Xの権利又は法的利益の侵害が生じたと認められないことは、補正後の原判決の説示のとおりである。
控訴人らの当審における補充主張は採用することができない。
3 結論
以上によれば、控訴人会社の請求は、被控訴人らに対して5万円の連帯支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却し、控訴人Xの請求はいずれも理由がないから棄却すべきであって、控訴人らの控訴は理由がなく、控訴人らの当審における追加請求もいずれも理由がないからこれを棄却すべきである。なお、原判決は、被控訴人らが各自控訴人会社に対して5万円を支払うよう命じているが、被控訴人らそれぞれが連帯して控訴人会社に5万円の支払義務を負うとの趣旨であることは明らかであるから、原判決を変更する必要はないというべきである。