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著作権判例セレクション

【職務上作成する著作物の著作者】 職務著作の当否/写真集の複製販売の差止請求につき、権利の濫用であって許されないとした事例

平成200924日那覇地方裁判所[平成19()347]
() 本件は,被告東亜の元取締役であり,写真家である原告が,被告東亜及び被告財団に対し,原告が撮影した別紙記載の各写真(「本件各原写真」)を被告らが無断で複製して別記載の写真集「写真で見る首里城(第4版)」(「本件写真集」)に掲載しているのは原告の複製権を侵害し,また原告の氏名を表示せずに本件写真集を複製及び販売しているのは原告の氏名表示権を侵害する不法行為である等と主張して,本件各原写真の複製権等に基づいて,本件各原写真の複製物ないし翻案物である別紙記載の各写真を削除しない限りでの本件写真集の複製及び販売の差止め,使用料相当額の損害の賠償を請求し,また本件各原写真に係る氏名表示権に基づく慰謝料等の支払いを請求した事案である。
なお,原告はその訴状中で複製権の侵害を主張しているが,本件各原写真のうちには,もとの写真の一部を切り出して本件写真集に掲載されているものがあるから,翻案権の侵害も合わせて主張しているものと解される。また,原告は,前記のとおり販売行為の差止めも請求しているから,譲渡権の侵害も合わせて主張しているものと解される。

1 原告の写真撮影の有無(争点1)について
()
(13) 証拠によれば,座喜味城跡の写真である本件原写真18は,平成9年8月,原告が撮影したものであることが認められる。
(14) 小括
ア 上記(1)ないし(13)のとおり,原告が本件各原写真をいずれも撮影したものであり,うち本件原写真1ないし17は原告が被告東亜に在職中に,うち本件原写真18は原告が被告東亜に就職する前にそれぞれ撮影したものであった。
そうすると,本件各原写真は,いずれも原告によって作成されたものである。
イ なお,被告東亜においては,原告が撮影した写真には「001-」で始まる整理番号ないし撮影者表示が付されて整理され,B 等が撮影した写真には「002-」で始まる整理番号ないし撮影者表示が付されて整理されていた。
また,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各原写真のマウント(紙製等の一種の枠)は,本件各原写真を本件第3版の発行に使用した時点ころ又は遅くとも本件写真集の発行に使用した時点ころまでに,上記各使用の目的でいったん開封され(取り外され),被告東亜の従業員によって新たなマウントに装填されたことが認められる。そして,証拠及び弁論の全趣旨によれば,上記の新たなマウントに装填された際に,被告東亜の従業員が本件原写真18のマウントに撮影年月を「2001.6」(平成13年6月)と誤って記載したことが認められる。したがって,本件原写真18のマウントには上記のとおり,真の撮影年月とは異なった年月が記載されているものであるが,これは誤った記載であって,この記載があることによって前記(13)の認定が左右されるものではない。
2 職務著作の当否(争点2)について
(1) 法人その他使用者(以下,「法人等」という。)の発意に基づいて,当該法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であって,当該法人等が自己の著作名義で公表するものの著作者は,作成時において契約等に別段の定めがない限り,当該法人等となるところ(著作権法15条1項),同項にいう「法人等の業務に従事する者」に当該「法人等と雇用関係にある者がこれに当たることは明らかであるが,雇用関係の存否が争われた場合には,同項の『法人等の業務に従事する者』に当たるか否かは,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきもの」であると解される(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決)。
本件においては,本件在籍中各原写真の撮影(作成)当時,原告と被告東亜との間で雇用関係があったか否かが争われているから,同項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かを判断するについては,上記のとおり,使用者たる被告東亜と作成者たる原告との間の関係に係る具体的事情も総合的に考慮して判断すべきである。
ここで,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告と被告東亜との間の契約関係,被告東亜による指揮監督の有無及び内容,被告東亜が原告に対して支払った金員の性格等に関し,次の(2)のとおりの各事実が認められる。
(2) 前提事実
()
(3) 判断
ア 前記(2)のとおり,原告は平成9年10月1日に被告東亜に就職し(雇用契約の締結),以後被告東亜との間で雇用関係を有するに至ったものであるが,同日以後,前記(2)のとおり原告が退職届をBに提出する以前において,原告が被告東亜に対して従業員を退職するとの意思表示をしたり,又は被告東亜との間で従業員の地位を喪失させる等の合意をしたことを認めるに足りる証拠はない。
そして,前記(2)のとおり,原告が被告東亜の取締役に就任した後も従業員としての給与の支給を受け,被告東亜を事業主とする社会保険に加入し,一定期間保険料納付が中断したものの,雇用保険に加入していたことにかんがみると,原告は,平成14年2月20日に被告東亜を退職するまで,被告東亜の従業員たる地位を有していたものというべきである。
そうすると,本件在籍中各原写真の撮影当時(平成9年12月31日ないし平成13年10月19日)において,原告は被告東亜の従業員兼取締役であったというべきである。
ところで,上記撮影当時においては,会社法施行前の旧商法(明治32年3月9日法律第48号)が適用されるところ,旧商法においては,株式会社の平取締役は業務執行をする権限を有していなかったから(旧商法260条参照),原告による写真撮影という労務の提供は,被告東亜の従業員たる地位に基づいてされたものといわざるを得ない。
したがって,本件在籍中各原写真の著作者との関係では,原告が被告東亜と雇用関係にある者であり,被告東亜の業務に従事する者に当たるというべきである。
イ 原告の主張について
() 原告は,被告東亜が,平成9年12月25日以降,原告につき雇用保険に加入せず,出勤簿やタイムカードによる勤怠管理を行っていなかったから,原告は著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たらない旨を主張する。
しかしながら,前記(2)のとおり,原告はまったく雇用保険に加入していなかったわけではない。被告東亜は,原告につき,事業主として一定期間雇用保険料を納付しなかったことがあったものの,その後に再び雇用保険料を納付したのであって,被告東亜による雇用保険料納付の中断の事実等をもって,直ちに原告が被告東亜と雇用関係になかったということもできない。
また,被告東亜において,原告に関して出勤簿による勤怠管理が行われていたことを認めるに足りる証拠はないが,だとしても,上記のような勤怠管理がされていなかったことの一事をもって,直ちに原告が被告東亜と雇用関係になかったということはできない。
そして,前記(2)のとおり,被告東亜においても,遅くとも平成12年8月ころ以降はタイムカードを使用して勤怠管理を行っていたのであって,それ以前のタイムカードの不使用の事実をもって,直ちに原告が被告東亜と雇用関係になかったということはできない。
そうすると,雇用保険料不納付等を理由として,原告と被告東亜との間の雇用関係を否定することはできず,原告の上記主張を採用することはできない。
() 原告は,被告東亜の勤務時間及び平日・休日の別に関係なく仕事をし,被告東亜から勤務時間を管理されたことはなかったし,少なくとも平成12年3月までは,取締役の報酬のみを支給されており,残業代等を支給されたことはなく,平成12年ころに給与を支給された形にしたのは,被告東亜の存続や原告の地位や生活を守るために,形式的に従業員としての体裁を整えるべく,従業員に支給する体裁をとったからにすぎないから,原告は前記「法人等の業務に従事する者」に当たらない旨等を主張する。
しかしながら,前記(2)のとおり,原告は被告東亜に就職した当初から,管理職たる部長であったのであって,一般の従業員とは異なって,残業代等が支給されないのはやむを得ないことであるし,前記2のとおり,被告東亜では勤務時間が一応定められており,また,前記(2)のとおり,被告東亜は,原告に対し,役員報酬とは別に,ないしは役員報酬と合わせて,従業員給与を支給していた。そして,上記のとおり,原告に対して残業代等が支給されない以上,原告の勤務時間を厳格に管理する必要は乏しいから,被告東亜による原告の勤務時間の管理が緩やかになっていたとしても,このことの一事をもって,原告の従業員たる地位が否定されることになるわけではない。
また,被告東亜において,会社運営上の問題をクリアするために,支給総額を変えずに,役員報酬部分を減額し,他方従業員給与部分を増額したことがあったとしても,原告との間の雇用関係の有無が左右されるものではない。
そうすると,残業代等の不支給等を理由として,原告と被告東亜との間の雇用関係を否定することはできず,原告の上記主張を採用することはできない。
なお,被告東亜は,社内の基準に従って定められた,原告の当初の従業員給与の大半にあたる金員を,原告が取締役に就任した後に役員報酬として支給し,各月の役員報酬と従業員給与の合計額が不変になるようにしたり,平成12年11月分以降の役員報酬及び従業員給与の合計額を,従業員給与の算定方式に従って算出したりしており,少なくとも原告については,役員報酬と従業員給与の区別が曖昧であった。上記のとおり従業員給与の算定方式が使用されていたことがあったことにかんがみれば,原告が被告東亜から毎月支給を受けていた金員は,役員報酬というよりは従業員給与の性格を強く帯びていたものということもできる。
() 原告は,原告がミーティング等を主催し,また写真部門の責任者として,写真貸出し業務の運営を行い,また自ら写真撮影を行い,撮影した写真の整理作業を行っていたが,被告東亜からその方法等につき指示されたことはなかったから,原告は前記「法人等の業務に従事する者」に当たらない旨等を主張する。
しかしながら,前記(2)のとおり,原告は被告東亜に就職した当初から,管理職たる部長であったし,また前記(2)のとおり,原告が被告東亜の取締役に就任した後の平成10年2月ころからは,被告東亜の営業の管理責任者として,営業全般を統括していたのであって,代表取締役社長であるBから逐一具体的に指示されていなかったのはむしろ当然である。原告がB等から具体的に指示を受けず,ある程度自由に作業の方法を決定できたのは,原告が被告東亜の従業員のうちでも管理的な高い地位を占めていたからにすぎないのであって,この一事をもって原告と被告東亜との間の雇用契約が否定されることも,原告が前記「法人等の業務に従事する者」に当たらないということもできない。
そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。
() 原告は,自らの判断で,いつ,どこの現場に行って撮影をするかを決めており,被告東亜から命じられて撮影をするということはなかったし,撮影のアングル,手法については,まったく原告の裁量に委ねられていたから,原告は前記「法人等の業務に従事する者」に当たらない旨等を主張する。
しかしながら,前記(2)のとおり,被告東亜では,通常,撮影前に打合せを行い,従業員等が2名1組で撮影作業を行うこととされ,従業員等が単独で撮影作業を行う場合でも,事前に撮影対象や,撮影場所,時間,使用する自動車を届け出て,撮影作業を行うこととされていたし,特に,官公庁等から具体的に被写体等を指定されて行う写真撮影や,撮影作業に時間がかかる大型カメラを使用しての写真撮影においては,事前に発注者の担当職員と協議し,撮影計画を練ってから,撮影作業を行っていたものであった。
また,原告は,発注者の指示に基づき,被告東亜の社内で決めた方針に従い,かつ被告東亜が所有する撮影機材を使用して,写真撮影を行ったが,撮影した都度,当日の作業の報告書である撮影日報を作成し,撮影時刻,当日の天候,気温,撮影者,撮影対象や使用機材等を被告東亜に報告していた。
そうすると,原告の上記主張はその前提を欠くものであるといわざるを得ないが,仮に原告が被告東亜の方針に反して,単独で撮影作業を行うことが度々あったり,必要な報告を怠ったことがあったとしても,それは原告が単に被告東亜の社内の作業の方針に従わなかったというものにすぎず,到底前記アの結論を左右するものではない。
そもそも,著作権法15条の趣旨は,雇用関係等にある者がその職務上作成する著作物については,使用者たる法人等が通常その作成費用を負担し,創作に係る経済的リスクを負担していること,法人等の内部で職務上作成された著作物につき社会的に評価や信頼を得,また責任を負うのは,社会の実態として,通常当該法人等であるとみられること,上記のような著作物については,著作者を当該法人等とする方が著作物の円滑な利用に資することから,著作者を使用者たる法人等とした点にあるものと解される。
そうすると,著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者」に当たるか否かを決するに当たって斟酌すべき当該法人等の指揮監督の内容は,必ずしも当該著作物の創作性に寄与するものであることを要せず,業務遂行や労務管理等のための一般的なものでも差し支えないものというべきである。
ここで,写真家が行う写真の撮影は,単純な機械的作業ではなく,被写体や構図が概ね指定されていたとしても,撮影者によって撮影の手法や構図の取り方に裁量の余地があるものであるところ,少なくとも本件在籍中各原写真に関しては,原告は被告東亜が指定した被写体や撮影方法等に従い,上記趣旨の裁量の限度において,撮影を行ったにすぎないものであって,原告が完全な自由裁量で本件在籍中各原写真の撮影を行ったものではなかった。
したがって,原告が被告東亜における作業においてある程度の裁量を有していた事実があったからといって,前記アの結論は左右されるものではなく,原告の上記主張を採用することはできない。
ウ なお,仮に本件在籍中各原写真が原告の従業員たる地位に基づいて撮影されたものであったということができないとしても,原告と被告東亜との間の関係を実質的にみたときには,①原告は大まかであるとはいえ被告東亜から被写体等の指定を受けて写真撮影を行い,撮影の結果を被告東亜に報告しており,被告東亜の一般的な指揮監督下において写真撮影という労務を提供していたものであったし,②被告東亜が原告に対して支給していた金員は,原告が作成した写真の点数や被告東亜において使用した点数に関わりなく支払われ,著作権の譲渡や複製等の許諾の対価の性格を帯びておらず,従業員に対する毎月の給与の性格,すなわち原告の労務提供の対価たるべき性格を有していたものであったから,原告は被告東亜の「業務に従事する者」に当たるということができる。
エ 前記(2)のとおり,原告は,被告東亜の指示に基づき,成果物を発注者に納入する目的ないし被告東亜の写真集等の作成等(本件第3版の制作はその1つである。)に役立てる等の目的で,被告東亜の業務の一環として,本件在籍中各原写真を撮影したものであったから,原告による上記各撮影は,いずれも,原告の職務上行われたものであったということができる。
そうすると,本件在籍中各原写真は,いずれも,著作権法15条1項にいう「法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物」に当たる。
オ 前記(2)のとおり,本件在籍中各原写真は,いずれも,被告東亜の指示に基づき,成果物を発注者に納入する目的ないし被告東亜の写真集等の作成等に役立てる等の目的で,原告が被告東亜の業務の一環として作成(撮影)したものであったから,その作成が被告東亜の発意に係るものであったことは明らかである。
そうすると,本件在籍中各原写真は,いずれも著作権法15条1項にいう「法人等の発意に基づき」作成されたものに当たる。
なお,同項の趣旨は前記イ()のとおりであると解されるから,上記「法人等の発意」を,使用者が著作物の創作をコントロールし得る権限を有し,かつ従業員の著作物の作成が使用者の権限下でされることをいうものと限定的に解することはできない。
カ そして,前記エのとおり,本件在籍中各原写真は,原告が,いずれも,被告東亜の指示に基づき,成果物を発注者に納入する目的ないし被告東亜の写真集等の作成等に役立てる等の目的で,被告東亜の業務の一環として,本件在籍中各原写真を作成(撮影)したものであったが,前記(2)のとおり,少なくとも本件第2版及び本件第3版の巻末の各奥付きには,編集制作者として被告東亜の商号が表示されているし,証拠によれば,被告東亜では写真の著作名義を自社として記載することを欲していたことが認められる。
そうすると,本件在籍中各原写真はいずれも,被告東亜の著作名義で公表することを予定して作成されたものであったと推認することができる。
したがって,本件在籍中各原写真は,いずれも,著作権法15条1項にいう「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」に当たる。
なお,原告は,本件在籍中各原写真が原告の著作名義で公表することを予定して作成されたから,本件在籍中各原写真は被告東亜の著作名義の下に公表するものには当たらない旨を主張する。しかしながら,本件在籍中各原写真が原告の著作名義で公表することを予定して作成されたことを認めるに足りる証拠はなく,前記(2)の本件第3版の写真撮影者に係る表示において原告の氏名が記載されていたことがあったからといって,この記載の事実から直ちに,本件在籍中各原写真が,その作成当時原告の著作名義で公表することが予定されていたともいうことができない。
したがって,原告の上記主張は前提を欠き,失当であるというべきである。
キ 結局,本件各原写真のうち本件在籍中各原写真は,いずれも,著作権法15条1項の職務著作に係る著作物に当たるから,その作成当時に契約や就業規則等に別段の定めがない限り,被告東亜がその著作者とされる。
しかし,前記1のとおり,本件原写真18は,原告が被告東亜に就職する以前である平成9年6月に撮影したものであったから,その著作者は原告であり,被告東亜が著作者となる余地はない。
3 著作権法15条1項にいう別段の定めの有無(争点4)について
(1) 原告が,被告東亜に就職した時点又はその前後に,被告東亜の代表者のBとの間で,原告が被告東亜に在職中に撮影した写真につき,原告がその著作者となる旨を合意したことを認めるに足りる証拠はない。
そもそも,被告東亜のような,写真や書籍等の制作を業とする法人等においては,制作した著作物の著作者が誰であるか,著作権が誰に帰属するかという事柄は,極めて重要なものであって,仮に制作後に差止め請求等を受けるときは,投下した資金等が無駄になることがあるのみならず,納入先ないし販売先等にも重大な営業上の悪影響ないし経済的損失を被らせる事態を生じさせる可能性があるものであって,従業員等がその職務上作成した著作物について著作者となる余地を残すとき等には,就業規則等に盛り込んだり,契約書等の書面を作成して,その合意内容を明確にするのが通常である。
しかるに,本件全証拠によっても,原告が被告東亜との間で,原告が在職中に職務上作成した写真につき,その著作者を原告とする旨の契約書等を作成したことを認めることはできない(なお,原告は,その本人尋問において,被告東亜との間で原告が撮影した写真の著作権の帰属について文書を作成したことはない旨を供述している)。
むしろ,反対に,前記2(2)のとおり,原告が被告東亜に就職する以前から,被告東亜の就業規則においては,従業員がその職務上作成した著作物の著作権は被告東亜に帰属する旨が定められていたのであって,上記著作物に係る被告東亜の社内における方針は,著作権法15条1項の原則のとおり,著作者を被告東亜とするものであったということができる。
()
(3) 結局,原告が,被告東亜に就職した時点又はその前後に,被告東亜の代表者のBとの間で,原告が被告東亜に在職中に撮影した写真につき,原告がその著作者となる旨を合意したということはできず,原告と被告東亜との間において著作権法15条1項にいう「別段の定め」がされたとはいえない。
そうすると,本件在籍中各原写真の著作者は被告東亜であって,原告ではないというべきである。
そして,原告は被告東亜から本件在籍中各原写真の著作権を譲り受けたわけではないから,原告は本件在籍中各原写真につき,著作者のみが有する権利である氏名表示権はもちろん,複製権や翻案権等の著作権を何ら有するものではない。
したがって,その余の争点につき判断するまでもなく,原告の被告らに対する,本件在籍中各原写真の氏名表示権等に基づく各請求はいずれも理由がない。
4 本件原写真18の創作性(争点2のうち本件原写真18に係る部分)について
前記3のとおり,本件各原写真のうち,本件原写真18を除く写真,すなわち本件在籍中各原写真に係る請求は,原告が著作者人格権等を有せず理由がないから,以下,本件原写真18についてのみ判断する。
本件原写真18は,沖縄県内の城跡の1つであり,世界遺産にも登録されている座喜味城跡を地上から撮影した写真であるところ,その構図は大略,2層になっている石積みの城壁のうち下層の城壁が画面の概ね下半分を占め,また上層の城壁が画面の中央付近から6分の1程度の高さを占め,画面の上部3分の1強の高さの部分を背景たる青空が占めており,かつ下層の城壁の一部が画面中央付近から画面下端に向けて右手方向にカーブし,この城壁のカーブしている部分が影になっているというものであって,概ねその全部が明るくなっている上層の城壁とは異なり,上記の影になっている部分が下層の城壁に明暗のコントラストを作り,城壁のカーブを強調する効果をもたらしているものである。
ここで,被告東亜の原告以外の従業員が平成14年7月に撮影した座喜味城跡の写真(乙イ65号証の1)は,本件原写真18とほぼ同様の位置から,ほぼ同様のアングルで撮影されたものであるところ,上記写真は,本件原写真18とは,背景となる青空が画面に占める割合,上層の城壁の左右方向の位置,下層の城壁で囲まれる地面部分の緑色の草木の量が異なるほか,上記写真が下層の城壁の明暗を作ったものでない一方,前記のとおり,本件原写真18では下層の城壁の明暗をあえて作っている点が大きく異なり,したがって城壁のカーブを強調するか否かが大きく異なっている。
上記のとおり,同じ座喜味城跡をほぼ同じ位置及びアングルで撮影しても,相当印象が異なる写真が作成されている点にかんがみると,本件原写真18は機械的に撮影されたごくありふれたものである等とは到底いうことができず,本件原写真18は,その表現の仕方につき,原告の思想ないし感情が創作的に反映された,美術の著作物に当たるというべきである。
なお,本件原写真18は,乙イ65号証の1の写真に比して,ピントが若干甘いものの,このことの一事をもって本件原写真18の創作性を否定することはできない。
5 本件原写真18の著作権譲渡,複製許諾又は氏名表示権不行使合意の有無等(争点5のうち本件原写真18に係る部分)について
(1)ア 被告らは,被告東亜は,平成9年9月29日に原告を面接した際,原告との間で,原告が被告東亜に就職する前に撮影した写真の買取りの趣旨で金員を支払ったから,本件原写真18等については,原告から著作権の譲渡を受けたか,又は複製等の許諾等を受けた旨を主張する。
イ しかしながら,著作者が自己の著作物につき複製権や翻案権等の著作権を他人に譲渡するときは,以後自己が作成した物であるにもかかわらず複製や翻案等を行うことができなくなるという重大な結果を生じることになるし,著作権の譲渡を受ける者としてもその後の独占的利用を確保する必要があり,かつ権利を主張する第三者が出現するときはその営業活動上重大な不都合を生じることになるから,著作権の譲渡に当たっては,契約書等の書面を作成して,その合意内容を明確にするのが通常である。
しかるに,本件全証拠によっても,原告が被告東亜との間で,本件原写真18等の,原告が被告東亜に就職する以前に作成した写真の著作権を被告東亜に譲渡する旨の契約書等の書面を作成したことを認めることはできない。
その上,前記2(2)の支度金20万円のうちに,原告が被告東亜に就職する前に撮影した写真の著作権の譲渡代金が含まれていたことを認めるに足りる証拠はない。前記2(2)のとおり,Bは熱心に原告に対し被告東亜に就職するよう勧めていたものであったし,証拠によれば,原告は,被告東亜に就職した初日(平成9年10月1日)に早速,国営沖縄記念公園・海洋博覧会地区に出かけて,被告東亜の業務として,イベントの集合写真を撮影したことが認められるから,上記支度金は,原告の就職を後押しし,原告に当面生じる費用の支弁を援助する趣旨のものであったと推認することができる。
結局,被告東亜が,平成9年9月29日に原告を面接した際,原告との間で,本件原写真18等の,原告が被告東亜に就職する前に撮影した写真の著作権の譲渡を受けた旨の,被告らの上記主張は理由がない。
ウ また,被告東亜が平成9年9月29日に原告に交付した支度金の趣旨が前記イのとおりである一方,上記支度金のうちに原告が被告東亜に就職する前に撮影した写真の複製等の許諾の対価が含まれていることを認めるに足りる証拠はないから,被告東亜が,平成9年9月29日に原告を面接した際,原告から,本件原写真18等の,原告が被告東亜に就職する前に撮影した写真の複製等の許諾を受けた旨の,被告らの上記主張は理由がない。
(2)ア 被告らは,原告は,自ら希望して被告東亜のフォトライブラリーに本件原写真18等を提供し,この場合には原告は被告東亜に対して,当該写真の著作権を主張せず,かつ使用料を請求しない旨を申し出たのであって,被告東亜に就職する以前に撮影した写真を被告東亜が自由に複製等することを許諾した等と主張する。
イ 確かに,前記2(2)のとおり,原告は自ら進んで自己が被告東亜に就職する以前に撮影した写真を被告東亜のフォトライブラリーに提供したものであったところ,証拠によれば,原告は被告東亜に対し,フォトライブラリーに提供した写真につき,使用料を要求したことも,被告東亜から使用料を受領したこともなかったことが認められる。
ウ しかしながら,前記2(2)のとおり,原告は被告東亜の従業員であった間,フォトライブラリー業務を担当していたところ,証拠によれば,原告が被告東亜のフォトライブラリーに自己が被告東亜に就職する前に撮影した写真を提供したのは,フォトライブラリーの売上げを伸ばすことで,被告東亜の経営に貢献するためであったことが認められる。
そして,本件写真集に対する本件原写真18の使用は,被告東亜が制作する写真集への使用であって,被告東亜が外部の第三者に使用を許して使用料を徴求する場面とは,その様相が異なることは否定できない。
加えて,前記2(2)のとおり,原告は被告東亜に対し,その退職に際して自己が撮影した写真のフィルムを返還するよう要求しており,他方被告東亜も,原告に対し,原告が退職した後に,原告が被告東亜に就職する前に撮影して,被告東亜に預けた写真のフィルムのうち,本件原写真18以外の写真のフィルムを返還したものであった。
そうすると,原告が自己が被告東亜に就職する以前に撮影した写真を被告東亜のフォトライブラリーに登録した等の事実から,少なくとも,原告が被告東亜に対し,被告東亜に就職する以前に撮影した写真を,原告が被告東亜を退職した後においても,被告東亜において,被告東亜が制作する写真集等に自由に複製等することを明示又は黙示に許諾したとまでみることは困難である。
(3)ア 被告らは,原告が被告東亜を退職するときに,被告東亜に対し,自己が職務外で撮影した,被告東亜が保管中のフィルムに係る権利を放棄するとの意思表示をしたから,本件原写真18等の,被告東亜の職務と無関係に撮影した写真に係る著作権等を放棄したか,又は被告東亜に上記著作権等を無償で譲り渡した等と主張する。
イ しかしながら,原告が被告東亜に対し,自己が職務と無関係に撮影した写真に係る著作権を無償で譲渡又は放棄したことを認めるに足りる証拠はない。
むしろ,前記2(2)のとおり,原告は被告東亜に対し,その退職に際して自己が撮影した写真のフィルムを返還するよう要求しており,他方被告東亜も,原告に対し,原告が退職した後に,原告が被告東亜に就職する前に撮影して,被告東亜に預けた写真のフィルムのうち,本件原写真18以外の写真のフィルムを返還したものであった。
また,前記(2)イと同様に,原告が本件第3版に自己が被告東亜に就職する前に撮影した写真が使用されていることを知りながら,被告東亜に対して使用料を要求しなかったのは,自己が被告東亜の従業員及び取締役であった当時に,その掲載がほぼ決まっており,退職当時には制作作業が終盤にさしかかっていたからにすぎなかった。
そうすると,原告が被告東亜を退職する際に,自己が被告東亜に就職する以前に撮影し,被告東亜のフォトライブラリーに登録する等して,被告東亜においてフィルムを管理中であった写真の著作権を被告東亜に対して無償で譲渡ないし放棄したというのは困難である。
(4)ア 被告らは,原告は,被告東亜に在職中,本件第2版及び第3版の企画及び制作に深く関与し,写真集「写真で見る首里城」が改訂を重ねていく性格の書籍であることを知っていたにもかかわらず,原告は,被告東亜を退職する以前に,被告東亜との間で,自己が撮影した写真の著作権に関し何らの取決めをすることも,被告東亜に対して上記写真の使用料を請求することもなく,また当時被告東亜において保管中であった上記写真の使用料につき,被告東亜との間で何ら取決めをせず,上記写真を引き取ることもしなかったから,原告は,上記退職の際,被告東亜との間で,原告が撮影した写真につき,被告東亜において自由に複製等して使用することを,少なくとも黙示に合意した旨を主張する。
イ 確かに,前記2(2)のとおり,原告は被告東亜に在職中は,そのほとんどの期間において被告東亜の営業の大半を担当していたのであって,本件第2版及び第3版の制作にも能動的かつ大幅に関与していたから,被告東亜を退職する前後において,写真集「写真で見る首里城」が,本件第3版で打ち切りになり,以後同種の写真集を発行することがない性格のものではなく,それ以降も改訂を重ねる可能性があったことを認識していたものと容易に推認できる。
また,前記2(2)のとおり,本件第2版は本件初版で掲載された写真を,本件第3版は本件第2版で掲載された写真を,それぞれ相当数引き続き掲載していることにかんがみれば,原告は,被告東亜を退職する前後において,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版において,本件第3版に掲載された写真を引き続き掲載する可能性があることを認識していたものと容易に推認できる。
そうすると,原告は,被告東亜を退職する前後において,本件原写真18も,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版に引き続き掲載される可能性があったことを認識していたものと推認できる。
他方,前記(1)及び(2)のとおり,原告は,被告東亜を退職する際も,それ以前においても,被告東亜との間で,原告が被告東亜に就職する以前に撮影した写真の著作権の帰属や,既に使用された写真集や書籍等の取扱い,上記退職の前及び後に使用された上記写真の使用料につき,何ら書面でも口頭でも取決めをしなかったものである。
そうすると,本件第3版を制作した時点で,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版にも本件原写真18を引き続き掲載するべく,この限りで本件原写真18の複製等を黙示に許諾したとみる余地や,あるいは,被告東亜を退職する前に原告が被告東亜の社内でその幹部職員として果たしていた役割の大きさや,被告東亜の元取締役として,退任及び退職後の会社の業務運営に無用な混乱を生じさせないという道義的な責任から,その後の改訂が明らかな本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版に引き続き掲載するべく,この限りで本件原写真18の複製等を黙示に許諾したとみる余地も十分あるところである。
その上,前記2(2)のとおり,本件第3版には当初座喜味城跡の航空写真を掲載する予定であったところ,Bが了知しないうちに,原告が被告東亜に就職する前に地上から撮影した写真である本件原写真18を掲載することに切り替わっていたものであるが,弁論の全趣旨によれば,上記のような事態は,当時本件第3版の制作作業を担当していた原告が,被告財団の担当者と協議しながら,掲載する写真を本件原写真18にしたものと認められるから,原告においては,本件第3版の制作当時ないし退職前の時点において,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版にも引き続き本件原写真18が掲載されることを意欲していたとも推認することができる。
ウ しかしながら,本件第3版には,本件原写真18の著作者であることが明確にされてはいないものの(本件第3版には,被告東亜の関係者以外の者が撮影した写真が多数掲載され,掲載された写真の点数全体との関係では大きな割合を占めているところ,その奥付きには,B及び原告以外の者について,写真提供者としてしか記載されていないし,B及び原告等が撮影した写真で,本件第3版に掲載された写真は相当数に上るのに,B及び原告が一括して写真撮影者として,その経歴とともに奥付きに記載されており,少なくとも本件原写真18との結び付きが不明確である。),その奥付きには曲がりなりにも掲載された写真の撮影を行った者として原告の氏名が記載されていたのであって,原告がその本人尋問において,「それならば,私の名前を配置するべきだと思うし,もしご本人だけのものであるならば,自分で全部撮ったものを載せるだろうっていうふうに,ある意味では信頼していました。」と,自己の氏名が表示されない写真集に掲載することを許容するつもりはなかった旨を供述していることにもかんがみれば,仮に原告が本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版にも本件原写真18を引き続き掲載すること,すなわち本件原写真の複製等を黙示に許諾したことがあったとしても,上記許諾は,当該改訂版に写真撮影者として原告の氏名を表示することを前提としていたものというべきである。
しかるに,本件第3版の改訂版である本件写真集には,その奥付き等に原告の氏名の表示は一切存しないから,少なくとも原告の氏名の表示がない本件写真集に掲載して出版するべく,本件原写真18を複製等することに対しては,原告の許諾はなかったものといわざるを得ない。
また,前記2(2)のとおり,原告は被告東亜に対し,その退職に際して自己が撮影した写真のフィルムを返還するよう要求しており,他方被告東亜も,原告に対し,原告が退職した後に,原告が被告東亜に就職する前に撮影して,被告東亜に預けた写真のフィルムのうち,本件原写真18以外の写真のフィルムを返還したものであったし,前記2(2)のとおり,被告東亜が原告に対して本件原写真18のフィルムを返還しなかったのは,被告東亜の従業員が本件原写真18の撮影年月を誤ってマウントに記載したために,被告東亜において原告が被告東亜に就職した後に撮影したものと誤って理解されていたことに基づくものにすぎなかった。
そうすると,原告が被告東亜を退職する際に自己が撮影した写真のフィルムを引き取らなかったとは必ずしもいえず,上記フィルムを引き取らなかったことを根拠とする被告らの前記アの主張は前提を欠くものである。また,フィルムの返還に係る上記各事情にかんがみれば,原告が被告東亜から本件原写真18のフィルムの交付を受けていないことから,原告が被告東亜に対し,本件原写真18のフィルムの所有権を放棄したとか,本件原写真18の複製等を許諾したとみることも困難である。
そして,前記イのほかに,上記結論を左右するに足りる被告らの主張及び立証はいずれも存せず,被告らの前記アの主張を採用することはできない。
(5) 小括
以上のとおり,原告が被告東亜との間で,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版に掲載するべく,被告東亜に対し,本件原写真18を複製等することを許諾したということも,上記改訂版につき氏名表示権を行使しない旨を合意したことも,いずれもあったとはいえないから,被告東亜が本件原写真18を複製して本件写真集を制作したことは,原告に無断でされたものであるといわざるを得ず,原告の本件原写真18の複製権,譲渡権(以下まとめて「複製権等」ということがある。)及び氏名表示権を侵害するものというべきである。
6 被告らの過失の有無(争点6)について
(1) 前記2(2)のとおり,被告東亜の従業員の手違いで本件原写真18のマウントの撮影年月が誤って記載され,被告において原告が被告東亜に就職した後に撮影したものと誤解されたため,被告東亜は原告から本件原写真18の複製等の許諾を得ることなく,本件原写真18を複製して本件写真集を制作し,被告財団に対して本件原写真が複製された本件写真集を販売(譲渡)したものであって,その結果,原告の本件原写真18に係る複製権等を侵害したものであった。
そうすると,被告東亜には,原告の本件原写真18に係る複製権等の侵害につき,少なくとも過失があったというべきである。
(2) そして,被告財団も,本件写真集に掲載する写真の著作者及び著作権の帰属につき確認すべき注意義務を負っているところ,被告財団の主張によっても,被告財団の担当者は,被告東亜に対して制作の発注をしたり,被告東亜の担当者との間で打合せ協議を行ったのみで,本件原写真18の著作者等を何ら確認していないものであった。
他方,被告財団において,被告東亜の担当者の説明等を信頼して,本件原写真18の著作者等の確認作業を省略したことがやむを得なかったと評価すべき事情は存しない。
そうすると,本件写真集を発行した被告財団にも,原告の本件原写真18に係る複製権等の侵害につき,少なくとも過失があったというべきである。
(3) 以上のとおり,被告らには原告の本件原写真18に係る複製権等の侵害につき,少なくとも過失があり,原告に対して本件原写真18に係る複製権等の侵害の不法行為に基づく責任を負うが,被告らは共同して本件写真集の発行に関与したものとみうるから,被告らの共同不法行為と評価すべきものであって,被告らの原告に対する損害賠償義務は不真正連帯債務になる。
7 過失相殺(争点7)について
被告財団は,原告には,被告東亜に在職時又は退職時に,自己が撮影した写真の取扱いにつき被告東亜との間で取決めをすることを怠った過失があるから,原告の損害賠償請求につき過失相殺すべきである旨を主張する。
確かに,原告は,退職及び退任の後に,被告東亜の業務に生じる悪影響を回避するため,遅くとも退職及び退任の際ころまでに,被告東亜との間で既に被告東亜において使用された写真の著作権の取扱いにつき,書面を作成して合意しておく方が,その道義上も相当であったともいい得る。
しかしながら,上記のような合意をしてその後の悪影響を排除すべきであるのは,被告東亜であって,原告が上記のような合意がないことによる不利益を甘受すべきいわれはないというべきである。
そうすると,本件原写真18の取扱いにつき仮に原告に何らかの落ち度があったと評価し得る余地があるとしても,原告の損害賠償請求につき過失相殺の根拠となり得る過失と評価すべきであるとまではいうことができない。
したがって,被告財団の上記主張は失当である。
8 損害の有無及び額(争点8)について
(1) 証拠によれば,被告東亜のフォトライブラリーにおいては,写真を貸し出す際,その用途によって異なる金額の使用料を徴求しており,書籍や雑誌等の記事にカラー写真を使用する場合の使用料を1点当たり2万5000円以上,パンフレット,カタログやPR誌にカラー写真を使用する場合の使用料を1点当たり3万5000円以上(ただし,表紙や見開きページ以外に使用する場合)と設定していることが認められる。
ここで,前記2(2)のとおり,本件第3版には当初座喜味城跡の航空写真を使用する予定であったところ,当時本件第3版の制作作業を担当していた原告が,被告財団の担当者と協議しながら,掲載する写真を本件原写真18にしたものであって,原告は,本件第3版の制作当時ないし退職前の時点において,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版にも引き続き本件原写真18が掲載されることを意欲していたとも推認することができることにかんがみると,被告東亜における上記使用料の水準を超えて,原告の損害の金額を推定することは相当でない。
したがって,原告の複製権等の侵害による損害について著作権法114条3項を適用して損害額を推定する場合の,同項にいう「著作権(中略)の行使につき受けるべき金銭の額」は,本件写真集が公の団体である被告財団から発注を受けた,首里城を紹介する趣旨の写真集であって営利性が必ずしも高いとはいえないこと,本件原写真18は沖縄県内の他の世界遺産を紹介する頁に掲載された,8点の写真のうちの1つにすぎないことにもかんがみれば,2万5000円をもって相当と認められる。
(2) また,本件原写真18が,原告自身もその制作に関与した本件第3版に引き続いて本件写真集にも掲載されたことや,本件原写真18の掲載の方法等にかんがみれば,被告らによる,原告の本件原写真18に係る氏名表示権の侵害によって受けるべき慰謝料の金額は10万円をもって相当と認められる。
(3) そして,前記(1)及び(2)の損害の認容額,本件訴訟の難易等にかんがみると,被告らによる,原告の本件原写真18に係る複製権等及び氏名表示権の侵害の不法行為と相当因果関係のある原告の弁護士費用の金額は,合計2万5000円をもって相当と認められる。
(4) したがって,原告の被告らに対する本件損害賠償請求は合計15万円の限度で理由があり,その余は理由がない。
9 謝罪広告の必要性(争点9)について
本件原写真18は,本件写真集の最終頁である沖縄県内の他の世界遺産を紹介する頁に掲載された,9点の写真のうちの1つにすぎず,その掲載部分の大きさは縦4cm,横5cm程度と頁全体の大きさに比して極小さく,本件写真集の全体がB5版95頁,掲載した写真の点数延べ177点(イラスト等3点を含む。)であるのに比して,極小さい割合を占めているにすぎないものである。
他方で,本件写真集に本件原写真18が掲載されたのは,単に本件第3版の内容を維持したからにすぎず,本件第3版の制作には原告自身も担当者として深く関与していたものであった。
また,前記2(2)のとおり,本件第3版には当初座喜味城跡の航空写真を使用する予定であったところ,当時本件第3版の制作作業を担当していた原告が,被告財団の担当者と協議しながら,掲載する写真を本件原写真18にしたものであって,原告は,本件第3版の制作当時ないし退職前の時点において,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版にも引き続き本件原写真18が掲載されることを意欲していたとも推認することができるものである。
そうすると,原告が本件原写真18の著作者であることを確保し,原告の名誉及び声望を回復するためには,被告らから前記8の損害の賠償を受ければ十分であって,この損害賠償を超えて,さらに別紙のとおりの謝罪広告の掲載まで必要であるとはいうことができない。
したがって,原告の被告らに対する謝罪広告の掲載請求はいずれも理由がない。
10 結論
以上の次第で,原告の被告らに対する損害賠償請求は主文掲記の限度で理由があるが,その余は理由がなく,原告の被告らに対する謝罪広告の掲載請求はいずれも理由がない。
他方,本件において著作権等の侵害となる写真は受注先である被告東亜の元従業員たる原告が撮影した1点のみで(しかも,原告が本件の訴えを提起するまで,前記9のとおり,被告東亜は本件原写真18を,原告が職務上撮影したものと誤解していた。),前記8のとおり,原告に生じる損害の金額は極少額である一方,同請求を認めるときは,被告らにおいて,既に多額の資本を投下して発行済みの本件写真集を販売等することができなくなるという重大な不利益が生じることになる。
ここで,前記9のとおり,本件原写真18は,本件写真集の最終頁である沖縄県内の他の世界遺産を紹介する頁に掲載された,9点の写真のうちの1つにすぎず,その掲載部分の大きさは縦4cm,横5cm程度と頁全体の大きさに比して極小さく,本件写真集の全体がB5版95頁,掲載した写真の点数延べ177点(イラスト等3点を含む。)であるのに比して,極小さい割合を占めているにすぎないものである。
加えて,本件写真集に本件原写真18が掲載されたのは,単に本件第3版の内容を維持したからにすぎず,本件第3版の制作には原告も担当者として深く関与していたものである。
また,前記2(2)のとおり,本件第3版には当初座喜味城跡の航空写真を使用する予定であったところ,当時本件第3版の制作作業を担当していた原告が,被告財団の担当者と協議しながら,掲載する写真を本件原写真18にしたものであって,原告は,本件第3版の制作当時ないし退職前の時点において,本件第3版以降の写真集「写真で見る首里城」の改訂版にも引き続き本件原写真18が掲載されることを意欲していたとも推認することができるものである。
そうすると,本件初版,本件第2版及び本件第3版がいずれも増刷されておらず,本件写真集がさらに出版される可能性が小さいことも併せ考えれば,原告の被告らに対する前記差止め請求は,権利の濫用であって許されないというべきである。
よって,主文のとおり判決する。