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著作権判例セレクション
【言語著作物】手書きの文章をデータ入力するシステムであるピースエントリーシステムの操作方法に関するマニュアル(総頁数は158頁)の著作物性を認めなかった事例
▶平成30年12月26日東京地方裁判所[平成30(ワ)6943]
(注) 本件は,本件マニュアルを作成した原告が,本件マニュアルは著作物であり,自ら著作権を有するとし,被告において,本件マニュアルをシンハラ語及び英語に翻訳し,本件マニュアルの内容を削除し,変形し,又は追加し,著作者としての原告の氏名を誤って表示した被告マニュアルを作成したことは,本件マニュアルについての原告の翻案権,同一性保持権及び氏名表示権を侵害する旨を主張して,被告マニュアルの複製の差止めなどを求めた事案である。
被告は,手書きの文章をデータ入力するシステムであるピースエントリーシステム(「本件システム」)を開発した株式会社である。原告は,被告の依頼を受け,本件システムの操作方法に関するマニュアルである本件マニュアルを作成した者である。本件マニュアルは,表紙及び本文から構成されており,本文は,本件システム使用時に表示される画面を取り込んだ画像のみの頁や,同画像にコメント(「本件コメント」)を付した頁により構成されている。
1 争点1(本件マニュアルの著作物性の有無)について
⑴ 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件マニュアルは,本件システムの機能や操作方法を説明することを目的とするものであり,総頁数は158頁である。
各頁は,本件システムの操作の際に表示される画面を取り込んだ画像がその大部分を占め,同画像に添えられている本件コメントは,1行ないし5行程度である。本件コメントは,本件マニュアルの前記作成目的に従い,本件システムの操作の際に表示される画面の内容を説明し,同画面に関連する本件システムの機能を説明し,又は同画面に関連する本件システムの操作について説明するものであり,例えば,本件システムのID及びパスワードの入力画面の画像が表示されている頁には,「ピースエントリーシステム起動後,ログイン画面が表示されるので,次の通り,個人個人に割り当てられたIDとPWを入力し「Login」ボタンを押す。」と記載されている。
⑵ 当裁判所の判断
ア 著作物は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)ところ,創作的に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作成者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体がごく短く,又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。
イ これを本件についてみるに,前記前提事実に認定したとおり,本件マニュアルは,本件システムの機能や操作方法の説明を目的として作成されたものであり,その作成目的に従い,本件コメントは,各頁に表示された本件システムの画面の内容を説明し,同画面に関連する本件システムの機能を説明し,又は同画面に関連する本件システムの操作といった客観的事実を説明することを目的として作成されており,その性質により,機能や操作方法を分かりやすく,一般的に用いられるありふれた表現で示すことが求められることから,表現の選択の幅は狭いものである。そして,本件コメントでは,本件システムの機能等を説明するためにコンピュータに関する用語が選択されているものの,当該説明において他の表現を用いることは想定し難く,また,その他の表現も操作等を説明するものとして特徴的な言い回しが存するともいえない。
そうすると,本件コメントに原告の個性が表現されているとはいえないのであって,本件マニュアルに著作物性があるということはできない。これに反する原告の主張は採用することができない。
2 結論
以上によれば,その余の争点につき判断するまでもなく,原告の請求には理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。