Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【損害額の算定例】 法1142項の適用事例

▶平成30531日東京地方裁判所[平成28()20852]
() 本件は,「トムとジェリー」の各アニメーション作品(「本件アニメーション作品」)の日本語台詞原稿(「本件著作物」)の著作権を各2分の1の割合で共有する原告らが,本件著作物(台詞原稿)を実演した音声を収録した各DVD商品(「被告商品」)を製造,販売,輸入する被告の行為が著作権侵害(製造につき複製権侵害,販売につき譲渡権侵害,輸入につき著作権法113条1項1号の著作権侵害とみなされる行為)に当たると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,被告商品の輸入,製造及び販売の差止めを求めるとともに,提訴の3年前の日である平成25年6月24日以降の販売分につき民法709条,著作権法114条2項に基づき,損害賠償金等の支払を,また,それより前である平成25年6月23日までの販売分につき民法703条に基づき,不当利得金(著作権使用料相当額)等の支払を,それぞれ求めた事案である。

1 争点(1)(著作権侵害の有無)について
前記前提事実によれば,被告は,原告らに無断で,韓国において,原告商品に収録された本件アニメーション作品の日本語音声をその映像とともに複製して,被告商品を製造し,日本国内で頒布する目的で輸入し,これを販売している。原告商品に収録された本件アニメーション作品の日本語音声を複製することは本件著作物(台詞原稿)を複製するものであるところ,被告は,国内において頒布する目的をもって,輸入の時において国内で作成したとしたならば複製権侵害となるべき行為によって作成された物である被告商品を輸入しているため,上記輸入行為は原告らの著作権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項1号)。また,被告商品を国内で販売する行為は原告らの譲渡権(同法26条の2)を侵害する。
よって,被告は,本件被告行為により原告らの著作権を侵害しているものと認められる。
2 争点(2)(過失の有無)について
()
3 争点(3)(損害額(著作権法114条2項))について
(1) 被告商品の限界利益額
ア 卸販売価格(率)
弁論の全趣旨によれば,被告商品1及び2の卸販売価格率は62%,被告商品3の卸販売価格率は60%と認められるから,被告商品1及び2の1枚あたりの卸販売価格は310円(500円×0.62),被告商品3の1枚あたりの卸販売価格は588円(980円×0.6)と認められる。
これに対し,原告らは,被告商品の卸販売価格率は65%を下回らないと主張するが,同主張を裏付ける証拠としては,卸販売価格率について「大手の仲介取次ぎ会社に関しては,通常65%と定められています。」との記載のある原告アートステーション代表者の陳述書を提出するのみで,そのほかに上記主張を裏付ける客観的な証拠を提出しないから,被告商品の卸販売価格率が被告の自認する上記率を上回ることを認めるに足りる証拠はなく,その主張を採用することはできない。
また,被告は,平成29年11月17日の第11回弁論準備手続期日において,従前の主張を変更し,被告の各卸先との卸販売価格率の例によれば平均48%であるから,これに基づいて計算すべきであると主張している。しかしながら,被告が卸販売価格率を開示する取引先は,被告の取引先の一部にすぎず,そのような一部の取引先との卸販売価格率の平均をもって被告商品の卸販売価格を算定するのは相当ではないから,被告の変更後の主張を採用することはできない。
イ 製造原価
証拠によれば,被告商品1及び2の1枚あたりの製造原価は少なくとも61.47円であり,被告商品3の1枚あたりの製造原価は少なくとも255.09円であると認められる。したがって,被告商品1及び2の1枚あたりの限界利益額は245 8.53円(310円-61.47円),被告商品3の1枚あたりの限界利益額は332.91円(588円-255.09円)であると認められる。
これに対し,原告らは,被告が被告商品1及び2の製造原価について根拠資料を合理的理由なく提出しておらず,また,被告商品3の製造原価の内訳では二重計上や不適切な費用計上等があるから,被告の製造原価に係る主張は信用できないと主張する。しかしながら,被告商品3の製造原価について,被告は,最終的に,増刷分の製造原価である255.09円を被告商品3の製造原価と主張しているところ,増刷分の製造においては,そもそも原告らが問題点として指摘する「翻訳」,「マスター代」,「オーサリング」,「DVDカム他」はいずれも費用計上されていないから,原告らの指摘は当たらない。また,被告商品1及び2の製造原価について,直接的な根拠資料は提出されていないものの,被告商品1及び2と共通する被告商品3の費用項目について,それを裏付ける各種請求書等によれば特に不合理な点はないことに照らすと,被告商品1及び2の製造原価についても被告の整理する一覧表は信用できるものと考えられる。したがって,原告らの主張を採用することはできない。
また,原告らは,原告イー・エックス・キューの取引条件に照らすと,被告商品1及び2を1枚追加製造・販売する際に要する経費額はそれぞれ55円を上回らず,また,被告商品3を1枚追加製造・販売する際に要する経費額は190円を上回らないと主張し,自らの経費に関する資料を証拠として提出するが,被告商品に係る製造原価については上記に説示したとおりであり,これに反する原告らの主張は採用できない。
(2) 被告商品における本件著作物の寄与度(推定覆滅事情)
被告は,被告商品は商品価値において映像部分の寄与度が極めて大きく,本件著作物(台詞原稿)の寄与度は20%程度であり,損害算定に当たっては20%を乗じるべきである旨主張する。
しかしながら,前記前提事実のとおり,被告商品は,原告商品に収録された本件アニメーション作品の日本語音声をその映像とともに複製したものであり,原告商品をいわゆるデッドコピーしたものであるところ,このようなデッドコピー品を販売した者に利得の一部を保有させるのは相当でないから,仮に被告商品の商品価値において映像部分の寄与度がある程度存するとしても,そのことをもって原告らの損害額を減額することは相当でない。
したがって,被告の主張を採用することはできない。
(3) 被告商品3(100話収録)における本件アニメーション作品(24話)の寄与度(推定覆滅事情)
前記前提事実のとおり,被告商品3に収録された100話のうち,本件アニメーション作品は24話であるから,本件アニメーション作品の寄与度は24%にとどまる(76%について推定が覆滅される)と認められる。
これに対し,原告らは,被告商品3には,本件アニメーション作品24話を含め100話が収録されているものの,被告商品3の購入動機として本件アニメーション作品の顧客吸引力は他の作品に突出しており,その寄与度は50%を下回ることはないなどと主張する。
しかしながら,本件の全証拠を検討しても,被告商品3の商品価値において本件アニメーション作品の寄与度がその話数に応じた割合である24%を超えるものであるとは認められない。原告らは,「トムとジェリー」シリーズが各種売上ランキングにランクインしていることや,YouTubeにおいて被告商品3の他のアニメシリーズよりも視聴回数が多いことを根拠として主張しているが,そのことから直ちに被告商品3における本件アニメーション作品の寄与度が上記の24%を超えるということはできない。なぜならば,「トムとジェリー」作品を視聴したいのであれば,「トムとジェリー」作品のみが収録された,より安価な原告商品や被告商品1ないし2等を購入する選択肢もあるのに,あえて価格の高い被告商品3を購入する動機には,「トムとジェリー」作品以外の作品も同様に視聴したいという場合があることが容易に考えられるからである。
したがって,原告らの主張を採用することはできず,被告商品3における本件アニメーション作品の寄与度は,その話数に応じて24%とするのが相当である。
(4) 小括
前記前提事実の被告商品の販売枚数及び前記(1)ないし(3)を踏まえると,著作権侵害に基づく,著作権法114条2項による原告らの損害は,以下のとおり,各原告につき,62万4357円であると認められる(小数点以下切り捨て)。
ア 被告商品1及び2
(929枚+889枚)×248.53円=45万1827円
各原告につき,22万5913円
イ 被告商品3
8572枚×332.91円×0.24=68万4889円
各原告につき,34万2444円
ウ 弁護士費用
各原告につき,上記ア及びイの合計額56万8357円の1割程度である5万6000円が相当である。
エ 合計
各原告につき,62万4357円
4 争点(4)(不当利得額(著作権使用料相当額))について
(1) 著作権使用料(率)
証拠によれば,原告アートステーション及び訴外コスモ・コーディネート(以下,この項では「原告アートステーションら」という。)と被告は,平成27年6月,原告アートステーションらが著作権を有する日本語字幕及び日本語吹き替え台詞を使用したアニメーション作品10作品(本件アニメーション作品とは異なる。)を収録したDVD商品の製造・販売を許諾する合意書において,使用料を定価の10%とする合意をしていること,また,原告アートステーションらと被告は,平成27年10月,上記アニメーション作品10作品を含む映画作品を利用して製作された商品の著作物又は商標の利用料として,定価の10%相当額とする合意をしていることが認められる。これらの合意は本件アニメーション作品とは異なる映像作品に関するものではあるものの,原告アートステーションと被告との間における映像作品に関する使用許諾契約であることに照らすと,本件著作物の著作権使用料率についても,販売価格の10%であると考えるのが相当である。よって,被告商品1及び2については1枚あたり50円(500円×0.1),被告商品3については1枚あたり98円(980円×0.1)と算定すべきである。
これに対し,原告らは,上記合意は原告アートステーションらが被告に対して提起した著作権侵害差止等請求事件において,原告アートステーションらの全部勝訴判決が言い渡された後,被告との円滑な関係を構築することに配慮して,被告の申入れである10%を容れたものであり,本来の著作権使用料率は少なくとも15%を下らないと主張し,一方で被告は,上記合意における10%という数値は,被告敗訴の事実に鑑みて,本来の5%を倍にした形で設定されたものであり,本来の正当な著作権使用料率は5%が相当であると主張する。しかしながら,本来の著作権使用料率が15%あるいは5%であると認めるに足りる証拠は何ら存在しないから,原告ら及び被告の上記各主張はいずれも採用できない。
また,被告は,予備的主張として,従前,原告アートステーションが「トムとジェリー」に関して1話2万円で利用許諾している実例があるから,本件における不当利得額の算定については,販売価格に使用料率を掛ける方法ではなく,1話2万円として算定することが適当であると主張する。しかしながら,被告がその根拠として提出する平成22年8月31日付コンテンツ提供契約書は,そもそも原告らの間における契約であって,原告らと被告の間において当然に当てはまるものではないし,同契約書では原告イー・エックス・キューが原告アートステーションに対して「権利料」として1作品2万円を支払う(第5条1項)ほか,「制作費」として1作品3万円を支払うものとされており(同条2項),近接時期である同年9月10日に締結され,同様の権利料及び制作費等が規定された本件アニメーション作品に係るコンテンツ提供契約書と同様に,単純な著作権許諾契約とはいい難い内容のものであるから,そのような総合的な取決めの中から「権利料」のみを取り出して一般的な著作権使用料とみることはできない。したがって,著作権使用料相当額を1話2万円として算定することはできず,被告の予備的主張は採用できない。
(2) 被告商品3(100話収録)における本件アニメーション作品(24話)の寄与度
前記3(3)のとおり,被告商品3における本件アニメーション作品の寄与度は,その話数に応じて24%とするのが相当である。
(3) 小括
前記前提事実の被告商品の販売枚数,前記(1)及び(2)を踏まえると,原告らの不当利得額(使用料相当損害額)は,以下のとおり,各原告につき,
52万5938円であると認められる(小数点以下切り捨て)。
ア 被告商品1及び2
(2678枚+2619枚)×50円=26万4850円
イ 被告商品3
3万3462枚×98円×0.24=78万7026円
ウ 合計
105万1876円
各原告につき,52万5938円
第4 結論
以上によれば,原告らの請求は,主文第1項ないし第3項の限度で理由があるからこれらを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。