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著作権判例セレクション
【公衆送信権】新聞紙面等のサイトへの掲載行為につき、自動公衆送信権の侵害を認定した事例/著作権侵害に基づく損害賠償請求が権利の濫用に該当しないとした事例
▶令和3年4月23日東京地方裁判所[令和2(ワ)27196]
(注) 本件は,原告が,被告に対し,原告が著作権を有する別紙の各写真(「本件各写真」),別紙の各新聞紙面(「本件各紙面」)及び別紙のPDF形式の電子ファイル(「本件ファイル」)をそれぞれ複製したものを,被告がその管理運営するウェブサイト内に掲載したことによって本件各写真,本件各紙面及び本件ファイルに係る原告の著作権(自動公衆送信権)を侵害し,また,その際,被告が本件紙面4及び本件紙面6に掲載された各記事をそれぞれ左右に概ね2分割して複製した画像データを上記ウェブサイト内に掲載したことによって本件紙面4及び本件紙面6に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害したとして,不法行為に基づく損害賠償として,所定の金員の支払を求めた事案である。
1 争点1(本件掲載行為によって,原告の著作権(自動公衆送信権)が侵害されたか)について
(1)
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各画像は,別紙5原告著作物と本件各画像の対比表のとおり,それぞれ,対応する本件各写真,本件各紙面又は本件ファイルの全部又は一部を複製した電子ファイルであることが認められ,前記前提事実のとおり,原告は,本件各写真,本件各紙面及び本件ファイルの著作権を有し,被告は,遅くとも平成30年9月8日に,本件各画像を本件サイトに掲載した(本件掲載行為)ものであるから,本件掲載行為によって,本件各画像に対応する本件各写真,本件各紙面又は本件ファイルがそれぞれ送信可能化され,これらの著作物について原告が有する自動公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害されたものと認められる。
(2)
被告は,聖教新聞が原告の宗旨を広く公衆に知らしめることで布教活動を推進することを目的としているため,その記事の趣旨に反する誤用等なく聖教新聞の記事をウェブサイトに転載する行為は,原告の著作権を侵害するものではないと主張する。
しかし,前記(1)のとおり,本件掲載行為によって,本件各写真,本件各紙面及び本件ファイルが送信可能化されている以上,被告が主張するような本件掲載行為の目的及び態様に係る事情をもって,直ちに自動公衆送信権侵害成立を否定することはできないというべきである。
なお,被告の主張について,著作権法32条1項の「引用」に該当するとの趣旨であると理解するとしても,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件掲載行為は,本件各写真,本件各紙面上の特定の記事が掲載された部分全て及び本件ファイルの1頁目全体をほぼそのまま本件サイト上に転載するものであると認められ,他方で,本件証拠上,そのような態様で転載する必要性についてはうかがわれないから,「公正な慣行に合致するもの」及び「引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」との要件を満たすとは認められず,著作権法32条1項の適法な「引用」に該当するとはいえない。また,被告の主張する上記事情は,同法30条以下に規定されるその他の著作権の制限事由に該当するとも認められない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
2 争点2(本件掲載行為によって,原告の著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたか)について
(略)
3 争点3(本件掲載行為についての原告の許諾の有無)について
被告は,本件掲載行為について,原告は聖教新聞に掲載された写真や記事等を無償で利用することを許諾していたと主張する。
そこで検討するに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告は聖教新聞に掲載された写真や記事等を第三者が使用する場合の使用料規定を設けていなかったこと,聖教新聞が宗教法人である原告の機関紙であること,聖教新聞の紙面上において無断転載及び無断使用を禁ずる等の注意書きがなかったことが認められるが,これらの事情をもって,聖教新聞を発行する原告が,原告の会員(被告を含む元会員)又は第三者に対し,その紙面につき包括的に無償の使用許諾をしたとは認められず,本件全証拠によっても,原告が,被告に対し,本件各写真,本件各紙面及び本件ファイルを無償で使用することを許諾したと認めるに足りない。
したがって,この点の被告の主張は採用することができない。
4 争点4(本件損害賠償請求が権利の濫用に該当するか)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件サイトにおいて,核兵器禁止条約への日本の参加の当否に関し,本件掲載行為当時の原告の対応に批判的な立場から,「日本は核兵器禁止条約に参加すべきである」との主張を原告が聖教新聞紙上で表明することを求め,これを求める請願書への署名活動を行っていること,本件掲載行為は,B名誉会長の発言等が被告のそのような主張に沿うものであると位置付けて行われたこと,原告は,被告に対し,本件訴訟提起に先立ち,令和2年7月6日付けの通知書によって本件訴訟におけるものと同様の損害賠償及び本件各画像の本件サイトからの削除を求めたこと,被告は,当該通知書を受領しても,本件各画像の削除や損害賠償金の支払に直ちに応じず,SNSに当該通知書の画像をアップロードし,当該通知書の送付が原告による嫌がらせである旨の投稿をしたこと,被告は,その後,プロバイダから削除を求められたとして,本件各画像のうち,本件画像8-2以外のものを同年9月3日に本件サイトから削除したものの,本件画像8-2についてはプロバイダからの指摘がないとして削除しなかったこと,原告は,同年10月27日,本件訴訟を提起したことが認められる。
そして,前記1ないし3のとおり,被告は,本件掲載行為により,本件各写真,本件各紙面及び本件ファイルに係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害したものであるところ,原告の被告に対する損害賠償等の請求は,これらの権利の侵害を理由とするものであって,著作権及び著作者人格権の侵害を伴わない態様で被告が意見を述べることについては,請求の対象とするものではないというべきである。また,上記認定に係る経緯に照らせば,原告は,本件訴訟提起に先立ち,被告に対して本件サイトの本件各画像の削除と損害賠償を求めたが,被告がこれを拒んだことから,本件訴訟を提起するに至ったものと認められる。他方で,聖教新聞に掲載された写真や記事をインターネット上に無断で掲載する者が被告以外にどの程度存在するか,それらの者に対して原告がどのような対応をしているかを確定し得る証拠はない。
以上によれば,被告が,日本の核兵器禁止条約への参加を巡って,原告に対する批判的な言動を行っていたという事情や,聖教新聞に掲載された写真や記事をインターネット上に掲載する者に対して原告が一律に損害賠償請求等をしていない可能性があることを考慮しても,原告が被告を狙い撃ちにし,その言論と表現の自由を抑圧することを目的として,損害賠償請求等を行ったとまでは認められない。そうすると,本件において,原告の被告に対する本件損害賠償請求が権利の濫用に該当するとは認められないというべきであり,その他,本件全証拠によっても,本件損害賠償請求が権利の濫用に該当することを基礎づけるような事情は認められない。
したがって,被告の権利濫用の抗弁は理由がないというべきである。
5 争点5(損害の発生の有無と損害額)について
(略)
6 結論
よって,原告の請求は,被告に対して,著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,40万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年11月22日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容することとして,主文のとおり判決する。