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著作権判例セレクション
【損害額の算定例】法114条3項適用事例(聖教新聞の写真等をサイトへ掲載した事例)
▶令和3年4月23日東京地方裁判所[令和2(ワ)27196]
5 争点5(損害の発生の有無と損害額)について
(1)
著作権侵害による損害について
ア 原告の使用許諾実績等
前記3のとおり,原告は,聖教新聞に掲載された写真や記事等を第三者が使用する場合の使用料規定を設けていなかったものである。
そして,弁論の全趣旨によれば,本件各写真,本件各紙面及び本件ファイルについて原告が有償での使用許諾をした実績はなかったものと認められる。
また,当裁判所が,原告に対し,その他の聖教新聞の記事や写真等について予め使用許諾をした事例があるか否か釈明したにもかかわらず,原告は,この点についての確認を行わないことから,弁論の全趣旨により,聖教新聞の記事や写真等について予め有償で使用許諾がされた事例は存在しないと認めるのが相当である。
イ 業界における使用料の相場等
証拠及び弁論の全趣旨によれば,毎日新聞社は,報道写真や新聞紙面等の使用料を定めた毎日フォトバンクの料金表(本件料金表)を定めており,そこでは,インターネット上の商用利用以外の利用料金として,カラー写真については1点につき年額1万5000円,新聞紙面については前記(原告の主張)の内容の料金が設定されていることが認められる。
聖教新聞は,全国規模で発行されている日刊の新聞である点で毎日新聞と共通しており(弁論の全趣旨),原告及び被告が本件料金表のほかに写真や新聞記事に関する一般的な利用料金についての具体的な主張立証をしていないことからすれば,本件料金表における使用料は本件掲載行為に対する使用料相当額を算定するに当たって,一応の参考になるというべきである。
ただし,毎日新聞が一般紙であるのに対し,聖教新聞が宗教団体である原告の機関紙であり,その紙面は,原告の各種の行事・会合の内容や,B名誉会長の指導,会員の信仰体験が主要な部分を占めており,原告の会員の信心の深化,確立を図り,日蓮大聖人の仏法を基調に平和・文化・教育運動を推進するという方針の下で編集されているものである。そうすると,聖教新聞の本件各紙面及びこれと性質を同じくするといえる本件各写真及び本件ファイルの使用について,本件料金表をそのままあてはめるのは相当でなく,前記アのとおり,原告において聖教新聞の記事や写真等について有償での許諾実績がなかったことも併せ考慮すると,それらの使用料相当額は,同表所定の金額よりも低額となると解すべきである。
ウ 被告による著作権侵害の態様等
前記4のとおり,本件サイトは,特に核兵器禁止条約への参加に関し,原告に批判的な立場から運営されていたものであり,被告は,そのような自己の主張に関連付けて,本件各写真,本件各紙面及び本件ファイルを本件サイトに掲載した等の事情が認められる。このような態様による著作物の使用の場合,「著作権」「の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)は,通常の許諾の場合における金額と同一に論じることはできないから,前記4の本件掲載行為の態様等も,本件掲載行為に対する使用料相当額を算定するに当たり,増額要素として考慮すべきである。
エ 検討
前記アないしウの事情を踏まえて,著作権法114条3項の損害額を検討すると,前記ア及びイのとおり,本件料金表における使用料を一応の参考としつつ,一般紙と機関紙としての性質の違いに加え,原告における有償での使用許諾の実績や使用料規定の存在が認められないことからは,聖教新聞の記事や写真等の使用については本件料金表よりも低額の使用料が想定され,他方で,前記ウのとおり,本件掲載行為については使用料の増額要素があることも考慮すれば,前記1の自動公衆送信権侵害についての著作権法114条3項の損害額は,それぞれ以下のとおり認定するのが相当であり,その合計額は32万円と認められる。
(ア) 本件各写真の自動公衆送信権侵害について
証拠によれば,本件画像1,2-1,6-1及び8-1は,本件各写真を本件サイト内の異なるウェブページ上でそれぞれ使用したものであると認められ,前記前提事実のとおり,その掲載期間は,平成30年9月8日から令和2年9月3日のほぼ2年間である。
これらの事情に基づき,カラー写真をインターネット上で商用利用以外で利用する場合の本件料金表所定の利用料金が1点につき年額1万5000円であることを踏まえると,本件掲載行為による本件各写真の公衆送信権侵害についての著作権法114条3項の使用料相当額の損害は,1点当たり3万円(年額1万5000円×2年)に使用数4点を乗じた合計12万円と認めるのが相当である。
(イ) 本件各紙面の自動公衆送信権侵害について
a 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各紙面のうち,それぞれ本件画像2-2,3ないし5,6-2,7,9-1ないし9-6として公衆送信された記事は,いずれも1面の記事又は見出し4段を超える大きさの記事であったことが認められ,前記前提事実のとおり,これらの各画像の掲載期間は,平成30年9月8日から令和2年9月3日のほぼ2年間である。
これらの事情に基づき,見出し4段相当を超える記事をインターネット上で商用利用以外で利用する際の本件料金表における利用料金が1点につき年額8000円であることを踏まえると,本件掲載行為による本件各紙面の公衆送信権侵害についての著作権法114条3項の使用料相当額の損害は,1点当たり1万6000円(年額8000円×2年)に使用数11点を乗じた合計17万6000円と認めるのが相当である。なお,本件画像9-5及び9-6に係る本件紙面11及び12の公衆送信権侵害については,これらの画像に係る記事を一つの記事とみなすとの原告の主張に鑑み,上記の損害算定に当たっては1点として考慮する。
b 原告は,本件紙面4,6,7,8,11及び12のうち,それぞれ本件画像5,7,9-1,9-2,9-5及び9-6として公衆送信された記事については,その大きさなどから,本件料金表における「特別紙面料金」を適用して,その他の公衆送信された記事よりも高25 額の使用料相当損害金を認定すべきと主張する。
しかし,前記イのとおり,本件料金表は聖教新聞の記事の使用料について一応の参考となるに留まるものである上,本件掲載行為に係る各記事の中で,本件画像5,7,9-1,9-2,9-5及び9-6として公衆送信された記事が,その内容や性質においてどのように異なるのかについて,記事の大きさ以上には具体的な主張立証はない。
そうすると,上記の各記事に係る本件各紙面の公衆送信権侵害について,その他の記事と区別して,前記aを超える損害を認定すべきとは認められず,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 本件ファイルの自動公衆送信権侵害について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件ファイルは,原告のウェブサイトにのみ掲載されているものであり,このうち本件画像8-2として本件サイトに掲載されて公衆送信されたものは,本件ファイルのうち1ページ目全体であると認められる。そして,前記4のとおり,被告は原告からの本件画像8-2の削除の求めに応じておらず,前記前提事実のとおり,本件画像8-2は本件口頭弁論終結時においても本件サイト上に掲載されており,その掲載期間は,平成30年9月8日から本件口頭弁論終結日である令和3年2月10日の時点で,2年を超えて,2年5月に及んでいる。
これらの事情に基づき,ウェブサイトにのみ掲載されている記事をインターネット上で商用利用以外で利用する際の本件料金表における利用料金が1点につき年額8000円であることを踏まえると,本件掲載行為による本件ファイルの公衆送信権侵害についての著作権法114条3項の使用料相当額の損害は,2万4000円(年額8000円×3年)と認めるのが相当である。
オ 原告の主張について
原告は,被告による著作権侵害の態様が悪質であるとして,著作権法114条3項の損害を算定にするに当たっては,本件料金表における使用料相当額のさらに1.5倍した額を基準とすべきであると主張する。
しかし,前記エの損害額の認定は,原告に有償での使用許諾実績等がないこと,本件料金表の金額,本件各画像の使用点数や使用期間,被告による本件各画像の掲載態様等,本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮した上で,著作権法114条3項を適用したものであるところ,この認定を超えて,本件料金表における使用料を1.5倍した額を基準とすべき合理的な理由は見当たらない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
カ 被告の主張について
被告は,本件掲載行為が,C元会長及びB名誉会長の平和思想を広めようとするものであり,営利を目的としない無償行為であるから,原告に損害は発生していない旨主張する。
しかし,著作権法114条3項は,著作権等を故意又は過失によって侵権等の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を著作権者等が受けた損害の額として賠償請求ができる旨を定めているものであり,損害額の推定規定ではなく,同金銭の額を最低限の損害賠償額として保証した法定規定である。そうすると,本件掲載行為が営利を目的としない無償行為であっても,原告の同条3項による損害額の賠償請求は妨げられないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。