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著作権判例セレクション

【言語著作物の侵害性】営業戦略のマネジメント書籍の侵害性が争点となった事例

▶平成19830日東京地方裁判所[平成18()5752]▶平成200212日知的財産高等裁判所[平成19()10079]
() 本件控訴審は,控訴人らが,被控訴人に対し,被控訴人が執筆した被告書籍が,控訴人らが著作権,出版権を有する書籍等を複製又は翻案しているものであるとして,控訴人Xが著作権に基づき,控訴人株式会社M社が出版権に基づき,被告書籍の販売等差止め及び廃棄,損害賠償並びに謝罪広告の掲載を求めた事案であり,原判決が,被告書籍の一部について,控訴人らが著作権等を有する書籍等の複製又は翻案があるなどとして,被告書籍の販売等の差止め,侵害部分等の廃棄及び損害賠償請求の一部を認容し,謝罪広告の掲載請求を棄却するなどしたところ,控訴人らが,原判決が認めた部分以外にも,被告書籍中には,控訴人らが著作権等を有する書籍等の複製又は翻案があるなどと主張して,控訴人らの敗訴部分の判断を争った事案である。

[控訴審]
当裁判所の判断は,当審における当事者の主張につき,以下のとおり付加するほか,原判決のとおりであるから,これを引用する。
1 争点1(被告書籍が原告書籍等の複製又は翻案であるか)について
(1) 被告著作物追加目録4(被告書籍131頁,134頁,135頁)について
原告著作物追加目録4の230頁には,「たった1枚の名刺でキーマンを虜にする」という見出しがあって,その見出しに続いて,本文において名刺の活用が記載されている。被告著作物追加目録4には,「やっともらった『たった1枚の名刺』でキーマンを虜にするには」と語句が記載され,その全体が四角の枠で囲まれ,その下方に矢印が記載され,矢印の下方に,「何をすれば…『もう,まいった!』と言わせられるか」との語句が記載されている。
上記原告著作物追加目録4と上記被告著作物追加目録4において共通するのは,「たった1枚の名刺でキーマンを虜にする」との表現であるが,これは平凡な表現によりなる短文であり,これに創作性を認めることはできない。
また,原告著作物追加目録4の232頁には,四角の枠内の上部に「たった1枚の名詞の活用で…」と大きく書かれ,その下方に,四角の枠で囲まれた「キーマンをマイッタ!と唸らせる術」との語句が記載され,その周りに,「今のライバルのサービスに満足」,「来てもムダ」などの語句が記載されている。被告著作物追加目録4には,上記のとおり,矢印の下方に,「何をすれば…『もう,まいった!』と言わせられるか」との語句が記載されている。
上記被告著作物追加目録4と上記原告著作物追加目録4において共通するのは,「まいった」という表現で,これは,キーマンをまいったと言わせるという意味であると認められるが,このような語句に創作性を認めることはできない。
控訴人らは,たった1枚の名詞でキーマンをとりこにするとの部分は,必ずしも通常の使用例とは異なり,また,まいったとの表現も通常の使用例と異なり,通常の用語でないものを組み合わせて創作したものであり,創作性として十分である旨主張するが,いずれの使用例も日常普通に経験するものであり,このような短い表現,語句を2つ組み合わせたという程度では,これに創作性があると認めることはできない。
(2) 被告新規著作物目録2(被告書籍53頁)について
原告新規著作物目録2の1・2においては,上部に「営業をバラす」との記載があり,その下方に,「重要要素」として,「営業マンの力」,「営業幹部のマネジメント力」を掲げ,それぞれの「寄与率」の欄を設けて,上記両要素に対応する四角の枠を設けて中を空欄にし,寄与率の合計を「計100%」とし,それに対し,左側から「営業力とはナニか・・・・・・」と,右側から「どんなウェイトか・・・・・・・」と矢印で問いかけ,その下に「自分の感想」を記載する欄を設け,その欄に対して,矢印を付して,「ここが分ることが肝腎」と記載している。被告新規著作物目録2(被告書籍53頁)には,上部に「営業力を分解すると」と記載し,その下方に,「重要要素」として,「営業マンの力」,「営業幹部の力」を掲げ,それぞれの「寄与率」の欄を設けて,上記両要素に対応する四角の枠を設けて中を空欄にし,その合計を「100%とすると」とし,それに対し,右側から「どんなウエイトか」と矢印で問いかけ,その下に「ここがわかれば後は簡単」と記載し,矢印を記載して,矢印の下方に,「答えは?」として,営業マンの力を30パーセントとし,営業幹部の力を70パーセントと記載する図が記載されている。
ここで,原告新規著作物目録2の1・2の「営業をバラす」とか「どんなウェイトか」,「ここが分かることが肝腎」などの文言には,いずれも表現に何ら特徴的なところはなく,このような簡単な文言自体に創作性を認めることはできないし,他の語句も普通に使用されるもので,そこに創作性を認めることはできない。また,営業(力)について,これを営業マンと幹部の観点から分析すること,全体の分析を行うときに,寄与率の全体を100パーセントとして,寄与率の分析を行うこと,その寄与率を問いかけることなどはいずれも着想であって,著作権法で保護される表現ではない。そして,上記のような着想に基づき,複数(2個)の要素を掲げ,その横に各要素に対応する,四角の枠の中を空欄にした寄与率の欄を設けること,寄与率の全体が100パーセントであると示すこと,空欄にした部分を矢印をもって問いかけることなどは,いずれも極めてありふれた表現といえるのであって,そのような表現について,創作性があるということはできない。
控訴人らは,原告新規著作物目録2の1・2について,図の細部まで複製していること,図の配列等で創作性が認められることを主張し,確かに,図において,その配列等により創作性が肯定される場合があるものの,本件においては,上記のとおり,その配列自体が極めてありふれているといわざるを得ないので,これに創作性を認めることはできない。
(3) 被告新規著作物目録5(118,119頁)について
原告新規著作物目録5の1には,顧客のキーマンの心理の変化として,「(1) オヤ,この営業マンは『違う』……『でも売り込みだから』」,「(2) アラ,『彼は一味違うな』……『でも買う意思はないよ』」,「(3) ウム,『そこまで気配りが』……『彼はなかなかいいセンスだ』」,「(4) エ!『サスガだよ』……『彼に会うのが楽しみだ』」,「(5) ムムム……『まいった!』……「何かお礼してあげないと……』」,「(6) ウソー……『凄い』……『ともかくサンプル発注を……』」との記載があり,同著作物目録5の2,3にも,類似の記載がある。
被告新規著作物目録5(118頁)には,「お客様の反応の変化を知る」との表題のもと,客の反応をステップ1ないし6として記載し,それぞれ,「注意を引く」,「興味をもつ」,「欲しい」,「記憶する」,「行動する」,「満足する」というものであり,「アレ?」,「オヤー」,「アラ」,「ウムー」,「スゴイ!」,「マイッタ!!」というものであると記載し,また,被告新規著作物目録5(119頁)には,「お客さま」として示された人の形をした図の横に,6個の吹き出しが記載され,その吹き出しの中に,上から順に,「マイッタ!!」,「スゴイ!」,「ウムー」,「アラ」,「オヤー」,「アレ?」と記載されている。
原告新規著作物目録5の1ないし3は,顧客の心理の変化を6段階で示し,それを感嘆詞と顧客の心理の具体的内容とともに描写するものであるのに対し,被告新規著作物目録5は,顧客の心理の変化を6段階で示し,それを簡単な感嘆詞で表現するものである。顧客の心理の変化を6段階で示すことや,それを簡単な感嘆詞で表現すること自体は着想であって,著作権法で保護されるものではない。そして,被告新規著作物目録5は,6種の感嘆詞を用いて心理の変化を表現しているが,原告新規著作物目録5の1ないし3には存在する,顧客の心理の具体的内容の描写がないことに,原告新規著作物目録5の1で使用されている感嘆詞と,感嘆詞自体やその順序において異なることから,被告新規著作物目録5は,原告新規著作物目録5の1ないし3の複製又は翻案には当たらない。
控訴人らは,被告新規著作物目録5の感嘆詞や顧客の反応のステップは被告著作物目録1に現れる感嘆詞やステップに対応すること,被告著作物目録1は原告著作物目録1の1,2の1,3の1・2の複製に当たることから,被告新規著作物目録5は,原告新規著作物目録5の1(原告著作物目録1の1と同じ),同5の2(原告著作物目録2の1と同じ),同5の3(原告著作物目録3の1と同じ)の複製又は翻案とすべきである旨主張する。
しかし,被告著作物目録1は,原告新規著作物目録5の1ないし3と同様,顧客の心理の変化を6段階で示し,それを感嘆詞と顧客の心理の具体的内容とともに表現したものであり,顧客の心理の具体的内容についての表現において,被告著作物目録1と原告新規著作物目録5の1ないし3は実質的に同一といえるものであるが,被告新規著作物目録5は,顧客の心理の具体的内容は記載せず,被告著作物目録1と被告新規著作物目録5は,仮に感嘆詞などの一部が共通であったとしても,全体として異なった表現といえるものである。したがって,被告著作物目録1が,控訴人らの著作物の複製であることを理由として,被告新規著作物目録5が,控訴人らの著作物の複製となるものでない。また,控訴人らは,被控訴人の著作物での感嘆詞の使用順序が,原告著作物目録1と共通するとも主張するが,一般的に使用される短い感嘆詞について,その使用順序の一部が共通するだけであり,使用されている感嘆詞が異なることからも,上記を理由として,被告新規著作物目録5を控訴人らの著作物の複製又は翻案と認めることはできない。
(4) 被告新規著作物追加目録(139頁)について
控訴人著作物目録には,「質問8 『感動の必殺6連発とはなにでしょうか』」の項において,顧客のキーマンに好かれることが必要であると記載され,「『基本の6連発プログラム』」,「① 名前の由来の感動礼状」,「② 本人ポエム」,「③ 夫婦ポエム」,「④ 家族ポエム」,「⑤ 名前入り文字絵」,「⑥ キーマン主役主人公短編小説」と記載され,またその下方に「『応用の8連発,9連発,10連発,12連発プログラム』」との記載があり,上記の6連発の中に礼状を組み込むとして,礼状の例として,「ハガキの礼状」,「ファックス礼状」,「歳時記礼状」,「24節季礼状」,「感動名詞礼状」,「写真礼状」,「出会い記念日礼状」などがあることが記載されている。
被告新規著作物追加目録(139頁)には,「感動営業の基本6連続法」との表題のもと,「第1弾 FAX礼状」,「第2弾 歳時記礼状」,「第3弾 感動礼状/巻き物」,「第4弾 本人/夫婦ポエム」,「第5弾 文字絵(名前の活用)」,「第6弾 本人主人公短編小説」 と上から下に記載し,「第1弾」の部分から「第6弾」の下方まで下矢印で貫く図表が記載されている。
控訴人著作物目録には,営業において顧客に喜んでもらうため,6回連続して,礼状や「ポエム」等を送るなどの方策が記載されているが,営業において,6回連続して何らかの方策をとることや,その方策として「歳時記」の礼状や「ポエム」を使用したり,相手を主人公とする短編小説を作成することなどは着想であって,著作権法で保護されるものではないし,「感動礼状」,「本人ポエム」,「名前入り文字絵」などそこで用いられている語句は,一般的な単語を結合した短い語句であって,それら語句自体に直ちに創作性を認めることはできない。そして,上記控訴人著作物目録と被告新規著作物追加目録(139頁)は,着想や単語において共通する部分はあるものの,特に前半の3段階の内容,表現において大きく異なり,創作性のある部分において,同一又は類似といえないことは明らかであり,被告新規著作物追加目録(被告書籍139頁)の図表は,控訴人著作物目録の複製又は翻案ということはできない。
控訴人らは,被告新規著作物追加目録(139頁)に記載されている内容は,控訴人著作物目録の複数の箇所をみると,それらが記載されていることを主張するのであるが,被告新規著作物追加目録(139頁)の図表に記載された,営業において顧客に喜んでもらうための方策が,控訴人らの著作物の複数の箇所に現れているとしても,そのような方策の内容自体は着想であって,著作権法で保護されるものではないし,また,そこに記載された語句自体も一般的な単語を結合した短い語句であって,創作性が認められるものではない。控訴人らの主張には,複数の箇所に現れる配列が同じことをいう部分もあるが,控訴人らの主張によっても,控訴人らの著作物において,6つの段階について,被告新規著作物追加目録(139頁)と同一又は類似といえる程度に区別されるようにして配列されているとはいえないものであり,被告新規著作物追加目録(139頁)が控訴人らの著作物の複製又は翻案であることをいう控訴人らの主張は採用できない。
なお,控訴人らは,被控訴人の著作物(被告新規著作物追加目録(139頁),被告著作物追加目録2(被告書籍97頁),被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁))が,控訴人著作物目録の複製又は翻案である旨主張するところ,被控訴人は,本件訴訟に至るまで控訴人著作物目録に接したことがないとする。しかし,上記のとおり被告新規著作物追加目録(139頁)には,控訴人著作物目録の創作的に表現された部分と,同一又は類似といえる表現はないのであるから,被控訴人が被告書籍を作成するまでに控訴人著作物目録に接したか否かを判断するまでもなく,控訴人らの上記主張は理由がない。そして,このことは,後記(5及び(6のとおり,被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)及び被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)についての,控訴人らの主張についても同様である。
(5) 被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)について
被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)には,「お客様の心の琴線を揺るがすには」と記載され,その下に丸で囲まれた「お客さま」と「営業マン」を「親密な人間関係」でつなぎ,そこからの吹き出しにおいて「商品」と記載され,その下に,「喜ばす・感動させるための感動ノウハウを考える」,「お金をかけずに,心を込めた手作り作品で,キーマンにプレゼントし喜んでもらう」と記載された図がある。 控訴人著作物目録の「質問1 『なぜ感動セールスなのですか』」の項には,「『感動セールス』とは,① 営業担当者が自分の能力でできる範囲のサービス② お金をかけない ③ 手作りの作品で ④ 感動のプレゼントをして ⑤ お客様(医者,薬剤師,看護婦,用度,他)の心の琴線を揺する ⑥連続して提供できる ⑦ 仕組みを作り上げる」との記載があり,「質問2 『受注の必勝の方程式」とは何でしょうか」の項には,「成功のキーワードは『喜び大研究』 なぜこのような従来にない画期的な成果を短期間に出せるようになるのか。その秘訣はお客様が『喜ぶ』『感動する』にはどうすればいいのかを100倍研究することにあります」との記載があり,「質問21 『キーマン主役主人公短編小説』とは何ですか」の項には,お客を主役主人公にした本を作成したことが書かれ,「キーマンが主役の栞も作りました。これを誕生日にプレゼントしましたら,大感激,いや大感動され,『君の願い事は何でもしてあげる』と言われ,難攻不落の病院から受注することができました。」との記載があり,「質問22 感動作品を作る時の心構えを教えてください」の項には,「喜びと感動の世界は自分の気持ちを込めて作ることが大事です」として,「名前の素晴らしを100倍考える」,「お金をかけないことが絶対条件」,「心を込めた手作りの作品」,「尽くして尽くす基本姿勢」などと記載され,「結果として・お客様の心の琴線を揺り動かすことができます」との記載がある。
被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)における「お客様の心の琴線を揺るがす」,「お金をかけない」,「心を込めた手作り作品」などのそれぞれの表現は,控訴人著作物目録中にもあるが,これらの文言は,日常一般によく出会う表現であって,このような簡単なものが創作性のない表現であることは明らかであり,喜ばすことと感動させることを並列に並べることもそれ自体で創作性があるとはいえず,そのような短文や語以外に,被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)と控訴人著作物目録における表現が共通するとは認められず,被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)には,控訴人著作物目録の創作的に表現された部分と,同一又は類似といえる表現はないといえ,被告著作物追加目録2(被告書籍97頁)は,控訴人らの著作物の複製又は翻案とは認められない。
(6) 被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)について
控訴人著作物目録の「質問15 感動礼状(巻物)とは何でしょうか」の項には,初回訪問の客の対応として,「やさしく丁寧にされるとホッとします。しかし大半は冷たい目,冷淡な言葉が大半です。『今の商品で十分間に合っています』『切り替えることは考えていません』『価格を安くしてもダメです』「今のサービスで満足しています』などキッパリト断られます。そして,『もう来ないでください』『時間の無駄ですから」・・・」,「頭に血が上り,カッとしても相手はお客様ですから表情には出せん。忍の一字で病院の外に出ます。そして『失礼な奴だ』『私が担当している間は絶対に売ってやらない』『二度と来るものか』『こんな人物がいる病院の将来は知れたもの』『そのうち倒産すればいい』・・・頭にきて帰るという経験は営業担当者の誰もがしています。」との記載がある。
被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)には,上部に「お客様の反論をかいくぐる」と記載し,その下部に,中心に四画の枠で囲った「大きな壁」との記載があり,その左側に「キーマンの対応」として,「来てもムダ」,「入れ替える予定はない」,「今のサービスに満足」,「ぞんざいな態度 冷ややかな態度 見下げた応対」との記載を横書きで上から順に並べ,「大きな壁」との記載の右側に「営業マンは」として,「頭に来た~あ」,「売ってやるものか」,「二度とくるものか」,「でもまた行かないと……」との記載を横書きで上から順に並べている図がある。
被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)は,顧客の対応と営業マンの心理を,四画の枠で囲った「大きな壁」との記載の左右に記載しているところに特徴がある表現である。控訴人著作物目録においては,顧客の対応を複数記載した後で,営業マンの心理を記載した表現があるが,顧客の対応,営業マンの心理についての内容,表現が異なるだけでなく,それらを図として左右に記載しているか否かなど具体的表現において,被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)と大きく異なるものであることは明らかであり,被告新規著作物追加目録(139頁)には,控訴人著作物目録の創作的に表現された部分と,同一又は類似といえる表現はない。
控訴人らは,控訴人らの他の著作物も挙げて,被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)の表現に対応する,控訴人らの著作物中の表現があることをいうのであるが,上記の顧客の対応や営業マンの心理を表す表現は,いずれも日常一般によく出会う表現であって,それぞれの表現単独で創作性を認めることはできないものであるから,顧客の対応や営業マンの心理を表す表現自体において共通する部分があることをもって,被告新規著作物追加目録(被告書籍129頁)が,控訴人らの著作物の翻案又は複製に当たるということはできない。
(7) 原判決別紙原告書籍等目録2記載の書籍には,「それで自分で考えた『相手中心の年賀状』を出してみたんです。たとえば,ピンクで『寿』という字を江戸文字で大きく書いて,その『寿』の中に白抜きで小さく『日本一のセールスマン○○○○様』と入れる。」(205頁10行目~13行目)との記載がある被告書籍の149頁上段には,応用事例5として,縦横の比率が葉書の規格の枠内に,上段に「小森嘉之様」と記載され,その下に江戸文字の勘亭流文字で,大きく「寿」と記載され,その「寿」の字の中に白抜きの小さな字で「小森嘉之様」と記載され,その下方に「平成○○年元旦」と記載され,住所氏名の例が記載されている図が掲載されている。
上記原判決別紙原告書籍等目録2記載の書籍中の記載は,相手を中心とする年賀状の例を言語によって説明する表現であるところ,被控訴人は,そこに示されているアイデアを具体的な視覚的に分かる形で表現したものであって,控訴人らの著作物に示された着想を利用していると評価できるものであり,著作権法は着想自体を保護するものではないから,被控訴人の上記の図が,控訴人らの著作物の複製又は翻案となるものではない。
2 争点2(被告書籍全体の差止め及び廃棄が認められるか)について
原判決は,被告書籍(原判決別紙被告書籍目録記載の書籍)のうち,控訴人らの著作権を侵害した部分を廃棄することを認めたのに対し,控訴人らは,被告書籍の全体に対して廃棄が認められるべきである旨主張する。
しかし,被告書籍のどの部分が控訴人らの著作権等を侵害したかについての原判決の認定に誤りがないことは,上記のとおりであり,侵害部分の頁数の少なさや被告書籍の内容が複数の内容に分かれるものであり,侵害部分の内容は他の部分と可分であるといえることからも,廃棄する部分を,被告書籍のうちの控訴人らの著作権を侵害した部分とした原判決の判断は正当である。
控訴人らは,原判決が,被告書籍の総頁数の認定を誤ったとか,原判決が侵害箇所を半頁とした部分を1頁として計算すべきであるとか主張するのであるが,原判決の総頁数等の認定に誤りはないし,また,その実質をとらえても,被告書籍は,侵害部分とは可分である,控訴人らの著作権を侵害しない内容を多く含むものである。
さらに,控訴人らは,控訴人らの各書籍において,「必勝6連発の術」が受注の方程式として必須のものであり,著作物の根幹を流れていて,原告著作物目録1の1,2の1,3の1が原告著作物の創作性の根幹をなすところ,被告著作物目録1は,この原告著作物の根幹部分の複製ないし翻案であり,被控訴人は,控訴人らの著作物の根幹部分を侵害しているので,被告書籍の全体に対して廃棄が認められるべきである旨主張し,また,控訴人らの営業プログラムが著名である旨主張する。
前記引用に係る原判決のとおり,被告著作物目録1(121頁)は,原告著作物目録1の1,2の1,3の1・2の複製に当たるものであるが,被告書籍においては,被告著作物目録1(121頁)に記載されている以外の内容も含む部分が割合的に相当に大きいのであるから,控訴人らの「必勝6連発の術」が,控訴人らの各書籍においては根幹をなす思想であり,また,その営業プログラムが著名であるとしても,それらのことは,被告書籍全体に対して廃棄を求めることができないとの上記判断を左右するものではない。
3 以上によれば,控訴人らによる本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。