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著作権判例セレクション

【著作権制度全般】独禁法上の不公正な取引方法に当たり不法行為を構成する、との主張を退けた事例
▶平成30221日東京地方裁判所[平成28()37339]▶平成30823日知的財産高等裁判所[平成30()10023]

9 争点8(原告が,被告からの本件各映像の利用許諾申請を拒絶した上で本訴事件を提起した一連の行為は,被告に対する不法行為を構成するか)について
被告は,原告による行為①ないし同④の一連の行為が,独占禁止法2条9項1号イ(共同の取引拒絶)又は同項6号イ,一般指定2項(単独の取引拒絶)に定める不公正な取引方法に当たり,被告の使用及び表現の自由並びに本件映画の上映権及び頒布権を侵害する不法行為になると主張する。
しかし,行為ないし同は,いずれも原告による著作権及び著作者人格権の行使に他ならないところ,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではない(独占禁止法21条参照)。
原告による著作権及び著作者人格権の行使が権利の濫用に当たると評価できないことは,前記6において認定説示したとおりであるが,行為ないし同についてなお具体的に検討するに,前記認定事実によれば,被告は,原告に対して映像の使用許諾を求める際,本件映画について「沖縄地上戦から現在までの沖縄の歴史,とりわけ沖縄米軍基地の存在による地域抑圧や性暴力の実態を,沖縄・アメリカの双方に取材してまとめた2時間30分(予定)の作品です。」と極めて簡単な説明を付記するにとどまり,このような説明のみしか情報が与えられていない原告が,著作権者として映像の使用を許諾しなかったこと(行為①)が,著作権制度の趣旨を逸脱するとか,その目的に反する不当な権利行使に当たるとは評価できない。そして,前記認定事実によれば,被告は,原告の許諾を得ないまま,本件各映像を使用した本件映画の公開に踏み切り,その本件映画には原告の名称が一切表示されていなかったのであるから,その後,原告が本件各映像の入手先の開示や重ねての謝罪を求め(行為②),事前に許諾を得て映像を使用させる場合よりも高額な使用料の支払を求めたとしても(行為③),著作権者による権利行使として著作権制度の趣旨を逸脱するとか,その目的に反する不当な権利行使であるなど評価することは困難である。同様に,本訴を提起したこと(行為④)が不当な権利行使ということもできない。
したがって,原告による行為ないし同の一連の行為が,独占禁止法所定の不公正な取引方法に当たり,被告に対する不法行為をも構成するとの主張は採用することができない。
10 争点9(原告が,被告との交渉内容を秘匿したまま,【本訴事件を】提起した事実を自社の放送波で放送すると共に自社のウェブサイトに掲載し,マスコミ各社に同内容のリリースを配布した行為は,被告に対する不法行為を構成するか)について
被告は,原告が自己の優越的な地位を濫用して,本件各映像の使用許諾につき著しく差別的かつ不当な条件を提示し,最終的には取引を拒絶したとの事実を秘したまま,被告に対して本訴を提起した事実を「ニュース」として自社の放送波で放送15 し,自社のウェブサイトに掲載するとともに,マスコミ各社に同内容のリリースを配布したことが,映画製作者としての被告の名誉・信用を毀損する不法行為に当たると主張する。
しかし,原告が放送し,ウェブサイトに掲載した内容は,前記前提事実のとおり,①原告が,映画の制作会社に対して著作権侵害訴訟を提起したこと,本件映画には原告が沖国大ヘリ墜落事故を撮影した映像が42秒間無断で使用されていること,③原告は制作会社に対して謝罪を求めてきたが,「放送局が撮影した映像は高度の公共性があり自由に使用できる」と主張したこと,④本件映画についてはDVD版販売や字幕版の制作が行われていること,⑤制作会社の代表者は訴状を見ていないと述べたことであって,これらの事実の摘示が,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として,直ちに被告の社会的評価を低下させるものと認めることはできない。
また,上記の点を措くとしても,原告が放送し,ウェブサイトに掲載した内容は,公共の利害に関する事実に係るものと認められるから,専ら公益を図る目的に出たものと推認すべきところ,摘示された事実は,その主要な部分において真実であることが認められる(本件使用部分は,【合計34秒】であって,42秒ではないが,この点をもって,主要な部分が真実でないとは評価できない。)から,違法性がないものというべきである(原告は,上記行為に違法性がない旨主張しているところ,同主張は,上記説示した趣旨を含むものと理解される。)。
したがって,原告の上記行為が被告に対する不法行為を構成するとの主張は採用することができない。

[控訴審同旨]
(5) 行為ないしの違法性について(争点8関係)
控訴人は,被控訴人の行為①ないし④は,独占禁止法2条9項1号イ(共同の取引拒絶)又は同項6号イ,一般指定2項(単独の取引拒絶)に定める不公正な取引方法に当たり,かつ,被控訴人の権利濫用として,控訴人に対する不法行為に該当するとして,この点に関する原判決の認定判断には誤りがあると主張する。
しかしながら,被控訴人の行為①ないし④が,いずれも被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使にほかならないところ,著作権及び著作者人格権の行使は,当該権利行使が著作権制度の趣旨を逸脱し,又はその目的に反するような不当な権利行使でない限り,独占禁止法の規定の適用を受けるものではないと解すべきことは,原判決が説示するとおりである。
しかるところ,被控訴人による著作権及び著作者人格権の行使をもって権利濫用とすべき根拠ないし事情が認められないことは,前記(4)のとおりであるから,控訴人の主張はその前提を欠く。
なお,一般論としては,被控訴人が報道機関として取材によって得た映像や資料を独占する立場にある(そもそも報道機関でなければ取材自体が許されない現場ないし場面が存することは,経験則上明らかであって,その場合,当該報道機関は取材によって得た映像や資料を独占する立場にあるといえる。このことは,取材を行える報道機関に一定の資格要件が課される場合は,なお一層明らかであるといえる。)ことからすると,事情によっては,第三者による当該映像等の使用を許諾すべき義務が生じることがあるといえ,そのような場合にまで,著作権や著作者人格権を盾にしてその許諾を拒むことは,独占禁止法上,違法と評価される余地も存するというべきであるが,本件においては,そのような事情が存するものとまでは認められない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,争点8に関する控訴人の主張は理由がない。
(6) 本訴提起に関する報道内容の違法性について(争点9関係)
被控訴人が報道し,ウェブサイトに掲載した内容は,原判決が認定するとおり,①被控訴人が,映画の制作会社に対して著作権侵害訴訟を提起したこと,②本件映画には被控訴人が沖国大ヘリ墜落事故を撮影した映像が42秒間無断で使用されていること,③被控訴人は制作会社に対して謝罪を求めてきたが,「放送局が撮影した映像は高度の公共性があり自由に使用できる」と主張したこと,④本件映画についてはDVD版販売や字幕版の制作が行われていること,⑤制作会社の代表者は訴状を見ていないと述べたことであり,それ自体は本件の客観的な事実関係におおむね沿うものといえる。
また,上記報道は,その内容からして,被控訴人が訴訟提起を行ったという客観的事実(上記①)を伝えることに主眼に置くものであることが明らかである上に,上記③のとおり,控訴人側の言い分も一応紹介されていることからすると,おおむね中立的なものであるということができ,それ以上に,殊更事実を歪曲して情報操作を行うことを意図したものであるとか,控訴人の名誉,信用を傷つけることを目的とするものであるなどと断定すべき具体的事情は見当たらない。
よって,その余の点について判断するまでもなく,上記報道内容に関する控訴人の主張は理由がない。