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著作権判例セレクション

【公衆送信権】送信可能化権侵害行為の適用事例(ファイル共有ソフトWinnyを用いた事例)

平成161130日京都地方裁判所[平成15()2018]
② 弁護人の主張⑥について
弁護人は,被告人の使用していた回線は光ファイバーであるから電気通信回線にも有線電気通信にも当たらない旨主張する。
弁護人の主張は,本件が,映画の著作物の情報が記録されているハードディスクと接続したパソコンを用いて,これがインターネットに接続された状態の下,Winnyを起動させ,インターネット利用者に上記情報を自動公衆送信し得るようにしたというものであることについて,ここにいう公衆送信とは,公衆によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信を行うことをいい(著作権法2条1項7号の2),そのうち公衆からの求めに応じ自動的に行うものを自動公衆送信ということ(著作権法2条1項9号の4)を踏まえて,本件において「自動公衆送信し得るようにした」というのは,要するに,上記のようなパソコンと公衆の用に供されている電気通信回線とを接続させたことをいう(著作権法2条1項9号の5参照)とした上で,被告人が本件で用いたパソコンと公衆の用に供されている電気通信回線とは光ファイバーで接続されているところ,光は電気ではないから,光ファイバーは電気通信回線にも有線電気通信にも当たらないというものであると解される。
しかし,電気通信とは,有線,無線その他の電磁的方式により,符合,音響又は映像を送り,伝え,又は受けることと定義されており(電気通信事業法2条1号),換言すれば,電磁波を用いて種々の情報を送信又は受信することが電気通信であり,電気が電磁波の一種であることは多言を要しない。ところで,光ファイバーとは,光を用いて情報を伝達する際に,光の通路として用いるグラス・ファイバーのことをいい,光ファイバー通信とは,光を搬送波に利用する通信である光通信の一種であるところ,光は,物理的には電磁波の一種であり,波長が約1ナノメートルから1ミリメートルの電磁波をいうと解されている。そして,光ファイバー通信は,光という電磁波を利用した電磁的方法により,種々の情報を送信又は受信するものにほかならないのであるから,これが電気通信の概念に含まれるものであることは明らかである。
③ 弁護人の主張①について
弁護人は,被告人の本件行為は,特定の1名の者に対する送信を可能化したに過ぎず,公衆に対する送信を前提とした送信可能化権侵害には当たらない旨主張する。
たしかに,被告人は,自己のパソコンを,初期ノードを設定した1個のパソコンに接続し,それを介してWinnyネットワークに接続していたものである。しかし,Winnyネットワークに一旦接続されてしまえば,これに参加している不特定多数のパソコンとの間での情報のやり取りが可能となり,ファイルを共有する状態となるものであることは,明らかである。そして,当初設定された初期ノードにかかるパソコンは,単にWinnyネットワークに通ずる一つの通過点となるに過ぎず,そこには,同パソコンの使用者の意思等が何ら介在しないであるから,被告人の本件行為が,不特定かつ多数の公衆に対する直接の送信を可能化するものと評価されることは明らかである。
④ 弁護人の主張⑦について
弁護人は,Winnyが,そのネットワーク内において他人のパソコンを介して情報の送受信を行うプログラムであることから,そこで行われる送信行為は間接送信にほかならず,被告人の本件行為についても,直接送信を前提とした送信可能化権侵害に当たることはないなどと主張する。
たしかに,弁護人が主張するように,Winnyネットワーク内における情報の送受信においては,これをアップロードした者とは異なる第三者が使用する複数のパソコンを経由して,その受信者となる者のパソコンに当該情報がダウンロードされるということもあり得る。
しかし,そのような場合であっても,上記の経由点となる第三者は,当該情報をダウンロードしようとする受信者の送信要求を受けて,これに応じるなど,いかなる意識的な行為もすることがなく,そもそも,当該情報がダウンロードされる際,自己のパソコンを経由したことすら認識することはないのである。このように,上記第三者は,Winnyを自己のパソコンにインストールするか,Winnyを起動するかという場面においては意識的に行動しているけれども,Winnyを利用して情報をダウンロードしようとした者が,その送信要求をしたのに応じて,これをアップロードしているパソコンからデータが送信されるに際し,その送受信が自己のパソコンを経由する場面においては,何ら自己の意思に基づいて行動することはないのであるから,有意識的に当該情報を中継しているなどとは到底評価することはできない。
したがって,Winnyネットワーク内における情報の送受信において,その送受信の過程で第三者のパソコンを経由することがあったとしても,それは,単なる通路ともいうべき存在に過ぎないのであって,この点をもって,被告人のパソコンから他のパソコンへの情報の送信が,間接送信であるなどと評価することはできない。弁護人の主張は失当である。
また,弁護人は,インターネットを利用した通信において,複数の電気通信事業者が介在する点を指摘し,直接送信を行うことは不可能であるという趣旨の主張もしている。しかし,電気通信事業者は,通信の媒介を行うものとして通信に不可欠の役割を担うものであり,その存在をもってインターネットを利用した通信の総てが間接的なものであるなどとの解釈をとり得る余地がないことは,関連の法解釈及び社会常識等に照らし,余りにも当然というべきである。
⑤ 弁護人の主張⑨について
弁護人は,Winnyネットワーク上においては,暗号化され,断片化された状態でデータの送受信が行われるから,被告人がアップロードしたファイルも,それが送信される過程で同一性を失ない,著作権法上の保護が及ばなくなる旨主張する。
しかし,送受信の過程で,データが暗号化され,断片化されることがあったとしても,送受信が完了した時点で,受信者の側において,当初アップロードされたファイルがそのままの状態で復元されるのであるから,当初アップロードされたファイルとダウンロードされたファイルとの間に何ら同一性を損なうものではない。弁護人の主張は失当である。
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⑧ 弁護人の主張⑧について
弁護人は,送信可能化権侵害罪は,中央のサーバーを介して情報が発信されることを予定した構成要件であるから,本件のようなP2Pの事案には適用されない旨主張している。
しかし,著作権法にいう「自動公衆送信装置」とは,サーバーやホストコンピュータに限られるものではなく,およそ公衆からの求めに応じて自動的にそこに入力されている映像,音響,文字等を送信するものをいうのであるから,たとえ個人が所有するパソコンであっても,そこに存在するソフトの動作等により上記のような機能を有しているのであれば,「自動公衆送信装置」に該当する。そして,Winnyは,そのネットワーク内でダウンロードが要求されれば,自動的に目的のファイルを送信する機能を有するプログラムソフトであるから,これをダウンロードして使用していた被告人のパソコンが「自動公衆送信装置」に該当することは明らかである。
弁護人の主張は,著作権法の構成要件を恣意的に解釈したものに過ぎず,失当である。