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著作権判例セレクション

【その他】 特定の海賊版サイトへの閲覧防止措置(ブロッキング)の差止めを求めた事例

▶平成31314日東京地方裁判所[平成30()13295]
() 本件は,電気通信事業を営む株式会社である被告との間でインターネット接続サービス等のための契約を締結している原告が,被告において特定の海賊版サイトについて閲覧防止措置(ブロッキング)を実施すると発表したことを受けて,被告が上記ブロッキングを行うことは上記契約に反するものであり,また,通信の秘密は憲法21条により被告に対しても人格権又は人格的利益として保護されるべきものであると主張して,上記契約又は上記人格権若しくは人格的利益に基づき,被告に対し,別紙記載のURLを宛先とする通信を妨害しないこと(上記ブロッキングの差止め)を求めた事案である。
(前提事実)
〇 原告は,被告との間で,インターネット接続サービス等を受けるために,IP通信網契約及びOCN光withフレッツ契約を締結している者である(以下,上記各契約を併せて「本件契約」という。)。被告は,電気通信事業を営む株式会社であり,インターネット・サービス・プロバイダ事業者(「ISP事業者」)である。
〇 被告によるブロッキングの実施に関する発表前の経緯: 知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議は,平成30年4月13日,「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」と題する文書を公表し,同文書により,被害が甚大で特に悪質な海賊版サイトに関して,法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な対応としてISP事業者による自主的な取組としてのサイトブロッキング(閲覧防止措置。以下「ブロッキング」という。)を実施し得る環境を整備するため,「知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議」において,①特に悪質な海賊版サイトへのブロッキングが緊急避難(刑法37条)の要件を満たす場合には,違法性が阻却されるものと考えられること,②ブロッキングの対象として適当と考えられる特に悪質な海賊版サイトに関する考え方について,政府としての決定を行うと発表した。また,同会議は,同日,「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」と題する文書(以下「緊急対策」という。)を公表し,同文書において,「運営管理者の特定が困難であり,侵害コンテンツの削除要請すらできない海賊版サイト」として,「漫画村」(別紙記載1),「Anitube」(別紙記載2)及び「Miomio」(別紙記載3)の3サイト(「本件3サイト」)を挙げ,法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として,民間事業者による自主的な取組として,本件3サイト及びこれと同一とみなされるサイトに限定してブロッキングを行うことが適当と考えられるとした。
〇 被告によるブロッキングの実施に関する発表: 被告は,平成30年4月23日,日本電信電話株式会社,株式会社NTTドコモ及び株式会社NTTぷららと共に,「インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について」と題する文書(「本件文書」)を公表し,同文書により,同月13日に開催された知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議において決定された「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」に基づき,サイトブロッキングに関する法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置として,本件3サイトに対するブロッキング(「本件ブロッキング」)を,準備が整い次第実施すると発表した。

1 本案前の主張について(争点⑴)
被告は,原告の本訴請求について,「妨害」という用語は多義的であって,どのような行為の差止めを求めるかが不明確であり,請求の趣旨が特定されているとはいえないから不適法であって却下されるべきであると主張する。
しかし,原告の本訴請求が,被告に対して本件ブロッキングを行わないことを求めるものであることは明らかであるから,どのような行為の差止めを求めるかが不明確であるとはいえない。
したがって,被告の本案前の主張は理由がない。
2 原告の被告に対する本件ブロッキングの差止請求が認められるか否かについて(争点⑵)
原告の本訴請求は,本件契約に基づき,又は憲法21条を根拠とする人格権若しくは人格的利益に基づき,被告に対して本件ブロッキングを行わないことを求めるものである。
検討するに,上記の前提事実によれば,被告が,本件文書により,準備が整い次第本件ブロッキングを実施すると発表したのは,緊急対策において,法制度整備が行われるまでの間の臨時的かつ緊急的な措置として,民間事業者による自主的な取組として,本件3サイト及びこれと同一とみなされるサイトに限定してブロッキングを行うことが適当と考えられるとされたことを受けたものであることが認められる。そして,上記の前提事実及び弁論の全趣旨によれば,①本件3サイトは,現時点において,「漫画村」及び「Anitube」についてはアクセスできない状況にあり,「Miomio」についてはアクセス数が緊急対策決定前に比べて激減している状態にあること,②被告は,本件訴訟において,上記①のような状況の下では,本件ブロッキングを行う予定はないと主張していること,③被告の親会社の代表取締役も,本件発言において,現状のままであれば本件ブロッキングを行わない旨を述べていること,④被告は,現時点において,本件3サイトが上記①の状態であることから,本件ブロッキングを実施していないことが認められる。他方,⑤現時点において,今後,「漫画村」及び「Anitube」に対してアクセスできる状況になり,かつ,本件3サイトに対するアクセス数が増加することが見込まれることを認めるに足りる証拠はない。
上記各事情に照らせば,「(本件3サイトが)復活すれば,政府の考え方に沿いまして,対処したいと思っています。そういった意味では考え方は変わっていません。」との発言を含む本件発言があることを考慮しても,現時点において,今後,被告が本件ブロッキングを行う蓋然性が高いとはいえず,本件において,本件ブロッキングの差止めの必要性は認められないものといわざるを得ない。
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告が被告に対して本件ブロッキングを行わないことを求める請求は理由がない。
3 訴訟費用について
原告は,仮に,差止めの必要性が認められないとして原告の請求が棄却されるとしても,本件訴訟の提起がなければ,被告が本件ブロッキングを実施する予定を再考するような機会もなく,予定どおり実施していた可能性が高いなどとして,本件訴訟は「権利の伸張若しくは防御に必要であった行為」(民事訴訟法62条)であり,訴訟費用については被告の負担とすべきであると主張する。
しかし,上記記載の事実経過によれば,本件訴訟の提起後に,本件資料より,本件3サイトが,「漫画村」及び「Anitube」についてはアクセスできない状況にあり,「Miomio」についてはアクセス数が緊急対策決定前に比べて激減している状態にあるとの報告がされているのであって,必ずしも,原告が主張するように,本件訴訟の提起がなければ,被告が本件ブロッキングを実施する予定を再考するような機会もなく,予定どおり実施していた可能性が高いとはいえず,原告の上記主張はその前提を欠く。その他,本件において,民事訴訟法62条を適用して,訴訟費用の全部又は一部を被告に負担させるのが相当であるというべき事情は認められない。
よって,民事訴訟法61条により,訴訟費用は原告の負担とするのが相当である。
第4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。