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著作権判例セレクション
【権利濫用】 他の意匠権を侵害する者が不正競争防止法に基づく差止請求をすることは「権利の濫用」に当たるか
▶平成29年8月31日東京地方裁判所[平成28(ワ)25472]▶平成30年3月29日知的財産高等裁判所[平成29(ネ)10083]
(注) 権利の濫用について(控訴審)
〇 控訴人の主張:「被控訴人は,被控訴人商品の販売を開始する前に意匠登録出願された訴外株式会社ヤマグチが有する意匠権があるにもかかわらず,これを侵害する商品を大量に販売した実績を奇貨として,控訴人に対し,不正競争防止法に基づく差止請求を行っている。このような請求は,公正な競争秩序を維持することを目的とする不正競争防止法の趣旨に反するものであって,明らかにクリーンハンズ原則に反する請求であるから,権利の濫用であるというべきである。」
〇 被控訴人の反論:「控訴人は,被控訴人の請求は公正な競争秩序を維持することを目的とする不正競争防止法の趣旨に反するものであって,明らかにクリーンハンズ原則に反する請求であり,権利の濫用であると主張する。
しかしながら,意匠法と不正競争防止法とは,趣旨・目的が異なり,不正競争行為の被害者自身の意匠権侵害行為は,意匠権者と同被害者との間において別途規律されることが可能であるから,仮に,不正競争防止法2条1項1号の定める不正競争行為の被害者において,他人の意匠権を侵害する点があったとしても,そのことが直ちに,当該被害者が不正競争行為者に対して不正競争防止法上の権利を主張する妨げとはならない。
したがって,控訴人の主張は,失当である。」
4 権利の濫用について
控訴人は,被控訴人の請求は公正な競争秩序の維持を目的とする不正競争防止法の趣旨に反するものであって,明らかにクリーンハンズ原則に反する請求であり,権利の濫用であると主張する。
そこで検討するに,現行法上,物の無体物としての面の利用に関しては,商標法,著作権法,不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が,一定の範囲の者に対し,一定の要件の下に排他的な使用権を付与し,その権利の保護を図っているが,その反面として,その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため,各法律は,それぞれの知的財産権の発生原因,内容,範囲,消滅原因等を定め,その排他的な使用権の及ぶ範囲,限界を明確にしている(最高裁平成16年2月13日第二小法廷判決)。
上記各法律の趣旨,目的に鑑みると,不正競争防止法2条にいう不正競争によって利益を侵害された者が他人の意匠権を侵害する事実が認められる場合であっても,当該意匠権の侵害行為は意匠法が規律の対象とするものであるから,当該事実のみによっては,直ちに被控訴人が不正競争によって利益を害された者による不正競争防止法に規定する請求権の行使を制限する理由とはならないと解するのが相当である。
これを本件についてみると,仮に,被控訴人商品が訴外株式会社ヤマグチの意匠権を侵害していたとしても(なお,控訴人は,侵害の有無について,被控訴人商品の形態が要部において上記意匠権と類似している点のみを主張する。),上記のとおり,このような事実のみによっては,直ちに不正競争防止法に規定する請求権の行使を制限する理由とはならないというべきである。かえって,前記引用に係る原判決の認定事実によれば,控訴人商品は,被控訴人商品形態の形態的特徴①ないし⑥を全て模倣するものであって,控訴人商品を販売する行為は,被控訴人商品の出所について混同を明らかに生じさせることからすれば,事業者間の公正な競争を確保するという不正競争防止法の趣旨,目的に鑑みると,競争秩序を著しく乱すものであって,これを規制する必要性が高いものといえる。
そうすると,被控訴人による差止請求及び廃棄請求は,権利の濫用に当たらないと認めるのが相当である。
したがって,控訴人の主張は,採用することができない。