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著作権判例セレクション

事務所の設計図の侵害性を否定した事例/設計コンペにかかわる紛争

平成150226日東京地方裁判所[平成13()20223]
() 原告は,被告Fテレコムとの事務所の設計及び施工の受注を競うコンペティション(「本件コンペ」)において,別紙原告設計図1及び2記載の各図面(以下,総称して「原告設計図」という。)を作成した。原告は,被告Fテレコム及び同社の社員である被告Yが,本件コンペに参加した被告M社に対して原告設計図を原告に無断で開示して同被告に原告設計図を複製させ,また,被告M社が,原告設計図を無断で複製したと主張して,被告らに対し,以下の各請求をした。
①被告らに対する著作権及び著作者人格権侵害に基づく損害賠償請求
②被告らに対する不正競争防止法2条1項7号及び8号,4条に基づく損害賠償請求
③ 被告Fテレコムに対する債務不履行に基づく損害賠償請求 
④ 被告らに対する民法709条の不法行為(債権侵害)に基づく損害賠償請求
⑤ 被告Fテレコムに対する商法512条に基づく報酬支払請求 

1 争点1(被告設計図は,原告設計図を複製ないし翻案したものに当たるか。)について
(1) 原告設計図の内容及び創作性の有無
ア 原告設計図の内容等
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
() 本件事務所の形状
本件事務所の面積は,919.90平方メートル(268.26坪)であり,その形状は,北側の壁面が南側(建物内側)に「く」の字型に曲がり,南側の壁面(甲州街道に面している。)がゆるやかな弧状に南側(建物外側)へとふくらみ,全体として東西方向に長い変形5角形という特殊なものである。本件事務所内部には,北側壁面の曲線に沿うように,ゆるやかな「こ」の字形に曲がった耐火壁が既設されており,これにより本件事務所は,東西に細長い形状の北側部分(共用部分)と,事務所として自由にレイアウトできる南側部分とに区分されている。北側部分の中央には,本件事務所への出入口となるエレベーター及びエレベーターホール(エントランスホール)が設けられている。
() 被告Fテレコムの指定した設計条件
 被告Fテレコムが,本件コンペの参加者に対して配布した,「FTJFTJ-LabsEtrali move to Shinjuku July 2001 - version 2(FTJ・日本研究所・エトラリ 新宿への移転 2001年7月 バージョン2)」と題する書面(本件書面)には,本件事務所の設計に関し,以下の条件が示されている。
a FTJ,日本研究所及びエトラリそれぞれについて,独立したオフィス・スペース(専用部分)を設け,その面積を,FTJが215平方メートル,エトラリが145平方メートル,日本研究所が235平方メートルとする。
b 日本研究所の一部として,専用部分のほか,ラボ(120平方メートル)及びショールーム(80平方メートル)を設け,ショールームはFTJ,日本研究所及びエトラリが共同で使用する。
c 各専用部分及びショールームを除いた124.9平方メートルは,FTJ,日本研究所及びエトラリの共用部分とし,「マシンルーム(30平方メートル)」,「会議室(大,中,小)」,「レセプション」及び「インベントリウム」を設ける。なお,「インベントリウム」とは,社員が,リラックス,読書,話合い,意見交換などをしたり,昼食をとることができるスペースである。
d マシンルーム(コンピュータールーム)は,エトラリの専用部分と隣接するものとし,そのうち10平方メートルをFTJ用とする。
e FTJと日本研究所は,OA機器やインベントリウム等の共同使用をするため,その各専用部分は隣接するものとする。
() 原告設計図の内容
a 原告設計図1の内容
原告設計図1は,「本件事務所のフロア面積の最大限の有効利用」という基本コンセプトの下,各専用部分から出入りできる北側部分を主たる通路として利用し,レイアウトが自由な南側部分内には極力通路は設けず,オフィス・スペース等として利用している。
 本件事務所の南側部分のうち甲州街道に面する側には,東側から順にエトラリの専用部分,マシンルーム(コンピュータールーム),FTJの専用部分,日本研究所のラボ及び専用部分が配置され,最も西側の明治通りに面する部分全体がショールームとなっており,東端のエトラリからショールームまでは,北側部分(共用部分)を含むほぼ一直線の通路でつながっている。インベントリウムとして,専用のスペースは設けられておらず,上記ショールームの一部と,北側部分(共用部分)の通路の一部に設けられている。各専用部分同士は,それぞれ上記通路とほぼ垂直に交わる直線で区切られた長方形となっている(ただし,日本研究所の形状は,台形となっている。)。エントランス・ホールの西側(ショールームの北側)には,大会議室(カンファレンス・ルーム)が一つと,その南と東の壁面に接する形で小会議室(ミーティングルーム)がそれぞれ一つずつ設けられている。
 b 原告設計図2の内容 
 原告設計図2は,①エントランス・ホール前の耐火壁の位置を変更したこと,②北側部分(共用部分)の通路の一部をインベントリウムとすることを中止したこと,③大会議室を南北2つの会議室に分割し,南の壁面に接していた小会議室の面積を縮小したこと,④FTJの専用部分内の机の配置を変更したこと,⑤ショールーム北側に新たに倉庫を設けたこと等,原告設計図1に修正を施した図面である。
 イ 原告設計図の創作性について
 () 設計図は,そのすべてが当然に著作権法上の保護の対象となるものではない。設計図が著作物に該当するというためには,その表現方法や内容に,作成者の個性が発揮されていることが必要であって,その作図上の表現方法や内容が,ありふれたものであったり,そもそも選択の余地がないような場合には,作成者の個性が全く発揮されていないものとして,著作物には当たらないというべきである。
 () そこで,前記認定した事実を基礎として,原告設計図が著作物性を有するか,及び原告設計図の創作的な特徴部分はどこかについて検討する。
 上記認定のとおり,①原告設計図においては,特殊な形状の建物の内部設計について,顧客である被告Fテレコムから各専用部分や共用部分の種類,個数,面積,位置関係等に関して詳細な設計条件を付され,これらの設計条件に適合することが必要であるため,設計者が自由に選択できる事項としては,「各部屋及び通路の具体的形状」及び「全体の配置」などに限られていたこと,②原告設計図における表現方法は,極く一般の設計図において用いられる平面的な表現方法であって,表現方法における格別の個性の発揮はないこと,③本件事務所を,南側壁面に沿った3つのエリアと,西側壁面に沿った細長いエリアに分けるという発想は,正にアイディアそのものであって,この点が著作権法上の保護の対象となり得る表現とはいえないこと等の点を総合考慮すると,原告設計図において,創作性のある部分は,FTJ,日本研究所及びエトラリの各専用部分や各部屋及び通路等の具体的な形状及び具体的な配置の組合せにあるということができる。
 () 以上のとおり,原告設計図は,著作権法上の保護の対象となる著作物といえるが,その創作性のある部分は上記の点に限られるというべきでるある。
そこで,以下,被告設計図が原告設計図の創作性のある部分について,共通するか否かを検討する。
(2) 被告設計図の内容及び原告設計図との対比
 ア 被告設計図の内容
証拠によれば,以下の事実が認められる。
() 被告設計図は,「FTJ,日本研究所及びエトラリの共通のロゴである被告Fテレコムのロゴ」を基本コンセプトに据えており,レイアウトが自由な南側部分内に,同ロゴに沿った曲線を描く,レセプションからショールーム,インベントリウム及びFTJの専用部分へと通じる通路を設けている。また,インベントリウムの壁面もロゴに沿って曲線を描いており,ショールームも,ロゴの形に合わせて,楕円形状である。
() 本件事務所のうち甲州街道に面する側には,東側から順にエトラリ,FTJの各専用部分,インベントリウム,日本研究所の専用部分及びラボが配置され,最も西側の明治通りに面する部分がショールームへと通じる通路となっている。マシンルーム(コンピュータールーム)は,エトラリの専用部分と北側部分(共用部分)との間に設けられている。インベントリウムは,隣接する日本研究所の専用部分と一体となって半円形状の空間を構成している。同半円形状の空間の西側の壁面は,前記のとおり,入口前のレセプションから,南西角に設けられたショールームへと緩やかに曲がる通路となっており,その東側壁面は,レセプションやショールームから本件事務所北側の共用部分へと出ることなく,FTJの専用部分へと出入りできる通路となっている。エントランス・ホールの西側(ショールームの北側)には,西側壁面(明治通りに面する壁面)に対して斜めに大会議室が一つ(パーティションで2分されている。)配置され,その北東の辺に面して小会議室及び倉庫が設けられている。
イ 原告設計図と被告設計図との対比
原告設計図と被告設計図とを対比すると,以下の点において相違する。
 () 被告設計図では,インベントリウムがFTJと日本研究所の間に配されているのに対し,原告設計図では,独立したインベントリウムは設けられていない。
 () 被告設計図では,インベントリウム,日本研究所の専用部分,ラボが一体となって半円形状の区画を形成し,その外壁がレセプションからショールーム,レセプションからFTJの専用部分へとつなぐ曲線状の通路となっている。これに対し,原告設計図では,日本研究所の専用部分及びラボは,隣接するショールーム及びFTJとは直線で区切られ,レセプションからFTJの専用部分への通路は,北側部分(共用部分)にしか存在しない。
 () 被告設計図では,ショールームへの通路に接する壁面(日本研究所のラボの外壁)は,5枚のパネルが少しずつずれて弧を描くような形状である。
 () 被告設計図では,マシンルーム(コンピュータールーム)がエトラリの専用部分とその北側部分(共用部分)との間に配置されているのに対し,原告設計図では,エトラリとFTJの各専用部分の間に配置されている。また,マシンルームの配置が異なる結果,被告設計図におけるエトラリの専用部分の方が,原告設計図におけるよりも,東西方向の幅が広くなっている。
 () 被告設計図では,メイン・ショールームは楕円形であるのに対し,原告設計図では,円形である。
 () 被告設計図では,西側壁面(明治通りに面する壁面)に対して斜めに大会議室が配置され,事務所北側の共用部分との間に倉庫及び小会議室が配置されているのに対し,原告設計図では,西側壁面と北側部分(共用部分)に並行に大,中及び小会議室が,小会議室南側に倉庫が,それぞれ配置されている。
ウ 複製ないし翻案の有無についての判断
上記のとおり,被告設計図と原告設計図を対比すると,各専用部分や通路の具体的な形状及び具体的配置の組合せにおいて大きく異なるから,被告設計図は,原告設計図と実質的に同一であるということはできず,また,原告設計図上に表現された創作性を有する特徴的部分である具体的形状及び配置の組合せを感得することもできない。
確かに,被告設計図と原告設計図とは,全体の基本的配置,すなわち,本件事務所の南側部分を,南側壁面に沿った3つのエリア及び西側壁面に沿った南北に細長いエリアとに分け,そのうち西側壁面に沿った部分にショールーム及び会議室を配し,南側壁面に沿った3つのエリアを一番東側から順にエトラリの専用部分,FTJの専用部分,日本研究所の専用部分としたという点において,共通する。しかし,上記共通点は,原告設計図上のアイディア又は創作性を有しない部分であるというべきであるから,前記の認定を左右するものとはいえない。
 したがって,被告設計図が原告設計図の複製ないし翻案したものに該当するとの原告の主張は理由がない。
 2 争点2(被告らが,原告の営業秘密を不当に開示し又は不正に使用したか。)について
 (1) 事実認定
 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件コンペの経緯について,以下の事実が認められる。
()
 (2) 営業秘密の不当開示又は不正開示に関する判断
 ア 上記認定したとおり,被告Fテレコムは,被告M社に対して,「エトラリの専用部分を甲州街道側に配置する」という事項を示している。
この点について,原告は,「エトラリの専用部分を甲州街道側の壁面に配置すること」という事項は,不正競争防止法2条4項所定の「営業秘密」に該当し,被告Fテレコムが,原告設計図から得た情報を被告M社に開示することは,不正競争行為に当たると主張する。
 しかし,「エトラリの専用部分を甲州街道側の壁面に配置する」という事項は,以下のとおり,同法2条4項所定の「営業秘密」に当たるということはできない。
すなわち,不正競争防止法は,「営業秘密」とは,「秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」と規定する(2条4項)。本件コンペにおいては,施主である被告Fテレコム側が,建物全体の形状及びその内部に設ける部屋の種類,面積等の設計条件をあらかじめ示した上で,設計図を作成させているため,選択し得る配置は限られたものとなっていたのであって,このような制約を前提として,設計者である原告が,そのうち一つの配置を選択したとしても,その配置は,施主側が示した設計条件と相まって決められたものである。本件のこのような経緯に照らすならば,「エトラリの専用部分を甲州街道の壁面にする」というような事項は,これをもって原告が本件コンペにおいて選考される上で重要な価値を有するものとはいえないから(通常の施主は,これらの条件を満たす全体を総合評価して選考するものと解される。),設計者の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報に当たるということはできない。
イ 以上に対し,原告は,被告Fテレコム及び被告Yが,被告M社に対し,原告設計図を直接開示して,エトラリの配置だけではなく,原告設計図上に表現された一切の情報を開示したものとも主張する。
 しかし,かかる事実を認めるに足りる証拠はないし,仮に,被告らが原告設計図を開示した事実があるとしても,前記1(2)判示のとおり,被告設計図と原告設計図上の設計内容が,その具体的な形状及び具体的配置の組合せにおいて類似しておらず,全体の基本的配置の点しか一致していないことからすれば(抽象的な配置に関する情報を伝える行為が不正競争行為に当たらないことは上記判示のとおりである。),かかる開示行為により,原告が,何らかの損害を被ったことを認めることはできない。
 ウ 以上のとおりであって,被告らが,原告の営業秘密を不当に開示し又は不正に使用して,被告設計図を作成したということはできず,被告らに対する不正競争防止法2条1項7号及び8号,4条に基づく損害賠償請求の主張は理由がない。
 3 争点3(秘密保持義務違反及び公正に選考する義務違反の有無) 
(1) 発注義務違反について
ア 原告は,原告が本件コンペに参加するに際し,被告Fテレコムと原告との間では,「原告が選考されることを条件として,被告Fテレコムが本件事務所の設計・施工を原告に発注する」旨の停止条件付請負契約がされたことを前提に,同被告に契約不履行があった旨主張する。
 イ しかし,以下のとおり,被告Fテレコムと原告との間において,原告の主張に係る上記の合意が成立したとはいえない。
すなわち,証拠によれば,被告Fテレコムが,本件コンペに際し,原告,被告M社及びインターアームに配布した本件書面には,本件事務所の設計条件,評価者,評価項目,スケジュール等が記載されていたものの,請負金額についての条件は定められていなかったこと,本件コンペの最終指名者の決定は,被告Fテレコム及びエトラリの代表者らから構成される評価委員会にゆだねられていたこと,被告Fテレコムが,原告に対して本件書面を示して本件コンペへ参加を勧誘した時点においては,設計図の具体的内容はもちろんのこと,見積金額も決まっていなかったことが認められる。
 上記の認定事実によれば,本件コンペは,施主である被告Fテレコムが,本件事務所の設計及び施工の受注を希望する複数の業者に設計書及び見積金額を明示した申込みを行わせた上で,施主側の評価が高い者がいた場合は,その者と契約交渉を行うという趣旨で実施されたものであり,被告Fテレコムの原告に対する勧誘行為は,いわゆる申込みの誘引にすぎないと解するのが相当である。したがって,設計・施工の具体的内容が不確定な段階での勧誘行為が,「原告が選考されることを条件として,被告Fテレコムが本件事務所の設計・施工を原告に発注する」旨の条件付請負契約の申込みに当たるということはできず,同被告と原告との間で本件事務所の設計・施工の発注に関し何らかの法的拘束力のある合意が成立していたとは認められない。
以上のとおり,原告のこの点の主張は,その前提において失当である。
(2) 公正な選考義務違反又は守秘義務密務違反について
 ア 原告は,原告が本件コンペに参加するに際し,被告Fテレコムと原告との間で,①被告Fテレコムが,あらかじめ書面で示したとおりの条件・評価基準に基づいて公正に選考を行うこと,及び②被告Fテレコムが,原告が提出した設計図及び情報について守秘義務を負うことを内容とする合意が成立したことを前提に,同被告に契約不履行があった旨主張する。
 しかし,以下のとおり,被告フランステレコムと原告との間において,上記の合意が成立したか否かはさておき,同被告には,原告主張に係る公正選考義務違反ないし守秘義務違反はなかったものということができる。
 イ 前記認定のとおり,本件コンペにおいては,本件書面に定められた本件事務所移転プロジェクトのアドバイザーらが,第2回プレゼンテーションの結果を踏まえて本件書面記載の評価項目ごとに原告と被告M社を評価,比較したところ,被告M社が原告よりも高い評価を得て,最終的には,本件書面に定められた評価委員会が被告M社を指名することを決定したものであり,同決定が,本件書面の条件に違背したものであったことを認めるに足りる証拠はない。
 また,被告Fテレコムが,プレゼンテーションを2回にわたって要求したことも,上記認定の経緯のとおり合理的な理由に基づくものであり,一般のコンペにおいて通常許される予定変更の範囲を超える不当なものとはいえない。
 さらに,被告Fテレコムが,第2回プレゼンテーション後に,被告M社に対し,エトラリの専用部分を甲州街道側に変更するよう指示したことは,前記認定のとおりであるが,施主が,自己の建物内の配置についての希望を述べることは,設計の依頼時に限らず自由に許されるべきであるから,かかる要望を被告M社に伝えたことが公正に選考する義務に違反したものであるということはできない。
ウ また,本件書面には,「コーディネーション」との表題の下,「FTJは下記のルールに従って情報のコミュニケーションを行う:」,「→特定のアイデア及びコンセプトは開示せず,秘密を維持する。(specific ideas and concepts will be kept confidential)」(30頁)との記載があることが認められる。仮に,Dが「エトラリの専用部分を甲州街道側の壁面に配置する」という要望を持つようになったのが,原告設計図上の配置を見た後であるとしても,上記のとおり,原告設計図上の各専用部分等の配置,すなわち,本件事務所に,どのような位置関係で各専用部分等を配置するかという程度の抽象的で,かつ,施主側から与えられた要望と相まって決められた事項は,本件書面で秘密保持の対象となるような「特定のアイデア」に当たると解することもできない。
以上のほか,被告Fテレコムが,被告M社に対し,エトラリの配置に関する事項以外の原告設計図上の特定の情報を開示したことを認めるに足りる証拠はないし,仮に,被告らが原告設計図自体を開示したとしても,前記1(2)判示のとおり,被告設計図と原告設計図上の設計内容が,その具体的な形状及び具体的配置の組み合わせにおいて類似しておらず,全体の基本的配置の点しか一致していないことからすれば,かかる開示行為により原告に何らかの損害が生じているとは認められない。
4 争点4(被告らが,債権侵害に基づく損害賠償義務を負うか。)について 
被告Fテレコムと原告との間で,「原告が本件コンペにおいて最終的に選考されること」を停止条件として,本件事務所の設計・施工を委任する契約を締結する旨の合意(本件合意)が成立していたと認められないことは,前記3(1)判示のとおりである。
 したがって,被告らの不法行為(債権侵害)に基づく原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
 5 争点5(被告Fテレコムが,商法512条に基づく報酬支払義務を負うか。)について
 前記認定のとおり,本件コンペは,施主である被告Fテレコムが,本件事務所の設計及び施工の受注を希望する複数の業者に設計書及び見積金額を明示した申込みを行わせた上で,施主側の評価が高い者がいた場合は,その者と契約交渉を行うという意図で行われたものであることは明らかであり,原告も,自分が最終指名されなかった場合には,設計図作成に対する報酬は請求できないことを承知の上で,本件コンペに参加したものである(原告の主張においても,本件合意の内容として,「他のコンペ参加者が選考された場合には,原告は設計料を含む費用の請求ができない」旨合意したことを自ら主張している。)。
したがって,原告の商法512条に基づく報酬支払請求は理由がない。
 6 以上によれば,原告の請求は,その余の点を検討するまでもなく,いずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。