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著作権判例セレクション

野球用品を掲載した商品カタログ用に撮影された写真の著作物性を認めた事例/カタログ用写真の撮影契約が問題となった事例

▶平成141114日大阪地方裁判所[平成13()8552]
() 本件は、原告が被告らに対し、原告が著作権を有するカタログ用写真は、原告と被告Wンとの契約により、単年度のカタログに1回使用することのみが許されているにもかかわらず、被告らはこれを複数年度のカタログに掲載して原告の著作権を侵害したと主張して、損害賠償を請求した事案である。
 1 争点(1)(本件写真は著作物性を有するか。)について
(1) 写真は、誰でもカメラで撮影すれば、現像、焼付等の処理を経ることにより被写体を写し取った写真が出来上がるものであるから、カメラという機械に依存するところが大きく、撮影者の創作性が発揮される部分が小さい。しかし、写真がカメラの機械的作用に依存するところが大きいとしても、被写体の選定、露光の調節、構図の設定、シャッターチャンスの捉え方、その他の撮影方法において、撮影者の個性が現れた創作的表現が認められれば、著作物として保護されるものというべきである(著作権法10条1項8号)。
(2) 本件写真は、被告Zが製造、販売するバット、グローブ、ヘルメット、ユニフォーム等のベースボール用品を掲載したユーザー向け商品のカタログ用に撮影された写真であるから、まず、当該商品の形状、色彩等を忠実に再現することが要求されているといえる。
 しかしながら、証拠によれば、本件写真は、ただ単に商品の形状、色彩を忠実に写したものではなく、プロ野球選手やモデルにユニフォームを着用させ、屋外やスタジオ内でさまざまなポーズを取らせて撮影したことにより、モデルのポーズと相まって商品の持つ躍動感、力強さが表現されているものや、バット、グローブ等を撮影したものでも、商品の配置、構図の設定、照明等に工夫をこらしたことにより、その商品の質感、高級感が表現され、消費者に対しその存在感をアピールするものになっていることが認められる。
(3) 証拠によれば、本件写真の撮影手順は次のようなものと認められる。
ア 被告Zの担当者は、本件カタログの発行年度の前年の4月から5月ころまでの間に、これから制作する次年度版カタログの頁ごとに、掲載予定の商品の番号、前年度のカタログでの掲載頁、写真の配置、構成等を記載した「サムネイル」と呼ばれる書面を作成する。その際、新商品等の新たな写真の掲載を希望する時には「新撮」、既にその商品の写真が存在するが再撮影を希望する場合には「再撮」と記載する。
イ その後、被告Zの担当者と被告Wが雇ったデザイナーが、5月から7月ころにかけて、頻繁に打合せをし、次年度版カタログの各頁に掲載する写真について、どういう絵柄の写真を掲載するのかということのみならず、撮影方向、角度、影の有無、影の方向、背景、ロケ地、モデルのポーズ、カメラアングル等に至るまで決定する。
 また、被告Zが掲載を希望する写真のイメージの把握が難しい場合には、デザイナーが写真のイメージを絵と短い文章で表現した「絵コンテ」を作成する。このイメージ画はいわゆるラフスケッチであり、人物の大まかなポーズが示されているものである。
ウ 上記のようにして7月ころまでに次年度版カタログの具体的な企画・構想を固め、デザイナー、被告Zの担当者は、カメラマンであるAと打合せを行い、Aに対し、掲載写真のイメージを伝え、具体的な指示を出す。この指示事項は、例えば、スタジオ撮影の場合には、商品の背景を何にするか、写真に影を付けるのか、影はどの方向に付けるのかなどについて、ロケ撮影の場合には、レンズの種類等、具体的な内容に及ぶ。
なお、ユニフォーム等の撮影においてモデルが必要な場合は、モデルオーディションを行い、デザイナー及び被告Zの担当者が協議の上モデルを決定する。
エ 実際の撮影においては、被告Zの担当者、デザイナー及びAが打合せをした上で、Aがポラロイド写真で試し撮りをする。デザイナー及び被告Zの担当者は、ポラロイド写真を見ながら、Aに対し、背景、ポーズの修正、光量の調整等について修正事項を指示することもある。
 しかし、撮影される写真は、必ずしも絵コンテに描かれた絵と細部に至るまで同一になるものではなく、特に、モデルを用いる撮影の場合、Aは、モデルの感情的な表情、しぐさ等を表現するため、モデルに対し、例えば「今から練習に行くシーンだ」、「すごく楽しいんだ」、「仲間と集まっているんだ」などと説明し、モデルの動きを細かく指示しながらシャッターチャンスをつかんで撮影する。
(4) 上記の事実によれば、本件写真は、デザイナー及び被告Zの担当者が、撮影方向、角度、影の有無、影の方向、背景、ロケ地、モデルのポーズ等に至るまで予め決定し、カメラマンであるAがそれらの指示に従って撮影したものである。しかし、絵コンテと本件写真の表現には相違があり、絵コンテのラフスケッチと比べて本件写真に現れた躍動感が顕著であることを考慮すれば、デザイナー及び被告Zの担当者が決定した内容に従って撮影すれば、本件写真が自動的に出来上がるわけではなく(そうであれば、プロカメラマンであるAに撮影を依頼する理由はない。)、Aが、上記の指示内容を前提に、さらに具体的な撮影方向、角度、光量の調整を決定し、また、モデルの感情を引き出すべく、想定している状況や動きを指示し、シャッターチャンスをつかむのであり、そうしたAの創作性は、本件写真の躍動感、力強さ、商品の質感、高級感、存在感等に現れているものというべきである。
 したがって、本件写真は、Aが創作的に表現した写真の著作物(著作権法10条1項8号)に当たるというべきである。
 2 争点(2)(本件写真を次年度版以降のカタログに掲載することは原告の著作権を侵害するか。)について
(1)   証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
()
a() 上記()ないし()によれば、Aは、被告Wから撮影依頼を受けた当初から、カタログには前に撮影した写真が複数回使用されることがあることを認識していたこと、Aは、当初からカタログ掲載用のポジフィルムをすべて被告Wに渡し、カタログ完成後も写真の管理、使用を被告らに委ねていたことが推認される。
イ 原告が、被告Wないし被告Zに対し、本件写真を次年度版以降のカタログに掲載したことに関し、別途の料金を請求するに至った経緯は、次のとおりである。
()
() 上記()()によれば、原告は、平成10年夏ころ、被告Wに再使用料の申入れをするまでは、同被告に対し、再使用料の支払請求と通常人が理解し得るような態様で該申入れを行ったことはなく、被告Wは、平成10年ころ、原告から再使用料の支払請求を受けた時、これを受け入れるような言辞、態度を示したこともなかったというべきである。
ウ 以上の事実によれば、被告Wは、Aに対し、本件写真は次年度版カタログ(「ゼットベースボールカタログ」のほか、その一部の分冊ないし一部を編集した分冊である「レプリカユニホームカタログ」、「ユニホームカタログ」、「グランドコートカタログ」を含む。)にも用いることがあることを前提として本件写真撮影の仕事を依頼し、Aは、本件写真が複数回使用されるものであることを認識し、本件写真の使用を当該年度のみの1回に限って欲しいなどと要請することなく、本件写真撮影の仕事を受注し、その後も被告WとAとの間で、本件写真の複数回使用を前提として撮影業務が続けられ、撮影料が支払われていったのであり、写真についても、当該年度のカタログ作成後も被告Wがポジフィルムをすべて管理し、Aに返還していないのであるから、被告WとAとの本件写真撮影の契約は、次年度版以降の本件カタログにも使用することを前提とするものであったというべきである。
そして、原告は、被告Wに対し、平成8年夏ころから、本件写真の使用は同一媒体における1回のみの使用とすることや、使用済みのオリジナル(ポジフィルム)を返却すること等の要請を見積書、請求書等の下部に極めて小さく記載して送付しているが、このような記載は、文面を相当注意して見ないと気付かないようなものであり、通常人が写真の再使用料の支払請求をしていると理解できる態様でないにもかかわらず、原告はそうした記載の趣旨を何ら説明していないから、このような一見して気付かないような記載をしたことをもって、原告が、被告Wに対し、同一媒体における1回のみの使用に限定するように上記の契約内容を変更する旨の申入れをしたとすることはできない。
また、Aは、平成10年夏ころに、Dに対し、本件写真を次年度版以降のカタログに使用する場合には、別途使用料をもらいたいとの申入れをしているが、被告W代表者のDがこれを受け入れるような言辞、態度を示さず、暗に発注の見直しを示唆するような態度を示したことから、Aは、上記の契約内容の変更に当たる上記の申入れに固執することなく、従前どおり本件写真の撮影業務を継続したものであり、結局、Aは、平成10年夏ころ以後も、次年度版以降の本件カタログにも使用することを前提とする契約のもとで、本件写真の撮影を継続したものというべきである。
 なお、被告らは、原告から本件写真の著作権を譲り受けたとも主張するが、上記認定の事実によっても当該事実を認めるには足りず、その他、被告らが原告から本件写真の著作権を譲り受けたことを認めるに足りる証拠はない。
(2)ア 原告は、Aが、平成4年ころ、正栄堂の従業員であったBとの間で、撮影社員についてはカタログに1回掲載するのみの使用であることを明確に合意したと主張し、原告代表者尋問中にこれに沿う供述部分があるが、同供述は具体性に欠ける上、その他に当該合意を裏付ける証拠がないから、当該供述部分を採用することはできない。
イ また、原告は、本件写真に係るポジフィルムをすべて被告Wに交付したものではないと主張する。そして、原告はAが保管しているポジフィルムの写しを証拠として提出し、原告代表者尋問中には、Aが撮影したフィルムのうち約3分の1(3枚に1枚程度)は自分で持っているとの供述部分がある。
 しかしながら、上記のとおり、原告は、実際にカタログに掲載する写真は、通常1商品につき1ロール(35㎜、36枚)のポジフィルムを用いて撮影していたから、3枚に1枚程度を自分で持っているのであれば、1ロールのポジフィルムの一部を切ってその残りを被告Wに交付することになるが、被告Wが1ロールの一部のポジフィルムをAから受け取ったという事実があったことを認めるに足りる証拠はない。本件カタログに掲載する写真の選択は、すべて被告Zの担当者ないしデザイナーが行っていたから、原告が、本件カタログに掲載する写真のポジフィルムのうちの3分の1程度を保管用に抜き出して、その残りを交付するというAの供述自体、不自然な内容である。
 したがって、原告本人尋問中の上記供述部分を採用することはできない。
() さらに、原告は、被告Wからニットユニオンのカタログに写真を複数回使用したことについて別途使用料の支払を受けたことがあると主張する。
(イ)   この点に関し、証拠によれば、次の事実が認められる。
()
 () 上記事実によれば、被告Wは、ヒットユニオンのカタログ用写真を雑誌広告用写真に使用したことの料金を別途支払ったことや、カタログの分冊を制作する際に新たに撮影した写真の撮影料を支払ったことは認められるものの、被告Wがヒットユニオンのカタログに写真を複数回使用したことについて別途使用料を支払ったとの原告主張の事実を裏付けるものではなく、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
 エ 原告は、出版広告等の業界では写真の継続反復使用について極めて慎重であり、特にモデルを用いた写真についてはモデルの肖像権の問題とも関連し業界慣行としても1度限りの使用が常識的であると主張する。
 甲8によれば、モデルクラブの業界団体である日本モデルエージェンシー協会は、モデルを撮影した写真等は、事前に期間や媒体について相談を受けない限り、「1媒体を通常の1クール・3か月以内、又は1回のみの使用」に限定する旨のルールを定めていることが認められる。
 しかし、モデルの肖像権保護の要請からその写真を原則として1度しか使用できないことをモデルクラブの業界団体が定めているとしても、そのことから直ちに、原告と被告Wとの間において、本件写真を次年度版以降のカタログに掲載することが許されないと解さなければならないものではない。また、原告及び被告Wの各代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件写真撮影においてモデル派遣を依頼したモデルクラブは、原告及び被告Wに対し、次年度版以降のカタログにモデル写真を掲載していることについて苦情を申し入れてはおらず、被告Wが当該モデルクラブに確認したところ、次年度版以降のカタログにモデル写真を掲載することは問題がないとの回答を得ていることが認められる。
また、原告が主張するように、出版広告等の業界では写真の継続反復使用について極めて慎重であるとしても、複数年度のカタログに同じ商品写真を掲載することが予定されているようなカタログ掲載用の写真撮影を依頼した場合に、カタログに掲載した年度ごとに別途写真使用料を支払うような業界慣行があることを認めるに足りる証拠もない。
 (3) そうすると、原告と被告Wとの間における本件カタログ用写真の撮影契約は、本件写真を次年度版以降の本件カタログにも使用することを前提とするものであり、本件写真はそうした契約条件に基づいて撮影されたものであるから、被告W及び被告Zが本件写真を次年度版以降の本件カタログに掲載したことは原告の本件写真の著作権(複製権)を侵害するものとはいえない。
3 よって、原告の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、主文のとおり判決する。