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著作権判例セレクション

メモリーカードの使用がゲームソフトの著作者の有する同一性保持権を侵害するとされた事例

▶平成11427日大阪高等裁判所[平成9()3587]
一 本件ゲームソフトの著作物としての性格
1 原告は、コンピュータ用ゲームソフト及びその他のアミューズメント機器を製作、販売することを主たる業務内容とする法人であり(争いがない)、その発意に基づき、従業員にコンピュータ用ゲームソフト「ときめきメモリアル」(以下「本件ゲームソフト」という。)を職務上作成させ、平成6527日、ゲーム機「PCエンジン」用のゲームソフトとして、原告の著作名義の下に公表し、発売した。そして、その後、原告は、本件ゲームソフトにつき、平成71013日、「ときめきメモリアル~forever with you~」という題名でゲーム機「プレイステーション」版を、平成829日、「ときめきメモリアル~伝説の樹の下で~」という題名でゲーム機「スーパーファミコン」版を発売した。
原告が本件ゲームソフトについて著作者人格権及び著作権を有することは、当事者間に争いがない(但し、内容については争いがある。)。
2 本件ゲームソフトの内容は、ゲームを行う者(以下「プレイヤー」という。)が架空の高校「きらめき高校」の高校生(以下「主人公」ともいう。)となって、設定された登場人物の中から憧れの女生徒とする人物を選択し、卒業式の当日、伝説の樹の下でこの女生徒から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指して、高校三年間勉学や様々な出来事、行事等を通して、憧れの女生徒に相応しい能力を備えるための努力を積み重ねるという恋愛シミュレーションゲームである(争いがない)。
本件ゲームソフトは、プレイヤーが主人公として三年間の高校生活における行動により、卒業式の日に、好意を抱いた女生徒から愛の告白を受けるというハッピーエンディングに至るか、誰からも愛の告白を受けられずに三年間を終了するバッドエンディングとなるかの差異を生じ、また好意を抱いた女生徒から一度愛の告白を受けて本件ゲームのエンディングを迎えたとしても、再度最初からプレイをし、前回とは異なった手順(勉強、運動、イベント等への取組みの変更)を踏むことにより、全く異なったゲーム展開を楽しむことができ、前回とは異なった女生徒(藤崎詩織ら11名、各人性格や容貌、趣味、男性に対する好み等が異なる設定)から愛の告白を受けることができ、また同一の女生徒に対して異なった手順により愛の告白を受けることも可能である。
本件ゲームソフトのプログラムを実行すると、次のような形でゲームが展開していく。
(一) 序(はじめ)
まず、プレイヤーの名前(姓・名・あだ名)、誕生日及び血液型を入力する。
プレイヤーの能力は、体調・文系・理系・芸術・運動・雑学・容姿・根性・ストレスの九つの要素について数値で表されている(以下、この数値を「表パラメータ」という。)が、ゲームのスタート時点(199544日)では、予めその初期値が体調100、文系40、理系40、芸術40、運動40、雑学32、容姿60、根性5、ストレス0に設定されている。また、主人公が女生徒からどのように思われているかを示す三つ(ときめき度・友好度・傷心度)の「隠しパラメータ」の初期値も決められている。
コマンドは、画面左側に表示されたアイコン(三列五段)で表示され、文系の能力を高めようと考える場合は、文系学習のアイコンを選択し、女生徒とデートの約束の電話をしたい場合は電話のアイコンを選択することとなる。
(二) 破(中)
(1) 憧れの女生徒から愛の告白を受けるという目的を達成するために、プレイヤーは高校三年間の間に、次のようなプレイを行う。
① 一週間を一単位として、平日には、勉強(文系、理系、芸術)・運動・部活・おしゃれ・遊び・休養の各コマンドのいずれかを選択して、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー自身の能力を高める。その結果、ゲームのスタート時点で予め設定されている表パラメータが上昇する(但し、ストレスのパラメータは、休養コマンドの選択により下降するが、その他のパラメータも変化する。例えば、文系のコマンドを選択すると、文系のパラメータは上昇するが、ストレスのパラメータも上昇する。また、休養のコマンドを選択すると、ストレスのパラメータは下降するが、容姿等のパラメータも下降する)。
② 同じく一週間を一単位として、休日には、右①のコマンドの外、電話・デートの各コマンドのいずれかを選択することができる。デートのコマンドを選択した場合、相手の発言に対して返答を要する場面や行動を決定しなければならない場面が設定されていることがあり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんによって、プレイヤーに対する女生徒の評価(隠しパラメータの数値)が変化する。
その他、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)をきちんとこなすことによってもプレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
また、平日に女生徒と一緒に下校したり(同伴下校)、女生徒の誕生日にプレゼントを渡すということも可能であり、その際のプレイヤーの選択の内容いかんによって、プレイヤーに対する女生徒の評価が変化する。
③ プレイヤーの選択したコマンドは常に成功するとは限らず失敗することもあり、また、プレイヤーは常に健康とは限らず病気になり怪我をし、あるいはノイローゼになるなどのアクシデントも予定されていて、これらによりプレイヤーのパラメータは変動する。
(2) 本件ゲームは、三年間を舞台としているためプレイ時間が非常に長くなり、そのため、ユーザーは数日に分けてプレイが楽しめるように、途中でゲームの進行状況を数値として保存することができ、その保存は市販のメモリーカード(本件メモリーカードとは別)に、「セーブ」コマンドにより行うことができる。これにより、ゲームを途中で終了させた場合でも、次にゲームを起動させる際には、メモリーカードから保存した数値をゲーム機本体(RAM)に読み込むことにより、保存時の続きからゲームを進行させることができる。
なお、表パラメータは、画面上部の「プレイヤーのステイタス表示部」に表示されて、常時確認することができ、プレイヤーに対する女性徒の評価(隠しパラメータ)については、プレイヤーが親友(女生徒早乙女優美の兄早乙女好雄、女生徒の情報等に詳しい男生徒として設定されている)に電話をすることで確認することができ、これにより、目的の女生徒が機嫌を損ねているか等のプレイヤー(主人公)に対する評価の状況(七段階)を確認することができる。
(三) 急(おわり)
右(二)のプレイを続けた結果、卒業式当日(199831日)に憧れの女生徒から愛の告白を受けることができるか否かが判定される。判定に当たっては、①表パラメータが憧れの女生徒に相応しい数値まで高まったかどうか、②「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」(隠しパラメータ)が一定の数値に到達しているかどうかが総合して考慮され、①②の条件を満たしていれば愛の告白を受けることができるという形(ハッピーエンディング)でゲームが終了するが、条件を満たしていなければ、親友と家路につくという形でゲームが終了することになる。
3 本件ゲームソフトのストーリーの設定
右のように、本件ゲームソフトは、スタートが高校入学の時点(199544日)であり、高校三年間の様々な出来事を経て、ラストである卒業式当日(199831日)に至るという時間的な枠組みがあり、その枠組みの中で様々なストーリー展開が予定されている上、プレイヤー(主人公)の能力値として九つの要素に分けた初期値が設定され、プレイヤーが平日・休日に選択できるコマンドが予め設定されるとともに、コマンドの選択如何によって上昇するパラメータと下降するパラメータが連動するように設定されており(この設定に制作者の創作上の苦心がある)、これらの点にゲーム操作上の面白さと難しさがあるとされている。
本件ゲームソフトでは、プレイヤーの前に登場する女生徒は一一人であるが、いずれの女生徒と出会い愛の告白を受けられるかはプレイヤーの到達したパラメータの数値如何によるところ、例えば、本命とされる藤崎詩織から愛の告白を受けるためには、(a)九つの表パラメータの値に関して、文系・理系・芸術・運動各130以上、雑学120以上、容姿・根性各100以上、ストレス50以下であること、(b)隠しパラメータの値に関して、ときめき度80以上、友好度50以上、傷心度50以下、デート回数八回以上であること、の各条件をともに満たしていること、というように設定されているため、プレイヤーにとっては、初期設定の平凡な能力値から勉学・スポーツともに優秀で容姿も端麗であるという最高の能力値を備えた人物に成長するよう各パラメータの上昇・下降のバランスをとりながら操作をすることが求められている。
また、他の女生徒を本命として操作するときには、その女生徒の特性に応じて設定された表・裏の各パラメータを達成する必要がある。
このように、本件ゲームソフトにおいては、初期設定の主人公の能力値から出発し本命の女生徒から愛の告白を受けることを目標として主人公自身の能力を向上させていくことが中核となるストーリーであり、その過程で主人公の能力値の達成度に応じて他の女生徒との出会いがあるという物語の設定となっている。
4 本件ゲームソフトの構造
本件ゲームソフトは、シミュレーションゲームとしてモニターには影像が写され、スピーカーからは音声が出され、プレイヤーが選択するコマンドの操作により記憶媒体であるCDーROMに収められたプログラムに従った場面展開がなされるもので、スタートからラストの場面に至るまですべてプレイヤーの操作によってのみ場面が進行する。しかし、プレイヤーの選択するコマンドの内容を読み取り、それに従って場面を展開するのはあくまでコンピュータ・プログラムの機能であり、あるコマンドの実行によりプレイヤーの九つの表パラメータや三つの隠しパラメータの数値がどのように上昇し下降するかは予めプログラム中に設定されたところに従って決定されることとなる(右パラメータは乱数に依存しているため、その変動を特定することは困難である。)。そして、各場面に表われる影像(登場人物や背景)や音声はもとより、主人公(プレイヤー)や登場人物(キャラクター)の設定、コマンドの選択条件などはすべて一定のデータとしてCDーROMに収められている。
5 本件ゲームソフトの著作物性
(一) 右のように、本件ゲームソフトはプログラムとデータとからなるもので、シミュレーションゲームに不可欠な影像や音声はすべてデータとして保存されている。
ところで、著作権法1017号にいう「映画の著作物」には、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物を含む(同法23項)とされているから、本件ゲームソフトが再生機器を用いてモニターに各場面に応じて(連続的ではないとしても)変化する影像を映し出し、登場人物が当該場面に相応しい台詞を述べて一定のストーリーを展開している点で、本件ゲームソフトは右にいう「映画の著作物」に該当するものということができる(本件ゲームソフトのプログラムとデータがすべてCDーROMに保存されモニターを通じて再生される以上、「物に固定されている」との要件を欠くものではない。)。
また、本件ゲームソフトのプログラムはコンピュータに対する指令を組合わせたものとして表現したものを含むものと認められるから、同法1019号にいう「プログラムの著作物」にも該当する。
そして、本件ゲームソフトにおいては、データに保存された影像や音声をプログラムによって読み取り再生した上、プレイヤーの主体的な参加によって初めてゲームの進行が図られる点で、「映画の著作物」と「プログラムの著作物」とが単に併存しているにすぎないものではなく、両者が相関連して「ゲーム映像」とでもいうべき複合的な性格の著作物を形成しているものと認めるのが相当である。
(二) 本件ゲームソフトでは、モニターに登場する女生徒とモニターには登場しないがゲーム進行の中心的役割を担う主人公(プレイヤー)とが高校生活の三年間に互いに交流を深め、かつ、主人公が勉学・運動・容姿等の能力を高めることによって、最後に女生徒から愛の告白を受けることを目的として設定されている。
そのため、女生徒の容姿や表情はモニターの画面を通じて見ることができる一方、主人公の容姿や表情はモニターを通じて確認することはできないが、女生徒は常に画面を通じて主人公に話しかける影像になっており、双方の対話と交流を通じてストーリーが展開する形が採用されている。他方、女生徒の台詞や主人公に接する態度は幾種類かに固定されているのに対し、主人公は高校入学直後の能力が初期値として設定されているのみで、その後平日・休日のコマンドの選択により能力値は様々に変動し、隠しパラメータの数値も変化することによって能力が向上することが予定されている。
右のように、モニターに登場する女生徒はそれぞれに画面に映し出される容姿・表情等を通してキャラクターが形成されているのに対し、主人公は影像を通してのキャラクターの形成はなされていないものの、その能力を初期設定値である体調100・文系40・理系40・芸術40・運動40・雑学32・容姿60・根性5・ストレス0という数値に置き換えて表すことにより、高校入学直後の主人公は平凡な普通の高校生としての人物像の形成が図られているということができる。
従って、本件ゲームソフトにおいては、「藤崎詩織」やその他の女生徒のキャラクターが著作物として保護の対象となるのみならず、画面に想定される主人公の人物設定も能力値によって表現された登場人物の一人として本件著作物の主要な構成要素に当たるものと認めるのが相当である。
(三) 原告は、本件ゲームソフトにつき、「ゲームソフトに固有の内容」すなわち「ゲームバランス」と「インタラクティブ性」も著作物として保護の対象となると主張する。
(1) 原告は、この「ゲームバランス」こそゲームソフトの面白さを決定する鍵ともいうべき核心的な要素に他ならず、右の「ゲームバランス」によってゲームの進行・構成に関する制作者の表現上の工夫がなされており、直接目には見えない表現上の工夫という意味で、内面的表現形式のひとつということができると主張する。
これに対し、被告は、原告の主張は劇映画や小説と異なりストリーの展開が完全に固定されていないというシミュレーションゲーム著作物の特質、種類、内容を完全に無視している、原告の主張する「予め予定されたゲーム展開の幅」は第三者が客観的に認識できず、このようなものは著作権による保護の対象になじまないし、原告の主張はプログラムの実行に関して作成される単なるセーブデータについてまで著作権性を認めることになり不当であると主張する。
(2) 原告のいう「ゲームバランス」とは、表パラメータの特定の数値を上昇させるとそれに連動して他の数値が上下するように設定された本件ゲームソフトにおいて、プレイヤーは勉学・運動・容姿等を表す数値間にバランスをとり、かつ、表パラメータと隠しパラメータとの連繋を考えながらコマンドを選択しなければならないこと、あるいはゲームの進行がそのように構成されていることを指すものと解される。
右のようなバランスは、本件ゲームソフトのプログラムがプレイヤーの選択したコマンドの内容を読み取り、指示内容に従って、予め設定された各パラメータの変動値を主人公のパラメータに追加する方法によって実現しているものと認められる。
しかし、右のような「ゲームバランス」それ自体は、本件ゲームソフトの制作者が、ゲームのスタートから終結にいたる様々なストーリー展開を設定し、コマンドの選択におけるプレイヤーの操作判断を複雑困難に構成し、そこにプレイヤーの知的活動における面白さを醸成させるというゲームの設計、ゲームのアイデアであって、制作者として知的に最も苦労する場面であるということができるとしても、これが直接著作物として著作権法上保護の対象となるものとはいい難い。本件において著作物として保護されるべき思想又は感情の創作的表現は、工夫された「ゲームバランス」に従って具体的にモニター画面に展開されるところの、本件ゲームソフトに内包された(多数ではあるけれども限定的に設定された)ストーリー(バーチャルな恋愛模様の表現)とその影像にあるというべきである。
また、原告のいう「インタラクティブ性」とはその概念が必ずしも明確でないところであるが、原告の主張によれば、プレイヤーの入力行為がなければゲームが進行せず、プレイヤーの選択によって具体的なゲームの進行・展開が対話的、双方向的に決定されるという側面を指すものとされるところ、ゲームにそのような特性があるからといって、ゲームの進行・展開は、予めプログラムないしデータに保存された内容から選択されるに過ぎず、右にいう「インタラクティブ性」とは、シミュレーションゲームに独自の操作方法ないしは操作と反応との関係を抽象的に表した技術的な概念というに止まり、それ自体をゲーム展開や登場人物に関する制作者の思想又は感情の創作的な表現ということは困難である。
(三) しかしながら、本件ゲームソフトのプログラムは、主人公の能力に関する初期設定を固定し、その設定を基盤とした上で、プレイヤーが選択した行動(コマンド)に対する能力項目の数値を創作的に加減させ累積させてストーリーが展開するという構造になっているから、プレイヤーによって作り出され蓄積されるセーブデータは、プログラムとは別個独立に截然と区別されて存在する単なる数値ではなく、制作者が初期設定の数値によって表した主人公の人物像(能力値)を変化させ、それに応じたゲーム展開を表現するための密接不可分な要素として構成されているものというべきである。
従って、その初期設定は勿論、コマンドの選択に関連付けられた各能力項目の数値の加減は、本件ゲームソフトの本質的構成部分となっているもので、これを改変し無力化することは、それによる表現内容の変容をもたらすものというのが相当であり、本件ゲームソフトの著作物としての同一性保持権を侵害するものと解せられる。
二 本件メモリーカードによる改変
1 本件メモリーカードの内容
被告が輸入し日本国内で販売した本件メモリーカードは、データの記憶単位であるブロックの1ないし13に、それぞれ本件ゲームソフトで使用される九種類のパラメータがデータとして収められたものであり、プレイヤーは、本件ゲームソフトのプログラムを実行するに当たり、本件メモリーカードの任意のブロック(プレイヤーが愛の告白を受けたいと希望する女生徒に関するブロック)内のデータをゲーム機のハードウエアに読み込んで、そのデータを利用することができる。
2 本件メモリーカードの使用によるゲーム展開の変化
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件メモリーカードを使用すれば、本件ゲームソフトのゲーム展開が次のように変化することが認められる。
(一) 本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用すると、本来、一九九五年四月四日の高校入学の時点における初期値が体調100・文系40・理系40・芸術40・運動40・雑学32・容姿60・根性5・ストレス0として設定されている九種類のパラメータの数値が、入学後一週間足らずの一九九五年四月九日の時点において、例えばブロック1のデータでは、「藤崎詩織」に合ったステイタスでゲームをプレイできるとして、ストレス0以外はすべて999という形で与えられ、ブロック2のデータでは、「紐緒結奈」に合ったステイタスでゲームをプレイできるとして、体調99・文系0・理系999・芸術0・運動0・雑学0・容姿999・根性0・ストレス0という形で与えられる。
(二) 本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用すると、ゲームのスタート時点が高校の卒業(199832日)間際の1998222日(ブロック12)又は同月25日(ブロック13)に飛び、その時点において、九種類のパラメータが、ブロック12のデータでは、「伊集院レイ」の「エンディンク直前データ」として、体調999・文系998・理系995・芸術998・運動998・雑学873・容姿849・根性973・ストレス0という形で与えられ、ブロック13のデータでは、「藤崎詩織」の「エンディング直前データ」として、体調999・文系998・理系998・芸術998・運動997・雑学894・容姿868・根性987・ストレス0という形で与えられる。しかも、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、隠しパラメータの数値を満たすようにデータが収められており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるようになっている。
(三) しかし、本件ゲームソフトの本来のゲーム展開では、前記のように、プレイヤーの初期値が低く設定されている上、あるパラメータが上昇すれば他のパラメータが下降するように九つの表パラメータの変化が連動する形で設定されているため、プレイヤーが平日・休日に最善のコマンドを常に選択し続け、すべてのコマンドが成功し、かつ常に健康で病気・怪我・ノイローゼにならないとして、最も効率よくパラメータの数値を上昇できたとしても、その最高値は特定少数のパラメータを999というような高数値にするのが限度で、他の多数のパラメータをも同時に900を超え、あるいは900近い数値にすることは不可能である。
従って、前記(一)(二)のように九つのパラメータの殆どを高数値とすることができるのは、本件メモリーカードに前もって保存してある外部データをゲーム機のRAMに書き込む方法によってのみ可能で、プレイヤーの主体的な操作のみでは達成することはできない。
また、本来であれば、ゲームのスタート時点においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することになるところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11のデータを使用すると、プレイヤーの名前が「ときメモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されているため、プレイヤー自身の名前やあだ名が表示されず、本件ゲームソフトが予定しているプレイヤーに対する呼び掛けのインパクトが希薄化され、女生徒とプレイヤーとの対話の直接性が毀損されているということができる。
3 ゲーム展開の変化と本件ゲームソフトの改変
(一) 人物設定の改変とそれによる「ストーリー」の改変
本件ゲームソフトにおいて、「藤崎詩織」その他の女生徒のキャラクターとともに、主人公(プレイヤー)の人物像も物語の展開上重要な構成要素であると解すべきことは前記のとおりである。
ところが、本件メモリーカードを使用することによって、例えば、ブロック1のデータでは、「藤崎詩織」に合ったステイタスでゲームをプレイできるとして、主人公の表パラメータが高校入学直後の時点でストレス0以外はすべて999という高数値で与えられ、また、ブロック12・13のデータでは、高校卒業間近の時点で、「伊集院レイ」に関するデータが、体調999・文系998・理系995・芸術998・運動998・雑学873・容姿849・根性973・ストレス0という高数値(ブロック12)で、「藤崎詩織」に関するデータが、体調999・文系998・理系998・芸術998・運動997・雑学894・容姿868・根性987・ストレス0という高数値(ブロック13)で与えられるのであるから、これらの高数値によって表される主人公の人物像は、学力・運動ともに最優秀で芸術性にも極めて優れ容姿も抜群という、飛び抜けて高い能力を有する高校生の姿である。
しかるに、本件ゲームソフトで設定された主人公の人物像は、高校入学直後は平凡な普通の高校生であり、最大限の努力によって卒業間近の時点で達成できる能力も特定少数の分野のみ高数値となるに止まるのであるから、こうした主人公の人物像は本件メモリーカードの使用によって明らかに改変されたものといわなければならない。
そして、前記のとおり、本件ゲームソフトにおいては、主人公の能力値が初期設定の低い数値であることを前提に、各時点でのコマンドの選択により達成しうる最大限の数値の範囲内でその後のストーリーの展開が図られているものであるから、後記の「女生徒との最初の出会いの時期」の改変に見られるように、当初から主人公の能力値が高数値に置き換えられることによって、プレイヤーがストーリーの展開の過程において入力するコマンドの数値を無効化し、右のストーリーが本来予定された範囲を超えて展開されることとなり、この点で主人公の人物像の改変がストーリーの改変をももたらすものということができる。
(二) 「女生徒との最初の出会いの時期」の改変
本件ゲームソフトでは、主人公の能力値が低い段階から物語がスタートし、表パラメータの数値が一定値に達したとき初めてそれに応じた女生徒が登場する設定となっているから、主人公の能力が一定値に達する時期までは女生徒が登場しない前提でストーリーの展開が図られているものということができる。
しかるに、本件メモリーカードのブロック1ないし11によれば、高校入学直後の主人公の能力値が極めて高いものに改変される結果、入学当初から本来はあり得ない女生徒が登場することになり、この点でもストーリー展開に顕著な改変があるといわなければならない。
(三) 「ストーリー」の削除
原告は、本件メモリーカードのブロック12、13により、高校生活三年間を通じて展開されるべき本件ゲームソフトの「ストーリー」がほぼ全部削られ、いきなり卒業一週間前に飛んでしまうのは、ゲーム制作者が設定したゲームの「ストーリー」という基本的な内容に関する重大な改変にほかならないと主張する。
原告の右主張は、主人公が高校入学直後の初期値からスタートし三年間という時を経て順次成長する過程を省略することが「ストーリー」の改変に当たるというものである。
しかし、本件メモリーカードのブロック12、13により、卒業一週間前の時点で主人公の能力値を本来であればあり得ない高数値に置き換えることはその時点での人物像の改変に他ならず、それによりその後のストーリーの展開に改変をもたらすものであることは、ブロック1~11におけると同様である。
従って、右により改変されるのは数値が置き換えられた後の展開であって、それ以前のストーリーが削除改変されるものではない。
(四) 以上の他、原告は、本件メモリーカードにより「ゲームバランス」や「インタラクティブ性」についても改変がされたと主張するが、原告のいう「ゲームバランス」や「インタラクティブ性」はシミュレーションゲームの構想の側面であって、それ自体で著作物性を有するものでないことは前記のとおりであるから、仮にこれを変更したとしてもそのこと自体は著作権の侵害ということはできず、この点についての原告の主張は理由がない。
(五) 被告は、シミュレーションゲームにおいては、プレイヤーの参加があって初めてストーリーが展開され、展開の幅も固定されておらず、第三者が展開の幅を認識することもできないから、本件メモリーカードを使用して主人公の能力値を高数値に置き換えたとしても、本件ゲームソフトのストーリーを改変するものではないと主張する。
本件ゲームソフトにおいては、プレイヤーの参加をまって初めてゲームが展開され、プレイヤーの選択によってストーリーも種々様々に変化して展開される点で、通常の言語や映画の著作物のようにストーリーが固定されているものとは異なることは被告主張のとおりである。
しかし、本件ゲームソフトにおいても、前記のように、登場人物(主として女生徒)の数や登場の条件は限定され、主人公も能力値が初期設定で特定されていて、それを前提に物語が始まるのであるから、ストーリーの始まりは固定されているものということができ、その後、主人公の能力値と女生徒に関する隠しパラメータの変化に応じてストーリーも具体的に展開するものであるから、ストーリーの選択に幅があるとはいえ、一定の条件下に一定の範囲内で展開するという限定が設けられていることは否定できない。
従って、主人公の能力値をあり得ない高数値に変更すれば、それが高校生活中のいずれの時点についてされたかを問わず、それに応じた展開の条件も当然に変更され、本来の条件を離れた特異なストーリーの展開を示すことになるもので、その点においてストーリーの改変に当たるものといわなければならない。
本件ゲームソフトにおけるプレイは、長時間に及ぶものであるため、市販のメモリーカードを利用して、プレイヤーがゲーム操作によって蓄積した結果を中間的に保存し、また任意の時間に右メモリーカードに記録したゲームデータをプレイステーションに呼び込み、従前のゲームの続きを行うことが許容されている。
しかし、市販のメモリーカードに保存されるデータは、あくまでも本件ゲームソフトの制作者が想定した枠内のゲーム展開の結果のみであり、最初からのゲーム展開のデータに限られ、本件ゲームによって作成されたデータ以外のデータの呼び込みを許容しているものではなく、また、最初からのゲーム結果の省略ができるものでもない。
市販カードの使用が許容されるといっても、その意味は右の限度のものであって、市販カードの使用が許容されているということのみから、本件メモリーカードが許容される範囲内のものであるということはできない。
なお、予め予定されたゲーム展開の幅が第三者に客観的に認識できないものであっても、著作権の成立を妨げるものではなく、そのことが、本件メモリーカードの作成を許容する理由とはならない。また本件メモリーカードを使用してもプログラムが停止したり暴走したりすることなく正常にゲームを進行することができるということも、本件ゲームソフトが許容する範囲であることの根拠とはならない。
なお、本件ゲームソフトのプログラム中には一定以上の数値を読み込むことを禁止するチェックルーティンは組み込まれていないけれども、そのことが本件著作物の同一性保持権侵害の成否を左右するものでもない。
三 本件著作権の侵害主体について
本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのプログラムを実行することが本件ゲームソフトの著作物としての同一性保持権を侵害するものであり、そのようなゲームを行っている者は個々のプレイヤーということになるが、本件メモリーカードの制作者は、右行為に主体的に加功していることは明らかであり、本件メモリーカードの制作者はこれを意図してその制作をした者であるから、右カードを使用して行う本件ゲームソフトの改変行為について、制作者はプレイヤーを介し本件著作物の同一性保持権を侵害するものということができ、これを購入した者は本件メモリーカードを使用して本件ゲームを行ったものと推認できるから、制作者はプレイヤーの本件メモリーカード使用の責任を負うべきものというべく、右改変をするメモリーカードの輸入、販売をした被告も著作権法11311号・2号より同一性保持権侵害の責任を免れないというべきである。
四 原告の損害
被告は、平成712月頃から本件メモリーカードを輸入し、日本国内で販売したころ、証拠によれば、右輸入総数は700個(輸入単価1260円)で現実に販売した総数532個(販売単価2980円)であるが、本件メモリーカードには接触不良の箇所があったため、まもなく輸入・販売を中止し、在庫品は廃棄処分にしたことが認められる。
前記のように、本件メモリーカードにより原告が本件ゲームソフトについて有する著作物の同一性保持権が侵害されたものというべきところ、それにより原告の被った損害は、本件メモリーカードの販売総数・販売利益、本件ゲームソフトの内容・性格、侵害の態様などの事情を勘案すると、100万円と認めるのが相当である。
なお、右侵害の内容・程度等に鑑み、名誉回復等の措置として謝罪広告までは必要とは認められない。
五 本件ゲームソフトの複製権侵害については、原判決中の複製権侵害に関する部分を引用する。
第四 結論
以上の次第で、被控訴人は、本件ゲームソフトの同一性保持権及び複製権侵害により、控訴人に対し、1146000円及びこれに対する平成81217日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきであるから、控訴人の本件請求は右の限度で認容すべきである。
よって、これと異なる原判決を本判決主文のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

[参照:最高裁]
▶平成13213日最高裁判所第三小法廷[平成11()955]
本件ゲームソフトの影像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるものであるところ,前記事実関係の下においては,本件メモリーカードの使用は,本件ゲームソフトを改変し,被上告人の有する同一性保持権を侵害するものと解するのが相当である。けだし,本件ゲームソフトにおけるパラメータは,それによって主人公の人物像を表現するものであり,その変化に応じてストーリーが展開されるものであるところ,本件メモリーカードの使用によって,本件ゲームソフトにおいて設定されたパラメータによって表現される主人公の人物像が改変されるとともに,その結果,本件ゲームソフトのストーリーが本来予定された範囲を超えて展開され,ストーリーの改変をもたらすことになるからである。

参考▶平成91127日大阪地方裁判所[平成8()12221(同一性保持権侵害を否定)]

一 争点一(本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるか)について
1 まず、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより、映像としてモニターに、音としてスピーカーに出力されるところのものは、通常の映画と比べて映像の連続的な動きという点では格段に劣るものではあるが、一応「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている」(著作権法23項)ということができるので、映画の著作物に準ずる著作物に当たるということができる。
2 前記のとおり、本件ゲームソフトの内容は、ゲームを行うプレイヤーが架空の高校「きらめき高校」の高校生となって、設定された登場人物の中から憧れの女生徒とする人物を選択し、卒業式の当日、伝説の樹の下でこの女生徒から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)を目指して、高校三年間の様々な出来事、行事等を通して、憧れの女生徒に相応しい能力を備えるための努力を積み重ねるという恋愛シミュレーションゲームであり、本件ゲームソフトのプログラムを実行すると、同(前記)ないし(前記)のような形でゲームが展開していくものであるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、その際本件メモリーカードを使用すれば、次のようにゲームが展開するものであることが認められる。
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3(一) しかして、右2(一)のように、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用すると、本来、199544日の高校入学の時点における初期値が体調100、文系40、理系40、芸術40、運動40、雑学32、容姿60、根性5、ストレス0として設定されている九種類のパラメータの数値が、入学後一週間足らずの199549日の時点において、例えばブロック1のデータでは、「藤崎詩織」に合ったステータスでゲームをプレイできるとして、ストレス0以外はすべて999という形で与えられ、ブロック2のデータでは、「紐緒結奈」に合ったステータスでゲームができるとして、体調99、文系0、理系999、芸術0、運動0、雑学0、容姿999、根性0、ストレス0という形で与えられることについて、原告は、本件メモリーカードを使用することにより、ゲームのスタート時点で既に憧れの女生徒に相応しい形で必要な数値が与えられるのであり、それは、本件ゲームソフトが予定している「予め設定された低い数値からスタートして、高校三年間の間、憧れの女生徒に相応しい形でプレイヤー自身の能力を高めるためのプレイを行い、それによって能力の数値を上昇させていく」というストーリーの骨格部分を根本から破壊するものであるから、本件ゲームソフトが到底許容しえないストーリーの改変に外ならないと主張する。
しかしながら、本件メモリーカードにより、右のようなパラメータの数値についてのデータを本件ゲームソフトのプログラムの実行に当たって入力しても、本件ゲームソフトのプログラム自体が書き換えられるわけではなく、しかもプログラムが停止したり暴走したりすることなく、正常にゲームを進行することができるから、本件メモリーカードに収められたデータは、本件ゲームソフトのプログラムの許容する範囲内であるといわざるをえない。そして、本件ゲームソフトの内容は、前示のような恋愛シミュレーションゲームであり、憧れの女生徒から愛の告白を受けることを目指して、プレイヤー自身が種々のコマンドを選択してゲームを進めていくというものであるから、本件ゲームソフトのプログラムを実行することにより展開されるところは、多種多様のものであることが本来予定されており、固定されたものではないところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用しても、プレイヤーは、199549日のスタート時点からほぼ三年間のプレイを行うのであり、しかも、前記のとおり、ゲームの最終局面において憧れの女生徒から愛の告白を受けることができるか否かの判定に当たっては、前記九種類のパラメータが憧れの女生徒に相応しい数値にまで高まったかどうか、という要素だけではなく、「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」が一定の条件を満たしているかどうかが総合して考慮されるのであるから、右のような199549日時点におけるパラメータの数値設定が、本件ゲームソフトのプログラムの実行による本来のゲーム展開にどのように影響し、これを変化させ、最終局面においてどのように右判定に影響するのか、本件全証拠によるも不明であり、結局、本件ゲームソフトが予定しているストーリーを改変するものであると認めるに足りる証拠はない。
また、本来であれば、ゲームのスタート時点においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することになるところ、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータを使用すると、プレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることにつき、原告は、「序(はじめ)」においてプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)を入力することは、主人公であるプレイヤーに個性を持たせ、プレイヤーの本件ゲームソフトに対する感情移入度を高め、ゲームの進行状況に応じて呼ばれ方が変わってくる(「姓」君↓「名」君など)ため、プレイヤーにより高い現実性を与え、本件ゲームソフトに対する思い入れを深くするという意味があるため、主人公の名前とあだ名の決定はプレイヤーの自由に委ねるという本件ゲームソフトのストーリーの骨格にかかわる部分を改変している旨主張する。
しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトの「プレイステーション」版に適応するゲーム機「プレイステーション」には、メモリーカードの挿入口が設けられ、これに挿入するメモリーカード(記憶単位が1から15まで一五ブロックある)も同時に市販されているところ、本件ゲームソフトは高校三年間という舞台設定によりプレイ時間が非常に長くなるため、プレイヤーが一時プレイを中断したいとき、このメモリーカードを使用すれば、それまでプレイした結果のデータを保存(セーブ)し、後刻ないし後日プレイを再開する際、メモリーカードに保存されているデータをゲーム機で読み込む(ロード)ことにより、中断時の状況からプレイを続行することができることが認められる。したがって、既にプレイヤーの名前(姓・名・あだ名)が入力された状態でプレイを始める(再開する)ことは本件ゲームソフトの予定したところであり、そのプレイヤーの名前の入力を、プレイヤー自身によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするか、他人によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするかはプレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえず、更に、その他人によってデータの保存されたメモリーカードとして、本件メモリーカードのように市販されたものを使用することも、プレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえないから、本件メモリーカードのブロック1ないし11に収められているデータの使用によりプレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることによって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているということはできない。
(二) 前記2(二)のように、本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用すると、ゲームのスタート時点が高校の卒業(199831日)間際の1998222日(ブロック12)又は同月25日(ブロック13)に飛び、その時点において、九種類のパラメータが、ブロック12のデータでは、「伊集院レイ」の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系995、芸術998、運動998、雑学873、容姿849、根性973、ストレス0という形で与えられ、ブロック13のデータでは、「藤崎詩織」の「エンディング直前データ」として、体調999、文系998、理系998、芸術998、運動997、雑学894、容姿868、根性987、ストレス0という形で与えられ、しかも、画面上には表示されないのでプレイヤーには見えないが、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようにデータが収められており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるようになっていることにつき、原告は、右(一)冒頭の主張と同様の主張に加えて、これは、本来、本件ゲームソフトが最も魅力的なストーリーとして予定していた「高校三年間の間、デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素について、憧れの女生徒に必要な水準にまで達するように工夫をこらしてプレイする」という部分、つまり、プレイヤーにとって腕の見せどころであり、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーの骨格中の骨格ともいうべき最重要部分を完全に骨抜きに(省略)するものであり、まさに本件ゲームソフトが絶対許容しえないストーリーの改変に外ならないと主張する。
しかしながら、高校の卒業(199831日)間際の1998222日(ブロック12)又は同月25日(ブロック13)の時点において、憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けるために必要な項目である「デートの回数・中身、学校行事(テスト、体育祭、文化祭等)への取組みの中身、健康状態(ノイローゼや病気のチェック)、同伴下校やプレゼントの中身、他の女生徒の評価などの諸要素」について、一定の条件を満たすようなデータになっており、残りの一週間を適当にプレイすれば必ず憧れの女生徒(「伊集院レイ」又は「藤崎詩織」)から愛の告白を受けること(ハッピーエンディング)ができるというゲームの展開状況は、本件ゲームソフトが予定している多種多様のゲーム展開のうちの一つとして当然予定されているところといわざるをえず、かかる時点、状況におけるデータをメモリーカードに保存することも、そのようなハッピーエンディング直前のデータが既に入力された状態でプレイを始める(再開する)ことも本件ゲームソフトの当然予定したところであり、そのハッピーエンディング直前のデータの入力を、プレイヤー自身によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするか、他人によってメモリーカードに保存されたデータを読み込むことによってするかはプレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえず、更に、その他人によってデータの保存されたメモリーカードとして、本件メモリーカードのように市販されたものを使用することも、プレイヤー自身の選択に委ねられているといわざるをえないから、本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータを使用するとハッピーエンディング直前データが与えられることをもって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているということはできない(原告自身も、本件ゲームソフトの解説書において、「エンディングを一度見た後も楽しみたいなら、システムファイルの保存をお薦めします。」と記載して、メモリーカードに保存することにより、高校三年間のゲームをプレイすることなくハッピーエンディングのみを繰り返して楽しむ方法を明記しており、そのような本件ゲームソフトの使用の仕方を許容していることが明らかである)。
なお、本件メモリーカードのブロック12、13に収められているデータの使用によりプレイヤーの名前が「とき メモ」、あだ名が「コナミ」として既に設定されていることによって、本件ゲームソフトのストーリーを改変しているといえないことは、前記(一)末尾説示のとおりである。
4 以上のとおりであるから、本件メモリーカードは、本件ゲームソフトの映画の著作物としてのストーリーを改変し、同一性保持権を侵害するものであるとはいえない。
したがって、右同一性保持権侵害の不法行為を理由として損害の賠償及び謝罪広告の掲載を求める請求は、争点二について検討するまでもなく、理由がないといわなければならない。
二 争点三(被告が同一性保持権、複製権侵害の不法行為責任を負う場合に、原告に対して賠償すべき損害の額等)について
本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンは、本件ゲームソフトにおける「藤崎詩織」という人物の容ぼうを創作的に表現した著作物というべきところ、本件メモリーカードに保存されている「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンは、右の本件ゲームソフト用に作成された「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンと同一であることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告は、「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンの使用について原告の許諾を得たものでないことを知りながら、1995五年(平成7年)1219日に400個、1996年(平成8年)118日に300個の本件メモリーカードを輸入し、これを販売したものと認められるか
ら、被告は、著作権法11311号・2号により、原告の有する複製権を侵害したものとみなされ、原告に対して損害賠償責任を負うものといわなければならない。
そして、証拠によれば、本件メモリーカードの販売価格は一個当たり2980円であることが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、本件ゲームソフトのキャラクターを他社が使用することを原告が許諾する場合、その使用料は通常複製物一個当たり商品価格の7%であることが認められるから、被告は、原告に対して、使用料相当額の損害金として、原告の請求する合計146000円(2980円×7%×700個)を支払うべき義務があるというべきである。
第六 結論
よって、原告の請求は、複製権侵害の不法行為に基づき金146000円の賠償を求める範囲で認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する。