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著作権判例セレクション
法16条の趣旨
▶平成16年5月21日東京地方裁判所[平成13(ワ)8592] ▶平成17年8月30日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10009等]
1 争点(1)(被告の同時再送信するテレビ番組は映画の著作物であって,原告らは著作権等の主張をすることができないものであり,本件A契約は錯誤により無効か)について
(1) 被告は,被告が同時再送信するテレビ番組は,映画の著作物であるから,その著作者となり得るのは,製作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に寄与した者,具体的にはテレビ番組の番組製作者のみであるから,原告らはテレビ番組について著作者として権利を行使し得る立場にないにもかかわらず,テレビ番組の同時再送信について権利を留保しているかのように被告を誤信させて本件A契約を締結させた旨主張する。
(2) しかしながら,被告の上記主張を採用することはできない。その理由は次のとおりである。
まず,著作権法2条3項において,同法において保護される「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとされているところ,同規定によれば,物に固定されていないような表現は,視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現されているものであっても,同法において保護される「映画の著作物」には該当しないこととなると解される。
被告が同時再送信するテレビ番組は,テレビドラマのように録画用の媒体に固定され,しかる後に放送される番組もあるが,生放送番組のように媒体に固定されずに放送される番組もあることは当裁判所に顕著である。このような,媒体に固定されずに放送されるテレビ番組は上記の「映画の著作物」に該当しないものと解されるところであって,およそテレビ番組はすべて「映画の著作物」に該当することを前提とする被告の主張を採用することはできない。
仮にこの点を措くとしても,著作権法16条においては,映画の著作物の著作者は,「その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き」映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする旨規定されているところ,同規定の趣旨は,映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者(いわゆるクラシカル・オーサー)については,映画の著作物の著作者とは別個に映画の著作物について権利行使することができることをいうものと解される。したがって,被告が同時再送信するテレビ番組の中に映画の著作物に該当するものがあったとしても,本件原告ら5団体のうち,少なくとも,原告日脚連,原告シナリオ作家協会,原告音楽著作権協会及び脱退原告(原告日脚連ら4団体)については,クラシカル・オーサーとして,テレビ番組の著作者とは別個にテレビ番組について権利行使を行うことが可能なのであって,上記原告らがテレビ番組の著作者と別個に被告の行う同時再送信について権利行使することができないとする被告の主張を採用することはできない。
被告は,上記のような解釈は,テレビ番組に関する権利関係をいたずらに複雑化し,放送コンテンツの利用に不当に制約を加えるものであって妥当でない旨主張するが,著作権法16条が明文をもって,映画の著作物の著作者とは別に原著作物の著作者が存在することを認めている以上,被告の主張するように原著作物の著作者が権利行使できないと解釈することは困難である。
以上のとおりであって,被告の同時再送信するテレビ番組は映画の著作物であるから被告の行う同時再送信に原告らが著作権を行使することはできないという点を前提として,本件A契約の詐欺取消あるいは錯誤無効を主張する被告の主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。
(3) よって,被告の上記主張は理由がない。
[控訴審同旨]
法16条の趣旨
(2) 原告らは著作権,著作隣接権の主張をなし得ないか
被告らは,著作権法16条の趣旨は,映画の著作物に関しては,小説,脚本,音楽などの著作者を著作権法28条の原著作者と認めないとしたものと解すべきであり,映画の著作物であるテレビ番組の同時再送信に関し,原告らは,そもそも著作権,著作隣接権の主張をなし得る立場にないと主張する。
しかし,著作権法16条本文は,「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」と規定しているところ,同規定の趣旨は,映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者(いわゆるクラシカル・オーサー)については,映画の著作物の著作者とは別個に映画の著作物について権利行使することができることをいうものと解すべきである。したがって,被告らが同時再送信するテレビ番組の中に映画の著作物に該当するものがあったとしても,当該映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者は,クラシカル・オーサーとして,テレビ番組の著作者とは別に,テレビ番組について権利行使を行うことができるというべきであるから,被告らの上記主張は誤りというほかない。被告らは,仮に,映画の著作物について著作権法28条の適用が認められても,原著作者の有する権利は,著作者人格権にとどまるとも主張するが,原著作者がクラシカル・オーサーとして権利行使できることは上記のとおりであり,理由がない。
また,被告らは,音楽の著作物や脚本は,テレビ番組の原著作物とはなり得ないとも主張する。しかし,テレビ番組において,音楽の著作物や脚本が使用され,これらが「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文学,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)に該当する場合,テレビ番組の原著作物とならない理由はない。
したがって,被告らの上記主張は,いずれも採用できない。
[類似事案]▶平成16年5月21日東京地方裁判所[平成13(ワ)20747等]▶平成17年8月30日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10012]
[控訴審]
4 被控訴人らの抗弁(2)(映画の著作物であることによる著作権行使の制限)について
(1) 被控訴人らは,テレビ番組はすべて「映画の著作物」に該当するとして,テレビ番組の構成要素である音楽の著作物の著作権者が公衆送信禁止権や使用料等請求権を行使することはできない旨主張する。
しかし,著作権法16条本文は,「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」と規定しているところ,同規定の趣旨は,映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者(いわゆるクラシカル・オーサー)については,映画の著作物の著作者とは別個に映画の著作物について権利行使することができることをいうものと解すべきである。したがって,被控訴人らが同時再送信するテレビ番組の中に映画の著作物に該当するものがあったとしても,当該映画の著作物において翻案され,又は複製された著作物の著作者は,クラシカル・オーサーとして,テレビ番組の著作者とは別に,著作権者としての権利行使を行うことができるというべきであるから,被控訴人らの上記主張は失当というほかない。
(2) 被控訴人らは,最高裁キャンディ事件判決の趣旨に照らすならば,映画の著作物たるテレビ番組について,控訴人は,他の権利者との合意によらなければ著作権を行使することができず,そもそも被控訴人らに対して著作権の主張をなし得る立場にないから,被控訴人らは,放送番組を有線放送するに対して,控訴人から許諾を得る必要はないと主張する。
しかし,上記判決は,二次的著作物の著作者による当該二次的著作物の複製行為に関し,原著作物の著作者は,当該二次的著作物を合意によることなく利用することの差止めを求めることができる旨を明らかにしたものであり,二次的著作物の原著作物の著作者が単独で第三者に許諾権限を行使することができない旨をいうものではない。したがって,被控訴人らの上記主張も,失当というほかない。