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著作権判例セレクション

公衆送信権の意義(放送事業者が行う放送の同時再送信が問題となった事例)

▶平成16521日東京地方裁判所[平成13()8592] ▶平成17830日知的財産高等裁判所[平成17()10009]
2 争点(2)(被告による同時再送信は,原告ら5団体が放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれているものであって,被告は改めて許諾を得る必要はなく,本件各契約は錯誤無効か)について
 (1) 被告は,被告が行う放送の同時再送信は,放送事業者が行う放送の単なる中継行為と変わらないものである上,難視聴解消という公益目的も有するものであるから,放送事業者に対して許諾した放送での使用の範囲内に含まれているものであって,被告は放送の同時再送信について原告ら5団体から放送事業者とは別に許諾を得る必要なく,それにもかかわらず,原告ら5団体に許諾権限があるかのように被告を誤信させて締結させた本件各契約は詐欺あるいは錯誤に当たると主張する。
 (2) しかしながら,被告の上記主張を採用することはできない。その理由は次のとおりである。
著作権法上,放送も有線放送も公衆送信の1形態として位置付けられ,著作権者は放送事業者の行う放送及び有線放送事業者の行う有線放送とも,自己の専有する公衆送信権(著作権法23条1項)に基づき許諾するものであるけれども,放送事業者の行う放送と有線放送事業者の行う有線放送とは,送信の主体が異なるだけでなく,著作権法上別個の公衆送信と位置付けられていること(著作権法2条1項8号,9号の2,63条4項参照)に加えて,現実の送信の態様も大きく異なるものであるから,放送事業者に対する放送の許諾の際に,有線放送事業者に対する有線放送の再許諾権限を放送事業者に対して付与していたと認められる特段の事情がある場合を除き,放送事業者に対する放送の許諾によって,有線放送事業者の行う有線放送までを許諾したということはできないというべきである。
この点につき,被告は,著作権者において放送事業者が放送に著作物を使用することついて許諾をした場合,当該放送事業者の業務区域内で視聴者がテレビ番組を視聴することは当然想定した上で許諾しているものであるところ,このことに,有線放送事業者の同時再送信は,社会通念上放送事業者の放送として扱われており,同時再送信の効果も放送事業者に帰属すること,放送事業者自らが有線放送したり,下請け会社に有線放送させたりした場合と実態が異ならないことを併せ考慮すれば,同時再送信は,新たな著作物の使用ではなく,放送事業者に対する著作物の使用の許諾があった場合には,著作権法上有線放送による同時再送信の使用の範囲内であると主張する。
しかしながら,上記のとおり,放送事業者の行う放送と有線放送事業者の行う有線放送とは,送信の主体が異なるだけでなく,著作権法上別個の公衆送信と位置付けられていること,現実の送信の態様も大きく異なるものであること等の事情に加え,著作権法38条2項において非営利の同時再送信について著作権が制限されることを規定している趣旨に鑑みれば,有線放送事業者が行う同時再送信については,著作権法上,放送事業者の行う放送とは独立して公衆送信権の侵害となると解さざるを得ない。
被告は,テレビ番組の原著作物の著作権者に,放送事業者による放送の段階と有線放送事業者による同時再送信の段階の2回にわたる権利行使を認めるならば,実質的に著作物使用料の「二重取り」を許すことになり不当であると主張する。しかしながら,上記のとおり,著作権法が,放送と有線放送について,同時に行われるものであっても,別個の公衆送信と位置付けている以上,双方に対して別個に権利行使すること自体を不当ということは到底できないのであって,被告の上記主張を採用することはできない。
したがって,上記のとおり,テレビ番組の原著作物の著作権者において,放送事業者に対する放送の許諾の際に,有線放送事業者に対する有線放送の再許諾権限を放送事業者に対して付与していたと認められる特段の事情がある場合を除き,放送事業者に対する放送の許諾によって,有線放送事業者の行う有線放送までを許諾したということはできないと解すべきところ,本件においては,本件全証拠によっても,放送事業者に対する放送の許諾の際に有線放送事業者の行う同時再送信の再許諾権限まで与えていたものと認めることはできない。
(3) 以上のとおりであるから,被告は放送の同時再送信について原告ら5団体から放送事業者とは別に許諾を得る必要ない旨の主張を前提とする上記被告の詐欺あるいは錯誤の主張はいずれも理由がない。

[控訴審同旨]
(3) 被告らは著作物の使用に関し原告らの許諾を得る必要はないか
 被告らは,①有線放送事業者による放送の同時再送信は,有線放送事業者による放送の履行補助行為であって,著作物の新たな利用には当たらないし,②原告ら5団体も同時再送信を前提に放送事業者に許諾しているから,放送の同時再送信は原告らが放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれ,被告らは,原告ら5団体から改めて許諾を得る必要はない等と主張する。
ア まず,上記①の点について検討すると,放送及び有線放送は,著作権法2条1項8号,9号の2により各別の公衆送信として位置付けられ,また,送信の主体も異なることに加えて,現実の送信の態様も異なるものであるから,有線放送事業者による放送の同時再送信は,放送事業者による放送とは別の公衆送信であり,これを有線放送事業者による放送の履行補助行為であるということはできない。
被告らは,有線放送事業者による放送の同時再送信は著作物の新たな利用には当たらない理由として,一般視聴者は,無線アンテナの代替物として有線ケーブルを利用し同時再送信の形で視聴するのであり,無線放送と有線放送を二重に視聴するわけではないこと,有テレ法17条によれば,有テレ法は,同時再送信を有線放送事業者における本来の意味での有線放送(自主放送)として扱っておらず,同時再送信は,放送事業者の編集の権利義務に基づく1個の公衆送信であること,原告らは,放送事業者に対し,番組の放送を許諾しており,同時再送信は,原告らの上記許諾の範囲内に含まれること,等を挙げる。しかし,一般視聴者が無線放送と有線放送を二重に視聴する例が極めて少ないとしても,有線放送事業者による放送の同時再送信が放送事業者による放送とは別の公衆送信であることは上記のとおりである。また,有テレ法は,「有線テレビジョン放送の施設の設置及び業務の運営を適正ならしめることによって,有線テレビジョン放送の受信者の利益を保護するとともに,有線テレビジョン放送の健全な発達を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする」(同法1条)法律であり,原告が挙げる同法17条括弧書きが「放送事業者のテレビジョン放送又はテレビジョン多重放送を受信し,そのすべての放送番組に変更を加えないで同時にこれを再送信する有線テレビジョン放送を除く」として,有線テレビジョン放送による同時再送信について放送法3条(放送番組編集の自由)等の準用を除外したのは,上記括弧書きの規定する同時再送信においては,有線テレビジョン放送事業者による編集等が行われないため,編集の自由等に関する放送法の規定を準用する必要がないからであると解され,同法は著作権法に基づく権利行使を規律するものではないから,同法の規定を根拠に有線放送事業者による放送の同時再送信は著作物の新たな利用には当たらないということはできない。さらに,放送事業者に対する放送の許諾の際に,有線放送事業者に対する有線放送の再許諾権限を放送事業者に対して付与していたと認められる特段の事情がある場合を除き,放送事業者に対する放送の許諾によって,有線放送事業者の行う有線放送までを許諾したとものと認めることはできないというべきであるところ,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
イ 次に,上記②の点については,原告ら5団体が同時再送信を前提に放送事業者に許諾しているとの事実を認めるに足りる的確な証拠はなく,有線放送事業者による放送の同時再送信が原告らが放送事業者に対して許諾した著作物の使用の範囲に含まれるということはできない。
ウ したがって,被告らの上記主張は,いずれも採用できない。