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著作権判例セレクション
【映画著作物】ライブ映像を収録したDVDの映画著作物性を認定した事例/法114条1項の意義
▶平成23年10月31日東京地方裁判所[平成21(ワ)31190]
(注) 本件は,ロックバンドのライブ等を収録したビデオ及びDVDの映画の著作物3点について,内2点の著作権を有する原告Xと,内1点の著作権及び著作者人格権を有すると主張する原告Yが,被告に対し,被告が各原告の許諾を得ずに上記著作物を複製・頒布し,もって各原告の著作権(複製権,頒布権,著作権法21条,26条)を侵害したと主張するとともに,Yについては,予備的に著作者人格権(公表権,同法18条)を侵害したと主張して,損害賠償請求として,所定の金員の支払を求めた事案である。
1 争点(1) Xについて (1)-1 著作物1の著作権(複製権・頒布権)侵害の成否について
(1)
前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によると,被告は,平成20年6月4日ころから同年7月30日ころまでの間,インターネットを通じて,不特定人に対し,著作物1を7本販売したこと,被告は,被告作成の同年10月6日付け「お詫び状」において,著作物1である「COOLS」のクリスマスライブビデオについて,「当方がビデオの複製(無許可)…販売し…」と記載し,著作権者であるXの許諾を得ることなく複製して販売したことを認めていたことがそれぞれ認められる。
したがって,被告は,著作物1について,著作権者であるXの許諾を得ることなく複製・頒布したものであり,同原告の著作権(複製権・頒布権)を侵害したと認めるのが相当である。
(2)
被告は,自ら販売した著作物1のビデオは正規品であり,10本セットで購入したと主張するが,裏付けとなる客観的な証拠は提出されていないから,被告の上記主張を採用することはできない。被告は,上記書面で無断複製等を認めたのは,著作物2であるとするが,同書面には,「ビデオの複製(無許可)…販売」,「クールス・クリスマスビデオ…販売数7本 売上げ31,460円」等と記載されていることからすると,被告の上記主張をにわかに信用することもできない。
2 争点(1) Xについて (1)-2 著作物1の著作権(複製権・頒布権)侵害についての故意過失について
(1)
前提となる事実及び認定事実に加え,証拠び弁論の全趣旨によると,被告は,著作物1について,著作権者であるXの許諾を得ることなく複製・頒布したことが認められるから,被告には,同原告の著作権を侵害することについて,少なくとも過失があったと認めるのが相当である。
(2)
被告は,故意過失を争い,陳述書において,平成19年1月,Xの経営する店舗の姉妹店(札幌)で行われた開店パーティの際,店長の依頼を受けてCD/DVDを複製し販売したことがあり,同所にはXも参加していた旨を記載するが,かかる事実をもって,被告において,著作権者の許諾を得るべく注意を尽くしたということはできないから,被告の上記主張を採用することはできない。
3 争点(1) Xについて (1)-3 著作物1・2の著作権(複製権・頒布権)侵害等による損害について
(1)
前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によると,Xは,東京都江東区所在の実店舗及びインタネット・ショップにおいて「CHOPPER」という店を経営し,改造オートバイやその部品などを販売するほか,「COOLS」関連商品であるポスター,Tシャツ,帽子,COOLSのコンサートライブ映像を収録したビデオ・CD・DVD等や,自らオートバイに乗っている映像を収録したDVD「チョッパー
オリジナルDVD」等を販売していること,「COOLS」関連商品である著作物1の定価は1本当たり4000円であり,著作物2の定価は1枚当たり3500円であることがそれぞれ認められる。そして,上記販売形態においては,変動費が多額のものとはならないことが窺われることや,同原告は,著作物1・2の製造原価が単位数量当たり400円を超えない旨を主張していること等に照らすと,被告による著作物1・2の著作権(複製権・頒布権)侵害により原告が被った損害(著作権法114条1項)は,著作物1について2万5200円(=3600円×7本),著作物2について42万4700円(=3100円×137枚)と認めるのが相当である。
(2)
Xは,被告による著作物1・2の著作権(複製権・頒布権)侵害に基づく精神的損害を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
(3)
Xは,被告の不誠実な対応等により精神的苦痛を被った旨を主張し,これと同旨の陳述書を提出するが,前提となる事実のとおり,被告は,原告らによる警告等に対して「お詫び状」を提出するなどして対応してきたものであり,平成20年7月26日付け「お詫び状」の提出と概ね同時期である同月30日より後には,複製品の頒布を行っていた事実が認められないこと等からすると,同原告において,被告の対応が不適切・不十分と感じる点があったとしても,被告の対応等を違法と認めるには足りず,同原告の主張する精神的損害についても,これを認めるに足りる証拠はない。
4 争点(2) Yについて (2)-1 著作物3の著作物性,著作権(複製権・頒布権)・著作者人格権(公表権)の帰属について
(1)
著作物3の著作物性(創作性)について
ア 前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によると,著作物3は,「THE
MACKSHOW」の活動初期のライブの映像を収録したDVDであり,Yの発意・方針に基づき,関係者への配布を目的として製作されたこと,映像は,ライブハウスに設置された固定カメラにより撮影されているが,同カメラは,ステージ全体を捉えることのできる位置及び角度に設置されており,ステージ全体を正面から撮影したり,ステージ上の人物の移動に合わせて左右に角度を変えて撮影したり,望遠によりステージ上の人物を中心に撮影することができるものであること,著作物3は,上記バンドがライブにおいて楽曲を演奏する様子を撮影したライブ全体の映像で構成され,ライブの進行に応じて,ステージ全体を正面から撮影したり,特定のメンバーを中心に撮影したり,メンバーのステージ上の移動に伴いカメラの角度を変えて撮影するなどした映像から成っていること,著作物3の映像には,ライブの臨場感を損なわないため,特段の編集作業を施していないことがそれぞれ認められる。
したがって,著作物3の映像は,上記バンドのライブにおける演奏の様子が記録され,カメラワークや編集方針により,ライブ全体の流れやその臨場感が忠実に表現されたものとなっており,著作者であるYの個性が現れているということができるから,著作物性(創作性)を認めるのが相当である。
イ 被告は,著作物3のカメラワーク等から,その著作物性(創作性)を争うが,上記のとおり,著作物3は,ライブの進行に応じた撮影を行っていることからすると,著作者の個性が表現されているということができる。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
(2)
著作物3の著作権(複製権,頒布権)・著作者人格権(公表権)の帰属
上記のとおり,著作物3は,「THE MACKSHOW」のリーダーであるYの発意及び編集方針に基づき製作されたものであり,同原告が主体的に製作を指揮し,その創作的な表現を具現化したものであるから,著作物3の著作者は同原告であり(著作権法16条),その著作権(複製権,頒布権)・著作者人格権(公表権)は,同原告に帰属すると認めるのが相当である(同法18条,21条,26条)。
5 争点(2)-2 著作物3の著作権(複製権・頒布権)侵害の成否について-
前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によると,被告は,Yの許諾を得ることなく,著作物性(創作性)の認められる著作物3を複製し,平成19年1月5日ころから平成20年6月15日ころまでの間,インターネットを通じて,不特定人に対し,上記複製物であるDVD63枚をポマードの景品として頒布したことがそれぞれ認められる。
したがって,被告は,著作物3について,著作権者であるYの許諾を得ることなく複製・頒布したものであり,同原告の著作権(複製権・頒布権)を侵害したと認めるのが相当である。
6 争点(2)-3 著作物3の著作者人格権(公表権)侵害の成否について
Yは,著作物3は,ロックバンドのライブ映像を収録したDVDの映画の著作物であるところ,ライブハウスの関係者のみに配布する趣旨で提供され,ファン等の一般向けに相当部数が提供されたものではないから,未公表の著作物に該当し,被告が,著作者人格権者である同原告の許諾を得ることなく,著作物3を複製し不特定人に頒布することにより,公衆に提供したことは,同原告の公表権(著作権法18条)を侵害すると主張する。
そこで,検討するに,著作権法18条は,「著作者は,その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。・・・)を公衆に提供し,又は提示する権利を有する」と定めている。他方,著作物は,発行された場合において「公表」されたものとされ(同法4条1項),著作物の「発行」については,著作物の性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が,複製権(同法21条)を有する者によって作成され頒布された場合において,「発行」されたものとされる(同法3条1項)。
著作物3については,著作者であるYが複製頒布したものであるから,複製権者が著作者の同意を得て複製頒布したものであり,その複製頒布がその性質に応じ公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数に達している限り,公表されたものといえることになる。
前提となる事実のとおり,著作物3は,同原告が,被告による頒布行為の前に,ライブハウスの関係者にのみ記念として配布する趣旨で,同関係者らに複製頒布したものであり,その数量は少数であることが窺われるが,本件の著作物3のようなDVDに収録された「映画の著作物」については,作成頒布された複製物の数量が少数であったとしても,著作物の性質上,かかる場合においても,公衆の要求を満たすことができる相当程度の部数の複製物が複製頒布されたものと認められるから,同原告は,被告による頒布行為以前に,当該著作物を公表したと解するのが相当である。
したがって,著作物3について,被告が,同原告の許諾を得ることなく,著作物3を複製し不特定人に頒布したとしても,同原告の著作者人格権(公表権,同法18条)の侵害は成立しない。
7 争点(2)-4 著作物3の著作権(複製権・頒布権)侵害についての故意過失について
(1)
著作物3の著作権(複製権・頒布権)については,前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によると,被告は,著作物3について,著作権者であるYの許諾を得ることなく複製・頒布したことが認められるから,被告には,同原告の著作権を侵害することについて,少なくとも過失があったと認めるのが相当である。
(2)
被告は,故意過失を争うが,特段,具体的な主張や証拠を提出していないから,被告の上記主張を採用することはできない。
8 争点(2)-5 著作物3の著作権(複製権・頒布権)侵害等による損害について
(1)
前提となる事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によると,Yは,著作物3については,ライブハウス関係者にのみ記念として配布する目的で複製頒布したものであり,販売していないことが認められるから,著作物3の著作権侵害による損害額の算定においては,著作権法114条1項による推定の前提を欠くというべきであり,同条項を適用することはできない。
(2)
前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によると,Yは,「THE
MACKSHOW」関連商品であるDVD等については,大手製作会社の関与しない方法により製作しており,従前販売してきたDVDの価格は,3800円~5000円(平均価格4153円)であること,著作物の利用に関しては,使用料率は概ね13~15%であることが窺われる
ことがそれぞれ認められるから,被告による著作物3の著作権(複製権・頒布権)侵害により原告が被った損害(著作権法114条3項)は,3万4013円(=4153円×13%×63枚)と認めるのが相当である。
同原告は,使用料率は60%を基準に算定すべきであると主張し,流通業者との間の取引に関する資料を提出して,流通業者に販売委託する場合は,税抜き小売価格の60%相当額及び手数料を控除した金額の入金を受けることを主張するが,かかる入金額は,同原告の流通業者に対する販売の売上と解されることからすると,上記率を基準として,著作権の使用料を算定することはできないというべきである。したがって,同原告の上記主張を採用することはできない。
(3)
Yは,被告による著作物3の著作権(複製権・頒布権)侵害による損害として,北海道地区の公演を中止したことによる逸失利益を主張するが,公演の中止は,被告の行為が契機になった可能性はあるものの,同原告の判断によるものであり,同公演についても,被告を参加させない等により対応することが可能であったと考えられることからすると,同原告に上記逸失利益の損害があったとしても,被告の行為との間に相当因果関係を認めることはできず,その他,これを認めるに足りる証拠はない。
(4)
Yは,被告による著作物3の著作権(複製権・頒布権)侵害に基づく精神的損害を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。
(5)
Yは,被告の不誠実な対応等により精神的苦痛を被った旨を主張し,これと同旨の陳述書を提出するが,前提となる事実及び第3,3(3)のとおり,被告は,原告らによる警告等に対して「お詫び状」提出するなどして対応してきたものであり,平成20年7月26日付け「お詫び状」の提出後においては,著作物3の複製品の頒布を行った事実が認められないこと等からすると,同原告において,被告の対応等が不適切・不十分と感じる点があったとしても,違法と認めるには足りず,同原告の主張する精神的損害についても,これを認めるに足りる証拠はない。