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著作権判例セレクション

【編集著作物】図表(棒グラフ,折れ線グラフ,一覧表,円グラフ)の編集著作物性及び侵害性を否定した事例

▶平成220225日東京地方裁判所[平成20()32147]
() 本件は,別紙記載の原告図表1ないし12について著作権を有すると主張する原告が,被告の発行する書籍「最新 通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本 (「被告書籍」)に原告に無断で上記図表の全部又は一部が掲載されており,原告の著作権(複製権)が侵害されていると主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。
1 争点1(原告図表は編集著作物か)について
(1) 原告は,原告図表は編集著作物であると主張する。著作権法12条1項は,編集著作物について,「編集物・・・でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,著作物として保護する。」と規定している。
そこで,原告図表が素材の選択又は配列によって創作性を有すると認められるか否かについて,以下検討する。
ア 原告図表1について
原告図表1は,通販市場について,その過去25年間(1983年度から2007年度まで)における各年度の売上高及びその前年比増減率という素材を選択し,各年度の売上高については棒グラフで,各年度の売上高の増減率については折れ線グラフで,それぞれ表し,両グラフを組み合わせて配列したものである。
原告は,同図表によって,日本の通販業界の現状,すなわち,日本の通販市場が,一時的な落ち込みはあったものの,この25年間で6.3倍に成長し,4兆円の市場規模が目前にあることを一目で把握することができるので,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,証拠によれば,通販・通教業界における年次ごとの経済動向を一覧性を持たせて分かりやすく説明するために,一定の期間を定めて,同業界における年度ごとの売上高や,その増減率を集計して,これを一覧表にしたり ,売上高の推移を棒グラフで表したり,売上高の増減率の推移を折れ線グラフで表し,同期間における売上高の推移を表すグラフと組み合わせたりすることなどは,原告図表1が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたことであり,ありふれたものであったことが認められる。
したがって,原告図表1が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
イ 原告図表2について
原告図表2は,テレマーケティング業界に属する企業について,2006年度の売上高の上位1位から5位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」,「売上高の前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し,売上高に従い上記5社に順位を付して縦一列に並べ,売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,売上高の増減率は,各企業の成長の可能性及びこの業態そのものの成長の可能性を探ることのできるものであり,同図表によって,通販業界の周辺産業の重要な一角を担うテレマーケティング業界も順調に成長し,最大手には1000億円規模の売上高を誇る企業も誕生していることや,これを追う有力企業も成長していることを読み取ることができるので,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,証拠によれば,通販・通教業界に限らず,特定の業界に属する個別企業や当該業界全体の特定の年度における経済動向を,一覧性を持たせて分かりやすく説明するために,当該年度における当該業界に属する各企業の「売上高」,「売上高の前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し,売上高に応じて各企業に順位を付し,売上高の大きいものから順に上位数十社ないし百数十社を縦一列に並べ,各社の売上高欄の右横に,「売上高の前年比増減率」欄及び 決算月」欄を順次並べて配列するという方法は,平成10年から平成19年まで日本流通産業新聞に毎年同様の図表が掲載されるなど,原告図表2が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたことであり,ありふれたものであったと認められる。
また,証拠及び弁論の全趣旨によれば,通販業界では,商品の受注,勧誘,消費者からの問合せ及び苦情対応等に電話が用いられることが多く,通販・通教会社の中には,これらの業務(テレマーケティング)を別会社に委託している企業も少なくないのであって,テレマーケティング業界は,通販業界の周辺産業の一角を担う重要な産業であることが認められる。そうすると,ある特定の年度における特定の業界の経済動向を分析するための対象として,このように重要な産業であるテレマーケティング業界という素材を選択したことも,ありふれたものであったと認められる。
よって,原告図表2が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
ウ 原告図表3について
原告図表3は,テレビ通販(テレビを媒体に用いた通販)を行っている企業について,2006年度の売上高の上位1位から30位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」,「売上高の前年比増減率」及び「決算期」という素材を選択し,売上高に従い上記30社に順位を付して縦一列に並べ,売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,同図表によって,販売ツールとしてテレビを用いた通販企業の実力度(売上高)を,その成長力,将来性を含めて容易に読み取ることができ,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,特定の業界における特定の年度の経済動向を説明するに際して,当該年度における当該業界に属する各企業の「売上高」,「売上高の前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し,売上高に応じて各企業に順位を付し,売上高の大きいものから順に配列するという方法が,原告図表3が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたものであることについては,上記イのとおりである。
また,証拠によれば,テレビは,カタログやインターネットなどと並ぶ,通販の主要な媒体であり,通販業を営んでいる会社を,その用いている媒体によって分類するに当たり,テレビ通販(テレビショッピング)という部門を設けることは,原告図表3が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことであることが認められるから,ありふれたものであったということができる。
したがって,原告図表3が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
エ 原告図表4について
原告図表4は,健康食品の通販を行っている企業について,2006年度の売上高の上位1位から50位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」,「売上高の前年比増減率」,「翌年度の売上高の予想額」,「売上高予想額の本年比増減率」,「本社の所在地」,「決算月」及び「主力商材(主力商品)」という素材を選択し,売上高に従い上記50社に順位を付して縦一列に並べ,売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,同図表は,健康食品の通販市場における勢力図の俯瞰図ともいうべき内容を有しており,健康食品を扱う通販企業の上位50社の売上規模及び成長要因を,商材との関係で一目で読み取ることができ,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,前記イのとおり,特定の業界に属する個別企業や当該業界全体の特定年度における経済動向を分かりやすく説明するために,各企業の「売上高」,「売上高の前年比増減率」及び「決算月」という素材を選択し,売上高に応じて各企業に順位を付し,売上高の大きいものから順に配列するという方法は,原告図表4が通販新聞に掲載される以前から一般的に行われていたことである。
また,前掲イの証拠によれば,上記順位表を作成するに際して,「売上高の前年比増減率」及び「決算月」というデータに加えて,企業の今後の経済動向を予測する際の指標の一つである「翌年度の売上高の予想額(見込額)」及び「同予想額の本年比増減率」というデータや,通販会社の基本的な情報として一般的に関心のある「本社所在地」,「主力商材(主力商品)」及び「主力業態(媒体)」というデータを並記するという方法も,同様の表が日本流通産業新聞に毎年掲載されるなど,原告図表4が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことであると認められる。
さらに,証拠によれば,健康食品は,化粧品などと並ぶ,通販事業における主要な商品であり,通販各社をその販売商品によって分類するに当たって,健康食品という部門を設けることは,原告図表4が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことであると認められる。
したがって,原告図表4が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない(なお,被告図表4において使用されたのは,原告図表4のうち,売上高上位30社の順位,社名及び売上高を記載した部分にすぎず,同部分に創作性を認めることができないことは,上に述べたとおりである。)。
オ 原告図表5について
原告図表5は,化粧品の通販を行っている企業について,2006年度の売上高の上位1位から40位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」,「売上高の前年比増減率」,「決算月」及び「主力商材/ブランド・商品名」という素材を選択し,売上高に従い上記40社に順位を付して縦一列に並べ,売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,同図表により,化粧品を扱う通販企業の上位40社について,その実力度(売上高及びその増減率)をその背景にある主力商材との関連で読み取ることができるので,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,被告図表5において使用されたのは,原告図表5のうち,売上高上位30社の順位,社名,及び売上高を記載した部分である。前記イのとおり,特定の業界に属する企業について,売上高によって上位数十社を選択し,これを売上高に従って順位を付けて縦一列に並べ,その右横に「売上高」を並記して一覧表にするということは,原告図表5が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことである。
また,証拠によれば,化粧品は,健康食品などと並ぶ,通販事業における主要な商品であり,通販各社をその販売商品によって分類するに当たって,化粧品という部門を設けることは,原告図表5が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことであると認められる。
よって,原告図表5のうち,被告図表5において用いられた社名,売上高及び順位を記載した部分が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
カ 原告図表6について
原告図表6は,通販・通教を実施している企業について,2006年10月期ないし2007年9月期の売上高の上位1位から40位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同期における「売上高」,「昨年の売上高に基づく順位」,「売上高の前年比増減率」,「今期の売上高の見込み」,「同見込額の本年比増減率」,「決算月」,「本社所在地」及び「業態/主力媒体/主力商品」という素材を選択し,売上高に従い上記40社に順位を付して縦一列に並べ,売上高欄の右横に上記「昨年の売上高に基づく順位」等のデータを並記する形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,同図表により我が国の上位通販企業の概要を一目瞭然に読み取ることができるので,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,通販・通教業界における特定の年度の経済動向を説明するに際して,当該年度における売上高の上位数十社を売上高に従い順位を付して縦一列に並べ,売上高欄の右横に,各社の「売上高の前年比増減率」,「今期の売上高の見込み」,「同見込額の本年比増減率」,「決算月」,「本社所在地」及び「業態/主力媒体/主力商品」などのデータを並記して一覧表とすることは,前記エのとおり,原告図表6が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことである。
また,前掲イの証拠によれば,売上高に基づく順位表を作成するに当たって,本年における順位の右横に昨年の順位を並記するという配列方法も,同様に一般的に行われていたものであると認められる。
したがって,原告図表6が素材の選択又は配列によって創作性を有するとは認められない(なお,被告図表6において使用されたのは,原告図表6のうち,売上高上位30社の順位,社名及び売上高を記載した部分にすぎず,同部分に創作性を認めることができないことは,上に述べたとおりである。)。
キ 原告図表7について
原告図表7は,食品の通販を行っている企業について,2006年度の売上高の上位1位から50位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「売上高」,「売上高の前年比増減率」,「今期の売上高の見込み」,「同見込額の本年比増減率」,「決算期」,「本社所在地」,「品目・媒体」及び「業態(食品通販売上高占有率)」という素材を選択し,売上高に従い上記50社に順位を付して縦一列に並べ,売上高欄の右横に上記「売上高の前年比増減率」等のデータを並記する形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,同図表は,食品通販を扱う企業に関する売上高等の情報を分かりやすくまとめたものであり,創作性を有すると主張する。
しかしながら,被告図表7において使用されたのは,原告図表7のうち,売上高上位30社の順位,社名及び売上高を記載した部分である。通販・通教業界における特定の年度の経済動向を説明するに際して,当該年度における売上高の上位数十社を売上高に従い順位を付して縦一列に並べ,その右横に「売上高」を並記して一覧表とすることは,前記イのとおり,原告図表7が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことである。
また,証拠によれば,食品は,化粧品などと並ぶ,通販事業における主要な商品であり,通販各社をその販売商品によって分類するに当たって,食品という部門を設けることも,原告図表7が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことであると認められる。
よって,原告図表7のうち,被告図表7において用いられた社名,売上高及び順位を記載した部分が素材の選択又は配列によって創作性を有するとは認められない。
ク 原告図表8について
原告図表8は,通販を業とする企業である千趣会及びニッセンについて,両社の「ネット売上高」,「モバイル売上高」及び「ネット会員数」に関する,「2007年実績」,「前年比増減率」及び「2008年見込み」という素材を選択し,千趣会における上記数値の右横に同項目におけるニッセンの数値を並べる形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,同図表は,ネット販売の好調な通販企業として千趣会及びニッセンを取り上げ,両社の2007年度の売上高を分析し,2008年度の見込みを原告独自の取材分析によって展望したものであり,読者に注目を浴びることの多い両社についての取材分析結果を分かりやすく提供しているものであって,創作性を有すると主張する。
しかしながら,「売上高」,「売上高の前年比増減率」及び「今後の売上げ見込み」のデータを並列して記載することはありふれたものにすぎないことは,既に述べたところから明らかである。
また,証拠によれば,千趣会及びニッセンは,いずれも,通販業界における老舗の企業で,売上高では常に同業界の上位にランクされ,その動向が業界内で注目されていること,両社は,カタログによる通販を主要な業態としていたが,近年は,ネット販売に力を入れており,ネット通販及びモバイルネット通販の売上高でも上位にランクされていることが認められることに照らすと,通販業界におけるネット販売が好調であることを示すために,主要な2社として千趣会及びニッセンを選択することは,ありふれたことであるということができる。
さらに,証拠によれば,①インターネット(ネット)は,通販の主要な媒体であり,ネットを媒体として用いる通販は,近年,大きく売上高を伸ばしていること,②モバイル(携帯電話)は,パソコンなどと並ぶ,ネット通販の有力なツールであり,モバイルを用いるネット通販の売上高も,近年,大きく増加していること,③そのため,通販各社の売上高をその媒体によって分類するに当たって,ネット売上高(ネット通販売上高)及びモバイル売上高(携帯ネット通販売上高)という項目を取り上げることは,原告図表8が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことを認めることができるから,これらの項目を取り上げたこともありふれたものであるというべきである。また,ネット販売が好調であることを示すために,「ネット会員数」という項目を取り上げ,会員数と前年比の増加数,及び今後の増加見込み人数の数値を並べて記載することも,ありふれたものである。
このように,原告図表8において,上記の素材の選択及び配列に原告の個性が表れていると認めることはできない。
したがって,原告図表8が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
ケ 原告図表9について
原告図表9は,ネット通販業界において2007年1月から12月までの間に発生した主な事件,事象という素材を選択し,これを時系列に沿って配列したものであり,ある特定の業界における特定の年度の主要なニュースについて,時系列に沿って月ごとに配列したというだけでは,作成者の個性を認めることはできず,ありふれたものであるといわざるを得ない。
原告は,同図表は,原告が,日常的に業界から入手した膨大な情報の中から,2007年のネット販売の動向として重要であると判断したものを取捨選択し,一覧表にまとめたものであり,かかる取捨選択及び記事とする際の文言の工夫は原告ならではのノウハウによっているものであるから,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,本件において,原告は,原告図表9記載の事件ないし事象の選択において,いかなる点に原告の思想又は感情が創作的に表現され,その個性が認められるかについて,具体的に主張しておらず,単に,原告において重要であると判断したものを取捨選択したと主張するにとどまっている上,記事の文言も,単に事件,事象を述べているにすぎず,誰が述べても同様の表現にならざるを得ないありふれたものである。
したがって,原告図表9が素材の選択又は配列によって創作性を有するとは認められない。
コ 原告図表10について
原告図表10は,通販・通教を実施している企業について,2006年度の上位1位から80位までの会社の企業名並びにこれらの会社の同年度における「経常利益」,「経常利益の前年比増減率」,「経常利益の対売上高比率」,「今期の経常利益(見込み額,前期比増減率,対売上高比率)」,「主要品目」及び「決算月」という素材を選択し,経常利益額に従い上記80社に順位を付して縦一列に並べ,その右横に,各社の「2005年度の経常利益額による順位」及び上記「経常利益」等のデータを並記する形で配列して,一覧表としたものである。
原告は,同図表により売上高経常利益率という視点から効率経営面で成果を上げている企業の実力度を読み取ることができることができるので,同図表は創作性を有すると主張する。
しかしながら,証拠によれば,①経常利益及びその対売上高比率(経常利益額を売上高で割った比率)は,企業の収益力を示す重要な指標として位置付けられており,経常利益額の多寡ないし対売上高比率の高低によって,企業の収益力が評価されることが一般的であること,②そのため,通販・通教業界に限らず,ある企業ないし当該企業の属する業界における特定の年度の経済動向を一覧性を持たせて分かりやすく説明するために,当該年度における当該業界に属する企業のうち経常利益額の上位数十社の企業名並びにこれらの会社の「経常利益(実績,増減率,対売上高比率)」及び「今期経常利益(見込み,増減率,対売上高比率)」という素材を選択し,上記数十社に順位を付して縦一列に並べ,その右横に,上記「経常利益」等のデータを順次並べて配列するという方法は,日本流通産業新聞にこれと同様の図表が掲載されるなど,原告図表10が通販新聞に掲載される以前から,一般的に行われていたことであると認められる。
また,前掲イの証拠によれば,「主要品目」及び「決算月」というデータは,当該年度における個別企業ないし当該企業の属する業界全体の経済動向を一覧性を持たせて分かりやすく説明するためにしばしば用いられるものであると認められる。したがって,経常利益額に基づく順位表を作成するに当たって,上記「経常利益」等のデータに加えて,各社の「主要品目」及び「決算月」というデータを並記するという配列方法に,作成者の個性が発揮されていると認めることはできない。
よって,原告図表10が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
サ 原告図表11について
原告図表11は,原告が主要な通販企業に対して実施した,「主要通販企業の値上げの現状」及び「主要通販企業の内容量縮小化の現状」に関するアンケート(いずれのアンケートも,アンケート対象企業が,(値上げないし内容量縮小化を 「した」,「しない」,「これから実施」,「検討」という4つの選択肢の中から一つを選択する方式のもの)の結果について,上記選択肢ごとの回答数及び回答しなかった企業の数を素材として選択し,この回答数等を,回答数等全体に占める割合に応じて円グラフとして配列したものである。
しかしながら,上記円グラフに記載された素材は,原告の実施したアンケートに対する選択肢ごとの回答数そのものにすぎず,かかる素材をそのまま選択することは,ありふれた選択方法である。
また,証拠によれば,複数の選択肢を用いる形式のアンケートについて,その結果を一覧性を持たせて分かりやすくするために,選択肢ごとの回答数が全回答数に占める割合に応じて円グラフにすることは,一般的に行われる方法であり,ありふれたものであると認められる。
したがって,原告図表11が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
シ 原告図表12について
原告図表12は,原告が通販業界に属する企業に対して実施した,「現在における最重要課題」についてのアンケート(アンケート対象企業が,「新規客の開拓」,「既存顧客の継続化」などの選択肢の中から,重視する順に上位3つを選んで回答する方式のもの)の結果について,各社が最重要の課題として選択した選択肢に関し,当該選択肢を選んだ企業の合計数を素材として選択し,この選択肢ごとの合計数が選択肢全体の合計数に占める割合に応じて,円グラフとして配列したものである。
しかしながら,複数の選択肢を用いる形式のアンケートについて,その結果を一覧性を持たせて分かりやすくするために,選択肢ごとの回答数が全回答数に占める割合に応じて円グラフにすることが,一般的に行われる方法であることについては,上記サのとおりである。
したがって,原告図表12が素材の選択又は配列によって創作性を有するということはできない。
(2) 原告は,原告図表は本件調査によって収集したデータないし原告が根拠ある推測をしたデータに基づき作成されたものであり,同データは原告独自の工夫と能力によってのみ収集し得るものであるから,編集著作物性の判断に当たっては,このような素材の収集に要した労力等も考慮すべきであると主張する。
しかしながら,著作権法により編集著作物として保護されるのは,著作権法12条1項に規定するとおり,編集物に具現された素材の選択又は配列における創作性であって,素材それ自体の価値や素材を収集するために費やした労力は,それ自体が著作権法によって保護されるものではない。
したがって,仮に,原告が本件調査のために相当の労力を費やし,本件調査によって得られた情報ないし原告において算定した各種の推測値に高い価値を認め得るとしても,そのことをもって原告図表の創作性の根拠とすることはできず,原告の上記主張を採用することはできない。
2 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。