Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【著作者の推定】 周知の変名に当たらないとして著作者の推定を認めなかった事例

▶令和328日東京地方裁判所[令和2()19976]
(1) 争点1-1(原告が本件著作物の著作者か)について
() 原告の陳述書には,原告は,「I」が創作した小説を原案に,同小説を漫画化することについて同人の許諾を得て,「H」の筆名を用いて本件著作物を創作したとの記載がある。
そこで,上記記載の信用性について検討すると,前記前提事実のとおり,原告は漫画家ないしイラストレータとして活動する個人であるところ,原告が株式会社ファンタジスタとの間で締結した電子書籍の配信利用に関する契約に係る合意書には,「Hこと」に続けて原告の氏名が記載された箇所があるほか,その当事者欄には「H」と原告の氏名及び住所とが併記されている。また,「A」は原告の姓の読み方を片仮名によって表記したものと一致するほか,「G」は「B」と読むことを連想させ得る数字の組み合わせである。さらに,本件著作物の表紙及び本文には,本件著作物のタイトル(「C」)と共に,「原作:I」,「漫画:H」との記載がある。また,本件著作物が電子書籍として販売されているウェブサイトには,「著者をフォロー」欄に「H」と記載されているほか,「H(著),I(著)」と記載されている。
以上によれば,原告が「H」の筆名を用いて本件著作物を創作した旨の上記の陳述書の記載は,他の証拠からも裏付けられており,信用することができる。
したがって,原告は,本件著作物の著作者であると認められる。
() なお,原告は,本件著作物の第1話の画像に「H」と記載されていることを根拠に,「筆名」が表示されているとして,著作権法14条により,原告が本件著作物の著作者と推定されるとも主張する。
しかしながら,同条により著作物の著作者であると推定されるためには,表示された筆名その他の変名が「周知のもの」であることを要するところ,本件著作物が前記ウェブサイトの格闘技漫画部門で「ベストセラー1位」を獲得したことを考慮しても,「H」という筆名自体が有名であることは格別,さらに進んで,「H」という筆名が原告本人の呼称であることが一般人に明らかであるとまでは認められない。
よって,「H」という筆名が「周知のもの」であるとまでは認められず,その他,これを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件著作物に25 「H」と記載されている事実から,本件著作物の著作者が原告であるとは推定されないというべきである。
もっとも,前記()で説示したとおり,陳述書の記載は信用できるから,同条の推定によるまでもなく,これにより原告が本件著作物の著作者であると認められることとなる。
イ したがって,原告は本件著作物の著作者であり,本件著作物に対する著作権を保有していると認められる。以上の認定に反する証拠はなく,被告の主張は採用することができない。