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著作権判例セレクション
【プロバイダー責任制限法】発信者情報開示命令の申立てについての管轄権の有無が争点となった事例
▶令和6年10月4日知的財産高等裁判所[令和6(ラ)10002]
(参照) プロバイダ責任制限法第9条(日本の裁判所の管轄権)1項3号
「裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについて、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
<3> 前二号に掲げるもののほか、日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるとき。」
第1 事案の要旨
本件は、抗告人が、インターネット接続サービスを提供する台湾法人である相手方に対し、プロバイダ責任制限法5条1項、8条の規定に基づき、本件各投稿に係る発信者情報の開示命令の申立てをした事案である。抗告人は、氏名不詳者が、相手方の提供する電気通信設備を経由して、抗告人が著作権を有する漫画の画像データを「BOOTH」(サイト名)のサーバに複数回アップロードしたこと(本件各投稿)が、抗告人の複製権及び公衆送信権を侵害するものであり、上記発信者情報の開示が損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張している。
第2 原審の判断及び抗告の提起
5 1 原審は、本件各投稿について、台湾に所在する相手方が、台湾に所在する者との間で締結された台湾に所在する者向けのプロバイダ契約に基づき提供したインターネット接続サービスを利用して行われたことがうかがわれるとして、本件申立ては日本において事業を行う者に対する日本における業務に関するものであるとはいえないから、日本の裁判所にプロバイダ責任制限法9条 1項3号所定の国際裁判管轄があるとはいえないとして、本件申立てを却下した。
これを不服とする抗告人が、主文と同旨の裁判を求めて本件抗告をした。
2 当裁判所は、令和6年7月2日、非訟事件手続法69条1項本文により、相手方に対し、抗告状の写し、原決定写し、発信者情報開示命令申立書写し、甲号証写し等を送付するとともに、事務連絡文書をもって、抗告人の主張に対す15 る反論や疎明資料があれば、同年8月30日までに提出するように求めて反論の機会を与えた。相手方は、同年7月5日に上記書面等を受け取ったものの、上記期限である同年8月30日を過ぎても反論を記載した書面等の提出をしなかった。
(略)
第4 当裁判所の判断
1 プロバイダ責任制限法9条1項3号は、我が国の裁判所が発信者情報開示命令の申立てについて管轄権を有する場合として、同項1号及び 2 号に掲げるもののほか、日本において事業を行う者を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるときを定めている。
ところで、近年における情報流通の国際化の現状を考えると、インターネット上の国境を越えた著作権侵害に対する司法的救済に支障が生じないよう適切な対応が求められている。地域的・国際的にオープンな性格を有するインター5 ネット接続サービスの特性を踏まえると、当該サービスを提供する事業者の業務が「日本における」ものか否かを形式的・硬直的に判断することは適切でなく、その利用の実情等に即した柔軟な解釈・適用が必要になると解される。こうした点を踏まえて、以下具体的に検討する。
2 相手方が「日本において事業を行う者」といえるか
一件記録によれば、相手方は台湾に所在し、電気通信業を営む法人であるものの、日本国内において、主に台湾からの旅行者のために国際ローミングサービスを提供しており、日本の空港等では日本から台湾への旅行者向けにSIMカードを販売していることが認められる。そうすると、相手方は、「日本において事業を行う者」に当たるということができる。
3 「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」といえるか
一件記録によれば、本件各投稿がされたサイトである「BOOTH」は、日本語が使用される日本向けのサイトであって、相手方が台湾で提供するインターネット接続サービスが、当該サイトのサーバに接続され、その結果、本件各投稿がされたこと、本件各投稿のうちの一部の投稿には、「お初のオリジナルTL漫画です。よろしくお願いします」、「追加支援のお方ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。」との流ちょうな日本語による記載があることが認められ、本件各投稿は、日本人向けに提供されているSIMカードその他の相手方の日本人向けサービスを利用して行われた可能性が高いといえる。
そして、上記のとおり、当裁判所は、相手方に対して反論等の提出を求めたものの、期限を過ぎても相手方からの応答はなかったのであり、本件において、上記判断を覆すに足りる証拠もない。
以上によると、本件各投稿は、実質的に見て日本に居住する日本人向けとしか考えられないようなインターネット接続サービスを利用して行われたといえる。そのような場合に、あえて国内のプロバイダを経由することなく、外国に業務の本拠を置くプロバイダが利用されたからといって、当該業務が「日本における」ものでないとして我が国の国際裁判管轄を否定するのは相当でない。
本件申立ては、「申立てが当該相手方の日本における業務に関するもの」に当たるというべきである。
4 以上のとおり、本件申立ては、日本において事業を行う者を相手方とし、当該相手方の日本における事業に関する訴えであると認められるから、プロバイダ責任制限法9条1項3号により、日本の裁判所に国際裁判管轄があるというのが相当である。
そうすると、国際裁判管轄がないことを理由に抗告人の本件申立てを却下した原決定は相当ではなく、本件抗告は理由がある。よって、原決定を取り消し、15 原審において更に審理を尽くさせるため本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。