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著作権判例セレクション

【著作権制度全般】著作権(©)表示の意義/著作権表示が適切にされないことは(一般)不法行為に当たるか
▶平成2334日東京地方裁判所[平成21()6368]▶平成240131日知的財産高等裁判所[平成23()10028]
(4) 争点1-4(謝罪広告掲載請求の可否等)
ア 前記(2)の認定事実と前記争いのない事実等を総合すると,被告日本教文社は,本件昭和49年契約に基づいて出版した著作権者を原告社会事業団とする本件①の書籍1について,原告社会事業団の許諾を得ずに,原告社会事業団の理事長を表す「理長」の文字の印影の検印(本件検印)が押印されていた初版の奥付を変更し,18版及び19版の奥付において,「by A1,Ph.D.」,「ⒸC1,X1,1932」との記載(本件表示)及び「〈検印省略〉」の記載をしたものと認められる。
万国著作権条約3条1項は,著作権者の許諾を得て発行されたすべての著作物の複製物に最初の発行時から,「Ⓒ」の記号,「著作権者の名」及び「最初の発行の年」によって構成される著作権表示を付さなければならない旨規定している。本件表示は,ここにいう著作権表示に該当するものと認められる。
我が国の著作権法においては,著作権の発生に何らかの方式の履行を要件としていないので,著作権表示は,著作権の発生とは関係のない事実上の行為であるが,「Ⓒ」の記号は,一般的に著作権の存在を示すマークとして使用されており,著作権の存在についての注意喚起や情報提供の役割を果たしていることは公知の事実である。
そうすると,著作権者から出版権を設定された出版社においては,著作権者の表示につき正しい表示をすべき注意義務が出版契約における契約上の付随的な義務として生ずるものと解され(なお,昭和49年契約書の約款13条は,「使用者は権利者のために,万国著作権条約加盟の方式国,例えば米国に於いて著作権を取得し且つ保全するため,同条約第三条に基づきⒸ表示など権利保全のため必要な措置をとるものとする。」と規定している。),また,著作権者において著作物の複製物に正しい著作権表示がされることは法律上保護に値する利益に当たるものと認めるのが相当である。
しかるに,本件表示は,本件①の書籍1の著作権者が「C1,X1」(亡C及び原告X)であることを示すものであるところ,【本件①の書籍1の18版及び19版が発行された当時,本件①の書籍1の著作権者は被控訴人社会事業団に帰属していたところ,本件表示は,本件①の書籍1の著作権が「A,X」(亡A及び控訴人X)に帰属することを示す表示と理解されるから,誤った表示といえる。
イ 出版の許諾等を得た者が,著作物を複製,出版するに当たり,著作権の帰属を表記する際に,誤りのない表記をすべきことはいうまでもない。しかし,本件においては,本件寄附行為がされた昭和21年から,長い期間が経過していること,本件確認書及び本件覚書のいずれにも本件①の書籍1の題号が記載されていなかったこと,被控訴人社会事業団は,長期にわたって,印税の支払等を受けていなかったこと等の諸事情があること,その他加害行為の態様及び被害の程度等の一切の事情を総合的に考慮するならば,控訴人日本教文社が本件①の書籍1の18版及び19版について,著作権者の帰属に関する表示に適切を欠いたこと及び「〈検印省略〉」の記載をした行為について,これを不法行為と評価するほどの違法性があると解することはできない。
以上のとおり,本件表示及び「〈検印省略〉」の記載をした控訴人日本教文社の行為は,不法行為を構成しない。】
そうすると,原告社会事業団の民法723条に基づく謝罪広告掲載請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。

[控訴審]
2 当審における追加的主張に対する判断
(1) 本件①の各書籍の著作権の時効取得の成否について(控訴人らの主張)
控訴人らは,被控訴人社会事業団に属していたとしても,亡Bの相続人において,平成7年末ないし本件確認書の日より10年経過した平成10年3月22日をもって,本件①の各書籍の著作権を時効取得した旨主張する。
控訴人らの上記主張は,各事件における結論を導く上で,どのような要件に関連する主張であるのかは,必ずしも,明確でない。すなわち,取得時効に係る控訴人らの主張が,第1事件(被控訴人社会事業団の控訴人日本教文社に対する,本件①の各書籍に係る契約に基づく金銭支払請求等)に関係した主張であれば,同事件において控訴の対象とされているのは,そもそも契約に基づく金銭支払請求についてである点で,また,第2事件(控訴人生長の家及び控訴人Xの被控訴人らに対する,本件②の各書籍に係る著作者人格権に基づく請求)に関係した主張であれば,同事件には,本件②の各書籍に関する請求及び著作者人格権に基づく請求が含まれている点で,さらに,第3事件(控訴人日本教文社の被控訴人光明思想社に対する,本件③の各書籍に係る出版権確認請求)に関係した主張であれば,同事件の対象は,専ら本件③の各書籍であるとの点で,いずれも,結論を導く上で,どのような攻撃,防御方法に係る主張であるのかは,必ずしも判然としない。
その点はさておき,亡Bの相続人らの①の書籍に係る著作権の時効取得が成立したとする控訴人らの主張は,以下のとおり失当と判断する。
著作権の時効取得が観念されると解した場合,著作権の時効取得が認められるためには,自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に著作権(例えば,複製権)を行使する状態を継続していたことを要する。換言すれば,著作権の時効取得が認められるためには,著作物の全部又は一部につきこれを複製する権利などを専有する状態,すなわち外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを要するのであって,そのことについては取得時効の成立を主張する者が立証責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月17日判決参照)。
この観点から,本件をみると,平成20年5月12日に,亡B(昭和60年6月17日に死亡)の共同相続人である亡Aが25万円を,同月14日に,控訴人Xが25万円を,本件①の書籍1(19版)の印税として,控訴人日本教文社から支払を受けたこと,本件①の書籍1の平成12年5月1日出版に係る18版及び平成20年5月1日出版に係る19版の各奥付に,「検印省略」,「ⒸA,,1932」との記載がされていること等の事実が認められる。他方,本件確認書末尾の「著作物の表示」に「生命の實相(頭注版全四十巻)」及び「生命の實相(愛蔵版全二十巻)」の記載はあるにもかかわらず,本件①の各書籍は記載されていないこと,亡E,亡A及び控訴人Xが,昭和60年12月13日付けで亡Bの遺産について作成した遺産分割協議書の第3遺産目録(著作権)には,「64復刻版 実相」,「71 久遠の實在」との記載があること,本件①の書籍1の他の版及び本件①の書籍2には「Ⓒ」表示がないこと等の事実を認めることができる。
上記認定事実によれば,亡Bの相続人が,控訴人日本教文社から印税を受け取ったり,控訴人日本教文社に対し本件①の書籍1の18版及び19版の奥付に誤った「Ⓒ」表示をさせたりした経緯を認定することはできるが,そのような経緯によっては,複製権等を独占的,排他的に行使する状態を継続している事実,及び他の者に対する著作権の行使を排除した事実を主張,立証したと認めることはできない。
そうすると,亡Bの相続人が,本件①の各書籍の著作権を時効取得したと認めることはできない。その他本件全証拠によるも,外形的に著作権者と同様に複製権を独占的,排他的に行使する状態が継続されていることを認めることはできない。
(2) 被控訴人社会事業団の控訴人日本教文社に対する損害賠償金の支払請求,訂正措置ないし訂正広告請求の可否について(附帯控訴における附帯控訴人の主張)
被控訴人社会事業団は,債務不履行又は不法行為を根拠として,本件①の書籍1の18版,19版の奥付における本件表示及び「〈検印省略〉」の表示につき,損害賠償金の支払,訂正措置及び訂正広告を求める。
当裁判所は,被控訴人社会事業団の上記請求は,債務不履行に基づく請求及び不法行為に基づく請求のいずれも失当であると判断する。その理由は,以下のとおりである。
まず,債務不履行に基づく請求の当否から判断する。被控訴人社会事業団の控訴人日本教文社との間で締結された昭和49年契約書の約款13条には,「使用者は権利者のために,万国著作権条約加盟の方式国,例えば米国に於いて著作権を取得し且つ保全するため,同条約第三条に基づきⒸ表示など権利保全のため必要な措置をとるものとする。」と規定されている。同規定は,著作権を取得し且つ保全するためにⒸ表示などの措置を要する国においては,そのための必要な措置を採ることを使用者に対して義務づけたものと解されるが,上記約款の条項から,著作物の複製物に著作権者の表示をする義務,及び「〈検印省略〉」の記載をしない義務を控訴人日本教文社に負わせたものと解することはできない。他に,被控訴人社会事業団と控訴人日本教文社との間において,同控訴人が著作物の複製物に著作権者の表示をする義務又は「〈検印省略〉」の記載をしない義務を負う旨の合意をしたと認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人日本教文社がした本件表示及び「〈検印省略〉」の記載が,債務不履行に該当すると認めることはできない。
 また,控訴人日本教文社がした本件表示及び「〈検印省略〉」との記載行為が不法行為を構成すると認められないことは上記1(2)に記載したとおりである。